スポーツランドSUGOで開催されたスーパーフォーミュラ第6戦。その予選で、信じられないアクシデントが発生した。予選Q1で小林可夢偉(SUNOCO TeamLeMans)と山本尚貴(TEAM無限)がピットレーン上で接触した。この件は山本が安全確認を怠ったとして5グリッド降格ペナルティを受け、一件落着担ったかのように思えるが、本当にこのまま終わらせていいアクシデントなのか?事故当時の状況を振り返るとともに、同時にスーパーフォーミュラの新たな課題も見えてきた。

Photo by Tomohiro Yoshita

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接触当時の状況を改めて振り返る

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20分間で争われた予選Q1。各車1回目のタイムアタックを終えてピットに戻り、新品タイヤを装着。

残り7分で一斉にガレージを後にしたが、その時にガレージからファストピットレーンに進入したところの可夢偉に、ちょうどガレージから出てきた山本が接触してしまった。

山本の左フロントタイヤと可夢偉の右フロントタイヤが絡み合う状態ピットレーンを2台がふさぐ形となり、一時大混乱となった。

他チームも加わって、現場復旧のため対処。可夢偉は予定より2分以上遅れてコースインしたがフロントウイングも破損し満足した状態で走れないままのアタック。15番手でQ1敗退。

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山本は一旦ガレージに戻ってフロントノーズを交換。残り3分でコースインするがマシンに違和感を感じたとのことですぐにピットイン。

結局アタックできず19番手となった。前述でも触れたとおりこの件は山本側がピットアウト時の安全確認違反という形で5グリッド降格ペナルティを受けた。

[接触した映像はこちらでチェックできます]

 

まさかのアクシデントを受け…両者の反応は?

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今年は不運続きでノーポイントが続いている可夢偉。今回は走り出しから調子が良さそうな印象だったが、またしても不運でQ2進出を逃すことに。

「僕も“ウソやろ”と思って一番左まで避けたけど、ほぼノンストップできた感じ。本当にどうしようもなかった。これ以上な不運はないです」と苦笑いをみせた。

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一方の山本は「最終的に、僕が確認をしないでファストピットレーンに出たので、僕に責任があると思います。

エンジンをかけてメカニックがGOサインを出して、ピットを出たところまではいつもと同じでした。

その後メカニック自身の判断で止めようとしてくれたんですが、その時点で僕の視界から消えたところにメカニックがいたので、そのまま進んじゃった感じです。

可夢偉選手とチームルマンに本当に申し訳ないです」と、反省した表情だった。

 

今回の接触は、色々なタイミングと原因が重なった結果?

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確かに裁定通り、ファストピットレーンにいた可夢偉に接触してしまった山本が悪く、今回のペナルティも妥当と言えるだろう。

しかし、本当に彼の安全確認のミスだけが全ての原因で起きてしまった接触だったのだろうか?

スーパーフォーミュラが開催されているサーキットの中でも、ピットが狭いというのが特徴のSUGO。

さらにTEAM無限のSUNOCO TeamLeMansのピットは間にF3のピットが入っていたものの実質的に隣同士。両者のピットの距離も約20m弱だった。

他のサーキットより距離が短いというのも原因の一つになったかもしれないし、逆に距離が近かった分、お互いに隣のピットの状況でマシンが出てくるかもしれないということを事前に察知できたかもしれない。

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接触当時の様子はJスポーツの中継映像でしか確認ができないのだが、それで2台がピットから出てくるタイミングもほぼ同時。

山本の16号車側も安全確認を行った上でエンジン始動し、ガレージアウトの動作に入った瞬間に可夢偉が出てきたというタイミングで、そのため発見が一瞬遅れた可能性もある。

だからと言って見逃すのは良くないことなのだが、見逃しても仕方がなかったと言えるような“死角の多いタイミング”だった。

 

激化するピット出口での攻防戦、そこに見えてきた新たな課題

Photo by Tomohiro Yoshita

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いずれにしてもピットレーンで2台のマシンが交錯するというのは、ほとんど前例にないこと。だからといって普通にあってはならない接触でもある。

ただ、これにいたった大元の原因は、最近の激化するピット出口での攻防戦にあるように感じる。

最近のスーパーフォーミュラはセッション開始前から先頭でコースインしようとピットレーンに並ぶ傾向がある。

特に予選の場合は、ピットから出られるタイミングで予選順位が大きく変わるほどの影響と重要さを持ち始めているため、ライバルよりも前に出ようと、ピットレーン上でも激しい争いが繰り広げられている。

現行のSF14導入時はエンジンがオーバーヒートする可能性があったため、長時間ピットレーンに並べなかったが、現在は長時間待ってられるようなモードも追加された。

これにより今季は5分前に並び始めるのは当たり前。

SUGOの予選Q1開始前には7分前から数台のマシンが出口に並び、コースの最終チェックを行うマーシャルカーの行く手をふさいでしまう出来事もあった。

また可夢偉と山本の接触はセッション中に起きたことだが、これも良いポジションでコースインしようとした結果、起きてしまったものだ。

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また、ライバルより前で、少しでも状況がいいポジションでコースインしようという心理が、ドライバーにとってもチームにとっても、無意識のうちに視野を狭め今回の接触を招いた原因の一つとなったのかもしれない。

しっかり安全確認しているとはいえ、SUGOのようにピット間の距離が狭く、フォーミュラカーはドライバー自身で目視確認できる視野も狭い。

特に隣のチームでタイミングが重なると、こういった交錯が起こる可能性も高い。

今回はたまたま可夢偉と山本が引き起こたが、同じような接触が他の場所で起きていても不思議ではないという状況だ。

山本も「車載映像を見て、同じことが二度と起こらないように対策は考えた」とコメントしていたが、スーパーフォーミュラ全体の今後のことを考えると、彼だけではなく全体的に対策は必要。

特にピットレーンは各チームのメカニックやメディアのカメラマン、さらに関係者など人が多く行き来している場所。

今回は2台の接触のみに終わってしまったが、一歩間違えれば怪我人が出てもおかしくない。

スーパーGTのようにピットアウト時の混乱を防ぐため、何かしらの再発防止策が必要となりそうだ。

これについてJRP関係者は「何かしらの対策は検討している」とのこと。来シーズン以降での本格導入に話し合いなどが始まっているようだ。

現在のスーパーフォーミュラは世界から注目されるほどレベルの高いカテゴリーに成長した。

だからこそ、その素晴らしいバトルに水を差さないためにも、しっかりとした対策が施されることを願いたい。

 

まとめ

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また別の機会で触れようと思っているのだが、スーパーフォーミュラにシリーズ名称を変更して4年。現行のダラーラ製マシンを導入して3年。

今季はストフェル・バンドーンも参戦するなど日本国内のみならず海外からも注目されてはじめており、世界的な認知度も数年前と比べて格段に上がっている。

その分、ドライバー・チーム同士のバトルも激化しており、ここ数年は海外のドライバーもシートを探しにくるくらい魅力的なカテゴリーになっている。

だからこそ、今までの既成概念にとらわれるのではなく、さらに一段レベルを上げて、よりシビアなところでレースを作り上げていく。

必要であれば、その土台作りを行っていく必要があるのだろう。

それは決してネガティブな話ではなく、予想以上に高くなっているレースのレベルに似合った対策を施していくことが、一番良い解決策なような気がする。

今回のSUGOでの1戦は、ハイレベルなレースになっているからこそ、新しく見えてきた課題も浮き彫りになったレースウィークだった。

 

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