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多くのドライバーを育てた!?国産最後のFRコンパクトハッチバック、トヨタKP61スターレットとは

トヨタ最後の、そして日本最後のFRコンパクトハッチバック車となったスターレット。「走りも存分に楽しめる安くてコンパクトなFR実用車」という車好きの理想とも言える1台を振り返ります。

 

トヨタ KP61 スターレット後期型  / Photo by Tony Harrison

 

 

世の車好きに”あの車の再来”を意識させた1台

 

トヨタ GRMN FR Hot hatch Concept  / 出典:http://toyotagazooracing.com/archive/gr/detail/80506/

 

「東京オートサロン2010」を見に行ったり、展示車両の情報を得た人には、その中に1台の異質なコンパクトカーが存在したことを覚えている人もいるのではないでしょうか?

その車の名は、トヨタ FR Hot hatch Concept。

トヨタがフランスのPSA(プジョーシトロエン)と共同開発し、プジョー 107やシトロエン C1の兄弟車として海外で販売していたコンパクトカー、トヨタ アイゴをコンパクトFRスポーツに仕立て直したコンセプトカーです。

ダイハツ製1.5リッターエンジン3SZ-VEをフロントミッドシップに縦置きしたFR(フロントエンジン・後輪駆動車)のため、元来がエンジン横置きのFF(フロントエンジン・前輪駆動)のアイゴとは構造がかなり異なったと言われ、そのまま市販できるものではありませんでした。

エンジンにしてもターボなどでパワーアップされるわけではなく、同じエンジンを縦置きしたトヨタ ラッシュ / ダイハツ ビーゴと同じ109馬力。

リアサスペンションも特に独立懸架が採用されるでも無い5リンクリジッド式で、要するに”アイゴのガワにダイハツ製SUVのパワートレーンを組み込めるよう改造した車”でした。

しかし、多少なりとも古い車の知識がある人なら、その視線の先には古き良き時代の名車、KP61スターレット(2代目)の姿が重なって見えたのです。

 

(特別出演)トヨタ KP60系スターレットバン後期型 / Photo by Riley

※なお、2代目スターレットには1リッターの2Kエンジンを搭載したKP60(欧州仕様など)や、同じく1.2リッターの3Kエンジンを搭載したKP62(ライトバンなど)がありますが、この記事で主に紹介するのは1.3リッターの4Kエンジンを搭載した”KP61”型です。

 

“保守的で堅実なトヨタ”が産んだ、傑作FRコンパクトハッチバック

 

トヨタ KP61 スターレット中期型 / Photo by Ben

 

トヨタ スターレットの2代目が誕生したのは1978年。

当初は2代目パブリカのクーペ版パブリカ・スターレットとしてデビューし、特に1.2リッターの3Kエンジン(シングルキャブレターとツインキャブレター版あり)を搭載したKP47が人気となって、モータースポーツでも広く使われました。

しかしトヨタカローラ店扱いのパブリカに対し、トヨタオート店(現在のネッツ店)扱いのコンパクトカー、スターレットとして独立、4ドアセダンも販売されるようになって2代目へのモデルチェンジを迎えます(この時点でパブリカはピックアップトラックを除き廃止)。

その時点で、軽自動車やコンパクトカーはFF車への移行が進んでおり、排気量を1.3リッターにアップした4Kエンジンがメインの2代目スターレットがFF車になってもおかしくありませんでした。

また、同時期のコンパクトハッチバックで引き続きFR車だったのはマツダ ファミリア(4代目)や軽自動車の三菱 ミニカ(4代目)くらいで、トヨタですら2代目スターレットと同年に初のFF車、コルサとターセルを発売しているほどです。

実際、車内スペースを広く取ろうと思えばFF車の優位性は明らかでしたが、トヨタが2代目スターレットで引き続きFRレイアウトを採用したのは、FF車の”実際の走行性能や耐久性”というより、保守層の多いユーザーに配慮したからとも言われています。

しかし、結果的にそれは「最期の国産FRハッチバック」として傑作扱いされるとともに、「本当の意味で安価なエントリーFRスポーツ」のベンチマークともなりました。

なお、2回のマイナーチェンジでフェイスリフト(フロントマスク変更)を受け、丸目2灯ヘッドライトの前期型、角目2灯になった中期型、その脇へ車幅灯(コーナーマーカー)が移動した後期型と3種類の顔があります。

 

FRという以外はとっても平凡!”だがそれがいい”トヨタ KP61 2代目スターレット

 

トヨタ KP61 スターレット前期型  /  Photo by Timo Kuusela

 

誤解を恐れずに言えば、2代目スターレットは「FR車」という点を除けば、ごくごく普通の大衆車に過ぎません。

現在のトヨタ車で言えばヴィッツやパッソに相当する車が「たまたまFR車として作られた」というだけの話で、取り立てて特別な車ではありませんでした。

エンジンは2度目のマイナーチェンジでEFI仕様が搭載されるまで燃料供給方式は旧態依然のキャブレター式で、初代にあったツインキャブレター仕様すら無い、何の変哲も無い水冷直列4気筒OHV2バルブエンジン。

初期のライトバン仕様に1.2リッターの3Kが搭載されたほかは1.3リッターの4K系に統一されていましたが、「軽快に回り燃費もいい」という以上のものでは無く、最高出力も72馬力(ネット値)に過ぎません。

サスペンションもフロントこそマクファーソンストラット / コイルなものの、リアが4リンク / コイルで独立懸架では無く、ライトバンに至ってはリーフリジッドでした。

ボディも3ドア、5ドア2種のハッチバックと、荷室のためリアオーバーハングの延長された5ドアライトバンがあったのみ。

ミッションは4速または5速のマニュアルミッションと、当初2速、後に3速のオートマチックミッションで、クロスミッションを組み込んだ競技ベース車なども当然無し。

FR車という点に触れない限り「どこにでもある実用的なコンパクトカー」に過ぎなかったのですが、実はそれがKP61最大の強みでした。

 

軽くてクイック、よく走り、よく曲がり、良く止まり、そして安い!

 

トヨタ KP61 スターレット中期型  / Photo by Ben

 

KP61の数少ない美点は「安いFR車」という以外にもあり、トヨタのセダン系乗用車で初採用となったラック・アンド・ピニオン式のステアリングがこの種の車としてはクイックだったことがそのひとつ。

通常、ステアリングを右から左にいっぱいに切る「ロック・トゥ・ロック」は標準的なファミリーカーで4回転前後と言われますが、KP61では3回転と今で言う「クイックステア」でした。

さらに当時のコンパクトカーとしては珍しくフロントがディスクブレーキで、これらが全車標準装備だった上に、最廉価グレードの「スタンダード」で695kg、廉価グレードながら5速MTの「DX」でも700kgしかありません。

しかも廉価グレードなので、重くなるだけで走りには余計な快適装備の類が無く、レースや競技に使うにはこれほど都合のいい車は無かったのです。

エンジンパワーこそ平凡ですが、それゆえに信頼性は高くて軽量なのでよく走り、クイックステアでよく曲がり、ディスクブレーキで制動力や信頼性も高い。

平凡なファミリーカーでも、よく見れば走りの素質にあふれているというのはこうした安価な車でしばしば見られる話で、後のホンダ GA2シティや日産 K10 / K11マーチ、スズキ HA23Vアルトバンなどもその類です。

 

チューニングベースからレースや競技で大活躍!

 

トヨタ KP61 スターレット  / Photo by André

 

このような優れた素質を持つKP61に、公道の走り屋からエントリークラスのレース、そして全日本レベルの競技会が目を付けないはずはありません。

結果、あらゆるカテゴリーでKP61スターレットは大活躍することになりました。

 

スワップチューンが定番化したチューニングベース

 

トヨタ KP61 スターレット後期型  / Photo by Aatomotion

 

ノーマルでもいい走りをするKP61ですが、「エンジン縦置きFR車」ということで同種の、よりハイパワー車からのエンジンスワップ(換装)などが流行りました。

代表的なのはAE86から移植された1.6リッターDOHC4バルブエンジンの名機4A-Gで、その先代にあたるDOHC2バルブの2T-Gなどへの換装例もあり、「これだけ軽くてコンパクトなFR車にハイパワーエンジンを載せられるなんて楽しい!」としか言いようが無い状況に。

これらはいわゆる「ストリートチューン」の類で、1990年代頃には定番チューンの1つとしてチューニング系の雑誌でもよく紹介されていました。

 

営業車上がりの中古車でも大活躍!だったレース

 

トヨタ KP61 スターレット後期型 / Photo by Anthony Woodside

 

現在のヴィッツレースまでその歴史が続いているトヨタのコンパクトカーワンメイクレースは、初代スターレット以来の伝統です。

KP61の時代にももちろん盛んで数多くのドライバーがサンデーレーサーとして、あるいは上位レースへのステップアップの場として「スターレットカップ」を走りました。

最廉価グレードから上級グレードまで快適装備を除けば差異の少なかったKP61の時代には、スタンダード、DX,DX-Aグレードといった廉価グレードの「営業車上がり」が活躍しています。

自動車ジャーナリストとしても活躍中のレーサー、木下 隆之選手の初レースも営業車上がりのKP61で、「パロマガス号」と呼ばれたマシンは左右ドアに企業名やロゴが残ったままの姿で激走していました。

 

重量級ハイパワー車にも負けない!ドリフト

 

トヨタ KP61 スターレット(D1GP2011 岩井 照宜 選手) / 出典:http://www.d1gp.co.jp/03_sche/gp2011/gp1108/gp1108_repo-e.html

 

現在でもドリフト競技の最高峰の大会の1つ、D1グランプリではメジャー車からマイナー車までさまざまなマシンが走っていますが、中でもとびきりマイナー車や旧車を走らせていることでも有名なのが岩井 照宜 選手。

2016年以降はやはりメジャーなドリフト競技では珍しいマツダ NAロードスターを走らせていますが、その前はダイハツ シャルマン(2代目)というどマイナー車、さらにその前はKP61を走らせていました。

後にこのマシンは板倉 日出生 選手の手でも活躍しますが、定番スワップの4A-Gをターボ化し、最終的には320馬力にチューンして重量級ハイパワーマシンに全くヒケを取らない走りでギャラリーを魅了しています。

 

「パリダカ」すら走り切ったラリー

 

トヨタ KP61 スターレット  / Photo by Ben Crowe

 

デビュー直後から全日本ラリーなど国内メジャーラリーで活躍したKP61ですが、その活躍で最大のハイライトと言えば何と言っても1981年のダカールラリー(パリダカ)。

その年、横田 紀一郎 氏(現在でもエコカーでのさまざまな挑戦で有名な自動車評論家)率いるTeam ACPは同ラリーに日本人として初参戦しましたが、選ばれたマシンは60ランドクルーザーと、なんとKP61です。

目標物すらロクに無い広大な砂漠でFRのKP61、しかも市販車無改造クラスに参戦し、実際に競技としてはタイムアウトだったもののコースは見事完走。

その無謀とも思える挑戦は、耐久性とチームの執念を世界にアピールする結果となりました。

 

トヨタ KP61 スターレット前期型  / Photo by Ben

 

また、その後も軽量コンパクトなFR車としてラリーでの人気は高く、近年でも海外のラリーで元気にカウンターを当てながら走る姿が目撃されています。

 

近年は「箱D選手権」でも注目されるジムカーナ

 

トヨタ KP61 スターレット(箱D選手権)  / 出典:http://katotaku7.wixsite.com/hako-d

 

ジムカーナやダートトライアルといった短距離の「スピード競技」でもKP61は活躍し、全日本ジムカーナや全日本ダートトライアルでは改造車のC車両、あるいはD車両として主に活躍。

80年代はもとより90年代でも、リザルト(競技結果)にその名を残しています。

その後これらの改造車はランサーやインプレッサといったハイパワー4WDマシン、あるいはジムカーナでは一時期フォーミュラマシンが主流となりましたが、往年の「ハコの改造車」を好むユーザーにより、2017年に「箱D選手権」が開催されました。

こちらはジムカーナSC車両や、まだフォーミュラ主体となる前の「ハコのD車両」によるジムカーナで、AE86とともにKP61も参戦し、生産終了から30年以上がたった今もなお、元気に走る姿を見せています。

 

トヨタ KP61 スターレットの主なスペックと中古車相場

 

トヨタ KP61 スターレット中期型  / Photo by Ben

 

トヨタ KP61 スターレット スタンダード(3ドア) 1978年式

全長×全幅×全高(mm):3,680×1,525×1,380

ホイールベース(mm):2,300

車両重量(kg):695

エンジン仕様・型式:4K-U 水冷直列4気筒OHV8バルブ

総排気量(cc):1,290cc

最高出力:72ps/5,600rpm

最大トルク:10.5kgm/3,600rpm

トランスミッション:4MT

駆動方式:FR

中古車相場:-円(流通無し)

※スペックは「トヨタ自動車75年史 車両系統図 2代目スターレット」より引用。

※中古車相場は大手中古車サイトより2017年10月現在の流通状況より。

 

まとめ

 

トヨタ KP61 スターレット中期型 / Photo by Martin Pettitt

 

KP61スターレットは1984年10月に3代目EP70系スターレットへモデルチェンジし、今度こそFF車となりました。

その頃、スターレット同様に最後までFRハッチバック車として残っていたマツダ ファミリアと三菱 ミニカも既に代替わりでFF車になっており、トヨタ最後の、そして日本最後のFRコンパクトハッチバック車はスターレットで終了したのです。

このクラスのファミリーカー、あるいは業務用実用車として考えた場合、エンジンとミッションを直列に横置きしたジアコーサ式FFがエンジンルームをコンパクトに、車内空間を広々とするには断然有利で、その移行は必然だったと言えます。

その流れは軽自動車やコンパクトカーはもちろん、より大きな車でも必然となり、今やエンジン縦置きのFR車(と、それをベースとした4WD車)は、ごく一部のスポーツカーやSUV、トラックや1BOX商用車、それをベースにしたミニバンにしか残っていません。

本来ならKP61のような「走りも存分に楽しめる安くてコンパクトなFR実用車」があれば、資金の少ない人でも手軽に、ドリフトを含むあらゆるスポーツ走行を楽しめる車になり、「若者の車離れ」を防ぐ効果がありそうにも思えます。

しかし、価格を安くするなら量販車として成功しなければならず、そのためには広々とした車内空間や低燃費など環境性能こそ重要という世の中では、残念ながら「KP61の再来」はなかなか難しいところです。

駆動方式やレイアウトの自由度の高いEVでなら復活する日も来るかもしれませんが、非力なパワーユニットを目いっぱい使い切り、軽くてクイックなのを武器として楽しめる車がいつか復活できるよう、願いたいと思います。

 

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Writer Introduction
兵藤 忠彦

ダイハツ党で、かつてはジムカーナドライバーとしてダイハツチャレンジカップを中心に、全日本ジムカーナにもスポット参戦で出場。
現在はサザンサーキット(宮城県柴田郡村田町)を拠点に、主にオーガナイザー(主催者)側の立場からモータースポーツに関わっています。

http://dctm.info/

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