スリムなボディに日本的感覚では信じられない程の大排気量エンジンを積み、その猛烈なパワーで強引に加速させる、アメリカン・マッスルカーの究極系。それは昔ならシェルビー コブラでしたが、1991年に現代版コブラとして誕生したのが初代ダッジ バイパーでした。日本で正規販売されたのはこの初代モデルだけでしたが、それまで「排気量が大きいだけ」と思われていたアメリカン・マッスルカーのイメージアップには十分なインパクトを与えた1台となりました。

 

初代ダッジ バイパーGTS  / Photo by Matt

 

 

V8でも物足りないならV10だ!と豪快に生まれた初代バイパー

 

初代ダッジ バイパーRT/10  / Photo by Greg Gjerdingen

 

ダッジ バイパーが正式な企画としてスタートしたのは、1988年のことでした。

1986年にフォードからクライスラーに移籍してきたボブ・ラッツ社長が、GMを代表するアメリカン・スーパーマッスルカー、シボレー コルベットに対抗可能なスポーツカーを開発すべきと提案。

それはライバルに対抗するものであると同時に、1960年代を代表するアメリカンマッスルカーであり、やはりコルベットに対抗していたシェルビー コブラの再来であるべき、そう考えられたのです。

そして数か月後に完成したクレイモデル(粘土模型)を見て納得したラッツは、1989年3月にコブラを作ったキャロル・シェルビーを含む開発チームを正式に組織、同年の北米国際オートショーに出展されたコンセプトカーで手応えをつかみました。

そのエンジンは当初アメリカンマッスルカーとしては一般的な大排気量V8OHVエンジンを搭載予定でしたが、より大パワーを求めて同社のピックアップトラック、ダッジ ラム用の7.9リッターV10エンジンへと変更し、1991年12月に発売。

最初の計画では、あくまでイメージリーダー的なものとして3年間の限定生産・販売予定でしたが、ヒット作となったために計画は延長、1995年にクーペのGTSを追加するなどビッグマイナーチェンジを受けて2002年に2代目へモデルチェンジされるまで販売されました。

この1995年までのモデルをフェーズSR1、それ以降をフェーズSR2、まだは第1.5世代と呼んでSR2を事実上の2代目バイパーとする事もありますが、ここではSR1 / SR2含めて初代としています。

結局バイパーはその後もモデルチェンジや中断期間を挟みつつ販売が続けられ、その最後のモデルが生産を終えたのは2017年でした。

 

ランボルギーニチューンの大排気量V10を搭載した怪物

 

初代ダッジ バイパーRT/10  / Photo by Don O’Brien

 

バイパーの特徴はその曲線的にうねるようなボディで、同時期のシボレー コルベットがリトラクタブルライトを持ち、やはり前後にうねるようなボディラインを持ちつつ角はしっかり残し、ルーフやピラーに直線的なデザインを残していたのとは対照的でした。

まさに獲物に飛び掛かろうと低く身構えた蛇のような姿は、「バイパー(毒蛇)」の名そのものだったのです。

なお、バイパーがその影響を受けたシェルビー コブラの名もまた「コブラ(毒蛇)」であり、バイパーがコブラの現代版であることを、名と体でよく表していると言えます。

さらにバイパーをバイパーたらしめている理由がそのエンジンで、ダッジ ラム用の488キュービック・インチ(8リッター)V10エンジンをベースにランボルギーニが徹底的に手を加えたものでした。

300馬力を発揮する鋳鉄ブロックのV10OHVエンジンはアルミ製となって400馬力を発揮、最終的にはフェーズSR2(マイナーチェンジ後)で追加されたGTSで450馬力を発揮します。

最大トルクも67.7kgfを発揮し、大出力・大トルクを受け止めるためサスペンションやブレーキのチューンもランボルギーニが担当。

特にブレーキにはブレンボが採用され、強力なストッピングパワーを提供しました。

バイパーとクライスラー、そしてデビュー後に数多く生まれたバイパーの熱烈なファンにとって幸運だったことは、この時期のクライスラーはランボルギーニを傘下にしており、1993年にメガテック(インドネシア)に譲渡するまでその関係は続いていたことです。

もし、ランボルギーニの関与が無ければ、バイパーは当初の予定通り5.9リッターV8(これもダッジ ラム用)を搭載してあまりユーザーの関心を引かなかったか、バイパーそのものが生まれていなかったかもしれません。

初代バイパーは当初400馬力、フェーズSR2で415馬力を発揮したRT/10と、フェーズSR2で追加された450馬力のGTSという2グレード体制で、日本にも両方が歴代バイパーの中で唯一、正規輸入されています。

 

24時間レースやGTレースでの活躍

 

初代ダッジ バイパーGTS-R  / Photo by Chris Game

 

その当初、バイパーは強力なエンジンパワーからレースで有望と思われていたものの、フェーズSR1ではまだ2ドアロードスターのRT/10しか無かったため、レースに必要な剛性が欠けていると指摘されていました。

実際、バイパーRT/10は1994年の24時間レースなどに出場していますが、最上位で総合12位、GT1クラス3位とはいえあまり目立った成績とは言えません。

そこでフェーズSR2から投入されたのが2ドアクーペボディのGTSで、これをベースに1995年のベブルビーチで公開されたレーシングバージョンがGTS-Rでした。

このレーシング・バイパーGTS-Rによってデイトナ24時間レースやル・マン24時間レース、FIA GT選手権やアメリカン・ル・マンシリーズで活躍していくことになりますが、販売戦略上特に力が入っていたのはル・マンでした。

フランスのチーム・オレカなどと組んで走らせたGTS-Rは1996年からル・マンに出場、初年度から総合10位、GT1クラス8位を最高位として完走するなど健闘し、1998年にはチーム・オレカのGTS-RがGT2クラス優勝を飾っています。

その後も1999年と2000年にはチーム・オレカがGTSクラスで連勝するなど、ライバルのシボレー コルベットC5-Rやポルシェ 911GT2を圧倒する活躍を見せました。

他にも1999年と2001年のニュルブルクリンク24時間レース、2000年のデイトナ24時間レースで総合優勝などビッグタイトルを獲得するし、大きな結果を残しています。

また、日本でも1997年第6戦からJGTC(全日本GT選手権。現在のSUPER GT)にチームタイサンから参戦しましたが、GT500ではGT-R、スープラ、NSXと3つ巴の対決に割り込めず2001年からはGT300に転向するも、結局初代GTS-Rでの勝利は果たせず終わりました。

バイパーのJGTC優勝は2代目になってから、2003年第4戦(富士スピードウェイ)でようやくGT300クラスで初優勝、そしてそれが唯一の勝利となっています。

 

主要スペックと中古車価格

 

初代ダッジ バイパーGTS  / Photo by Greg Gjerdingen

 

ダッジ(クライスラー) バイパー GTSクーペ 1999年式

全長×全幅×全高(mm):4,490×1,980×1,190

ホイールベース(mm):2,440

車両重量(kg):1,590

エンジン仕様・型式:Viper 水冷V型10気筒OHV20バルブ

総排気量(cc):7,993cc

最高出力:450ps/5,200rpm

最大トルク:67.7kgm/3,700rpm

トランスミッション:6MT

駆動方式:FR

中古車相場:378万~603万円(各型含む)

 

まとめ

 

その登場当初、アメリカンマッスルカーについてちょっとした知識があった人でも「V8じゃなくV10?しかも8リッターエンジン?」と度肝を抜かれ、どのようなものか想像もつかない領域の車が現れたと話題になっていたダッジバイパー。

しかもそれまでのアメ車のスポーツカーと言えば「ナイトライダー」などアメリカのTVドラマに登場する、迫力はあるけどスマートではないというものでしたが、バイパーはむしろ「スマートなのに妙な迫力がある」ところがカッコイイを通り越し、不気味なほどでした。

要は間違いなくアメ車なのだけど、それまでのアメ車とは一線を画す美しさを持っていたバイパーが大人気にならないはずもなく、3代に渡り途中の中断期間も含めれば約25年間も作られることになる原動力に。

さすがに今やアメ車もダウンサイジングターボ時代、フォード GTがV8エンジンではなく3.5リッターV6ツインターボを積むような時代です。

FCA(フィアットクライスラー)となったクライスラーも、”ダッジ”ブランド最強の840馬力を誇るチャレンジャーSRTデーモンですら6.2リッターV8スーパーチャージャー。

大排気量V10NA(自然吸気)エンジンをカーンと回してという時代ではありませんが、初代バイパーの感動をもう一度感じさせてくれるような、4代目バイパーがいつしか登場することに期待してみましょう。

 

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