かつてモータースポーツで大活躍し、ラリーでも名門と呼ばれたイタリアのランチア。イタリア国内専用ブランドとなった現在の姿とは異なり、かつては技術至上主義の高級車及び、スポーツカーメーカーでした。それゆえあまり商売上手と言えない部分もあり、1969年にはフィアットに買収される事になりますが、それ以前のランチアが最後にその特徴を色濃く受け継いだモデルとして発売したのがフルヴィア。今回はラリーで活躍したクーペを中心にご紹介します。

 

ランチア フルヴィア・クーペ  / Photo by Neil

 

 

プレミアムメーカー・ランチアの大衆車フルヴィア

 

 

ランチア フルヴィア ベルリーナGTE  / Photo by Rex Gray

 

第2次世界大戦前からイタリアの自動車業界で大きなシェアを誇っていたのはフィアットでした。

そのフィアットと競合しない、高級車やスポーツカーなどに特化したプレミアムメーカーの道を歩んでいたのがランチアで、量産車として世界初となる技術を積極採用するなど、技術至上主義的な面がありました。

日本で言えば、スバルやマツダのような体質だったと考えればわかりやすいかもしれません。

例えば、1953年に登場した大衆車アッピアは当時のランチアのエントリーモデルだったのですが、ランチアの創業者であるヴィンチェンツォ・ランチアの遺作となった1937年にデビューした名車「アプリリア」から続く、伝統のセンターピラーレスの観音開きドアを採用し、10度14分の狭角V4エンジンを搭載するなど、その技術力の高さを物語るエピソードは枚挙に暇がありません。

その後継車として1963年に発売されたのが、FF(フロントエンジン・前輪駆動)大衆車フルヴィアだったのです。

FF自体は2年前の1961年に発売された上級車種フラヴィアでも採用されていましたが、高級志向のランチアらしく4輪ディスクブレーキを搭載した以外には、フラヴィアとフルヴィアの共通点は、ほぼありません。

どちらかといえばランチアの伝統を受け継いでいたのは水平対向エンジンを採用したフラヴィアより、狭角V4エンジンを搭載したフルヴィアの方だったと言えました。

 

ランチア フルヴィア・スポルト・ザガート / Photo by Tony Harrison

 

フルヴィアのボディタイプは3種類用意されており、基本形となるセダンタイプのベルリーナ、もう1つがWRCでも活躍したクーペ、そしてザガートによるデザインが採用されたスポルトの3つとなります。

3タイプのボディと言っても、ザガートデザインのスポルトはともかく、角ばったベルリーナとぜい肉を削ぎ落としたかのような流麗なデザインのクーペではデザインテイストがかなり異なり、クーペのホイールベースが短いなど別車種のようなスタイルです。

 

伝統の「狭角V4エンジン」を採用した最後のランチア車

 

フルヴィアにも搭載したランチアの伝統、狭角V型4気筒エンジン / 出典:https://jalopnik.com/why-are-v4-engines-so-rare-1792917763

 

フルヴィアと言えばラリーでの活躍や贅沢な作りより特筆すべきは、1920年代から同社の伝統だった狭角V4エンジンを最後まで搭載していたランチア車だったこと。

V型エンジンと言っても、エンジンブロックはバンクごとに分かれず1つだけ。

直列4気筒エンジンのシリンダーを左右にずらすことで各シリンダー間隔を詰め、エンジン全長を短くコンパクトに、そして軽量に作られていました。

そしてSOHCエンジンと言っても、片バンクのカムシャフトが両バンクの吸気バルブを駆動し、もう片バンクのカムシャフトが同じく両バンクの排気バルブを駆動するというメカニズムです。

実質的にはV型4気筒SOHCというより「変速直列4気筒DOHC」とでも言った方がシックリきそうな構造でしたが、一応V型エンジンには違いない上に、シリンダーには角度がついているものの斜めにカットしたピストン頭部により燃焼室は水平でした。

当時としては非常に高度な設計や工作精度を要求される贅沢な作りでしたが、しかも同じフルヴィアでもモデルやグレードによってバンク角が12度53分28、12度45分28、11度20分と3種類もあり、とても大衆車用エンジンとは思えない細かさです。

確かに伝統のエンジンだけあって評価は高かったものの、コストダウンとは対局にある思想を大衆車にまで固執していたランチアの経営上芳しくなかったのは当然で、1969年にフィアットに合併されて以降、1972年にベルリーナがフィアットの技術を多用したベータに、翌年にはクーペもベータ・クーペへの置き換えが始まり、伝統のランチア狭角V型エンジンは1976年のフルヴィアクーペ1.3S生産終了とともに、消滅しました。

なお、狭角V型エンジンはその後に再評価されて1990年代からフォルクスワーゲンに採用され、6気筒のVR6や5気筒のVR5、さらに8~12気筒のW型エンジンに発展しています。

 

「ラリーの名門ランチア」の原点

 

ランチア フルヴィア・クーペ  / Photo by Cook24v

 

戦前からアプリリアをアルペンラリーやモンテカルロラリーで活躍させていたランチアですが、メーカーワークスとしての活躍は創業者ランチア一族の2代目、ジャンニ・ランチア時代に入ってからで、ミッレ・ミリアやル・マン、そしてF1にも進出しました。

採算度外視の車作りが目立ったランチアが一度倒産したのもこの頃の1955年でしたが、買収したカルロ・ペゼンティ体制でも基本的な体質は変わらず、レースやラリーへの参戦を続けたのです。

そして1965年に追加されたフルヴィア・クーペは全周の視界に優れた小型ボディに悪路走破性の高いFF、軽量コンパクトな狭角V4エンジンとモータースポーツ、ことにラリー用としての素質に優れていたことに目をつけられます。

まず1966年に最初のベースモデル”HF”を発売。

1.2リッターエンジンを88馬力までパワーアップした上で、ボンネットやドア、トランクのアルミ化やガラス類のアクリル化でボディの高い部分を軽くするなどして、960kgから実に825kgまで軽量化されました。

翌年には排気量をアップして101馬力にパワーアップしたラリー1.3HFに発展し、最終的には1.6リッターで132馬力に達するラリー1.6HFまで登場しています。

余談ですが、この”HF”は後にWRCで大活躍するデルタにも付いていることもあり、見覚えのある字面かもしれません。

英語の「High Fidelity」の頭文字を取ったもので「高性能」という意味になります。

このHFの名前を初めて冠したランチア車がフルヴィアで、HFをイタリア語の発音で「アッカ・エッフェ」と読んでいる人がいたら、間違いなくランチア・マニアでしょう。

名将チェーザレ・フィオリオ率いる”ランチア・スクーデリア・コルセ”によってERC(ヨーロッパラリー選手権)や、WRC以前の最高峰ラリーシリーズICM(インターナショナル・マニュファクチャラーズ選手権)に参戦したフルヴィアHFは、彼が見出した名ドライバー、サンドロ・ムナーリを始め、多くの有力ドライバーの手で1972年には念願のICMで、1973年にはERCでもシリ-ズタイトルを獲得したことで、その後のランチアが「ラリーの名門」としての道を歩むキッカケを作ったのです。

その後1974年にストラトスがデビューすると、フルヴィアはもっぱらサポート役に徹することになりますが、1976年に最後まで生産されていたクーペ1.3Sがベータ・クーペへと引き継がれたことで、フルヴィアのワークスにおける活躍も終了。

日本では現役当時のレースやラリーに参戦したJAF公認記録はありませんが、1997年のイタリア車イベントにおけるレース、「イタリアンカーフェスタ in セントラルサーキット」に小田 斉 選手の1.3HFが出走しています。

 

主要スペックと中古車相場

 

ランチア フルヴィア・クーペ / Photo by Tony Harrison

 

ランチア フルヴィア クーペHF 1965年式

全長×全幅×全高(mm):3,975×1,555×1,300

ホイールベース(mm):2,330

車両重量(kg):825

エンジン仕様・型式:水冷狭角V型4気筒SOHC8バルブ

総排気量(cc):4,957cc

最高出力:88ps/6,000rpm

最大トルク:11.0kgm/5,000rpm

トランスミッション:4MT

駆動方式:FF

中古車相場:368万~468万円(各型含む)

 

まとめ

 

ランチア フルヴィア・クーペ  / Photo by .Robert. Photography

 

フルヴィアは商業的に見れば大衆車としてはあまりに凝りすぎた高コスト体質で、結果的にランチアのフィアット傘下入りを決定づけた要因のひとつにはなりましたが、それだけ贅沢な作りだっただけに、販売されたモデルの評価は決して低くはありませんでした。

それを証明するかのようにラリーでも大活躍しましたが、バージョンアップにより戦闘力を増し、ライバルと対等に戦えるようになった頃にはフィアット傘下となってしまいます。

そのフィアットの下で伝説のラリーマシン、ストラトスを得て1974年以降WRC初期の大活躍となるわけですが、それを可能にしたのはフィオリオ率いるワークスチーム、ランチア・スクーデリア・コルセとフルヴィアの活躍あればこそでした。

後のラリー037、デルタS4、デルタHFインテグラーレまでの名門ランチア大暴れの原点、それがフルヴィア・クーペ HFシリーズだったのです。

 

あわせて読みたい

Motorzではメールマガジンを始めました!

編集部の裏話が聞けたり、月に一度は抽選でプレゼントがもらえるかも!?

気になった方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みいただくか、以下のフォームからご登録をお願いします!