皆さんは普段、どんなオイルを使っていますか?またどのような基準でオイルを選んでいますか?今回は、結局のところイマイチよく分からないオイルの性能や選び方について、タイ国営のオイルメーカー『PTT』を日本に輸入する野波幸伸さんにお話を伺ってきました。この道20年以上のオイル業界人が語る、我々が知らない驚愕の事実の数々を大公開!!しちゃいます。

 

PTTオイルの国内総代理店『スムース・ジャパン』の野波幸伸さん。 / ©︎Motorz

 

 

結局、オイルってどれを選べばいいの?

©︎Motorz

 

今回お話を伺ったのは、PTTオイルを日本で販売している『スムース・ジャパン』代表、野波幸伸さんです。

野波さんは元々、大学で動力機械工学を勉強し、自動車部に所属していたという根っからのクルマ好き。

そしてクルマ好きが高じて、大学卒業後はSUNOCOブランドで有名な日本サン石油へ入社します。

また、スーパーフォーミュラなどモータースポーツ関連のオイル開発にも従事していたそうです。

“モータースポーツ用のオイル”と聞くと、その開発は難しいように思えますが、設計はシンプル。

なぜなら1レース毎に交換したり、”予選用の1発アタック用”のように更に細かく用途が決まっているので、ひとつの目的に特化さえすればいいからです。

逆に市販オイルは想定される用途が様々で、どんな環境下でも動くオイルを求められるため、開発は困難を極めるとの事。

その結果、各社ともに似たり寄ったり、代り映えのしない性能や謳い文句のオイルとなってしまい、我々も「どれを選べば良いのかよく分からない。」という悪循環のスパイラルに陥ってしまっているのが実情だそうです。

 

クルマ好き必見!目からウロコのオイルにまつわる裏話

©︎Motorz

 

クルマ好きがオイルを作っている……訳ではない!

 

野波さんがオイル業界へ飛び込んで1番驚いたことは、同じ機械科出身の人が少ないことだったそうです。

オイルを開発しているエンジニアは化学や鉱物系の勉強をしてきた人が多く、”クルマと油”について詳しく知っている人が、当時はあまり業界にいませんでした。

要するに、化学式などには詳しいけど、”熱ダレ”と言ってもその感覚が分からない人が大半だったのです。

例えば、ユーザーがひと口に「デフの効きが悪い。」と言っても、エンジニアが調査するのはオイルの成分。

そして、単にオイルの成分が劣化しているから”デフの効きが悪くなる”訳でもないので、両者で意見の食い違いが発生します。

そこで野波さんは、お客さんとエンジニアの間に入る『テクニカルサービス』という”通訳”のような役割を新たに担うようになり、20年以上に渡り、まさに”潤滑油”の役割を果たしているそうです。

 

あなたの乗り方はクルマを痛めつけているかも!?

 

photo by PTT

 

皆さんがオイル交換をする際の目安としているのは、メーカーが提唱している『標準的な交換推奨タイミング』だと思いますが、実はこの目安には前提条件があるのです。

例えば、読者の方の中には1回の走行で8km未満しか走行しないという方も多いのではないでしょうか?

それはクルマにとって、あまり良くない乗り方なのです。

また、アイドリングストップをするクルマやハイブリッドカーなどのエンジンのオン/オフが激しいクルマも同様に自動車にとっては厳しい使い方となります。

このような乗り方はメーカーにとっては、『シビアコンディション』という想定となっており、標準走行時よりも早いサイクルでの交換・メンテナンスを提唱されています。

このシビアコンディションには各メーカーによって若干の差異があるので、まずはアナタの愛車の整備手帳や取扱説明書を確認してみてくださいね。

 

SAE粘度よりも、規格(グレード)を見ろ!

 

私たちが普段オイルを選ぶ際に1番目安としているのは、『SAE粘度』だと思います。

“0w-30″などの表記をSAE粘度と言いますが、これはあくまでもオイルの粘度を表した数字で、オイルが硬いから、柔らかいからと言って、長持ちするわけではありません。

では、どこを見て選べば良いの?という話ですが、そのオイルが基準を満たしている”規格”を見るといいそうです。

主な規格としては、アメリカ石油協会が定める『API規格』や、欧州自動車工業会の定める『ACEA規格』、日本の『ILSAC規格』などがあります。

さらにメーカーが純正採用するオイルには、独自に設けられたメーカー規格があり、中でもVWの規格が世界で1番厳しいとされているので、そこを目安に選んでみるのがおススメです。

 

残り物には福がある!意外すぎるベースオイルの正体とは?

 

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オイルはウイスキーに似ている……!?

photo by PTT

オイルやガソリンは、元を辿れば『原油』と呼ばれる油田から採掘されたままの油に行き着きます。

この原油を『常圧蒸留法』という方法で沸点の違う油に分離させるのですが、大まかに分けるとガス、ガソリン、灯油、軽油、残油の5種類。

オイルやガソリンが、ウイスキーと同様に蒸留して作られている事を皆さんはご存知でしたか?

 

意外すぎるベースオイルの正体

 

ギトギト系のラーメンのスープに油が浮いているように、油とは水よりも軽い液体です。

そのため蒸留させた場合でも、ガスなど軽い順に分離されていくのですが、その中で最後の最後まで残るのが残油。

実はエンジンオイルなどで『ベースオイル』と呼ばれている油の正体は、この残油なのです。

また、全ての石油製品の大元となる原油にもパラフィン系とナフテン系のふたつの種類が存在します。

そのうちパラフィン系が鉱物油のベースオイルとなるのです。

ちなみにパラフィンはロウのことなので潤滑油に向いており、かつてはエンジンオイルとして使われていました。

また、ロウなのでパッキンなどのゴムに悪影響を及ぼすことがないことも、選ばれていた理由のひとつです。

しかしその反面、寒いと固くなってしまい、蒸発もしやすいというデメリットがありました。

これをある程度滑らかにするために”脱ろう”という添加剤で滑らかにする工程を踏んだものが、部分合成オイルとなります。

ちなみに、最近よく聞く『化学合成オイル』というのは、ガソリン系のオイルから作られたものです。

 

オイルと添加剤の関係性について

 

エンジンオイルなどの自動車用の工業用油は、およそベースオイルが8割と2割の添加剤で構成されているそうです。

その為、かつてはベースオイルの品質に左右されていました。

アメリカにあるペンシルバニアの油田や北海油田が質がいいとされている一方で、日本に入ってくるのはサウジアラビア系の油田から産出された原油。

このサウジアラビア系の原油の質があまり良くなく、海外ブランド品が好まれていた理由には、このような背景があったのです。

しかし化学合成オイルが主流となった現在ではベースオイルに特別な差はなく、添加剤の配合具合などの技術力の勝負になっているそうです。

 

オイルの性能を決める『添加剤』は9種類もある!

 

©︎Motorz

 

オイルの成分は8割がベースオイルで、たった2割の添加剤が大きな差となるのですが、この2割の中身を決める添加剤は9種類もあるそうです。

 

オイルに求められている6大性能とは?

photo by PTT

 

まず、大前提として現在のエンジンオイルには、以下6つの性能が求められています。

・潤滑性能(動きを滑らかにする性能)

・密閉性能(エンジン内の機密性を保つ性能)

・洗浄分散性能(エンジン内の汚れを沈殿させない性能)

・応力分散性能(点に働く力を分散させる性能)

・冷却性能(エンジンをオーバーヒートさせない為の性能)

・防錆性能(エンジン内のサビを防ぐ性能)

 

これらを得るために、ベースオイルにはおおまかに9つの添加剤が入れられているのです。

photo by PTT

・極圧剤

特にギアオイルなどに添加される。

硫黄系の素材なので臭いがキツイのが特徴で、面というよりは点で圧力が掛かる箇所にクッション材として働く。

 

・摩擦調整剤

こちらは極圧材に対して、面として圧力が掛かる部分にクッション材として働く。

モリブデンやチタン系の物質がメイン。

今はみんなこの添加剤の性能の勝負になっている。

 

・清浄分散剤

油中の汚れを浮かせる為の添加剤。

油に汚れをキャッチさせる効果があるが、これのキャパを越えるとオイルパンの底などに汚れが沈殿する。

 

・酸化防止剤

エンジンオイルの酸化を防ぐ。

ディーゼルオイルに特に多く入れられる。

 

・粘度指数向上剤

熱を受けてもオイルが固くならないための材料。

5w-30のオイルを例にすると、元々5wのオイルにコレを適量投入して30まで引き延ばします。

 

・流動点降下剤

逆に温度が低くなってもオイルが固くならないようにする添加剤。

モービルやシェルなどの欧州メーカーが開発した添加剤。

 

・消泡剤

ギアオイル、エンジンオイルの決め手。

性能の良し悪しはコレが決めるといっても過言ではない。

最近のLSDは、ほぼ点接触なので、泡が立つと1発でギヤが故障してしまう。

 

・防錆剤

エンジン内のサビを抑制。

鉱物油に多く入れられる。

 

・着色剤

ガソリンなどにも入っているものと同じ。

見た目の区別をつけるために入れるもの。

この9つの添加剤の中から、オイルの製造目的に合わせて各社がブレンドし、狙った性能を出す事ができるオイルを開発しています。

 

PTTってどんなメーカーなの?

 

PTTのキャラクターのGodji(ゴジ)くん。恐らくゴジラから来てるのでは?とは野波さん談。 / ©︎Motorz

 

野波さんが日本に展開する『PTT』は、タイ”国営”のオイルメーカーとして、60年以上の歴史を誇るタイ国内では圧倒的なシェアを持っているブランドです。

アジアンオイルではありますが、その実力は侮る事なかれ。

なにせ国営なのでPTTの開発施設や製造設備は、かなり整備されており品質が良い事が特徴。

また、PTTのエンジニアはオイルの本場イギリスや日本に勉強しにきているため、技術力も申し分ないそうです。

長年オイル業界に携わってきた野波さんが、自らその輸入総代理店を請け負っているのが何より高品質な証拠です。

日本にはオイルブランドが多く、中にはネームバリューの強いメーカーもありますが、実はOEM品を販売していたりするのが実情で、自社で開発・製造までしているメーカーは本当に数える程度だと言います。

そんな中PTTは自社開発・自社製造を貫くことで、多くのモータースポーツの現場でも採用。

特にタイはバイクの国ということもあり、MotoGP™のタイラウンドでは冠スポンサーをするほどの人気ブランドです。

そのため湿式クラッチ用オイルのバリエーションもある他、2ストバイク用のオイルも取り扱っているので、ライダーにも高い人気を誇ります。

 

まとめ

 

©︎Motorz

オイル業界の裏話から、オイルを構成する成分など、あまり語れる事のなかったオイルの深い話にフォーカスを当てた今回の取材はまさに目からウロコ。

知らなかった事実を知ることができ、筆者はただただ頷く事しかできませんでした。

オイルのことをひとつひとつ、細かく丁寧に説明してくださる野波さんはまるでオイルの先生。

私も久しぶりに学生の頃に戻って、楽しく授業を受けてしまいました(笑)。

皆さんもこれを機に、知らなかったオイルについての勉強をしてみてはいかがでしょうか?

 

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