その昔、WRCで名を馳せたFF大衆車ベースのミッドシップスポーツ「ルノー5(サンク)ターボ」という車がありました。かなり強引な作りの車でしたが、それだけに人気はあり、ああこんな車をまたどこかが作らないかなと思っていたら、当のルノーがセルフリメイクしてしまったのが、クリオV6です。日本では商標の関係で「ルーテシアV6」として販売されましたが、こんな車を市販してしまうのは、さすがフランス人と感心してしまいます。

ルノー クリオV6(日本名ルーテシアV6) / Photo by Eddy Clio

栄光のラリーマシン「5ターボ」の再来を手掛けたのは、やはりルノーだった

Snelson


「前から見れば、ただのクリオですよ」と、某漫画の名台詞のパロディを言いたくなるクリオV6(日本名ルーテシアV6) / Photo by Eddy Clio

「小さくて軽い大衆車に大パワーのエンジンを積んだら、速くて面白いだろうな。でもFFだといろいろ難しいし、後席やラゲッジの代わりにミッドシップエンジンとして、後輪駆動にしたら面白いだろう。でも、そんな実用性のない車は普通作らないよね。」と、常識的な人は考えると思います。

実際、そんな配置にするくらいなら、ランチア ストラトスやディーノ246GTなど、スーパーカールックにすればもっとカッコよくて速い訳で、わざわざ大衆車で誰が好き好んでそんな事をするのかという価値観が一般的。

しかしフランスメーカーであるルノーは、FF大衆車5(サンク)のリアミッドシップに1.4リッターターボエンジンを押し込み、他の全てを犠牲にしてラリーに勝つことだけを追求。

4WDターボ時代の到来で無敵の活躍とまではいかなかったものの、1980年のラリー・モンテカルロなど、いくつかの勝利を挙げて、歴史に名を残す名車となった「ルノー 5ターボ」という車を販売します。

突飛ではあるものの、非常にわかりやすい車だったため、市販車にも人気が殺到。普通は規則で定められた台数だけを作って終了するところを、豪華内装の一般向けターボ2まで作って売りさばくなど、エピソードの多い車です。

ならば2匹目のドジョウとして、どこか別なメーカーも作ればと思いますが、ダイハツがウッカリ、シャレード926ターボをベースにした和製5ターボ、「シャレード926R」を作ったものの市販に至らず、日産はK11マーチのミッドシップにV6エンジンを積んでシャモニー24時間氷上レースへ参戦させていたものの、あくまでレース用でした。

常識的に考えれば当然すぎる話なので、いかなるカーマニアでも「5ターボの再来でも発売されたら面白いのにね」と笑いつつ、現実にはミラターボのエンジンをコッソリとリアミッドに積み替えて遊ぶくらいが関の山です。

ドア後方のエアインテークがミッドシップを主張するルノー クリオV6(日本名ルーテシアV6) / Photo by Brian Snelson

ですから、1998年になって当のルノーがまたもや2代目クリオをベースにミッドシップスポーツ「クリオV6ルノースポール」を発表した時は、そりゃもう驚いたり喜んだりというよりは、口をアングリ開けて「フランス人って何を考えているんだ?」と思った人の方が、多かったかもしれません。

しかも1999年からルノースポール スパイダーに代わってワンメイクレース用に生産・販売されたのは、2代目クリオの宣伝のためだったため、まだ理解はできました。

しかし、2001年になって市販モデルを普通に販売した時には、「なんでそんな事ができるの?!」と、もはやフランス人がうらやましくてたまりません。

しかも現地価格(当時の日本円で340万円)よりかなり高額となる495万円で、同年11月には日本でも販売してしまい、日本の街でも時々見かけては、知っている人でも唖然とし、知らない人は目を丸くするという有様。それは単に1台の車というより、「事件」でした。

それはまさに、「羊の皮をかぶりきれていない狼」

ルノー クリオV6(日本名ルーテシアV6)フェースI / Photo by Stephan Dufornee en Twan van de Valk

ちなみに、ベースの「ルノー クリオ」とは日本ではあまり馴染みがない名前ですが、商標の関係上(ホンダクリオ店など)、日本では「ルノー ルーテシア」として販売されていたFF大衆車です。

「シュペールサンク」こと、2代目5の後継者として初代か登場、1991年から日本でも正規販売しており、正規輸入はなかったものの2リッターDOHCエンジンを積んだ「クリオウィリアムズ」などスポーツモデルも充実した、さすがは5の後継車というべき車です。

1998年に2代目へモデルチェンジし、1.6リッターエンジンか2.0リッターDOHC16バルブエンジン(2.0ルノー・スポールRS)を積んだ、ちょっと小洒落たデザインのいかにもフランス車らしい3ドア/5ドアFF大衆車と、そのホットハッチ版でした。

しかし日本へも導入されたクリオV6(日本名はルーテシアV6ですが、この記事では「クリオV6」で統一)は、ミドルクラスセダンのラグナ用、それも上級グレード用の3リッターV6DOHC24バルブエンジンのレブリミッターを引き上げて、20馬力ばかりパワーアップした上で、前席後方へ横置きに搭載。

当然ながら後席もラゲッジスペースも潰してしまい、エンジンが引っ越した後のボンネット下にはラジエーターが居座っているため、ラゲッジスペースはミニマムかつ30kgという重量制限までありました。

そうなると、荷物入れとしてはあきらめ、ボンネットにも穴を開けてラジエターの熱を逃がすエアダクトでも通した方が良さそうです。

となれば、シートバックとエンジン間のわずかな隙間やエンジンの後ろのわずかな隙間(そのため、リヤハッチはメンテナンスハッチ以外の役割もかろうじて果たす)にちょっとした小物を入れるのがせいぜいで、無理をすればエンジンカバーの上にも何か載せられそうですが、もしかして何とか実用に供しようと考えるのが間違いなのかもしれません。

クリオV6の前席後方にはもちろんV6エンジン / 出典:https://www.favcars.com/pictures-renault-clio-v6-sport-1999-2001-4176.htm

また、FF車のパワーユニットをそのままリアへ移設した車種の常でエンジン搭載位置は高く、ヘッド上端は肩口くらいまでありました。

しかもV6DOHC24バルブエンジンなので、直4DOHC16バルブエンジンどころではなく、重心が高くなっています。

実はこれがクリオV6最大の欠点で、3リッターV6エンジンがかなり重いために、パワーウェイトレシオは2リッターFFスポーツ版とさほど変わらず、コーナリングでは明らかにリア寄りの重量バランスで、初期にはアンダー、そしてロールが限界を超えるとオーバーステアに変わる、典型的なリバースステア傾向です。

そのためワンメイクレース除いて、本格的にレースやラリーへ投入された実績はあまりないようですが、これだけぶっ飛んだ車のため、もはやモータースポーツのためであるとか、その実績がどうとかという次元で語るべき車ではありません。

運転席にせよ助手席にせよ、頭のすぐ後ろではうなるエンジンにいくらカバーがついていようと静粛性については言うまでもなし。

V6エンジンの排気音が野太く猛々しく響く中、余計な事を考えずにアクセル踏みましょうと前のめりに生きるのが正解と思われます。

ルノー クリオV6(日本名ルーテシアV6)フェーズII / photo by peterolthof

なお、重量増加で不足気味の動力性能は、2003年のマイナーチェンジでベース車ともどもフェイスリフトが行われた際に手が加えられ、最高出力は226馬力から254馬力へ、最大トルクは30.6kgmのまま据え置きながら、双方とも発生回転数は引き上げられ、より高回転高出力型になりました。

サブフレームの追加など、剛性アップやシャシー、サスペンション特性の見直しで、40kgほど増えた車重を割り引いても動力性能は改善され、操縦性も向上して乗りやすくなったようですが、デザインについてはフェーズI(前期)とフェーズII(後期)で好みが分かれるかもしれません。

主要スペックと中古車価格

ルノー クリオV6(日本名ルーテシアV6) / 出典:https://www.favcars.com/photos-renault-clio-v6-sport-2003-04-303359.htm

ルノー BL7X ルーテシア ルノー・スポールV6 2003年式
全長×全幅×全高(mm):3,840×1,830×1,355
ホイールベース(mm):2,530
車重(kg):1,400
エンジン:L7X 水冷V型6気筒DOHC24バルブ
排気量:2,946cc
最高出力:187kw(254ps)/7,150rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgm)/4,650rpm
燃費:-
乗車定員:2人
駆動方式:MR
ミッション:6MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)マルチリンク

(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
フェイズI(前期型):ASK・1台
フェイズII(後期型):478万~498万円・2台

ルノー5EVの復活で、「2度あることは3度ある?」

ルノー クリオV6(日本名ルーテシアV6) / Photo by www.twin-loc.fr

最近はEV化にともなって、動力系の設置場所に柔軟性が出たり、駆動系もあまり深く考えなくてよくなったためか、ホンダeのようにコンパクトカーでも後輪駆動車が増えてきています。

しかし、5ターボやクリオV6のように、エンジン搭載車ならではなリアサイドのエアインテークや、走行性能を重視した迫力ある前後ワイドフェンダーといった要素は、EVには必ずしも不可欠であり、同じような車をEVで販売する必然性はそう高くはありません。

しかし、WRCで勝つためという大義名分のあった5ターボはともかく、新型大衆車のイメージアップのために超ド級の、ある意味で理不尽な車を作ってしまったルノーの場合は、EVでもやはり同じような車を作る気もします。

先日もルノー5のEVリメイク版プロトタイプがお披露目されましたが、早速「5ターボは出るのか?いや出るに違いない!」と言われている事もあり、ぜひ期待に応えていただきたいものです。

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