バブル時代に潤沢なコストをかけて開発された高性能・高品質な日本車たちは、バブル崩壊後を含めた1990年代にその黄金期を迎えます。3連スロットルと燃料噴射制御マップ切り換え方式の組み合わせで、自然吸気エンジンながら自主規制値いっぱいの64馬力を発揮したホンダの軽ミッドシップオープンスポーツ、「ビート」もそんな1台でした。2010年代にS660が登場してからも、ビートの人気は根強く、純正部品の再販すら行われています。

ホンダ ビート / Photo by MIKI Yoshihito

愛される軽ミッドシップアミューズメント、「ビート」誕生

1991年5月に発売された「ミッドシップ・アミューズメント」、ホンダ ビート / 出典:https://www.honda.co.jp/factbook/auto/BEAT/19910515/be91-002.html

1983年の初代「トゥデイ」で軽乗用車市場へ復帰したホンダでしたが、しばらくはFF軽乗用車/軽ボンネットバンのトゥデイ、軽1BOX商用車のアクティと、アクティに快適装備を与えた乗用バージョンのストリート、そして軽トラックのアクティトラックのみ、というラインナップが続きます。

しかし世はバブル時代の好景気。車が売れて開発費は潤沢になっており、RVブームの影響もあって、それまで庶民に普及させるため販売されてきた実用的な大衆車だけでなく、趣味のためだけにあるような贅沢な車も存在が許される空気になっていきます。

そんな中、ホンダは2台のミッドシップスポーツを企画。1台は国産初の本格スーパーカー、初代 NSX、もう1台がこの記事で紹介する軽ミッドシップスポーツのビートです。

初代NSXは1990年、ビートは1991年のデビューだったので、開発時期は被っており、ホンダから「新しいミッドシップスポーツに乗ってみないか?」と誘われた某F1レーサーが、NSXに乗れると思い、ウキウキしながら来日してみると、出てきたのはビートでビックリ。しかし、その走りをしっかりと楽しんで、上機嫌で帰ったというエピソードも残っています。

ホンダ ビート / Photo by Kieran White

また、スーパーカーのNSXとは異なり、ホンダではビートを「ミッドシップ・アミューズメント」と呼んでいます。

その理由は、人と車と自然が一体になったような、アミューズメント感覚の未体験な走りと、軽自動車初採用(オプション)の運転席SRSエアバッグやサイドインパクトドアビームなどの安全性、そして環境性能を高水準で両立したフルオープン 2シーターミッドシップパッケージが採用され、高い安定性と優れた操縦性が得られるためとしています。

フルオープンモノコックとMTRECエンジンで走りは本格派

ビートのミッドシップ・フルオープンモノコックボディ / 出典:https://www.honda.co.jp/factbook/auto/BEAT/19910515/be91-016.html

いかに軽自動車とはいえ、ビートはNSXばりに贅沢にコストをかけて設計されており、フルオープンの自然吸気エンジン搭載本格スポーツを成立させるために、2つの大きな特徴を持っていました。

まずひとつ目が専用設計の「ミッドシップ・フルオープンモノコックボディ」です。

ルーフやピラーを持たないフルオープンカーのビートでは、フロアでねじれ剛性など、ボディ剛性の大部分を確保せねばならなかったため、底を塞いで箱型としたセンタートンネルや、厚板で頑丈に作られたサイドシルなど、クローズドボディ車とはだいぶ異なる作りをしています。

ホンダ ビート / 出典:https://www.honda.co.jp/sportscar/Honda_sports/beat/

このビート専用モノコックボデに、エンジンをリアミッドシップ配置にしたのはもちろん、バッテリーやスペアタイヤの配置なども巧妙に決められ、前43:後57とミッドシップスポーツとしては理想的な前後重量配分を実現しています。

さすがに時代が時代なので、後のダイハツ コペンのような電動メタルトップを採用したクーペカブリオレとはいきませんでしたが、当時のコンパクトカーをベースにした国産カブリオレと違い、固定式ロールバーは必要ありませんでした。

FFベースの安価なミッドシップスポーツの宿命で、エンジン搭載位置がやや高いのを除けば、低重心に仕上がっています。

さらに、夏のため幌のビニールリアウィンドウを開閉式としたり、冬のためヒーターを強化するなど、軽量なソフトトップ(幌)ながらも快適性を保つ努力が払われました。

ビート用のMTREC仕様E07Aエンジン / 出典:https://www.favcars.com/photos-honda-beat-1991-95-engines-honda-e07a-254205.htm

もう1つの大きな特徴が搭載されたE07エンジンで、PGM-FI(電子制御燃料噴射)を採用したSOHC12バルブエンジンという点では、トゥデイなどの上級グレードと同じでしたが、「MTREC」という独特の、そして贅沢なシステムが採用されています。

これは3連スロットルに加えて、PGM-FIの燃調マップに、安定性重視のアイドリング時、レスポンス重視の走行時と、2種類を切り替える方式を採用したもの。

切り替え式燃調マップは停車中から低速時には普通の軽乗用車と同じようなイージードライブを、走行時にはスロットル操作に対する素早いレスポンスで鋭く加速し、最高出力を発揮する8,100回転まで軽快に吹け上がるスポーティさを両立しています。

しかも、ターボどころかDOHCにも頼らず、当時の軽自動車における64馬力自主規制値に達する唯一の軽自動車用エンジンとなっており、ターボを使わずに3リッター級DOHC VTECで280馬力自主規制値を実現していた初代NSXより、ある意味でインパクトのある技術です。

このMTREC版E07Aを搭載したのはビート以外では、2代目トゥデイの上級グレードのみ。

しかもトゥデイでは実用域でのトルクやレスポンスを重視し、最高出力や最大トルクの発生回転数が抑えられ、最大トルクは同じながら最高出力は58馬力と、ディチューンされていたため、8,000回転オーバーで64馬力に達する「ブン回す喜び」は、ビートならではでした。

主要スペックと中古車価格

ホンダ ビート / Photo by amika_san

ホンダ PP1 ビート 1991年式
全長×全幅×全高(mm):3,295×1,395×1,175
ホイールベース(mm):2,280
車重(kg):760
エンジン:E07A 水冷直列3気筒SOHC12バルブ MTREC
排気量:656cc
最高出力:47kw(64ps)/8,100rpm
最大トルク:60N・m(6.1kgm)/7,000rpm
10モード燃費:17.2km/L
乗車定員:2人
駆動方式:MR
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ストラット

(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
27万~244万円・131台

おそらくはもっとも多くのユーザーに愛されているホンダ車、ビート

ホンダ ビート / Photo by Greg Gjerdingen

低重心ミッドシップ スポーツとして、レースやジムカーナで活躍したビートですが、単に所有するだけでも嬉しくなる車として、もっとも多くのユーザーに愛されるホンダ車の1台なのは、間違いありません。

多数のビートが集まるオーナーズミーティング「Meet The BEAT」には、1996年の販売終了から25年が経とうとする今でも、毎年多数のビートが集結。

2010年5月にツインリンクもてぎで決行されたビートだけでのパレードランには、実に569台が参加し、ホンダ車の同一車種によるパレードランの世界最大記録としてギネスブックに認定されました。

ターボエンジンを搭載した軽ミッドシップスポーツの、S660が2015年4月に発売されて以降も、その熱が収まることは無く、それどころか「S660は”増車”するが、ビートは手放さない」というユーザーも多かったほどです。

その人気に、ホンダも2017年6月から一部純正部品の販売を再開。

維持も多少は容易になった事でビートは、今後も多数のユーザーに愛され続ける事でしょう。