かつてホンダN360(31馬力)の登場をキッカケに始まった、第1次軽自動車パワーウォーズ。各社ともホンダに負けじとパワーを競いましたが、その最高到達点となったのが最強モデルで40馬力を誇るダイハツ・フェローMAXでした。そんなフェローMAX自体はその後オイルショックや排ガス規制、過度なパワー競争の反動もあって次第にマイルドになっていき、やがて550ccエンジンを経てMAXクオーレへ発展。現在まで続くダイハツFF軽自動車の礎となったモデルでもあります。

掲載日:2018/05/28

ダイハツ フェローMAX / Photo by Alden Jewell

 

 

現在まで続くダイハツFF軽自動車の原点、フェローMAXとMAXクオーレ

 

ダイハツ・フェローMAX  / © 1998-2018 TOYOTA MOTOR CORPORATION. All Rights Reserved.

 

1970年4月、ダイハツの軽乗用車参入第1号となるフェローがモデルチェンジ。

サブネームがついて『フェローMAX』へと進化します。

前身であるボンネットバン時代の初代ハイゼット(L35系)のメカニズムを引き継ぐFR車だった初代フェローから一転してFF車となり、2サイクルエンジンとはいえ初代より猛烈な馬力を引き出す様は、ホンダN360への対抗意識がむき出しでした。

実際、当時は軽自動車メーカー各社が波にのまれるようにハイパワー競争を始めており、第1次軽自動車パワーウォーズ(ちなみに550ccターボ時代にも第2波がやってくる)の様相を呈していきます。

例えばスズキ・フロンテSSS、スバル R-2SS、三菱・ミニカGSS マツダ・シャンテといった面々が揃って35~38馬力を発揮しており、フェローMAXもそれに加わるべく大幅な改良を施してライバルと並ぶ動力性能を得ようとしていました。

しかし、オイルショックと排ガス規制の強化でパワー競争より燃費や実用性が重視されるようになり、軽自動車の規格変更で550cc水冷4気筒エンジンが搭載される頃(1976年5月)になると、特徴的だったハードトップの廃止もあって、かつての面影は失われていきます。

そして1977年7月にはビッグマイナーチェンジでMAXクオーレと車名を変え、やがて1980年には初代クオーレ、およびボンネットバンのクオーレミラ(初代ミラ)へとモデルチェンジを受け、現在のダイハツ軽自動車に繋がっていくのです。

 

360cc時代最強!最高出力40馬力を誇ったフェローMAX

 

ダイハツ MAXクオーレ  / © 1998-2018 TOYOTA MOTOR CORPORATION. All Rights Reserved.

 

フェローMAXは駆動方式がFFとなった事で、FRだった初代フェローより大幅な軽量化を果たすとともに、その水冷2気筒2サイクルエンジンも初代フェローSSよりややパワーアップした33馬力となって、動力性能をライバルに負けじと向上させました。

その中でも大本命は3ヶ月遅れで発売された『SS』グレードで、ツインキャブを装着して40馬力を発揮。

ライバル車が最高38馬力(三菱・ミニカGSS / ミニカスキッパーGT)だったのを上回る、360cc時代の軽自動車最強スペックを誇ったのです。

それはわずか2~5馬力程度の差とはいえ、当時の水準でリッター100馬力超えというのは凄まじいもので、実用性よりスペック重視。

タコメーターには低回転域にイエローゾーンが刻まれて、回転を下げると途端にプラグがカブるという代物。

発売当時、若き日のある自動車評論家がダイハツからフェローMAX SSを借り出したところ、出発して数百mでプラグをカブらせてしまい、すぐ戻るハメになったというエピソードすらあるほどでした。

さらに1971年8月には軽自動車初の2ドアピラーレスハードトップ車(もちろん40馬力のツインキャブ車もあり)が登場し、ホンダ Z(初代)や三菱・ミニカスキッパー、スズキ・フロンテクーペとともに初期の軽スペシャリティーの一角を形成していきます。

そんなパワフルかつスポーティなフェローMAXでしたが、40馬力を誇れたのは排ガス規制により1972年10月のマイナーチェンジで37馬力へ落ちるまでの2年3ヶ月と短期間のみで、以後はツインキャブ廃止(1975年2月)、ハードトップ廃止(1976年5月)と少々寂しい流れに。

しかし、気を取り直して4サイクルエンジンでの550cc規格化に対応。

スズキが排ガス規制への対応を遅れた時には、トヨタの仲介で短期間ながらそのAB型エンジンを供給していた一幕さえありました。

これは既にこの時代、軽自動車でも『十分なパワーと環境性能、実用性を両立する内燃機屋』(何しろダイハツ創業時の社名は『発動機製造』)として活躍していたダイハツの面目躍如となるエピソードです。

 

ミニカーレースやラリーで活躍したフェローMAX、そして幻のフェロー7

 

ダイハツ・フェローMAX SS ©ストーリアX4車体番号リスト

 

コンパーノやそれをベースとしたP-3、それにプロトタイプレーシングカーのP-5などを投入し、日本グランプリで活躍していたダイハツですが、トヨタとの業務提携によりグランプリから撤退した後は、コンパーノクラブを改編したDCCSがレースやラリーに打ち込みます。

そして初代フェローの頃からラリーに参戦していましたが、フェローMAXでは中山サーキットなどでのミニカーレースに参戦し、ライバルともども快音を思う存分響かせていました。

もちろんラリーにも小型車のコンソルテやシャルマンなどに並んで出場し、軽自動車最強の40馬力を誇る軽量FFマシンとして暴れ回り、1970年代のモータースポーツシーンで経済性の優れたマシンとして活躍していました。

 

ダイハツ フェロー7 / 出典:http://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/motorz.production.assets/wp-content/uploads/2016/09/http-ozdat.comforumviewtopic.phpf70t8731start15.jpg?f=16&t=3622

 

そして、そんなフェローの心臓部を活かして製作された幻のレーシングカーがこの『フェロー7』

P-5をダウンサイジングしたオープンボディのスポーツプロトタイプで、正確には初代フェローSS用のエンジンを32馬力から40馬力にチューンして搭載していましたが、奇しくも最高出力はフェローMAX SS / ハードトップGXLと同じ40馬力。

カウルはP-5を、シャシーやサスペンションは当時のハイゼットから切った貼ったで作られており、言うならばP-5とハイゼットと初代フェローの3コイチ的なものなので、フェローMAXに関係してくるのはエンジンくらい。

あまりに小さすぎるボディは、大柄なテストドライバーが乗ると上半分が完全に露出してしまうほどでしたが、しかし総重量378kgという軽さに加え、空力的にも優れており、最高時速は180km/hを記録しました。

残念ながら1969年の東京レーシングカーショー(東京オートサロンの前身)に出展され、何度かサーキットでインプレッションを受けたのみでそれ以上の表舞台に出ることは無かったのですが、フェローの名がつく車でもっとも過激な1台です。

その後このフェロー7は長い間消息不明となっていたのですが、2009年1月にダイハツがモータースポーツから全面撤退、ワークスチームのDRSも解散された際、皮肉にもその敷地の片隅に残っていたフェロー7のカウルが発見され無事保護。

その後いくつかのイベントに登場しているので、見たことがある人もいるかもしれません。

 

主要スペックと中古車相場

 

ダイハツ フェローMAXハードトップ / © 1998-2018 TOYOTA MOTOR CORPORATION. All Rights Reserved.

 

ダイハツ L38S フェローMAX ハードトップGXL 1971年式

全長×全幅×全高(mm):2,995×1,295×1,245

ホイールベース(mm):2,090

車両重量(kg):495

エンジン仕様・型式:ZM5 水冷直列2気筒2サイクル

総排気量(cc):356

最高出力:40ps/7,200rpm(グロス値)

最大トルク:4.1kgm/6,500rpm(同上)

トランスミッション:4MT

駆動方式:FF

中古車相場:30~59.8万円(MAXクオーレ含む各型ほぼ流通無し)

 

まとめ

 

初代ハイゼットから流用したような部分も多く、プリズム・カットのシャレたボディと裏腹に中身はまだ商用車然としたところのあった初代フェローでしたが、2代目となるフェローMAXでは一気に近代化して軽量スポーツマシンになりました。

これがMAXクオーレを経てクオーレミラへ、そしてミラを経て現在のミライースへとつながる直接のご先祖となるわけで、単に軽くて速かっただけではなく、メカニズム的にもダイハツ軽乗用車の原点となる存在。

フェローMAXはともかく、550ccのMAXクオーレあたりは今でも現役で走っている個体を”ごく稀に”見かけることもあったり、また地方の古い整備工場ではダイハツの看板とともに、まだ『フェロー』の文字が残っていたりして、往時をしのばせています。

 

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