新車を購入した時についてくるタイヤは、オプションでサイズを選べる事はあっても、基本的にはその新車に設定された決まったタイヤを履いて納車されます。その純正装着タイヤは、どのように決められるのでしょうか?車種ごとにも異なる、いくつかの事情を紹介します。

新車で買う車にも、当然ながらタイヤはついてきます / Photo by 写真AC

クルマのタイヤはOE(純正)とリプレイス(買い換え用)の2種類

スタッドレスなんかもそうですが、こうしていろいろな車種向けに販売される社外品タイヤがリプレイスタイヤ / Photo by Yuya Tamai

自動車用タイヤには、さまざまな種類がありますが、もっとも基本的な分類では、新車で納車される際についてくる「OEタイヤ」と、それ以外の「リプレイスタイヤ」の2つに分けられます。

OEタイヤは単なるタイヤではなく、れっきとした「純正部品」として扱われており、そのクルマが新車で出荷された標準状態での性能の基準になるパーツです。

また、自動車メーカーからタイヤメーカー各社へ、予算や性能などの条件を伝え、オーダーされたものでもあります。

それに対してリプレイスタイヤは、そのクルマ専用というわけではない汎用パーツであり、「ミニバン向け」や「SUV向け」など、ユーザーの求める用途や性能に合わせて作られてはいますが、必ずしもそのクルマ向けに最適化されたタイヤというわけではありません。

しかし、OEタイヤこそが、その車の性能を存分に引き出す最高のタイヤなのかと言えば、必ずしもそうではないようです。

自動車メーカーからの要望に応じて開発されるOEタイヤ

このような新車に装着されているのが「OEタイヤ」/  Photo by 写真AC

「今度こういうクルマを発売するので、こういうタイヤを作って欲しい」という自動車メーカーからの要望に応じて作られるOEタイヤは、他の純正部品と同様に、少なくともその車が新車販売されている間は、仕様変更などでタイヤが変更されない限りは、新品で購入できるというのがタテマエです。

ならば他の重要な純正部品と同様に、販売終了後も長らく供給されるのかといえば、買い替えでOEタイヤの新品を選ばなければいけない事情が特にない限りは、他のタイヤでも問題はないため、新車販売の終了と同時にOEタイヤも廃止になるケースが多いと言われています。

つまり基本的にOEタイヤとはその車種専用タイヤであり、同メーカー・同銘柄の製品でもOEタイヤとリプレイスタイヤは見た目以外、全く異なるタイヤである事が多いようです。

また、OEタイヤは「新車で買った時のタイヤがすぐに摩耗した!」というクレームを避けるべく、一般的にはグリップ性能より耐摩耗性が重視されており、自動車メーカーから出される仕様書に合わせてコストも決まるため、走行性能の面ではいまひとつとも言われてきました。

特に新車装着タイヤのメーカーが複数存在するような場合、タイヤメーカーや銘柄は異なっていても自動車メーカーから要求されている性能は同じなため、若干味付けが異なる程度で基本的には同じ性能のタイヤです。

しかし最近は自動車メーカー側でも本物志向、ユーザー側の素早い情報交換によって「広報車だけいいタイヤを履いていて、メディアの評価を稼げばそれでよし」という時代ではなくなてきたため、かつてのOEタイヤが「電化製品を購入した時についてくる、テスト用の乾電池程度な性能」では済まなくなっています。

そのため、最近では走行性能と燃費のバランスが取れている上で、その車種用に最適化された「本当の意味での車種専用タイヤ」が増えており、タイヤショップでもOEタイヤを積極的に販売するようになっているようです。

性能を引き出すべく、自動車メーカーとタイヤメーカーが共同開発するケースも

ホンダFK8シビックタイプR Limited Editionでは20インチの純正装着タイヤ、ミシュラン「パイロットスポーツCup2」で鈴鹿サーキットで最速ラップタイムを記録した / 出典:https://www.honda.co.jp/news/2020/4200709.html

現時点でホンダ シビックタイプRの最終モデルとなっているFK8型で純正採用された、コンチネンタルのコンチスポーツコンタクト6などが好例ですが、車の限界性能を存分に引き出すために、自動車メーカーとタイヤメーカーで共同開発された高性能OEタイヤも存在します。

燃費性能や走行性能などが、工場出荷状態での高性能を主張するような車では、タイヤも含めた性能をギリギリまで詰める必要があるため、「この予算で、この性能のタイヤをお願いします」と丸投げするだけでは不十分であり、自動車メーカーのテストにタイヤメーカーが積極的に関わるようになりました。

タイヤメーカーとしても、そのような高性能車のOEタイヤに採用される事は技術力のアピール方法として非常に有効なため、かつては国産タイヤが、今ではいわゆるアジアンタイヤも高性能OEタイヤの開発・供給をするようになっています。

「交換前提」の競技ベース車では、あえての低グレードOEタイヤも

ダイハツ ストーリアX4など、高性能にそぐわない低グレードな純正装着タイヤ(ダンロップSP10やブリジストンB381)を履いた競技ベース車の代表格 / 出典:https://www.favcars.com/daihatsu-storia-x4-m112s-1998-99-images-395710.htm

同じような高性能車でも、参戦を想定した競技の規則で改造不可な部分を最初から純正で作り込んだ「競技ベース車」の場合はいささか事情が異なり、工場出荷状態ではとりあえず装着して走れればそれでいい程度の、よく言えば「コストをギリギリまで落としたOEタイヤ」が装着される事もあります。

当然ながらそのようなタイヤでは、その車が本来持っているポテンシャルを発揮させられないどころか、そのタイヤで全開走行などすると危険なケースすら存在します。

しかし、そもそも「規則で許された部分は全て交換することが前提」な競技ベース車では、タイヤも交換前提であるため、特に問題にはなりません。

ただし、快適装備まで削ぎ落とした競技ベース車を「単に安くて速い車」と考えて購入してしまうユーザーもいるため、そのような車を販売する時は「あくまで公道を普通に走るだけなら大丈夫な最低限のタイヤ」という説明は必要でしょう。

純正装着タイヤは、各タイヤメーカーのHPでも紹介しています

ブリジストンのBMW i3純正装着タイヤ「ECOPIA EP500」 / 出典:https://tire.bridgestone.co.jp/search/for-hpc/ecopia/index.html

昔ならタイヤの買い替え時に純正にこだわる必要はなかったのですが、最近はタイヤメーカーでも「純正装着タイヤ一覧」をホームページで大きく紹介しており、その車種に最適なタイヤとしてイチオシとなっています。

自分好みのリプレイスタイヤを選ぶのも一興ですが、迷った時には原点に戻り、純正装着のOEタイヤを選んでみてもいいかもしれません。