最近の世界的流行に乗り、日本でも「2030年代には電動車以外の新車販売をゼロに」、「2050年には車の走行だけでなく生産に関わる全てでカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出・除去をプラマイゼロにする)を実現」との宣言が出されていますが、これは唐突に出たようにも思える話で、「そもそも電動車って何?電気自動車?」という人も結構多いのではないでしょうか。そこで、改めて「電動車とは何か」を、ゆるく解説しましょう。

新世代の電動車として発表されたばかりのSUV型EV、日産 アリア / 出典:https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/ariya.html#C400_cmp_story_b809-modal

2030年代には電動車しか売れなくなる(かも)!ところで「電動車」ってナニ?

トヨタも国内外のライバルに負けじとEV開発を進める。画像はスバルと共同開発が進むEV専用プラットフォームのイメージ。/  出典:https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/28377705.html

「2030年代には電動車以外の新車販売をゼロにする」という目標が日本でも定められ、本当にそれが可能かどうかはともかく、各自動車メーカーも目標に沿った動きへ乗り出しました。

具体的には、「今まではガソリン車とハイブリッド車を併売していたような車でも、ハイブリッド専用車になった」や、「電動車しか売れない時代まで需要があるか疑わしい車の、モデルチェンジ見送り」、あるいはホンダのように「2040年にはEV(電気自動車)とFCEV(燃料電池車)しか売らない」と、大胆な決断をしたメーカーもあります。

自工会(日本自動車工業会)の会長を務めるトヨタの豊田章男社長のように、「温室効果ガスの排出・除去をプラマイゼロにするカーボンニュートラルの実現への道はひとつではなく、ガソリン車の販売禁止は選択肢を狭める結果にならないか?」と、反発する動きも。

そういった日本政府や関係省庁、自動車メーカーといった「エライ人たちの動き」はともかくとして、一般市民には何が起きているのかよくわからないというのも本音でしょう。

SNSなどWEB上の議論を見ていると、「電動車」を「電気自動車」と考え、エンジン(内燃機関)がなくなると思っている人もいるようですが、実際の所はそうではありません。

今でも曖昧な「電動車」の定義

初代プリウス以来ハイブリッド車の販売を拡大し続けてきたトヨタは、「老舗電動車メーカー」と言える。/ 出典:https://toyota.jp/prius/gallery/?padid=from_prius_feature_navi-menu_gallery

では具体的に、「電動車」とは何を指すかというと、日本の国土交通省では以下のように定義しています。

・BEV(バッテリー式電気自動車)
・PHEV(プラグインハイブリッド車)
・HEV(ハイブリッド車)
・FCEV(燃料電池車)

「BEV」が、私たちの多くが頭に思い浮かべる「電気自動車(EV)」ですが、「FCEV」もバッテリーの代わりに水素から電気を取り出す燃料電池を使った、「モーターで走る電気自動車の一種」との理解で、ここまでは電動車と、容易に想像がつく人も多いでしょう。

問題はPHEVとHEVで、「エンジンがあるけど、電動車って事でいいの?」と思うかもしれませんが、今のところはこの2種類も日本では「電動車」と定義されています。

「今のところは」と但し書きがつく理由は、どうも日本の政府や官公庁でも「電動車」の定義がしっかりできていないため、メディアの報道でもどこまで電動車にしていいものか、歯切れの悪い内容になりがちです。

BEVとFCEV、PHEVはともかくとして、「HEV」は、どんな方式でもハイブリッド車と認められるのか、しっかり定義されているとは言い難い状況となっています。

電動車か否か?特に問題な「マイルドハイブリッド」

日産 デイズなど、軽乗用車でも採用が増えているマイルドハイブリッド。 / 出典:https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/dayz/exterior.html

政府や国の意見交換会、あるいは国民から経済産業省などへ寄せられる意見で多いのが、「マイルドハイブリッドのような簡易ハイブリッドシステムも、ハイブリッド車として電動車のうちに含めるのか、ハッキリしてほしい」というもの。

ハイブリッド車は大きく分けて、「ストロングハイブリッド(フルハイブリッド)」と「マイルドハイブリッド」の2種類に分かれます。

【ストロングハイブリッド】
・さまざまな方式があるが、どれもエンジンを止めて、モーターのみで走るか、モーターのみで走れる領域がある。
【マイルドハイブリッド】
・停車中か発進などごく低速域を除きエンジンは止めず、モーターは発進や加速の補助のみ。

マイルドハイブリッドは、トヨタのようにストロングハイブリッドの開発と普及に出遅れたヨーロッパの自動車メーカーや、日本でもコンパクトカーや軽自動車など、販売価格を抑えたい車で多用される簡易ハイブリッドです。

乱暴な言い方をしてしまえば、エンジンの動力で駆動し、バッテリーへ充電したり、車に必要な電気を供給するオルタネーター(発電機)を強化した「ISG(モーター機能付き発電機)」を搭載。発電だけでなく走行用バッテリーからの電力でISGを駆動し、モーターとしても使おうというシステム。

エンジンの負担が一番大きい発進時や加速時にモーターをアシストするだけでもだいぶ燃費は良くなり、ストロングハイブリッドより仕組みは単純なので安価。これを「電動車」に含めてくれれば、自動車メーカーとしては助かるという訳です。

エンジン搭載でも「電動車」なら2030年代も続く

マイルドハイブリッドでもよいから、ロードスターのように走らせるのが楽しいスポーツカーは2030年代以降も販売を続けてほしい。 / 出典:https://www.mazda.com/ja/innovation/motorsports/media4tai/2017/report2/

特に軽トラなど安価な商用車はマイルドハイブリッド抜きで成立しにくいのですが、国土交通省も経済産業省も「どこまでがハイブリッドで、ハイブリッドでないか」をハッキリ定義していないため、「電動車って何?」という質問には、実はまだ明確な回答ができていません。

おそらくは日本独自で定義しても、海外で「マイルドハイブリッドは電動車として認めない。新車販売禁止!」となった場合に困るため、歩調を合わせて定義のタイミングを見計らっているという事でしょうか。

そのためマイルドハイブリッドについては2021年6月現在は「保留」となっていますが、バッテリーか燃料電池の電気だけでモーターを駆動してエンジンを積まないBEVとFCEV、エンジンは積んでもをモーターだけで走れるモードがあるPHEVとストロングハイブリッドは、間違いなく「電動車」です。

世界情勢や技術の進歩によって、今後もどう変わるかはわかりませんが、現時点では2030年代でもエンジンを積んだ「電動車」は新車販売可能で、エンジンをモーターアシストする程度のマイルドハイブリッドが「電動車」と認められる限りは、スポーツカーや安価な車向けに販売が続く可能性もあります。

少なくとも「10年後にはEVとFCEVしか売ってない!」という事にはまずなり得ないため、周りで充電スタンドなどのインフラ整備が進んでいない方も安心してください。