トヨタのスポーツエンジンといえば、DOHCマルチバルブ・高回転型自然吸気エンジン全盛期の4A-G(1.6L)や3S-G(2L)、そしてチューニングベースとして人気の高い大排気量ターボ2JZ-GTEが有名どころですが、4A-Gや3S-Gの後継として短期間ながら搭載、隠れた名機とも称されるトヨタ最後の小排気量自然吸気スポーツエンジンがありました。それが、2ZZ-GEです。
2ZZ-GEのスペック紹介
1990年代末期、A系(1.3~1.8L)、S系(1.8~2.2L)の後継エンジンとして、NZ系(1.3~1.5L)をスケールアップしたZZ系(1.4~1.8L)エンジンが登場します。
その中でも1.8リッターの実用エンジン1ZZ-FEをベースに、ヤマハの手でビックボア&ショートストローク化と可変バルブ機構VVT-iの発展型VVTL-iを採用、高回転自然吸気エンジンの名機、4A-GEと3S-GEの後継としてスポーツエンジン化したのが2ZZ-GEでした。
特徴的だったのは、1ZZ-FEの可変バルブ機構VVT-iが、吸気側のバルブタイミング可変のみだったに対し、VVTL-iではカムプロフィール切り替えによる、吸排気バルブの作用角・リフト量も可変させていた点です。
そのため、ホンダのDOHC VTECや三菱MIVECと似た機構を持つスポーツエンジンとして、度々比較対象となる事も。
ただし、DOHC VTECが低速1種(ノーマルカム)、高速1種(ハイカム)のカムプロフィールを持つのに対し、VVTL-iはMIVECのカム切り替え型同様に、低速・高速各1種のカムプロフィールを持つのみで、6,000回転でハイカムに切り替わるのを標準としていました。
これによってライバルより控えめながら、リッター105.6馬力に達する190馬力を発揮するに至っています。
後にイギリスのロータスで採用された時には、独自に空冷インタークーラーつきスーパーチャージャーを組み合わせたものも搭載されました。
トヨタ 2ZZ-GE(7代目ZZT231セリカSS-II搭載機)
種類:水冷直列4気筒DOHC16バルブ VVTL-i
内径×行程(mm):82.0×85.0
排気量 (L):1.795
圧縮比:11.5
最高出力(ネット):190馬力 / 7,600rpm
最大トルク(ネット):18.4kgm / 6,800rpm
使用燃料:ハイオク指定(レギュラーガソリン不可)
2ZZ-GEの搭載車種
2ZZ-GEは日本、ヨーロッパ、北米のトヨタ小排気量スポーツモデルのほか、ロータス車に搭載されましたが、一覧にすると以下の通りです。
【トヨタ】
・セリカSS-II(7代目ZZT231・1999-2006年)
・カローラランクスZ(ZZE123系・2001-2006年・カローラ店向け)
・アレックスRS180(ZZE123系・2001-2006年・ネッツ店向け)
・カローラセダンXRS(ZZE131・2005-2006年・北米専売)
・カローラフィールダーZエアロツアラー(初代ZZE123G・2000-2006年)
・ヴォルツZ(ZZE137・2002-2004年)
・マトリックスXRS(ZZE137・2002-2006年・北米専売)
・Will VS(ZZE128・2001~2004年)
【GM】
・ポンティアック ヴァイヴ(ZZE137・2003-2006・ヴォルツのGM版で北米専売)
【ロータス】
・エリーゼ(フェイズ2・2004~2010年・一部スーパーチャージャー仕様)
・エキシージ(シリーズ2・2004-2010年・全てスーパーチャージャー仕様)
上記のほか、オーストラリアやヨーロッパ向けのカローラ(セダン、ハッチバック、ステーションワゴン)にも2ZZ-GE搭載モデルが設定されています。
また、トヨタ車としては2006年まで、ロータス車でも2010年までと、先代スポーツエンジンである4A-GEや3S-GEなど、ベースとなった他のZZ系と比べて、非常に短期間のみの搭載でした。
2ZZ-GEが普及しなかった理由
このように、ライバル他社ほどではないものの、トヨタの小排気量スポーツエンジンとしてはソコソコのスペックを持っていながら短命に終わった2ZZ-GEエンジンですが、それはなぜだったのでしょうか?
基本的には、「ZZ系自体が、ZR系やNR系のような新世代エンジンまでの過渡期のエンジンであり、NZ系のようにハイブリッドシステムにも対応しない短命エンジンだった」というのが、その最大の理由です。
世界的に低燃費、高効率なエンジンが求められる中で、厳しくなる一方の排ガス規制に対処するのは、AR系やZR系といった新世代のエンジンに委ねられていました。
そしてその新世代エンジンの時代、小排気量の高回転型自然吸気エンジンでは環境性能と動力性能の両立は困難とみなされたのです。
その結果、活発な走りを求める車種では、より小排気量のダウンサイジングターボや、自然吸気型でもより大排気量で余裕のあるエンジン、あるいはハイブリッドシステムが新世代のパワーユニットとなりました。
ある意味、2ZZ-GEはそうした時代の狭間に短い間だけ咲いたはかない徒花に過ぎなかったと言えるかもしれません。
2ZZ-GEのインプレ
それを証明するかのように、現在に語り継がれる2ZZ-GEの評価はマチマチです。
6速MTを駆使して常に4,000回転以上をキープするような走り、つまり元から高回転を好むようなユーザーであれば「低回転から粘り強く、高回転まで気持ちよく回る、よいエンジン。」ということになります。
それが高回転を普段から多用せず、さらに4速ATとの組み合わせで乗っているユーザーとなると「回せば確かによく走るが、街乗りでは低回転でのトルク不足が顕著でギクシャクする。」という評価が見られました。
良くも悪くも競技などでスポーツ走行を行うユーザー、あるいは走り屋向きのエンジンであり、その意味でも1990年代の雰囲気を受け継ぐ旧世代最後の傑作スポーツエンジンだったと言えるのではないでしょうか。。
まとめ
ごく短期間、わずか1世代のみの搭載で終わった短命スポーツエンジン、2ZZ-GEですが、それを搭載するのにちょうど良さそうな車種でありながら、ついにそれが実現することの無かった1台のトヨタ車がありました。
それは、ライトウェイト・ミッドシップスポーツとして1999年から2007年まで販売されていたMR-S。
先代にあたる2代目SW20型MR2と6代目T200系セリカがそうだったように、7代目T230系セリカのミッドシップスポーツ版のような車です。
しかし7代目セリカが2ZZ-GEを搭載したのに対し、MR-Sは実用エンジンの1ZZ-FEを終始搭載していました。
「強力な2ZZ-GEを搭載すれば・・・。」と誰しもが想像したと思います。
筆者はジムカーナで2ZZ-GEに換装したMR-Sを見ましたが、「1ZZ-FEでバランスよく作られたMR-Sが、2ZZ-GEを積んだ程度では劇的な変化は無い。」というのが正直な感想です。
実際、JGTC(全日本GT選手権)やその後継であるSUPER GTで使われたMR-Sベースのレーシングカーや、その他カスタムカーなどはもっと強力なエンジンを搭載していました。
ラリーやダートトライアルでセリカがある程度の実績は残したものの、2ZZ-GEは実際の性能というより、官能的な部分で存在意義のあったエンジンかもしれません。
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