2018年は軽オフローダーの王者、スズキ ジムニーが20年ぶりのモデルチェンジ(4代目)を果たして話題になりましたが、1970年に初代モデルがデビューしたジムニーには原型がありました。それが、2017年まで遊具関連メーカーとして存続していた株式会社KHPの前々身、ホープ自動車が4輪自動車メーカーへの復帰をかけて開発、短期間ながら販売した『ホープスター ON型4WD』です。

 

ホープスター・ON型4WD  / © 2002 – 2016 All rights reserved

 

文字通り「軽オート3輪のホープ」だったホープ自動車の起死回生策

 

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ホープ自動車と言っても今では全く馴染みがないと思いますが、それもそのはず1950年代から1960年代にかけ、コニー(愛知機械工業。現在は日産の子会社)などとともに軽オート3輪トラック草創期を牽引した自動車メーカーで、現存はしません。

そもそもは1949年、初めて軽自動車規格が制定された時に軽オート3輪トラックを作る零細メーカーが続々登場した中で、1951年に設立された『ホープ商会』も参入。

まだまだオートバイを3輪化したようないい加減な作りの軽オート3輪が多かった中、ホープ商会が作ったのはバーハンドルながら耐久性に優れた本格的な『自動車』で、1952年に発売されるや当時のヒット作となりました。

そして当初個人商店だったホープ商会も株式会社化され、1954年には『ホープ自動車』へ改名。

工場も拡張するなど経営を軌道にのせたかに思われましたが、ダイハツやマツダ、三菱の軽オート3輪参入で町工場に毛が生えたようなホープ自動車では太刀打ちできなくなります。

その後オート3輪時代の終了も見越した4輪軽トラ『ホープスターOT』キャブオーバー型の『ホープスターOV』もライバルに勝てなかった上に、フジキャビンで有名な富士自動車のエンジンが著しく耐久性不足でクレーム殺到。

ついに自動車産業から撤退する事になってしまいます。

幸い、遊具メーカーへの転身に成功していたので会社は存続できましたが、まだ自動車産業を捨てきれなかった同社が、復帰を狙って開発した起死回生策が『ホープスター ON型4WD』でした。

 

まだコンパクト4WDすら無い時代の、本格的な軽オフローダー

 

ホープスター・ON型4WD  / Offroadrunner.nl © 2002 – 2016 All rights reserved

 

1967年に発売されたホープスター ON型4WD。

当時は現在のように乗用車の4WDグレードなど存在しない時代で、トヨタ ランドクルーザー(40系)、日産 パトロール(60型)、三菱 ジープ(J3系)といったゴツゴツした本格オフローダーしかありません。

同年に発売された車にいすゞ ユニキャブというオフローダー風の小型車がありましたが、それらしいのは外見だけの2WD(FR)車でした。

そんな中、小さなオフローダーとして発売されたホープスターは、トヨタ カローラの2ドアセダンが45.5万円ほど、軽トラが30万円ほどという時代に55万円と強気の価格で発売されました。

しかし、そもそもダイハツや他ライバルメーカーに負けて一度撤退したメーカーなので販路が失われてしまっていました。

1番手取り早いのが、工場(神奈川県川崎市)に行って直接買うことで、ナンバーも自分で取れというので「安くして」と言ったら1.5万円引きとリアにスペアタイヤキャリアも作ってくれた、という大らかな時代でしたが、100台どころか50台も売れなかったと言われているレベル。

さらに一度撤退したメーカーの意欲的な実験作という、いかにも怪しげな経歴からわかるように熟成不足なところがあり、後のジムニーのようなタフさはとても望めなかったようですが、登坂能力だけは当時から優れていました。

 

主なスペックと中古車相場

 

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ホープスター ON 4WD 1967年式

 

全長×全幅×全高(mm):2,995×1,295×1,765

ホイールベース(mm):1,950

車両重量(kg):620

エンジン仕様・型式:三菱ME24D 水冷直列2気筒2サイクル

総排気量(cc):359

最高出力:15kw(21ps)/5,500rpm(※グロス値)

最大トルク:31N・m(3.2kgm)/3,500rpm(※同上)

トランスミッション:4MT

駆動方式:4WD

中古車相場:皆無

 

まとめ

 

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結局、ONはロクに売れず自動車産業へ復帰するより遊具メーカーを続けた方がいい、という判断からか、わずかな台数を販売したのみで打ち切られ、発売翌年にはスズキへ製造権が譲渡されてしまいます。

ちなみにスズキ社内でも「何でそんな売れなくて撤退するような車の権利なんか!」と総スカンを喰らったそうですが、そんなバッシングを受けながらもONの製造権取得を主導したのは、当時同社の常務だった鈴木 修 氏だそうで、90歳を間近にして未だにスズキ代表取締役会長の座にあるその人です。

そしてこの『ホープスター・ON型4WD』をコンセプトとし、開発されたのが『初代スズキ ジムニー』。

製造権譲渡から2年後の1970年に発売が開始され、現在に至るまでジムニーは『世界で活躍するオフローダー界の小さな巨人』として絶大な支持を集めています。

ホープ自動車が夢見た『希望の星(ホープスター)』は、生まれ故郷から里子に出された先で手厚くジックリと育てられ、大きなキラメキを放つようになったのです。

 

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