1982年にランボルギーニが世に送り出したSUV『LM002』。巨大な車体に大きなピレリ製オフロードタイヤを履かせ、カウンタックと同じV12エンジンを搭載!車体はランボルギーニらしくないアーミーな箱形のスタイルでありながら、当時のSUVモデルの中でも圧倒的に高い動力性能は、”闘牛”ランボルギーニのモデルであることの証明と言っても過言ではありません。

掲載日:2019/05/31

© 2017 Automobili Lamborghini S.p.A.

 

V12エンジンを搭載したSUVのスーパーカー!ランボルギーニ・LM002

© 2017 Automobili Lamborghini S.p.A.

自動車市場においてSUV人気が高まり、最高時速は300km/hにも達するハイパフォーマンスモデルも珍しくはありません。

2018年にランボルギーニも世界最速SUV『ウルス』を登場させ、SUVクラスにおいてもその存在感を確立しています。

そんなランボルギーニですが、実は30年以上前に同様のスーパーSUVを送り出していた事はご存知でしょうか?

その名は『ランボルギーニ LM002』。

約2.7トンの超大型SUVに、ランボルギーニ・カウンタック用のV12エンジンを搭載したスーパーカーでした。

 

政府管理下だったランボルギーニの経営危機を救うために開発したLM002

左上:エスパーダ、右上:シルエット、左下:ハラマ、右下:ウラッコ / © 2017 Automobili Lamborghini S.p.A.

1970年代、トラクター部門の不振により資金難に陥ったランボルギーニは、フィアットに49%とスイスの投資家ジョルジュ=アンリ・ロゼッティ氏に51%の株式を売却します。

その後、オイルショックの影響でフィアットが所有する49%の株式すべてがロゼッティ氏の友人であるレイネ・レイマー氏に売却され、同時にカウンタックが誕生。

カウンタックでムーブメントを起こすも、それ以外で販売したMRスポーツのシルエットやウラッコ、FRスポーツのハラマやエスパーダが予定していた生産台数に到底及ばず、経営危機は蔓延してしまいます。

そしてとうとう’78年に倒産し、ランボルギーニはイタリア政府管理下で運営されることとなり、今までのようなスーパーカーではなく、採算がとれる新たなクルマを開発する事になりました。

そしてランボルギーニは、モビリティ・テクノロジー・インターナショナル(MTI)というアメリカ企業と契約を結びます。

 

MTI社長がデザインを盗用、チータープロジェクト困窮

XR311 / 出典:https://en.wikipedia.org/wiki/FMC_XR311

MTIは軍用の全地形対応車を開発して米軍に売り込もうと計画し、ランボルギーニとの共同開発で新型軍用車を造り出すプロジェクトを発足します。

そして同プロジェクトは、MTI社長のロドニー・ファリス(Rodney Pharis)氏のデザインにより、新プロトタイプカー『チーター』をジュネーブモーターショーで発表しました。

クライスラー製5.9リッターV8エンジンをリアミッドシップに搭載したチーターは大きな反響を呼びますが、チーターの外観はフォードが設計したXR311とほぼ同じだったことから、デザインの盗用が判明。

フォードはMTIとランボルギーニを相手取り裁判に持ち込みます。

さらにランボルギーニにとっての不幸は続き、チーター以外にもいくつかのメーカーが新型の軍用車を売り込んでおり、米軍が採用したのはAMゼネラルのハンヴィーでした。

ちなみにAMゼネラルはAMCの軍用部門で、ハンヴィーは軍用輸送車両の総称です。

結局、米軍への軍用車納入はなくなり、’81年にランボルギーニはイタリア政府管理下から、フランスの実業家パトリック・ミムランにより買収される事になります。

 

チータープロジェクト続投!!プロトタイプLM001から量産モデルLM002が登場

左:ランボルギーニ・LM001、右:ランボルギーニ・LM002 / © 2017 Automobili Lamborghini S.p.A.

計画は白紙になってもランボルギーニはチータープロジェクトを続投させ、’81年に開催されたジュネーブモーターショーでは、AMC製エンジンをミッドシップに搭載したLM001を発表。

翌’82年に、LMA002をデビューさせます。

名前のLは”ランボルギーニ”、Mは”ミリタリア”、Aはイタリア語で”前”を意味する”アンテリオレ”の頭文字で、フロントエンジンマウントを示しており、ランボルギーニ・カウンタック用の332PSを発揮する4.8リッターV12エンジンが搭載されました。

その後、さらにLMA002以外にも3.6リッターディーゼルターボエンジンを搭載したLM003、パワーボート用の7.3リッターV12エンジンを搭載したLM004など、次々とプロトタイプを製作し、1986年にはとうとうLMを生産するまでにこぎつけます。

そのモデル名は『LM002』。

カウンタック 5000QV(クワトロヴァルヴォ―レ)用の5,167ccエンジンを搭載し、最高出力450hpを発揮。

車重が2.7トンと重量級でありながら0-100km/h加速は7.7秒、最高速209km/hを達成します。

また、トランスミッションはZF製の5速MTを採用し、4WDの駆動方式は燃費節約のためにFRにすることも可能でした。

© 2017 Automobili Lamborghini S.p.A.

内装は快適性を重視し、パワーウィンドウやオーディオ、エアコンなど搭載。

インパネやメーターパネル、センターコンソールの一部に木目調パネルが用いられ、革製シートを装備して高級感を演出していました。

 

パリダカ出場を目指すもファクトリーチーム出場はならず

ランボルギーニファクトリーマシンのLM002ラリー仕様 / © 2017 Automobili Lamborghini S.p.A.

ランボルギーニはLM002でパリダカ制覇を目指し、LM002をベースにラリー専用マシンを製作。

ドライバーにはサンドロ・ムナーリ、コ・ドライバーにマリオ・マヌッチを起用し、’87年の出場を予定していましたが、スポンサーがパワーボートで死亡事故を起こしてしまったことで参戦は見送り。

結局、ランボルギーニファクトリーチームからパリダカへ参戦する事はありませんでしたが、’88年にスイスに本拠地を置くレーシングチームが赤いLM002のラリーマシンでパリダカに出場し10位を獲得。

そのマシンは、室内に5点シートベルトつきレーシングシートが設置され、ロールケージバー、ナビゲーションシステムなどラリー車の基本的な改良を施しつつ、エンジンは600hpまで馬力アップ。

燃費は恐ろしく悪く、1.4km/リッターほどしか走行できなかったため、容量600リッターの燃料タンクを搭載し、ガソリン満タンで約900kmの走行を可能にしていました。

 

ランボルギーニ・LM002のスペック

© 2017 Automobili Lamborghini S.p.A.

ランボルギーニ・LM002
全長×全幅×全高(mm) 4,900×2,000×1,850
ホイールベース(mm) 3,000
車重(kg) 2,700
エンジン種類 V型12気筒DOHC36バルブ
総排気量(cc) 5,167
ボア×ストローク(mm) 85.5×75.0
圧縮比 9.5
最高出力(kW[hp]/rpm) 335[450]/6,800
最大トルク(N・m[kg・m]/rpm) 500[51.0]/4,500
トランスミッション 5速MT
駆動方式 パートタイム式4WD
タイヤ 325/65VR17
325/65VR17

 

まとめ

© 2017 Automobili Lamborghini S.p.A.

LM002はリビアとサウジアラビアの軍隊から発注されましたが、主力は民間用モデルとされ、ランボルギーニはLM002を富裕層に売り込みます。

しかし、当時の消費者の価値観に沿わなかった上に価格は7万ポンド(当時の日本円でおよそ2000万円)と高額なため、販売数を伸ばすことができず、結局301台しか生産されませんでした。

ウルスは、20年以上前に生産終了となったLM002がウルス開発のベース車両になったわけではありません。

しかし、スーパーカー並みのハイペックかつ今のスタンダードとなった高級SUVを、既にLM002で創造していたのです。

そんなSUV+スーパーカー+ラグジュアリーカーという配合は、ランボルギーニしかできない自動車造りのレシピなのでした。

 

Motorzではメールマガジンを配信しています。

編集部の裏話が聞けたり、最新の自動車パーツ情報が入手できるかも!?

配信を希望する方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みください!