今でこそ乗用車ベースのクロスオーバーSUVとなりましたが、本来は純粋なクロスカントリー(クロカン)4WD、それも本格的なオフロード性能とシティ—オフローダー的な外観を組み合わせたコンパクト・ライトクロカンとしてヒット作になったのが初代スズキ エスクードです。それまでもコンパクトクロカンは存在しましたが、都会でも違和感の無いフォルムはクロスオーバーSUVブームを先取りしたと言っても過言ではありませんでした。
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初代エスクードのデビュー当時、コンパクトクロカンは一時期廃れていた
スズキ エスクードの初代モデルが発売されたのは1988年5月。
1.6リッターエンジンを搭載する3ドア、または後部がオープントップとなる2ドアコンバーチブルという2種類のショートボディのみというコンパクトな5ナンバーサイズライトクロカンでした。
その頃は三菱 パジェロを筆頭にクロカン4WDブームが巻き起こった時期でもあり、時流に乗ったエスクードはたちまちヒット作になります。
小型で安価、威圧感の無い都会派デザインのボディがウケたというのも、もちろんありましたが、最大の理由は一時的にライバルが不在だったこと。
このクラスのクロカン車の先駆けと言えるのは1967年に発売されたいすゞ ユニキャブでしたが、残念ながらジープ風の外観から期待するような4WDモデルは存在しないFR車でした。
続いて1974年には、ダイハツ タフトが登場し、1リッター ガソリンエンジンのみのエンジンラインナップながら立派なクロカン4WD車で、後に2.5リッターディーゼルエンジンを、さらにOEMモデルのトヨタ ブリザード登場時にトヨタ製1.6リッターガソリンエンジンを追加。
そして1981年にガソリンエンジンが廃止され、モデルチェンジした時にラガー(トヨタOEM版は引き続きブリザード)に改称されると、一回り大きくなりました。
スズキでも1977年からジムニー8 / ジムニー1000 / ジムニー1300と名を変え排気量を上げつつ細々と販売されていた軽オフローダー、スズキ ジムニーの普通車版がありましたが、これも初代エスクード登場とほぼ同時期に一時姿を消しています(※)。
(※1993年にジムニーシエラとして復活)
残るは、サイズ的にコンパクトながら2.7リッターディーゼル、しかも基本設計は第2次世界大戦時までさかのぼる三菱 ジープくらいしかありません。
すなわち、初代エスクード登場時点で、「コンパクトで軽自動車では無い本格オフローダーが欲しい」と思ったら、エスクード以外の選択肢はほとんど無かったのです。
スズキが初代アルト、初代ワゴンR、2代目スイフトなどで見せる「ニッチなジャンルで大ヒット」という得意技が、エスクードでも存分に発揮されたのでした。
クロカンだけどクロカンらしくない内外装が魅力だった
エスクード成功の理由は、それだけではありませんでした。
それまでのジープやランドクルーザー、サファリ、ラガーといった他社のクロカン4WD車は、ひたすら頑丈でタフなイメージですが、外観もそのイメージのまま無骨そのもの。
1982年にデビューした三菱 パジェロ(初代)はある程度そのイメージを払拭していましたが、イメージ一新とまで言えるのは1991年デビューの2代目を待たなければなりません。
そのような時代にあって、初代エスクードは直線を多用しつつもシャープな印象のあるヨーロッパ風デザインの外観を持ち、内装も無骨でスパルタンな4WD車というよりは乗用車に近い、つまり「普通の車から乗り換えても違和感が少ない」ものだったのです。
現在でも、昔ながらのドライバーで、車歴が長い割に着座位置の高い車を運転した経験が少ない人にありがちですが、着座位置の低い車ばかり乗っていると、いきなり車高の高い車を運転しろと言われても違和感を感じるもの。
ましてやガラガラ唸るディーゼルエンジンで重いボディを走らせ、内装はトラックのごとしとあれば、乗用車的な運転間隔や快適性は望むべくもありません。
エスクードはまさにその隙間をついた形で、「着座位置の高さを除けば、乗っていても外から見ても乗用車らしく感じるクロカン4WD」というのがポイントでした。
実際、1990年代にクロカン4WDブームが到来すると、最低地上高を上げ無骨なバンパーガードや背面スペアタイヤを装着した「クロカンルックの乗用車」が多数登場しましたが、エスクードは最低地上高を除き、不要な標準装備を持たないクリーンな外観。
1990年6月に登場した、同じく1.6リッターガソリンエンジンを積むダイハツ ロッキーが単なるラガーの小型版的な従来型オフローダーだったのに比べて、その差は歴然としていました。
それでいて中身はボディとシャシーが別体のセパレートフレームにパートタイム式の本格4WDシステムを持ち、乗用車的な操作感を求めてフロントサスペンションこそストラット式独立懸架だったものの、それを除けば本格オフローダーそのものだったのです。
そのため、エスクードは本格派から実際に悪路を走ることなどほとんど無いドライバーまで、広いユーザー層にウケる大ヒット作となり、ロングボディの5ドアモデル、エスクード・ノマドや大排気量エンジンが追加されました。
そしてオフローダー界の珍車中の珍車、2シーターTバールーフクーペのX-90など多くの派生グレード、派生車種を産み、マツダにもプロシード レバンテの名でOEM供給されたのです。
ラリーレイドやパイクスピーク、全日本ダートラで激走した初代エスクード
初代エスクード(海外名はサイドキック、ビターラなど)は、ワークス参戦では無かったもののプライベーターによるラリーレイドへの参加が目立ち、その代表格と言えるのが現在でもジムニー専門店として著名なアピオ(神奈川県綾瀬市)でした。
ジムニーによるオフロードレース参戦で上級マシン相手にジムニーで気を吐いていた同ショップの社長、尾上 茂 選手(現在は会長)が1989年からオーストリアン・サファリに初代エスクードで参戦し、1995年までの6年間で市販車無改造部門で優勝すること5回を記録しています。
そして最後の1995年に総合6位入賞まで果たすと、1997年以降はパリ・ダカールラリーや、ジムニーでのラリーモンゴリアに活躍の場を移していきました。
また、エスクード最強のモータースポーツモデルと言えば、何といってもモンスター田嶋こと田嶋 伸博 選手が駆る、スズキスポーツのツインエンジン・エスクード!
実際には「エスクードっぽい形をしたパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム用のワンオフレーサー」でしたが、1994年にエスクードへとボディ変更する以前のカルタスでハイパワーツインエンジン車の実績を積んでいたので、1995年に優勝などの大活躍を果たします。
なお、田嶋選手と初代エスクードの組み合わせは全日本ダートトライアルでも見られ、1996年にカルタスからスイッチした2リッターV6ショートボディのTA11W型がモチーフのオリジナルD車両(ほぼ改造無制限、ワンオフ車両でもOK)「モンスターV6エスクード」で、その年参戦した6戦全てで優勝したほか翌年も3勝を上げ、故 大井 義浩 選手(2016年8月1日逝去)が駆る「キャロッセ スーパーD(後にクスコインプレッサスーパーD)」との間で2000年まで繰り広げられた大熱戦は全日本ダートラ名勝負の1つと言える盛り上がりを見せました。
ここで紹介したのは日本国内、あるいは国内のワークスチームやショップなどが関わった例ですが、もちろんそれ以外に海外でも多くの初代エスクードがラリーなどオフロード競技で使われています。
スズキ 初代エスクードの主要スペックと中古車相場
スズキ TA01W エスクード ハードトップ 1988年式
全長×全幅×全高(mm):3,560×1,635×1,665
ホイールベース(mm):2,200
車両重量(kg):990
エンジン仕様・型式:G16A 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
総排気量(cc):1,590cc
最高出力:82ps/5,500rpm
最大トルク:13.1kgm/3,000rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:4WD
中古車相場:46.3万~68万円(各型含む)
まとめ
初代エスクードはその登場当時、少なくとも日本市場では派手な車とは見られておらず、「ジムニーより大きくランクルやパジェロより小さく、質素で地味だが、何より手頃な大きさで軽くて安い」というイメージでした。
しかし、デビュー直後からのRVブームで火が付き、エスクードは一時期「クロカン4WD界のカローラ」的な存在だったと言えるかもしれません。
特に、普段悪路を走ることの無いシティオフローダー用途で購入された初代エスクードは現在のクロスオーバーSUVの先駆けとなりましたが、RAV4やCR-Vといった本格クロスオーバーSUVが登場すると、一躍人気をさらわれてしまいます。
そして、エスクード自体の大型大排気量化もあって次第にマニアックな存在になっていきましたが、その後ブームとなったクロスオーバーSUVにコンパクト化の波が押し寄せる今、中には1台くらい初代エスクードのような「中身は本格派」があってもいいように思えてなりません。
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