燃料を浪費し、エコとは正反対だと思われがちなレーシングカー。しかし近年、F1やル・マン24時間ではハイブリッドカーが導入され、電気自動車のフォーミュラーEが流行するなど、エコなレーシングカーを用いてしっかりと環境技術への挑戦が行われています。その中で、最先端のエコエンジンに繋がる日本生まれの”NRE”についてご紹介します。

掲載日:2019/12/04

出典https://www.mercedesamgf1.com/en/heritage/silver-arrows/pu106c-hybrid/

モータスポーツで鍛えられる環境技術

出典https://www.honda.co.jp/F1/spcontents2014/powerunit/02/

古くからモータースポーツは、最先端技術を試し、鍛える場所として利用されてきました。

走行性能に関わるエンジンやタイヤはもちろん、エアロダイナミクスや安全技術まで、市販車の一足も二足も早く新しい技術が試されています。

そして、現在のモータースポーツで新技術の中心となっているのが環境技術なのです。

モータースポーツの最高峰カテゴリーであるF1では、2014年からMGU-KとMGU-Hという2つのハイブリッドシステムを採用しています。

MGU-Kは減速時に通常なら捨てられる運動エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する、いわゆる一般的なハイブリッドシステムです。

もちろんその効率は、市販車のハイブリッドシステムの数倍にも及ぶレベルで運用されています。

そして、MGU-K。こちらはまだ市販車には採用されていない、排気の熱を電気エネルギーに変換するシステムです。

排気熱エネルギーで回転するタービン、その軸に接続されたMGU-Kによって発電し、蓄えるシステムと言われています。

このMGU-Kとタービンが接続されていることで、電気的にタービンを回すことが可能となっており、これによりターボラグを無くす制御も行われます。

このタービンの電気的な制御に関しても、市販車ではまだ用いられていない技術です。

そして、市販車においてはプリウスの熱効率が40%でかなり効率が良いと言われている中、なんとF1のパワーユニットでは50%を超え!!

まさにモータースポーツという舞台だからこその、最先端技術の結晶と言えるでしょう。

日本発祥のエコレーシングエンジン「NRE」

出典https://toyotagazooracing.com/jp/supergt/cars/2019.html

F1のパワーユニットシステムが導入された2014年、日本のスーパーGTとスーパーフォーミュラーでも新しいエンジンが導入されました。

ニッポン・レーシング・エンジン、略して「NRE」です。

このNREは、2リッター直列4気筒の直噴ターボエンジンという市販車のエンジンに近いもの。

しかし、中身は市販車からは大きく進んでおり、熱効率も45%近くあると言われています。

更に、プレチャンバーを上手く活用することで、エンジン単体としての熱効率はF1以上だそう。

そんな日本生まれのNREには、F1やWECも追従した画期的なアイデアが採用されています。

そのアイデアこそが、”燃料流量制限”という、エコなエンジンほどレースで強いというアイデアなのです。

簡単だが熱効率は下がる「空気流量制限」

出典https://www.honda.co.jp/Racing/gallery/2010/02/

長らくレーシングエンジンの世界では、エンジンパワーのバランスを取るためにエアリストリクターという物を用いてきました。

エンジン内部では、取り込んだ空気内の酸素を使って燃料を燃やしているので、空気がたくさん入れば入るほど、エンジンのパワーも上がります。

エアリストリクターとは、その取り込める空気の量を絞ることで、エンジンパワーを絞ってしまうシステムです。

特に、多様な車種が参加するツーリングカーレースでは、各車のスピードバランスを取るためにエアリストリクターが多用されています。

しかし、エアリストリクターが付けられてしまうと、空気が減った分の落ちたパワーを補うために、ガソリンをより多く使用することになるのです。

それは、理想的な空燃比ではないため、熱効率は大幅に低下することになってしまいます。

当然、そうなると燃費が落ちることになるので、エコとは真逆の考え方と言えるでしょう。

熱効率を上げたものほどパワーが出る、エコな「燃料流量制限」

出典http://superformula.net/sf/apf/ap/NewsImage.dll/Image?No=NS018674&INo=4

一方、NREから生まれた燃料流量制限は、空気の量を制限せずに、1秒あたりに使用できる燃料の最大量を決めてしまおうという考え方です。

この方式を用いると、常に理想の空燃比でエンジンを動かすことができるため、熱効率は常に最大効率を発揮します。

更に、パワーを調整する際も燃料流量を調整すればいいので、理想の空燃比が崩れることがなく、それに伴って熱効率が損なわれることがありません。

スーパーフォーミュラーではこの仕組みを利用して、ボタンを押すと一時的に燃料流量を増やすことでパワーアップさせる、オーバーテイクシステムが導入されています。

また、使える燃料量が決まっているので、1リッターの燃料からいかにパワーを引き出すかという部分が開発の焦点。

同じ燃料量でライバルよりも出せるパワーが多ければ、それがそのまま戦闘力に繋がることになります。

そして、限られた燃料からいかに効率よくパワーを出すかという考えは、エコカーの開発と同じ考え方であり、だからこそNREがエコなレーシングエンジンと言われる所以です。

まとめ

出典https://toyotagazooracing.com/archive/ms/jp/wec/wec-trivia-05.html

かつては環境性能など考慮されず、とにかくリソースを使える分だけ使って車を速くすればいいという考えで開発されていたレーシングカー。

環境保護が世界的に叫ばれる中、モータースポーツ界もしっかりとその潮流に乗り、市販車への先行研究という役割を果たしています。

今でもモータースポーツは環境に悪いというイメージが根強く残っていますが、当記事で触れてきたように、実は現代のレーシングカーはエコ技術の結晶なのです。

日々進歩するレーシングカー、その先端技術にも目を向けてみると、より楽しむことが出来るかもしれません。

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