2017年で生産を終了し、現在は乗用 / 商用ともに在庫販売のみとなっているダイハツ ミラですが、これによりダイハツ軽自動車の中でも長い歴史を持つ『ミラ』単体での車名が一時的に消える可能性が高くなりました。そんなこの機会だからこそ新規格初期、旧規格の構造を一部残した過渡期に存在した『最後のオールド・ミラ』L700系をご紹介しましょう。
掲載日:2018/11/24
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新規格軽自動車第1号であり、まだ旧世代の雰囲気を残した最後のミラ、L700系
1998年10月、軽自動車は現在まで続く『新規格』となり、衝突安全性能の向上を主な目的とした、ボディのサイズアップが行われました。
それに対する対応は、軽自動車メーカー各社さまざまでしたが、ダイハツではFF(フロントエンジン / 前輪駆動)車および、FFベースの4WD車について、以下のように新規格へ対応していきます。
【プラットフォーム】
・先行した小型車、M100S系ストーリア(1998年2月発売)で新プラットフォームを採用し、それを使った小型車派生型(後のM200系YRV)も開発すると共に、トヨタへのOEM供給版の開発(後のM100A系デュエット)。
・軽自動車用には新規格化と同時にL700S系ミラ / L700V系ミラバンへショート&ナロー版の新プラットフォームを採用、同時開発および後にデビューする派生車(※)も、これをベースとする。
※L900S系ムーヴ、L800S系オプティ、L750系ネイキッド、L950系MAX、L880Kコペン
【サスペンション】
・基本的な形式はM系(小型車)、L系(軽自動車)ともに共通。
・フロントサスペンションは旧規格軽自動車と同じ、Iアーム+位置決めにフロントスタビライザーを使ったストラット式独立懸架を踏襲。
・FF車のリアサスペンションはセミトレーリングアーム式(旧規格軽自動車) / ストラット式(小型車)からトーションビームとなり、独立懸架を廃止。
・4WD車のリアサスペンションは5リンクリジッド(旧規格軽自動車) / ストラット式独立懸架(小型車)から、いずれも3リンクリジッドへと簡略化。
【エンジン】
・直列3気筒エンジンは以下に集約
- 軽自動車ベーシック用:EF-SE(SOHC2バルブNA)
- 軽自動車上級モデル用:EF-VE(DOHC4バルブ。可変バルブ機構DVVT)
- 軽自動車スポーツモデル用:EF-DET(DOHC4バルブICターボ)
- 小型車用:EJ-DE(1,000ccDOHC4バルブ、後に可変バルブ機構DVVT追加でEJ-VEへ)
・直列4気筒エンジンは以下に集約
- 軽自動車上級/スポーツ用:JB-DET(DOHC4バルブICターボ)
- 小型車競技用:JC-DET(713ccDOHC4バルブICターボ)
※後に小型車用として1,300ccのK3系エンジンが追加
【駆動系】
・トランスミッションは2代目G11系シャレードより継続使用しているものを、ギア比も若干変えるなど小改良の上で搭載し、一部グレードへ実験的にCVTを採用。
・4WD車は小型車のセンターデフ式フルタイム4WDではなく、トランスファー(副変速機)で常時駆動、リアデフ手前のVCU(ビスカスカップリング)で駆動配分する旧規格軽自動車のスタンバイ4WDへ簡略化して全車種採用(ただしパートタイム4WDは廃止)。
【その他】
・ホイールのPCDは、100に統一。
・ボディバリエーションはハイルーフ箱型のウォークスルーバンやミチートが廃止され、ベーシックボディに統一。
つまり、小型車(ストーリア系)と軽自動車(ミラ系)で統一し、発売時期こそ先行したとはいえ、小型車は事実上『ワイド版のミラ』となったのです。
ミラは軽トラや軽1BOX、SUVといったFR(フロントエンジン・後輪駆動)車と、FRベース4WD車を除き、あらゆるダイハツ車のベーシックになりました。
それでいながらフロントサスペンションの構造は旧規格を踏襲。
ルーフ高もヘッドスペースに余裕を持たせるほど上げなかったので、新規格と言っても過渡期の存在だったのです。
スワップチューンで最高速200km/hオーバーも可能
OEM供給されるものやFR車 / FRベース4WD車を除く全ダイハツ乗用車のベーシックとなったミラですが、それ自体にも大きな変化がありました。
まず、従来ダイハツ軽自動車のスポーツグレードとして君臨してきたTR-XXアヴァンツァート系を廃止し、競技ベースモデルもストーリアX4の登場のみで、設定されていません。
また、上級グレードのミラ・モデルノも廃止されたので、JBシリーズの4気筒エンジンは搭載されなくなりました。
この点は、後にミラ・モデルノとミラ・クラシックを統合した後継車ミラジーノが登場した際にも変わらず、L700系ミラは3気筒のEFエンジン3種類のみとなり、トップグレードはターボエンジンのEF-DETを搭載したTR(3ドア) / CR(5ドア)となります。
これは、さまざまなグレードが存在したL500系までのミラと比べてかなりアッサリはしていましたが、各派生グレードと比べて車重は軽いので、最軽量のTR(5速MT・FFで740kg)は優れた動力性能を持っていました。
ちなみに、同時期の新規格HA22Sアルトワークス(同670kg)より70kg重かったのですが、ある自動車雑誌のゼロヨン加速比較ではほぼ同等、あるいは若干上回るタイムを叩き出しています。
とはいえ、この時期のスズキ アルトとは車重でかなりの差がついていますが、チューニングで軽量化すればその差を埋めることは可能なので、大きな問題とはなりません。
むしろ、小型車のストーリアやオープンスポーツのコペン、最量販モデルのムーヴとのパーツ互換性の高さから、サスペンションや機械式LSDの追加、クロスミッションへの換装などが容易で、チューニングベースとしての自由度の高さが特徴となっています。
また、TR / CRグレード自体は軽乗用車ベーシックモデルをベースとしたスポーツモデル需要激減によって、アルトワークスともども短命に終わりましたが、JB-DETエンジンを含む派生車からのパーツ移植で、容易に『スポーツモデルの独自製作』が可能です。
特にコペンなどからJB-DETを移植、タービン交換で最高速200km/hオーバーが可能など、純正パーツの組み合わせだけで高性能を引き出すのが容易なのも、大きな強み。
それでいて次代のL250系ミラなどと比べて車高は低く低重心のためコーナリング性能なども安定しており、正規のTR-XXアヴァンツァートは販売されなかったが、カスタムメイドで事実上独自にTR-XXを作るのが容易な、最後のミラでもあるのです。
(L250系以降でも作れますが、難易度は少々上がります。)
現在も、660選手権(新規格NA軽自動車レース)を中心に活躍
旧規格軽自動車と比べると大きく重くなったことから、デビュー当初はそれほど積極的にモータースポーツに使われてはいませんでした。
ダイハツ車専門のジムカーナイベント、”ダイハツチャレンジカップ”でも、当初は『軽くてパワーウェイトレシオに優れた旧規格車が有利』とされていたのです。
しかし、ストーリアX4やコペンの活躍、それら向けに開発されたチューニングパーツが容易に流用できるメリットは大きく、そうしたノウハウ蓄積とともにミラジーノやL800系オプティともども、軽量な旧規格車を圧倒していくようになります。
その他の競技でも全日本ダートトライアルC1クラス(2003年以降はSC2クラス)では、ダイハツワークスのDRSが開発したC車両L710Sミラ改、あるいは同ミラジーノ改が激しいトップ争いを繰り広げました。
ちなみに、DRSワークスのC車両ミラが搭載していたエンジンはスズキF6A用ピストンを使って822cc化、あるいは同種のチューンが施されたと言われるJB-DET改。
後にSC2クラス時代になると、プライベーターも含め1,300ccのK3-VETや936ccのブーンX4用KJ-VETに、BST(ボディーショップタカタ)のドグミッションを組み合わせたマシンなどが登場するようになります。
一方、レースではK4GPや軽自動車耐久レースなどへの出場が少数見られる程度でしたが、2011年に”東北660選手権”を皮切りとする『NA(自然吸気エンジン)限定の新規格軽自動車レース』が盛んになると、同時代のスズキ HA23Vアルトバンともども再評価されました。
中でも、その後のモデルと比較しても軽量低重心、かつ58馬力とハイパワーで可変バルブ機構も持つEF-VEエンジンと5MTの組み合わせもある3ドアのL700Vミラバンは人気で、ダイハツ勢の中ではエッセやL275Vミラバンと並ぶ速さを誇ります。
さすがに発売から20年以上が経過しているので、程度良好なベース車は減っていますが、今後もレースでの活躍は続きそうです。
主要スペックと中古車相場
ダイハツ L700S ミラTR 1998年式
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,425
ホイールベース(mm):2,360
車両重量(kg):740
エンジン仕様・型式:EF-DET 水冷直列3気筒DOHC12バルブICターボ
総排気量(cc):659cc
最高出力:64ps/6,400rpm
最大トルク:10.9kgm/3,600rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古車相場:3万~59万円(ミラジーノを除く各型含む)
まとめ
もし、各型式のダイハツ ミラを乗り比べる機会があった場合、L700系に乗ったところで、「これが過去からのミラの正統的な後継車、その最後のモデルかな。」と疑問に思うことがあります。
次のL250系ミラ以降では、ユーザーの嗜好が変化したこともあってか、頭上スペースを稼ぐためルーフ高が上がり、広々とした余裕とやや上がった重心の高さを意識した人も、少なくないかもしれません。
また、2017年まで生産されていたL275系は、さらにルーフ高を上げながらそれを意識させない絶妙な設計がなされていましたが、新型エンジン(KF)やサスペンションの変更で、むしろ世代の違いを感じさせられます。
そんなスペース効率と日常の足としての走りをよくまとめ上げた新世代モデルに感心しつつも、軽快感をより重視した、旧規格からの乗り換えで最も違和感の無いL700系ミラ。
豊富なチューニングパーツと相まって、古い世代のクルマ好きにとって、一番好ましい車の1台かもしれません。
NA仕様でレースに出てもいいですし、JB-DETをスワップしてクロスミッションを組んだターボ車で、思いっきりフルブーストで吹っ飛ばすのも楽しそう。
『ミライースでTR-XX復活!』という噂に、期待を寄せる声もありますが、それが実現するまではL700系ミラがホットハッチ派への最高にオススメしたい1台です!
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