突然ですが、エンジンにはそれぞれキャラクターがあるのをご存知でしょうか?内部にはピストンやクランクシャフトなど様々な重要パーツがあるのですが、キャラクターを決定する上で最も重要になって来るのが「カムシャフト」です。今回は、知れば知るほど奥が深いカムシャフトをご紹介します!
掲載日:2020/02/02
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エンジンにはそれぞれ“キャラクター”がある
馬力が有る無いはもちろん、そのパワーの出方や運転する上で最も効率が良い回転数、最高に使用できる回転数などといった「キャラクター」が、エンジンそれぞれに存在します。
例えて言うならば、巨大な排気量を持つディーゼルエンジンなどは低回転域で力強いトルクを発生し、小排気量で多気筒のガソリンエンジンは、高回転までビュンビュン回るようなイメージといったところですね。
もちろん、これらのキャラクターを決める要素は、1か所のみの部品や単純な仕様で決まるわけではありませんが、その個性を決定する上で最も影響を及ぼす部品がカムシャフト。
それでは、具体的な働きを見ていきましょう。
カムシャフトの働き
カムシャフトは、4サイクルエンジンの吸排気バルブを開閉させるための「カム山」と呼ばれる突起部を持つシャフトのこと。
軸方向から見たときの断面形状が卵型になっており、卵の中心と軸の中心は一致していないのが特徴です。
これを回転させることによって、まるで突起の尖った部分が出っ張ったり引っ込んだりするように動き、バルブリフターやロッカーアームといった、バルブを開閉させるための動作に変換する部品を介して、回転運動から直線運動にうまく変換しています。
4ストローク1サイクル機関(通称4サイクルエンジン)では、クランクシャフト2回転につきカムシャフトが1回転するという必然があり、ピストンの動きに合わせるように動作するタイミングも決められています。
因みに2ストローク1サイクル機関やロータリーエンジンは、そもそも吸排気バルブが無いために、カムシャフトも存在しません。
まだまだ続くカムシャフトの”いろは”
次のページでは、何故このパーツがチューニングの上で重要なのか?
一体どんなバリエーションがあるのか?ご紹介します。
チューニングの上で重要なパーツ
吸排気バルブの動力源となるカムシャフトは、簡単に出力を上げるには、たくさんの空気を吸って多くの燃料と混合し、しっかりと圧縮して効果的に燃焼。排気ガスも残らず出来るだけ早く外へ追い出すことが重要です。
そこへの関与が大きいいパーツであるため、形状や突起部分先端までの長さによって、出力の特性に大きく影響します。
例えば、ピストンのどの位置でバルブを開閉させ始めるのか?どのタイミングで最大バルブリフト(=バルブ開閉量の大きさのこと)にさせるのか?によって、さらにより多くの吸排気が可能になり、エンジンの性能をもっと上げる事が可能なのです。
これらは「バルブタイミング」と呼ばれ、チューニングをする上では楽しみでもあり、悩みの種であったりもします。
そのため、チューニングパーツとしてもピストンやクランクシャフト以上に重要視されているのです。
また突起部までの長さが長い=「バルブが大きく開く」ので、改善を施したものは「ハイリフトカム」と呼ばれ、チューンナップカムの代名詞である「ハイカム」の語源は、そこから来ています。
“ハイカム”にするには、利点もありますが、副作用もあります。
カムシャフト交換の副作用
高すぎるリフトと広すぎる作用角(クランクシャフトの回転角度)は、特に吸気速度に勢いをつけることが苦手なうえ、バルブが開いている時間が長過ぎるという特徴があります。
せっかくシリンダー内に導いた空気を、圧縮する時間が確保されなくなります。
本来なら出力の源となる圧縮すべきガスが、勢いのない吸気によって満足に取り入れられず、開いているバルブからシリンダー外に逃げ出す現象が発生し、出力が低下してしまいます。
例えば、高回転での使用をメインに考慮した広い作用角の仕様にすると、いったん走り出してしまえば、さほど神経質になることはなかったようですが、始動時やミスなどで回転を落としてしまったりすると途端に不調に見舞われ、たいへん神経を使ったそうです。
また一定の周期でノーマルより大きな“バルブリフト(バルブ開閉量)”をするということは、バルブ作動時の速度が上がるということになります。
バルブにもバルブスプリングにも重量があり、重量があるものが動くときには慣性が発生し、高回転になればなるほど悪影響を及ぼし、せっかくの理想的な“カムプロフィール(カム山の輪郭)”に、バルブの動きが追随できなくなります。
“バルブサージング”“バルブバウンス”“バルブジャンピング”などと呼ばれる、好ましくない現象の助長や直接の原因にもなり、急激なエンジン出力の低下をまねき、ひどくなると最終的にエンジン破壊に至ります。
これらの対策として軽量バルブを用いたり、レートの高いバルブスプリングに交換したりして、ハイカム仕様での限界点を高め、高出力を発生できる領域に対応できるよう改良します。
「バルブスプリング強化は必須、予算が許すならバルブの軽量化も!」と言われるのは、これらの理由によるものなのですね。
いずれにしてもノーマルに比べて、極端なスペックを持つ“ハイカム”への交換は、無条件に高性能!というわけではありません。
使用するシチュエーションや狙った回転域だけにマトを絞ったものであって、重要視するレンジ以外を犠牲にしてまで出力を上げるといったイメージでしょうか。
様々なチューニングバリエーション
加工カム
アフターパーツとしてチューニングカムのラインナップがない場合や、オリジナルの「カムプロフィール」を創ってみたい場合には、「加工カム」と呼ばれる手法を取ります。
「加工カム」はノーマルカムシャフトをベースにして、ベースサークルと呼ばれる卵型の突起側とは逆の丸い部分をひとまわり小さく削りながら、新しい「カムプロフィール」を生み出すように再研磨して、相対的にカム山の部分を大きくさせてハイリフト化させるという手法です。
非対称カム
カム山の尖った方を上にして、その輪郭形状が対称ではないプロフィールのものを指します。
カムシャフトがバルブを動かす時、開く方はカム山自身がバルブを押す力だけで良いのですが閉じるときは、バルブスプリングの弾力のみで戻すことになります。
このバルブが閉まる動作の時に、急激にバルブが戻るようなプロフィールにすると、バルブが閉まる際に大きな衝撃を伴いバルブ自身とその周辺に、大きな負担をかけることになりますので、「非対称カム」のカムプロフィールは滑らかにバルブが閉まるような軌道を描くようになっています。
対してバルブを開く時には、短時間でいち早く最大開度まで動作させるほうが、より多くの吸排気が可能となります。
単にバルブの開閉機構だけにとどまらず、どのようにして開閉させるか?というところまで考慮した結果が、非対称カムなのですね。
ポンカム(PONCAM 東名パワード)
ユニークなネーミング通り、ノーマルカムシャフトとそっくりそのまま交換、ポン付けで、高性能が手に入れられる優れモノです。
ノーマルバルブスプリングでも十分に対応できるようなプロフィールを持ち、難しいバルブタイミングの調整や基本的にはバルブクリアランスの調整も不要とのことですので、手軽にチューニングカムを楽しめるです。
意外とシンプル?
それではカムシャフトは実際にどのように創られているのか?
あのように偏心した「カム山」や、繊細な「カムプロフィール」をどのようにして削り出しているのか?
実に明快な製造過程を動画にてご覧ください。
実はコンピュータなどのプログラミングで動く複雑な工作機械ではなく、マスターとなる大きな原型の円盤に沿って、削られるカムシャフト自体を偏心させて砥石に当てているんですね。
イメージ的にはホームセンター等で、合鍵を作る機械に似ていますね。
まとめ
筆者が昔からよく聞くに「トルクは腰で、キャラはアタマで」などと、エンジンの性能を決定づけるものには各受け持ちというか、パートが存在します。
「腰」はシリンダーブロック以下であり、その中でもトルク値自体を大きく決定づける項目は、ズバリ排気量そのものです。
そして腰で発生させたトルクを、どのように活かすか?味付けするのかを決めるのが「アタマ」の部分、すなわちシリンダーヘッドであり、その中でもカムシャフトが大きなウェイトを占めています。
今回はエンジン特性、個性、キャラクターを決定づける重要なファクターとして「カムシャフト」をご紹介してまいりましたが、限られたスペース内なので皆さんに知ってほしいことの一割も、実は書けていません。
ご紹介する項目が材質や表面処理などにも及び、さらにカムシャフトに密接に関わりのある「バルブタイミング」と合わせてお話したら、分厚い書籍が書けるほど、奥が深いものなのです。
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