2021年3月、世界で初めて実用乗用車向けに認可されたレベル3自動運転システム、「トラフィックジャムパイロット」がホンダレジェンドに搭載され、自動運転は新たなステージに突入しました。しかし、ついこの間まで「最新のレベル2」、「ハイエンドレベル2」といった運転支援システムが登場したばかりで、レベル3自動運転とはいったいどういうものなのか、イメージしにくい人も多いと思います。そこで今回は「自動運転レベル3」について、簡単に紹介します。
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運転自動化技術のレベル分けと、「レベル3」って何?
「自動運転」と呼ばれる機能が搭載されたクルマは今までにも多く登場しています。しかし、一般的な自動運転のイメージとは異なり、それらの全てのクルマが本当の自動運転システムを搭載している訳ではありません。
そのあたりの誤解を解くために、日本の国土交通省は2018年11月、車の運転装置(ハンドルやアクセル、ブレーキ)で何らかの自動化が行われているもののうち、原則としてドライバーが運転し、車はその補助にとどまるレベル2の自動運転技術搭載車を「運転支援車」と呼ぶことを通知し、レベル3以上の「自動運転車」との境界線を明確に分けて定義しました。
さらに、運転支援と自動運転を総称する言葉として「運転自動化技術」、運転自動化技術を組み込んだ車を「自動運転技術搭載車」と呼ぶよう定められています。
これらは一般向けメディアでは、あまり使われないかもしれませんが、専門メディアや役所では使われる言葉なので、覚えておいてもいいかもしれません。
運転自動化技術は5つ、あるいはレベル0まで含めると6つのレベルに分けられる事が多く、日本での国土交通省が定める「自動運転車両の呼称」を参考に、ザックリ言えば以下のようになります。
【運転自動化技術なし】
・レベル0:ABSや電子制御スロットルなど何らかの支援は行うものの、運転の自動化まで行っていない。
【運転支援】
・レベル1:ハンドル操作か、アクセル&ブレーキによる加減速操作のいずれかがドライバーによる監視のもとで自動化(ACC=アダプティブ・クルーズコントロールなど。運転支援車)
・レベル2:ハンドル操作もアクセル&ブレーキによる加減速操作も、ドライバーによる監視のもとで自動化(運転支援車)
【自動運転】
・レベル3:特定の走行環境条件を満たす限定された領域で、「システムが正常作動しないおそれがある場合などに発せられた警報に対し、ドライバーが運転を代われる」のを条件に、システムが運転操作の全てを行う(条件付自動運転車[限定領域])
・レベル4:特定の走行環境条件を満たす限定された領域で、システムが運転操作の全てを行う(自動運転車[限定領域])
・レベル5:システムが運転操作の全てを行う(完全自動運転車)
つまり「レベル3」で初めて自動運転と認められるわけですが、この定義や型式認定についての国際的な自動車の基準や型式の相互認証を行う協定に加盟している先進国の中では、自動運転分野において日本がもっとも先行しています。
2020年4月にレベル3システム搭載車が公道を運行できるように改正された道交法などが施行され、同年11月にはレベル3自動運転システムが搭載されたホンダ レジェンドが世界で初めて型式認定(発売は2021年3月)されています。
一方で、WP29(自動車基準調和世界フォーラム)で同様の基準が発行されたのは、2021年1月のことです。
レベル3がレベル2ともっとも違うのは、「システム作動時の運転者責任」
現状、レベル2でも限定的ながらハンズオフ(手放し運転)が認められており、実質的にはレベル3と、機能的には変わらないというシステムはそれなりにあります。
「そうなるとレベル3とレベル2は、どう違うの?」という疑問が当然生じますが、最大の違いは「レベル2システムを作動させていても、運転しているのはあくまでドライバー、システムは補助をしているだけだから、何かあった場合の責任はドライバーになるのに対し、レベル3システムが正常作動している場合の運転はシステムが行っており、ドライバーの責任にはならない。」というのが、大きな違いです。
レベル3システムが鳴らした警報に応え、ドライバーが運転を代わる事ができる状況が大前提となりますが、警告時にドライバーが運転を代われなかったとしても、自動で安全に止まってくれるのがレベル3。
実際の責任については、事故が起きてからの警察の判断や、その後の裁判で決まることになりますが、レベル2のように「システムの欠陥でもない限り、最初からドライバーの責任が問われる」という事にはならず、まずはシステムの欠陥、あるいはシステムが作動していたかどうかが問われる事になります。
よくテスラ車などのレベル2運転支援車で、「こうすれば実質、自動運転ができてしまう!」という動画が流れていますが、「できてしまう」からといって「やっていいかどうか」は全く別の話で、それで事故を起こしたら「そんな能力をもたないシステムに事実上任せてしまい、運転を放棄したドライバーの責任」になるわけです。
システム作動時の運転者責任がドライバーではなくシステムである、というレベル3自動運転車は、それだけ画期的かつ革命的な存在だと話題になっている理由は、その一点に集約されると言ってよいでしょう。
現在のレベル3はまだ非常に限定的?
2021年3月にはレベル3自動運転システム「トラフィックジャムパイロット」が組み込まれた、「ホンダセンシング エリート」を搭載するホンダの最高級セダン「レジェンド」が発売され、「世界初の市販レベル3自動運転車が日本から誕生した!」と話題になりました。
ただしこのシステムの「特定の走行環境条件を満たす限定された領域」は、以下のように、かなり限定されています。
- 高速道路や、高速道路に接続される(予定含む)自動車専用道路のうち、中央分離帯等で構造上分離されていない区間(片側1車線区間の大半と思われる)や、急カーブ、SA/PA、料金所などを除く区間。
- 走行中の車線が渋滞または渋滞に近い混雑状況で、前後の車が車線中心付近を走っており、悪天候や濃霧、逆光などシステムのセンサーが正常認識できない場合を除いた環境。
- システム作動前に30km/h未満であり、作動開始後は50km/h以下であること。
- 高精度地図(3D高精度地図データ)および、GPSデータが正しく入手できていること。
これを見て、「そんな区間は渋滞なんて滅多にしないんじゃないの?実際に使える区間はどこ?」と思った人もいる事でしょう。
ちなみに日本史上最長の渋滞は1995年12月27日に発生し、解消までに23時間かかったという名神道秦荘PA(滋賀県)から東名高速道路の赤塚PA(愛知県)までの154kmとされていますが、その頃は100km超えの渋滞が頻繁に発生しており、筆者も米原JCT付近で数時間ノロノロ運転を強いられた事がありました。
そんな時代にこのシステムがあれば、ずいぶん助かったはずです。
ただ、筆者の経験では数時間超えの渋滞となると座っているだけでも難儀で、AT車だったのをいい事にシートのリクライニングを寝かせたり起こしたり、停まっている時にはシートベルトを外して車内で軽く運動すらしましたが、トラフィックジャムパイロットでは運転者に以下の状態を求めています。
- 正しい姿勢でシートベルトを装着していること。
- アクセル、ブレーキ、ハンドルなどの運転操作をしていないこと。
後者はともかく、前者は数時間レベルの渋滞だとかえってシンドイもので、根本的にはレベル4を待つしかないんだなというのが率直な感想です。
また、搭載車のレジェンド自体にも問題がないわけではありません。
- トラフィックジャムパイロットを組みこんだホンダセンシング エリート搭載車の車両本体価格は1,100万円と、通常のホンダセンシング搭載車より375.1万円も高い。
- 限定100台のみ。
- 一般販売は行わず、月額29万円、3年36ヶ月で1,044万円のリース販売のみ。
- もともと年間販売台数がせいぜい約400台、月販ゼロの月すらあり、車としての需要が非常に薄い。
「これでは、ハイエンドレベル2で普通に買えて、魅力的な車が他にいくらでもあるじゃないか?」と言われればその通りで、まずは「レベル3自動運転の車を、世界で初めて市販した」という実績作りのために発売したと考えるのが妥当でしょう。
2種類あるレベル3自動運転・「システム稼働時以外の運転はドライバー」
ところでレベル3は「システムが正常作動しない領域では、ドライバーが運転を代わる」事を大前提としており、運転を代われない場合はシステムが安全に停車させるまでを担当するところまでを含めた「自動運転」ですが、運転を代わる方式は2種類あります。
1つ目は言うまでもなく、レジェンドと同じようにドライバーが運転席に座っており、いざ問題が起きれば、あるいは渋滞が解消されて速度が上がるなど、作動条件外になった場合は、ドライバーがただちに運転を引き継ぐパターンです。
この場合は、システムが作動している限りは運転を任せてもよく、「スマホやカーナビの画面などを運転中に注視してはいけない」という法律の禁止事項も対象外ではありますが、ホンダとしては「システムから警報が出ても気づかない恐れがあるような行動は謹んでください」としており、仮眠はもとよりスマホの操作も推奨されていません。
推奨されるのは、車内のモニターなど「いざとなれば警報が出る画面」に関する操作のみとの事で、運転をシステムに任せていいレベル3自動運転と言いつつ、実際の運用面では手放し運転が可能なハイエンドレベル2と、そう変わりはないようです。
2つ目は無線通信を介した遠隔操作で、福井県永平寺町が「まちづくり株式会社ZENコネクト」に委託し、レベル2運転支援車で実証実験を行っていた最高速15km/hの電動超小型バスにセンサー類を追加した遠隔操作式レベル3自動運転車が2021年3月に認可されて、営業運転を開始しました。
これは、遠隔操作は1人で3台を担当し、基本的にはセンサーやマーカーを頼りにした自動運転で運行。システムでの運行範囲外とされた場合は遠隔操作の担当者がカメラなどを頼りに操作するというもので、低速簡便なコミュニティバスとはいえ、実際に運賃を取って運営されています。
他にも、羽田空港で自動運転バスの試験運用なども行われていますが、ある程度以上の速度が出る車種になると停車時にカックンブレーキになりがちで、快適性に乏しく、1人で複数のバスを遠隔監視するのはまだ困難。自動運転に関係ない他の車輌が経路上に停まっているケースも多く、頻繁に手動運転を迫られるなど、本格的な遠隔操作式レベル3自動運転には、まだまだハードルが高そうです。
今後レベル3自動運転は普及するか?
実際には一般で実用に供するにはかなりハードルの高いレベル3自動運転システムですが、それでもレジェンドは型式認定取得にあたり、通常のホンダセンシング車に対し、かなり大幅な手を加えた上で、膨大なテストをクリアしています。
センサー類は通常のホンダセンシングから単眼カメラのデュアルカメラ化、近距離測距用の「LiDER」(レーザーセンサー)の搭載、中長距離測距用のミリ波レーダーは前後に計5つずつ搭載し、ブレーキやステアリングなどの重要な部分には、二重系統化で信頼性を向上。その上で、シュミレーションは1,000万通り、テスト走行は130万kmをクリアしています。
これでようやく「30km未満から作動させ、50km以下までをカバーする渋滞時自動運転システム」が実現されており、今後システムの信頼性が上がれば速度域も拡大していくと予想されるものの、そう簡単に他車種へも拡大したり、性能を向上させたりができるわけではありません。
続くレベル3自動運転車の型式認定と発売の最右翼を争っているのがアウディとレクサスだと言われていますが、法的問題、技術的問題、あるいは販売戦略上の問題も絡み、「とにかく世界初」はレジェンドが達成してしまった以上、「ただ積んで形だけでも市販すればいい」というものではなくなっています。
市販するとしてもまずは高級車、それもかなり限られた車種になると思われ、よほどの経済的余裕がある富裕層などによる「ちょっと挑戦的なレビュー動画」のうち、客観的視点で参考になるものを見られるようになるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
レベル2運転支援システムは、電動パワステ/ABS/電子制御スロットルの3種の神器へそれなりのセンサーとコンピューターを組み合わせれば成立するため、コンパクトカーや軽自動車にまで搭載可能になるのはまだまだ先、あるいは普及前にレベル4システムが登場してしまい、レベル3は「あんな装備もあった特集」の常連になる可能性すらあります。
電動化技術もそうですが、現在の自動車における先進技術は日進月歩、今こうして話題にしている内容が1年後、あるいは半年後には過去の話になってしまうかもしれず、常に最新情報の収集と知識の更新が不可欠です。