自動車という製品はよほど短命な車でもない限り、数年に一度のマイナーチェンジで少しデザインを手直しするのが普通ですが、中には「ど、どちらさまでしたっけ?!」と言いたくなるレベルで姿形がすっかり変わっちゃう車もあります。大抵はデザインが原因の売上不振を挽回するためですが、元が奇抜だと変更前のデザインしか覚えてないなんてことも?

のけぞるほど凄まじいデザインと、その後の大きな変化といえば、このフィアット ムルティプラも忘れられない Photo by Andrew Bone
1.「ヤツメウナギ」と言われた、ホンダ 3代目インテグラ

1993年5月に発売された、3代目インテグラ(3ドアクーペ) 出典:https://www.honda.co.jp/news/1993/4930520.html
丸目4灯式ヘッドライトでグリルレスデザインの国産車といえば、1993年6月に発売されたトヨタの6代目セリカ(T200系。GT-FOURを除く)もありますが、プロジェクター4灯式で妙にチンマリした目のバランスが日本人の好みに合わなかったのか、同年5月に発売された3代目ホンダ インテグラのフロントマスクはとにかく大不評でした。
2代目でマイケル・J・フォックスが「カッコ、インテグラ!」と叫ぶCMが有名だっただけに、3代目デビュー直後は「これじゃカッコ・ワルテグラだ!」なんて声も聞かれたほどで、1995年8月のマイネーチェンジでは2代目を思わせる横長ヘッドランプへと戻ります。

1995年8月のマイナーチェンジでヘッドランプなどフロントマスクが激変した3代目インテグラ(3ドアクーペ・タイプR) 出典:https://www.honda.co.jp/news/1998/4980129-1.html
ただし、「ヤツメウナギ」の愛称で親しむユーザーが皆無ではなかった事や、北米仕様のアキュラ インテグラではタイプRを含めてフロントマスクはそのままだったため、日本国内でも「SiR-II」グレードに限り、従来通りのデザインで継続販売されていました。
2.マイナーチェンジ後の顔が思い出せないかも?三菱 ミラージュディンゴ

1999年1月に発売された三菱 ミラージュディンゴ 出典:https://www.mitsubishi-motors.com/jp/company/history/car/
1999年1月に発売された三菱のコンパクト・トールワゴンは、従来からのコンパクトカー、ミラージュと同クラスゆえか、派生車じみた「ミラージュディンゴ」の名を与えられたものの、もちろん背の高いトールワゴンゆえ、雰囲気は全く異なりました。
トールワゴンだから違うというより、大問題は縦長吊り目のヘッドライトユニットで、一度見れば忘れられない類の顔なのは確かですが、少なくとも万人受けするデザインではなかったようです。

2001年2月のマイナーチェンジでおとなしいデザインになった三菱 ミラージュディンゴ 出典:https://www.favcars.com/wallpapers-mitsubishi-mirage-dingo-2001-02-290625.htm
マイナーチェンジでいかつい吊り目は一部グレードを除いて廃止、「いかにも当時の三菱」という顔になったものの、今度はこれといった特徴もなく、良くもなければ悪くもない、印象に残らない顔立ちとなってしまったようで、ディンゴというと前期のデザインしか思い浮かばず、そのまま廃止されたと思っている人がいるかもしれません。
3.全身整形!日産 2代目プレーリー/プレーリージョイ

1988年9月発売時の2代目日産 プレーリー 出典:https://www.favcars.com/nissan-prairie-jp-spec-m11-1988-98-wallpapers-27827
乗用車ベースのスライドドアつき3列シート・ロールーフミニバンとして1982年に登場するも、当時の日本ではまだ早すぎたコンセプトが受け入れられず苦戦した初代日産 プレーリーでしたが、RVブームも始まったのでもうちょっと育ててみようと思ったのか、1988年には2代目へモデルチェンジしました。
デザイン上も寝かされたAピラーへ続く低いボンネットで鋭くスポーティになったものの、RVブームでウケたのは「もうちょっとたくましくゴツゴツした感じ」だったのと、パッケージングも今ひとつユーザーの要望に応えきれていなかったため、販売は引き続き低迷。

1995年8月のビッグマイナーチェンジで車名も「プレーリージョイ」へ変更、全く別な車というレベルの変貌 出典:https://www.favcars.com/photos-nissan-prairie-joy-m11-1995-98-213175.htm
それでもしぶとく売り続け、1995年のマイナーチェンジでは発売7年目にしてデザインをゴッソリやり直し、分厚いフロントマスクにメッキグリルなどで加飾、車名も「プレーリージョイ」へと変更しました。
当時の日産ではサニーカリフォルニアを「ウイングロード」へ、アベニールワゴンを「アベニールサリュー」へと、RVブームに対応したビッグマイナーチェンジと車名変更によるモデル延命にそこそこ成功しており、2代目プレーリー/プレーリージョイはその最も典型的な例でしたが、価格も上がりすぎて販売はやはり今ひとつだったと言われています。
4.打倒エルグランドであの手この手を尽くした、トヨタ グランビア

1995年8月発売当時のトヨタ グランビア 出典:https://www.favcars.com/wallpapers-toyota-granvia-ch10w-1995-99-1935.htm
1995年8月に発売されたトヨタの「グランビア」は、ハイエースの欧州仕様をベースに仕立てた大型ミニバンであり、ちゃんとボンネットもあって1BOX車のハイエースよりスポーティで安心感もありそうだ、という事で、当初はソコソコの人気を得ました。
しかし、1997年に日産から大型のメッキグリルで思いっきりアグレッシブデザインへと振った初代「エルグランド」が発売されると、大人しめのデザインだったグランビアは「なんか商用車みたいだよね」と一転して不人気に陥り、2度目のマイナーチェンジでは思い切った大型フロントグリルへの変更で、アグレッシブデザイン化を図ります。

1999年8月2度目のマイナーチェンジでエルグランドを意識したアグレッシブマスクへ変更したグランビア 出典:https://www.favcars.com/toyota-granvia-1999-2002-images-77637.htm
他にも姉妹車「グランドハイエース」や、初代エスティマと同様に5ナンバー版の「レジアス」と「ツーリングハイエース」も発売、豊富なラインナップでエルグランドの包囲を図るも、かえってユーザーが分散した上に「結局ハイエースの一種なんだよね?」というイメージはついてしまい、エルグランドの牙城は崩せずに終わりました。
ただ、グランビア(と姉妹車たち)のおかげで、後継のアルファードはアグレッシブマスクの車内広々FF低床ハイルーフミニバンとして大成功しましたから、グランビアで苦労した経験は無駄ではなかったことになります。
5.ワゴンRスティングレー対策で慌てて変更!ダイハツ 4代目ムーヴカスタム

2006年10月発売当時の4代目ダイハツ ムーヴカスタム 出典:https://www.favcars.com/daihatsu-move-custom-l175s-2006-08-photos-73355.htm
初代「裏ムーヴ」以来、エルグランドなどと同様のアグレッシブマスクがウケ、現在に至るまでミニバンやトールワゴンでは「ノーマル版」と「カスタム版」両方をラインナップするのが当たり前になるキッカケを作ったダイハツ ムーヴカスタムですが、2006年10月にモデルチェンジした4代目ではおとなしめの「らしくないデザイン」になります。
通常版との部品共通化でなるべくコストダウンしたかったのかもしれませんが、ライバルの3代目スズキ ワゴンRが2007年2月にムーヴカスタムのお株を奪う、アグレッシブマスクの新モデル「ワゴンRスティングレー」を発売して大ヒットすると、状況は一変しました。

2008年12月にマイナーチェンジでアグレッシブマスク化した4代目ムーヴカスタム 出典:https://www.favcars.com/daihatsu-move-custom-l175s-2008-10-wallpapers-395654.htm
「結局、カスタム仕様は大型メッキグリルがなければ話にならない」と思い知らされたダイハツはマイナーチェンジで4代目ムーヴカスタムのデザインを思い切りワゴンRスティングレー風へ切り替え、以降カスタム仕様のデザインは極力派手にしていったのです。
6.迷走の末たどりついた境地、スズキ 初代スペーシアカスタム/スペーシアカスタムZ

2013年6月に発売されたスズキ 初代スペーシアカスタム 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=21118
ワゴンRスティングレーでダイハツの得意技を盗み大成功を収めたスズキですが、不思議な事に新ジャンルのスーパーハイトワゴンでは大人しめのデザインを採用します。
2008年に発売したスズキ初の軽スーパーハイトワゴン「パレット」のカスタム仕様「パレットSW」は、全体的に吊り目マスクとはいえフロントグリルは小さめで、2013年に後継としてデビューした初代スペーシアカスタムも、迫力という意味では中途半端。
つまりその頃から絶好調だったホンダ N-BOXや、それを追撃するダイハツ タントカスタムが激しく販売台数を競うのに全くついていけない鳴かず飛ばずの一人負け状態が続いてしまったのです。

2016年12月に第3のスペーシアとして追加された、スペーシアカスタムZ 出典:http://www.webcarstory.com/limited.php?id=1421
あまりに差をつけられたスズキはモデルチェンジまで待てなかったのか、発売から3年半経ってモデル末期と言ってよい初代スペーシアへ「スペーシアカスタムZ」という超アグレッシブデザインな第3のモデルを投入。
従来通りのスペーシアカスタムも販売継続したので「従来型から大きく変わった」とはちょっと違いますが、スペーシアのような車はデザインがどうあるべきかを思い切って試してみました。
結果、スペーシアの販売台数は巻き返しに成功、2017年12月にモデルチェンジした2代目スペーシアカスタムは、初代スペーシアカスタムZの流れを汲む超アグレッシブデザインを採用し、N-BOXに次ぐ販売実績を誇るようになったのです。
吉と出るとは限らないデザイン変更

最初に画像を紹介したムルティプラも、「イタ車だからって許されないデザインもあるぞ!」とばかりに普通に顔へ変更 Photo by TuRbO_J
今回は国産車6台を紹介しましたが、デザインの大幅変更が期待通りの効果を発揮したのは、ムーヴカスタムとスペーシアカスタムくらいかもしれません。
インテグラはデザイン変更と同時にタイプRが追加された結果、タイプR以外は地味で目立たない存在になってしまいましたし、プレーリージョイやグランビアは、デザイン以外にも販売戦略などいろいろ凝りすぎて成果につながらず、ミラージュディンゴに至ってはマイナーチェンジした時点で忘れられかけていました。
苦労してデザインを変えてもよい結果につながるとは限らないため、「まだ売ってたの?」と放置気味な車や、いつの間にかそっと消えている車が、最近は増えているかもしれません。