時々話題に上る「電動ターボ」または「電気ターボ」。実際には電動でコンプレッサーを駆動するので、排気圧で回転するタービンがコンプレッサーを駆動するターボチャージャーとは別物です。実際は電動スーパーチャージャーまたは電動コンプレッサーと呼ぶべきものですが、過去に軽自動車用が市販されていた実例もありました。

 

出典:http://www.hks-global.com/company/event/17_jsae/report.html

 

 

「電動ターボ」とは何者?

 

出典:http://www.hks-global.com/company/event/17_jsae/report.html

 

昔から雑誌やWEBで目にする「電動ターボ」あるいは「電気ターボ」ですが、一言で言えば「電気の力でコンプレッサー(圧縮機)を駆動する電動過給機」です。

そもそも「ターボ」とはターボチャージャー、あるいはターボ過給機、さらに第2次世界大戦の頃は「排気タービン」と呼ばれていました。

その名の通りエンジン排気を受けて高速回転するタービン、それとシャフトで結合されたコンプレッサー(過給機)を駆動するもので、排気圧で駆動しないコンプレッサーは「ターボ」とは言えません。

しかし実際には、エンジンの動力でコンプレッサーを駆動する「スーパーチャージャー」(機械式過給機)の一種で、エンジンの動力でも排気タービンからでも無く、電動でコンプレッサーを駆動するため、機構的にはタービンを持たないスーパーチャージャーに近くなります。

また、タービンへの排気流入量を調整するウェイストゲートバルブの作動を電動化した「電動ウェイストゲートバルブ」を持つターボチャージャーのことを「電動ターボ」と紹介している例もあるので、注意が必要です。

 

かなり以前から「電動ターボ」や「電気ターボ」と呼ばれていた電動スーパーチャージャー

 

出典:http://www.valeo.co.jp/page-transverses-jp/popin-diaporama-jp/popin-diaporama-pts-jp/slideshow-electric-supercharger.html

 

既に10年以上前の自動車雑誌などでは「ホンダ、次期シビックに電動ターボ搭載か?」などと紹介されており、古くから「何となく理想的なターボ」のような扱いでした。

機構としてはターボチャージャーのように一定以上の排気圧を必要としないので低速トルクを稼げ、スーパーチャージャーのように一定以上の回転数ではかえってエンジンに負担となってパワーロスを起こすわけでもありません。

確かに燃費を悪化させずパワーを稼ぐ方法としてはある種の理想で、コンプレッサーを駆動するモーターとその電源さえ強化していけば、大型ターボ並の過給すら可能となります。

もちろん、それだけの過給を行うにはコンプレッサーを回すモーターは強力でなければならないし、駆動を続けるには継続した大電力が必要です。

そのエンジンに見合った発電量(または蓄電量)以上を消費すると、結局はオルタネーターや発電量モーターの負担が増えるため、大容量化には限界があります。

それでも静止状態から大トルクを発生可能なモーターでコンプレッサーを駆動すれば、エンジンに負担を与えず素早く立ち上がる過給圧は魅力的なのです。

なぜ「電動(電気)ターボ」と呼ばれることになったかは不明ですが、ターボチャージャーの排気タービン部分をモーターに置き換えたような見かけと、語感から役割がわかりやすいため、そう呼ばれるようになったのかもしれません。

 

昔も市販されていた「電動チャージャー」(GTSチャージャー)

 

 

この電動ターボならぬ電動スーパーチャージャーですが、実は20年ほど前に軽自動車でちょっと流行った時がありました。

特に多用されたのは660cc旧規格末期にホンダ ライフ(通算2代目)が復活デビューしたあたりからで、なぜかと言えばバモスターボ(2000年2月)およびライフダンク(同12月)が登場するまで、ホンダの軽自動車にはターボ車が無かったからです。

初代シティや初代レジェンド以外にターボ車を持たなかった昔のホンダユーザーは、むしろターボが無いことを誇りにしていたほどでした。

しかし、さすがにハイトワゴン系や1BOXワゴンタイプとなるとターボ無しではパワー不足が目立ち、ライバルがターボ化していく中で非力な面は否めなかったのです。

そこで救世主のように注目されたのが、舞鶴のテックGTSが販売していた「GTSチャージャー」でした。

クランクプーリーから動力をとって駆動するものもあったようですが注目は電動式で、燃調コントローラーやエアクリなどもセット。

当時聞いたレビューや今でもWEB上で散見できる評価を見る限り劇的な変化と言うほどではなく、一定の回転数を超えインジェクターからそれなりに燃料を吹いている状態でようやくブーストがかかり、それなりにストレス無く走れる…という程度だったようです。

電動のメリットを活かすというより、あくまで「擬似ターボ」のようなものだったと言えるのではないでしょうか。

 

現在の電動スーパーチャージャーはかなり本格的

 

出典:http://www.audi.com/en/innovation/quattro/quattrochallengeSQ7.html

 

その後電動スーパーチャージャーの実用モデルはしばらく途絶えますが、2010年代になってトラック用の燃費低減パーツや高性能ターボ車の低速トルク増強用に実用化が進められました。

現在のところ熱心なのはカナダのマグナ、フランスのヴァレオといった自動車部品総合メーカーや日本のIHIとHKSで、12Vで駆動し従来からの自動車用電装系を使えるアフターパーツや、より高電圧の48V版、ハイブリッド車用の200V版などがあります。

また、乗用車用として真っ先に実用化したのは高性能SUV SQ7に4リッターV8ディーゼルツインターボ+電動スーパーチャージャーを搭載したアウディで、2016年5月にヨーロッパで発売。

EPC(エレクトリック・パワー・コンプレッサー)と呼ばれる電動スーパーチャージャーは低回転からの加速を担当し、高回転域ではツインターボで435馬力/91.8kgmを叩き出すハイスペックとなっています。

ご存知の通りヨーロッパでは内燃機関の幕を早期に引くことが決定したので今後どの程度発展するかわかりませんが、EVが主流になる直前の燃費とパワーを両立するパーツとして期待されます。

そして、気になるHKSの12V仕様電動スーパーチャージャーですが、これもターボ車と組み合わせて低回転の加速を補う後付けツインチャージャーです。

12Vなので高電圧仕様より効果は限定的になると思われますが、狭いエンジンルームにも対応した遠心式スーパーチャージャーなど、最新の車向けの過給機にも熱心なHKSなので、どのような形で市販されるのか期待せずにはいられません。

 

まとめ

 

世界的に内燃機関を搭載した新型車は2030年あたりを境に激減すると考えられていますが、その最後の時代に注目されそうな燃費&ドライバビリティ両立パーツ、電動スーパーチャージャー。

新型車への採用はもちろんですが、今後もまだまだ走り続ける内燃機関車の寿命を延ばし、よりカーライフを楽しむための後付けパーツとしても、今後の動向に注目したいところです。

 

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