フォルクスワーゲン タイプ1(ビートル)やBMC ミニなどと並び、第2次世界大戦後の自動車界に革命を引き起こした名車中の名車、シトロエン 2CV。ビートルやミニ同様に長期にわたりさまざまなバリエーションが作られました。今回は、そんな2CVをご紹介します。

 

シトロエン 2CV  / Photo by Bob Adams

 

 

戦前に極秘開発された、偉大なる「2馬力」

 

戦後、シトロエン関連施設の壁などから「発掘」された2CVプロトタイプ  / Photo by Klaus Nahr

 

1948年、パリ・サロン(モーターショー)において除幕された1台の新型車に、当時のフランス大統領をはじめ列席した一同は一様に困惑した表情を隠しきれませんでした。

全体的には丸っこくユーモラスながら装飾はほとんど無く、平面ガラスに当時としては異様に高い全高、ボディも一部に波板を採用した「走るトタン屋根」のようで、他のメーカーが発表、あるいは既に発売している「自動車」とはあまりに異なっていたのです。

この自動車と言ってよいのかよくわからない乗り物を人々は「乳母車」「缶切り」などとあざ笑いましたが、それは単に今までの常識からあまりにかけ離れていただけの話。

やがてフランス中に、ヨーロッパに、世界にこの車があふれるにつれ、この安価で合理的な車の人気は高まり、実に42年間も基本設計どころか大がかりなマイナーチェンジすら行われないまま生産される、ロングセラーとなりました。

その車の名は、シトロエン 2CV(ドゥシュヴォ)。

日本での愛称にもなった「2馬力」はこの「2CV」の名に由来しますが、実際に2馬力だったわけではなく、フランスでの馬力ごとの課税基準で、当時「2CV」カテゴリーに属し、それをそのまま車名としています。

1935年に構想が開始され、極秘で開発されて1939年には250台も生産されて発表寸前となっていましたが、1939年9月に始まった第2次世界大戦で一旦、計画は中止。

1940年6月にフランスがドイツに敗北して占領されている間も、1944年のフランス解放までその存在を隠し通しました。

その後、開発が再開されて1948年にようやく発表されたのです。

戦前に開発は完了していたものの、実際に花開いたのは平和が回復された第2次世界大戦後という意味では、フォルクスワーゲン タイプ1(ビートル)と似ていると言えます。

 

単なる奇抜かオーパーツか?!徹底した合理的設計

 

シトロエン 2CV  / Photo by Karolína Hornová

 

さてこのシトロエン 2CV、そもそもの用途と要求性能からして、当時の自動車の常識を超えていました。

すなわち、舗装も行き届かない田舎の農村で快適に走り、しかも貧しい庶民でもその足に使えるようにひたすら簡素で安く、何よりちゃんと走る(開発時の最高速度は60km/hを要求)。

その「快適」のレベルが「荒れた農道でカゴ一杯の卵を運んでいても割れない」など、今の自動車メーカーの開発担当者が聞いても仰天しそうな内容でした。

それを実現しつつ燃費は3リッターで100km走るという2000年代でようやく実用レベルに達したような燃費性能、自動車に慣れない主婦などでも簡単に運転できる操作性、そして車重は300kg以下など、とんでもない要求性能が目白押し。

全てが達成されたわけではないとはいえ、戦後生産された量産車はそう妥協したものではありません。

これらを実現するために「低出力な代わりに長時間高回転運転が可能な強制空冷2気筒エンジン」、「どんな荒れた路面でも車体を水平に保つ前後関連サスペンション」「バネ上とバネ下で異なる減衰力を発生する特異なダンパー」などを採用。

なんと表現していいのか迷うようなメカニズムの数々は、とても一度に説明できるものではなく、それでいて故障しないよう全てが簡素に割り切って作られていたので、「とにかく安くて壊れない」国民車としてはうってつけの1台でした。

デザイン面では「スタイルは重要ではない」と割り切られたものの、2m近い大男の開発者がシルクハットをかぶって運転しても天井にハットの頂点が当たらないなど優れたスペース効率を誇り、結果として機能性が高く愛らしいデザインとなったのです。

言ってみれば「自動車とは、別にこれでいいのだ」という割り切りの塊であり、むしろ今の自動車では採用できない、あるいは最新技術への応用のため見直されているような、ある意味ではオーパーツの塊のような車です。

要求仕様を見る限り、1960年代以前に高速道路網建設前の日本でこそ、こういう車があれば良かったと思いますが、実際には税制の違いから日本ではスバル 360が似たような立ち位置の車として普及しました。

 

とにかく頑丈、オフロードレースの酷使にも耐える

 

シトロエン 2CV 24時間レース  / Photo by Martin Pettitt

 

ひたすら簡素で頑丈、一説によればエンジンオイルがその場に無かったので適当にバナナから抽出した油で走ったらそれでも普通に動いたという、シトロエン 2CV。

エピソードの数々を聞くと「自動車ってこんなもんでいいのだ。」というより「自動車って、それでいいんだっけ。」と思いたくなってきますが、それだけに愛好家によるレースも盛んです。

もちろん、基本的には低出力でスプリントレース向きとはお世辞にも言い難い2CVなので、出るとすれば基本的には耐久レース。

日本国内でも12時間耐久レースに出走した例があるほか、海外ではスパ24時間レースに参加したりと、電気系統さえヘバってしまわなければとにかく完走はできる模様です。

中でもクラシック2CVレーシング・クラブ24時間レースなどワンメイクの耐久レースも行われており、ノーマルに近い2CVからフルチューンまで、さらにバンなどさまざまなバリエーションが走っています。

また、2CVクロスと呼ばれるワンメイクのオフロードレースも盛んで、かつては日本国内でもJAF公認レースとしてモーターランド野沢で開催されていました。

さすがにオフロードレース向けのモディファイ、というよりフロントフェンダーなど壊れそうな部分は剥がした結果ミジェットカーのような外見になったというマシンでしたが、普段可愛らしい2CVでのオフロード大バトルに盛り上がったものです。

 

シトロエン 2CV、代表的なスペックと中古車相場

 

シトロエン 2CV / Photo by kanonn

 

シトロエン 2CV 6

全長×全幅×全高(mm):3,830×1,480×1,600

ホイールベース(mm):2,400

車両重量(kg):560

エンジン仕様・型式:強制空冷水平対向2気筒OHV4バルブ

総排気量(cc):602cc

最高出力:28.5ps/6,750rpm

最大トルク:4.0kgm/3,500rpm

トランスミッション:4MT

駆動方式:FF

中古車相場:89.9万~188万円

 

まとめ

 

今回シトロエン 2CVを簡単に紹介させていただきましたが、「走るコウモリ傘」と言われ、ボディも簡素ながらパイプフレームにキャンバスを貼っただけのシートも簡素、エンジンはセルモーターを持ちつつ手動クランク始動すら可能で、これまた簡素。

これが初期の「あまりにも変わり種すぎ」という酷評受けるも、大衆がスタイルに慣れるてくると大人気になり、実に1990年まで大きなマイナーチェンジなく作られていたというから驚きです。

あまりの人気に後継車が先に生産終了してしまうのは、ビートルやミニと同様ですが、いつか2CVもそれらと同じくリメイク版が登場したりするのでしょうか。

期待に胸が膨らみます。

 

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