最近、「走行税」と呼ばれる税金が話題になっています。実際に走行税という税制度は日本にはなく、今後クルマを保有するうえで新たに導入されるのではないかと囁かれています。純粋にクルマの走行距離によって課される走行税とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

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税制見直しで突然現れた走行税

出典:写真AC

政府の発表によると、2018年12月21日に内閣で閣議決定された2019年税制改正大綱では、自動車諸税の抜本的な見直しとして、走行距離に対して課税する走行距離課税(通称:走行税)の考え方を視野に入れると明記されています。

走行税は今後導入される可能性が高いとされていますが、実際に導入するのはまだ難しく、今後の課税のあり方を検討するうえで出た案のひとつです。

走行税は、政府がクルマに関する自動車諸税について見直す策として、カーシェアリングやMaaS(サービスとしてのモビリティ)など、クルマの保有からシェアに変わりゆく市場構造に対応した税体系とされています。

走行税がなぜ案としてだされたのか

走行税は、日本の石油精製・販売会社からなる業界団体『石油連盟』が、経済産業省に対して自動車用の電気・天然ガスへの課税方法を改めるように要望したのが発端でした。

HVやPHEV、そしてEVが普及し、燃費の良いクルマやガソリンを使わないクルマも街中を当然のように走る時代となり、カーシェアリングといった新しいクルマの使い方もでてきたことから、ガソリンの消費量は昔に比べれば大幅に減少しています。

ガソリン価格にはガソリン税の暫定税率と本則税率、石油税、消費税が含まれ、リッター150円であれば本体価格は82円、税金は78円です。

つまり、ガソリン小売価格の半分は税金で、石油の税収だけで年間5兆円超え!

石油連盟は、自動車燃料税の課税対象とされない電気や天然ガス等、急速に進んだEV、PHEVおよびCNG(圧縮天然ガス)自動車などと、従来のガソリン車との間で課税の公平性が著しく欠けていると主張。

さらに、欧米で走行距離等に基づく課金制度が検討・導入されていることから、日本でも電気や天然ガスにも自動車燃料税相当の課税を行い、課税の公平性を確保すべきだと言っています。

それが、走行距離に比例して課税を行う走行税になると、石油連盟は令和2年度の税制改正を要望しました。

走行税はどのように導入されるのか

走行税が導入されるとすれば、どのような形で課税されるのでしょうか。

政府はエコカー減税を積極的に行っていますが、走行すればするほど税金が多くなるとすれば、クルマを多用して欲しいのが本音です。

しかし、今後も二酸化炭素の排出量を減らしていく姿勢を示すには、従来のガソリン車や古いクルマの所有者に対し、更なる増税をすることが考えられます。

自動車税を廃止して、かわりに走行税とする見方もされていますが、ガソリンの消費量でなく走行距離だけで走行税を換算すれば、ガソリン車とHV、PHV、EVに対する課税額の差は縮まります。

もし、現状の自動車諸税からそのまま走行税が追加される形になれば、旧車や大排気量のガソリン車を所有する人にとって、今以上に大きな負担となるのは明確です。

海外での走行税の現状は

NHKは走行税を導入しているニュージーランドを取材し、現地の走行税の実態について調査しました。

金額は車種ごとに約90種類に細かく分けられ、最低でも1000キロあたり68NZドル、日本円で約5,000円がかかるため、1キロあたり最低5円の走行税になります。

また、走行課税制度はアメリカのオレゴン州で導入済みで、欧州諸国のオーストリアやドイツでは、重量貨物車向けに走行課金制度を設けています。

オレゴン州とカリフォルニア州の走行課税制度

オレゴン州は2015年7月から走行課税を開始し、カリフォルニア州は2016年7月から2017年3月に実証実験を開始。

対象道路は州内の道路とし、オレゴン州は走行距離に応じて課金。

カリフォルニア州は、走行距離だけでなく利用時間に応じた課金を行い、走行距離の申告はオドメーターや期間券、距離券を用いた自己申告とスマホやGPS車載器による自動申告から選択可能です。

オレゴン州は実証実験で、『公衆認知』、『技術』、『運用』、『コスト』の4つの観点から従来の燃料税より実用的、公平、効率的であると評価されたことから正式採用となりました。

EU諸国やドイツの走行課金制度

EUは、走行課金構成を”『利用者負担の原則』によるインフラ課金”と”『汚染者負担の原則』による外部費用課金”に分け、走行課金指令をEU加盟国に推奨しています。

その概要は欧州横断道路ネットワーク(EU各国を結ぶ幹線道路)を走行する乗用車等、すべての車両に走行距離に応じた課税をするとした内容です。

そのなかでドイツは重量貨物車を対象に走行課税を導入し、アウトバーンと連邦国道を走行する7.5トン以上の貨物車に対し、走行距離に応じて課金するように定めました。

走行距離はGPS付車載器で把握し、課税額を査定します。

まとめ

出典:写真AC

最後に、走行税についての疑問点を提起します。

走行税が導入されると、普段の通勤や買い物では公共交通機関を利用し、週末のみクルマを使う方が多い都市部は、優遇制度となります。

しかし、クルマでの移動がメインの地方都市はそうはいきません。

クルマに乗れば乗るほど課税されるため、負担はどんどん増していきます。

タクシーや運送業であれば、何かしら特別な措置がなされると思いますが、走ったら走った分だけ収益につながる業種にとって、ガソリン代に加え走行税が追加されれば大きな負担です。

また走行距離がGPSによる測定となればプライバシーの問題にもつながっていきます。

それらを考慮しても、税制度を抜本的に見直してシステムを構築するためには、政府は莫大な資金を使わなければなりませんし、もちろんそれらは税金で賄われます。

石油連盟が「課税の公平性を確保すべき」と要望していますが、これがすべてのドライバーに公平と言えません。

確かに、我々が使う交通インフラを整備するために税収の確保は重要ですが、走行税の導入はもっと考えるべきではないでしょうか。

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