早くもシリーズの半分を終了した2016年のSUPER GT。GT500クラスは日産GT-R勢が大活躍し、開幕4連勝をマーク。昨年チャンピオンのMOTUL AUTECH GT-Rは、あっという間に50ポイントを稼ぎ8月末の鈴鹿1000kmでは最大値である100kgのウェイトハンデを背負うことになる。早くも「今年もGT-Rかぁ」というムードになりつつある中、対抗馬として注目集めているチームがある。#39 DENSO KOBELCO SARD RC Fだ。

Photo by Tomohiro Yoshita

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今年も平手晃平とヘイキ・コバライネンのコンビで臨んでいるが、昨年は不運続きでシリーズ13位と低迷。しかし今年は2戦連続で2位表彰台を獲得するなど、これまでとは見違える速さでランキング2位につけシーズンを折り返した。昨年から今年にかけて、どのように強くなっていったのか?彼らのコメントも紹介しながら振り返っていこうと思う。

新体制で臨んだ2015年は苦労の連続…

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昨年、SARDはチーム体制を大幅に変更。ドライバーには2013年のGT500王者である平手晃平と元F1ドライバーのヘイキ・コバライネンが加入した。

チーム監督に野田英樹氏。エンジニアにはホンダで活躍しておりクラスでもトップレベルの実力を持つ田中耕太郎氏を起用。新体制でシーズンに臨んだ。

ところが、いざフタを開けてみると、不運続きのレースでなかなか上位に食い込めない。開幕2戦で5位入賞に入るものの、その後が上位に顔を出せないレースが続き、シリーズの結果は全15台中13位。

苦しい1年となってしまった。

苦戦をバネに弱点を徹底克服「チーム一丸となって臨む2016年」

©TOYOTA

平手晃平(©TOYOTA)

しかし、チームは2015年に学んだことをベースに次のステップに進み始めていた。

冬の間に問題があった箇所を徹底的に改善。また昨年はヨーロッパと行き来しながらレースに臨んでいたコバライネンもGT500に集中するため日本滞在を決意し、自身のドライビングスタイル変更にも取り組んだ。

その結果、シーズン開幕直前(3月末)に行われた富士合同テストでは常にトップ3に入る好タイムをマークした。

コバライネンも「昨年は我々にとって難しいシーズンだったけど、多くのことを学んだ。今年はチーム全体でいたるところのレベルアップに臨んだよ。僕のドライビングスタイルも修正したし、セットアップのことからピットストップまで全部見直して改善した。その成果が今出ているよね」

また平手も「昨年からチーム体制が大きく変わって、正直最初は足並みが揃っていなかったところもありましたが、それが昨年末から今年にかけてギュッと一つになってきて、みんなが同じ方向を向いてレベルアップすることができましたね」と確実な手ごたえを感じていたのが印象的だった。

5月のゴールデンウィークに行われた第2戦富士500km。各所でドラブルが続出する中、39号車は着実なレース運びをみせ見事2位表彰台を獲得。平手にとっては2014年のSUGO以来、コバライネンは日本のレースで待望の初表彰台を飾った。

©TOYOTA

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久しぶりのポディウムに2人とも終始笑顔だった。

コバライネンは「とにかく嬉しいね。富士でのレースは自信があったし、予選から決勝にかけて大きなトラブルもなくマシン、タイヤともにうまく機能してくれたよ。ただ、GT-Rとミシュランタイヤのコンビネーションの方が現状は手強くて届かなかった。でもチームのみんなと掴めた今回の結果を誇りに思うよ」とコメント。

また平手も「それぞれが力を持っていても、それが上手く集結して(大きな力として)出し切ることができませんでした。このオフシーズンはチームの中での役割をしっかり決めて彼(コバライネン)を含めたチーム全体のレベルアップのために過ごしてきたので、ようやく形になったので嬉しいです」と語ってくれた。

この結果は、チーム全体にも自信を与えるものになり、さらに活気付くことに。

39号車全員が頑張った取り組みが、結果として一つ残せた瞬間だった。

多くのファンを魅了したコバライネンのアグレッシブすぎる走り:第4戦SUGO

Photo by Tomohiro Yoshita

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苦しんだ中でようやく掴み取った2位表彰台。しかし、混戦の中でつかんだものでファンや関係者の間でも「たまたま」と思っていた人も、もしかするといるかもしれない。

2ヶ月半経った7月下旬の第4戦SUGO。「あの2位がたまたまではない、実力なんだ」と言っているかのような力強いレースを彼ら自身が証明する。

予選8番手からスタートした39号車。まずはスタートドライバーを担当したのはコバライネン。序盤の接近戦で順位を上げていくと、23周目にトップ浮上。その後はWedsSport RC F(関口雄飛)と一歩も譲らない好バトルを演じた。

©TOYOTA

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GT300の処理も考えると、非常にテクニックと経験が必要となるSUGOだが、ここでも冬の間に取り組んだ「SUPER GTに対応したドライビングスタイル」がしっかり活かされ、ギリギリのところでのブロックでありながらペナルティの対象にならないという巧みな走りをみせた。

後半の平手も着実かつ攻めの走りをみせ、2戦連続で2位表彰台で一気にランキング2位へ浮上してみせた。

コースも違う、コンディションも違う、そしてウェイトも軽い状態ではない中での、この安定感と速さ。確実に39号車は強くなっているっということを感じることができた1戦だった。

©TOYOTA

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そして何より、F1の頃からコバライネンを知っているファンにとっては、彼が久しぶりに接近戦のトップ争いを演じているのに胸が高鳴ったことだろう。

このレース内容は彼自身も納得し、楽しんでいた様子。「F1といってもケータハムの頃は全然後ろの方だったし、マクラーレンやルノーの頃と言っても、ずいぶんと月日が経ってしまった。でも今シーズンはすごく楽しめているよ。こうして久しぶりにトップ争いをすることができているからね。」と笑顔でコメントしてくれた。

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しかし、すでに彼は“シリーズチャンピオン”を見据えて動き出しており「GT-Rは本当に速い。彼らを追い抜くために我々はもっとレベルアップしなきゃいけないね」と語っていたのも、印象的だった。

同じように平手も、すでに“シリーズチャンピオン”に目が向いていた。

「昨シーズンとは打って変わってチームもドライバーもレベルアップしているし、僕も移籍して2年目でヘイキのドライビングが良くなっているのも感じているし、チームの雰囲気も良くなっているので、このいい流れを絶やさないようにしっかり後半戦も戦っていきたいですね。なんとかレクサスをチャンピオンにしたいし、その中で自分たちがチャンピオンになれるように頑張りたいと思います」と力強く語ってくれた。

先日の第5戦富士では、さすがにウェイトハンデが影響したのか予選は14番手とQ2進出ならず。それでも決勝では2人の粘り強い走りが功を奏し、ピットストップの関係で一時はトップに浮上。最終的に8位に入って3ポイントを獲得した。

まとめ

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ここまでの戦いぶりを見ていると、やはりコバライネンの活躍に目が行きがちだか、彼らのコメントを見ると今年の39号車の快進撃は「チーム全体がレベルアップしているということ」が大きな要因となっている。

確かに、それはレース中の走りやピット作業、その他すべての動きをみていても「それぞれが自分たちの仕事をきっちりこなしている」という雰囲気が伝わってくる。

ドライバーの点で見るとコバライネンは「自己流」を貫こうとしている部分も見られたし、平手も「自分が経験あるんだから引っ張らなきゃ」という思いが少し出すぎているようにも見えた。

でも、今年は2人のドライバーが与えられた場面で「チームが最高の結果を掴むために何をしなければいけないか?」としっかり把握して、そのバランスのとれた走りが、混戦でもミスをしない、アクシデントに巻き込まれないレース運びにつながっているのだと思う。

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第5戦富士を終えて、MOTUL AUTECH GT-Rに13ポイント差をつけられているが、残り4レースあることを考えると十分に逆転のチャンスもある。

注目のシリーズ後半戦。最強と言われているGT-Rの壁を打ち砕くのは、きっと…いや間違いなく彼らなのかもしれない。