最近は「まばたきしていた間に作業が終わっている」と言っても過言ではないF1のタイヤ交換。2秒台は当たり前で、最近では1.9秒で交換しちゃうチームも出てきます。もちろん、ルールの違いはあれど、タイヤ交換のスピードは世界最速レベル。逆に早すぎるくらいです。でも、ふと思うと「なんでそんなに早く終わらせられるのか?」気になりますよね。実はF1日本GPで取材中。近くでタイヤ交換練習を見る機会があり、そこで幾つかの謎が解けました。

©Pirelli

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作業人数は無制限

Photo by Tomohiro Yoshita

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まず、あそこまで早く終わっちゃう理由の一つが「作業人数」です。

これはご存じの方も多いと思いますが、国内のスーパーGTやスーパーフォーミュラでは、作業人数に制限がかけられており、基本的に1人で2つのタイヤを交換しています。ちなみに海外だとWECやインディカーなども作業人数の制限が厳しく設けられているカテゴリーですね。

スーパーGTのピット作業の様子(Photo by Tomohiro Yoshita)

スーパーGTのピット作業の様子(Photo by Tomohiro Yoshita)

ところが、F1の場合は基本的に人数無制限。

そのため、前後のジャッキ(マシンを持ち上げる)担当で各1人ずつ。タイヤもインパクトレンチ(タイヤのナットを回す工具)担当、使ったタイヤを外す担当、新しいタイヤを装着する担当で各1人ずつ。つまり1つのタイヤに3人のクルーが割りあてることができます。

さらにGOサインを出すロリポップ(今では全チームが信号式を採用)やジャッキアップ中にマシンが揺れないように押さえている人など…1台の作業あたり約17~20人くらいが関わっているのです。

Photo by Tomohiro Yoshita

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それだけいれば、確かに早く終わりますよね。

でも、この人数無制限というのは、昔から変わっていなくて、1980年代後半から1990年代前半までと、ルール的には(人数無制限+給油作業禁止)ほぼ同じです。

でも、当時は約5~6秒かかっており、4秒台が出ると「早い!」と言われていました。

それから約20年以上経った現在だと、4秒だと「遅い」。

6秒でもかかろうものなら「最悪…」というレベルです。

作業人数に変わりはないのに、なんでそんなに早くなったのでしょうか?

 

F1で使用されているインパクトレンチの回転数が異常に速い!

Photo by Tomohiro Yoshita

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2つ目の理由、テレビだとなかなか伝わってこなかったのですが、現地で近くで見るとよく分かりました。

それが、「インパクトレンチの回転数が異常に速い!」ことです。

タイヤをナットで固定する際に使用される工具。最近では国内のスーパーGTやスーパーフォーミュラでもピット作業のスピードアップのために高性能の物が導入されていますが、F1の場合はさらにその上をいくトップモデル、空転時でも1分間で1万5000回転するほどのが使われているのです。

実際に、近くでインパクトレンチを使うシーンを見てみると、一目瞭然。

あっという間に外れて、あっという間に固定されちゃいます。

なので、音も全然違います。

これだけ超高性能なものになると、お値段も相当する…との噂ですが、そこはやっぱりF1。スペア用のものもしっかり最新鋭の物が用意されていました。

 

フロントジャッキにも工夫が!

©Pirelli

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続いてはマシンを持ち上げるジャッキです。

特にフロントジャッキ担当はピットアウトの際にすぐにどかないと、マシンにひかれてしまいます。

でも、これだけ大きなものを「パッ!」と動かすのは至難の技。

そこで、フロントジャッキは持ち上げた後は左右にも自由に動くような工夫がされているのです。これであれば、マシンを下ろしってジャッキを引っ張れば、邪魔することなくマシンがピットアウトできますよね。

ちなみに、リアジャッキはマシンの形状などもあってか、工具の形状が昔とほとんど変わっていません。

 

毎日朝練!!

Photo by Tomohiro Yoshita

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今回も鈴鹿サーキットへ見た方も多いと思いますが、基本的に時間があれば毎朝ピット前にマシンを出してタイヤ交換練習をしています。

もちろん、国内レースでも行っているのですが、1レースで練習する回数は圧倒的にF1の方が多いような気がしました。

今回、写真でも取り上げているザウバーチーム。こうして近くで見られたのは10分程度でしたが、その間に7~8回は練習。しかも通常の交換だけではなく、急きょウエットタイヤを装着するなど「イレギュラー時」のシミュレーションも行っていました。

 

万が一の場合のタイムロスも最小限に

Photo by Tomohiro Yoshita

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わずか2秒で終わってしまうタイヤ交換ですが、やはりインパクトレンチやジャッキなど道具を使っていると思わぬトラブルで時間がかかってしまうことがあります。

そこでF1の場合は、タイムロスを最小限に抑えるため、それぞれスペアが用意されているんです。

インパクトレンチがそばにスペアも用意されているのは、何年も前からのことですが、実は前後ジャッキも「スペア」が存在していて、スペア用担当の人がこうして隣に立ってスタンバイしているんです!

特にフロントジャッキは特殊な構造が複雑ですから、トラブルがあったら大変ですものね。

この辺はテレビではなかなか映らないので、実際にみて少し驚いたところでもありました。

 

まとめ

Photo by Tomohiro Yoshita

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いかがだったでしょうか?

こうして細かく見ていくと、同じルールで5~6秒かかっていた頃とは明らかに技術的な進歩があったのは確か。

しかし、それ以上に現場のメカニックたちの努力も、この「平均2秒」という驚異的な時間につながっていることも確かです。

現在のF1は1レース約1時間40分程度。そのうちタイヤ交換が行われる時間は、たった2秒。2ストップ作戦だったとしても合計で4秒です。

でも、その4秒が5秒になってしまったら?もしかすると、優勝争いから脱落してしまう可能性も秘めているのです。

それだけ、今のF1においてタイヤ交換というのは勝敗を分ける超重要な要素。そこで早さを突き詰めていった結果が、今のとんでもない速さにつながっているんでしょうね。