今年もツインリンクもてぎで開催されたMotoGP第15戦日本グランプリに、全日本ロードレース選手権で連戦連勝中の中須賀克行がワイルドカード参戦を果たした。結果は予選16位、決勝11位。こうして数字だけを見れば平凡な結果かもしれないが、その中でも着実に与えられた仕事をこなし、次につながるレース内容をみせてくれた。今回は、5回目の日本GP挑戦となった中須賀のレースウィークを振り返っていく。

©MOBILITYLAND

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「まだ一歩踏み込めない」、多くの課題と壁にぶつかった金曜フリー走行

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今年もやってきた日本ラウンド。今年は「Yamalube Yamaha Factory Racing Team」から参戦。ゼッケンはおなじみの21番だ。

普段は全日本ロードレース選手権の最高峰JSB1000に参戦する一方で、ヤマハのMotoGPバイクのテスト開発も担当。今回も単なる母国GP参戦だけではなく、来年に向けたテストも兼ねているなど、様々な意味が込められていた。

そんな中で初日はアクシデントやトラブルもなく無難に走行。トップから2秒遅れの1分47秒135がこの日のベストタイム。1年に一度の挑戦、また様々なテストプログラムもあったことを考えると、まずまずのスタートを切ったと言えるかもしれない。

しかし、走行を終えた彼の表情は満足している様子はなく、1年に一度だからこその“難しさ”に直面していた。

「今日のタイムは、普段のテストでも出せているタイム。(レースで勝負するためには)もう少し踏み込んでいかないといけないんだけど、その領域にまだ行けていないですね」

また、今年はECUが自社開発のものではなく統一部品を装着することや、タイヤもブリヂストンからミシュランへ変更されるなど、マシンのレギュレーションでも大きな変更があった今シーズン。もちろん中須賀も、同規定のものでテスト走行しているとはいえ、実際にのレースでタイムを詰めていくとなると、1回の参戦だけでは難しいようだ。

Photo by Tomohiro Yoshita

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「今日もそうでしたが、今年はどのコースでもみんな転倒が多いじゃないですか。多分、ああいうふうにして限界値を掴みにいっているんだと思う。その領域で走らせられれば、高いレベルでテストもできてくるのですが、僕はまだセーブしちゃっているところがあるので…まだ一歩引いている状態だけど、もう少しプッシュして走りたいなと思います」

全日本では、無敵に近い状態が続いている中須賀だが、それでもMotoGPの舞台は雰囲気が全然違うとのこと。実は前夜もあまり眠れなかったという。

「5年経っても、1年に1回のピリピリ感は全日本にはない空気。これを全日本でも出していけるようにはしたいなと思いますね。フリー走行1回目は緊張しましたね」

また、この日から加速時のスピンに苦しんでいたり、統一ECUのマッピングをどうしていくかなど、課題が多い初日だった。

 

予選16番手も、少しずつ噛み始めた“手応え”

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続く予選日。午前中のフリー走行3回目では転倒して右肩を痛めるアクシデントに追われてしまうが、予選には問題なく臨んだ中須賀。「Q2に行けるようチャレンジします」と語っていただけに、Q1での彼の走りに注目が集まった。

1回目のアタックで1分46秒627をマーク。目標としていた1分46秒4に近づくタイムを早速出す。一度ピットに戻って再びタイム更新を目指すべくコースイン。果敢にアタックしたが、ターゲットとしていたもう1周の計測ができず自己ベストは更新ならず。総合16番手となりQ2進出は果たせなかった。

しかし、昨日からは明らかに何かをつかんだ様子。決勝に向けても自信をみせていた。

「だいぶ手応えがつかめてきて、フロントのフィーリングがつかめてきました。走るたびに良くなっています。最後もう1周アタックに行きたかったんですが…。でも手応えはいいし、周りのライダーは一発でタイムを出すのに慣れていて前に行かれちゃったけど、明日は勝負ができるんじゃないかなと思っています」

早速、前日は課題となっていたフロントの入り込みでのコントロールに関してきっかけをつかんだという中須賀。昨年もそうだったが初日で課題としていたことを、次の日には必ずクリアして、そしてさらに高いステップへ進んで行く。

これが全日本を6度も制した実力であり、レベルの高いMotoGPでスポット参戦でもしっかり結果を残せる強さの秘密なのだろう。

 

粘り強く走って11番手、「内容のあるレース」に

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そして、注目の決勝。スタートでポジションを一つ上げると、その後も前の集団を必死に追いかけるが、やはり年に一度の参戦ということもあり、なかなかバトルに持ち込めない。

それでも差を縮めることができない。それでも終始安定した走りで最終的には11位でフィニッシュ。今年も見事ポイントを獲得。最低限の結果を残すことに成功した。

終わってみれば前後共に10秒近いタイム差ができてしまい、後半は単独走行となってしまったが、内容面では充実した24周だったという。

Photo by Tomohiro Yoshita

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「価値のあるレースでした。今週末は加速中のスピンがひどかったのですが、それがちょっとしたアクセルワークの調整でピタッと止まって、レース中にも何度かできるようになりました。それが毎周できれば、前の集団にも全然ついていけたと思います。それが一番の収穫でしたね。11位という結果もついてきたので、それはそれで良かったのかなと思います」

「こうやってレースに出ていないと、そこの領域でのチャレンジというのはなかなかできない。いつも(テスト時)だと、ある程度バイクが走れる状態だったらモノの評価はできますが、いざ自分が速く走らせようとした時に何が必要なのかが分からない状況でした。JSBのバイクは欲しい要素というのは出てくるんだけど、MotoGPバイクだとエンブレひとつにしても速く走るためには何をどうしなければいけないというのが疑問になっているところが多かったです。またテストする機会があるので、アクセルワークなども体に染みついている間に、チャレンジしていっていきたいなと思います」

そう、金曜日に課題としていたスピニングを、しっかり止めるきっかけをつかんでいた。もちろんフル参戦をしているライダーからすれば、それは当たり前のようにクリアをして、行かなければならないが、スポット参戦のライダーだと課題が見つかってレースウィークが終わることがほとんど。

それを、しっかりクリアしてチェッカーを受けるところは、繰り返しになるが、彼の強さの秘密でもあるのだろう。

 

まとめ

Photo by Tomohiro Yoshita

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中須賀は、週末に3度あった囲み取材の中で、必ず発していたコメントがあった。

それが「参戦を続けていくことの大切さ」だ。

今年で5回目となる日本GP挑戦。普段MotoGPは観戦するけど全日本ロードレース選手権はあまりチェックしていないというファンも多く、最初はサーキット内でも気付いてもらえることが少なかったらしいが、今年はファンの期待の高さも感じることができたという中須賀。これも毎年続けて挑戦してきた効果が出ていたという。

「日本のファンも増えてきて、今までだとパドックでも声をかけてくれる人が少なかったんですけど、今では期待してくれるファンも増えるというのは、プレッシャーでもあるけど、ライダーとしてはそこが評価でもあるので、改めて参戦していくことを続けなきゃいけないなと思いました」

「また、こうやって続けていれば若手のライダーがチャンスがつかめれるきっかけになるかもしれないし、そういった意味では自分のやっていることは、非常に意味のあることだと思う。そのためにも良い結果を残していきたいし、この舞台に挑戦し続けていくためにも全日本で頑張らなきゃいけないし、国内で速いというのが第一条件ですからね」と語った。

実は、このMotoGP日本ラウンド挑戦を機に、全日本でもチャンピオンを取り続けている中須賀。国内で圧倒的な強さをみせている、意外にも1年に一度の、この場で得られる経験や刺激も、彼の原動力となっているのだろう。

まだ今季もJSB1000の最終戦が残っており、前人未到の5連覇もかかっている中須賀。今後の彼の活躍から、目が離せない。