本来の実用車としては、先代からの大胆なコンセプト転換で大失敗。しかしその素性を買われたモータースポーツでは活躍を重ね、クラスは違えど大物食いのオーバーオールチャンプすら可能な「コンパクトカーの皮を被ったフォーミュラ」として大活躍するという、両極端な評価を得たのが2代目ホンダ シティです。

ジムカーナで今も活躍する2代目GA2シティ/出典:http://jaf-sports.jp/cms_file/sportsweb/sportsweb_20201105144808_30134_00001.pdf

あまりに両極端な評価を持つホンダの2代目シティ

2代目初期型1.2L版・GA1シティGG(ダブルG) 出典:https://www.honda.co.jp/news/1986/4861031.html

1986年10月31日に発売された2代目ホンダ シティは、初代トゥデイの登場(1985年)でホンダのボトムエンド車を脱したシティが初めて受けたモデルチェンジで登場したモデルです。

革命的なトールボーイスタイルに、車載用バイク「モトコンポ」まで準備するなど、遊び心と実用性に満ち溢れたパッケージや斬新なCM、矢継ぎ早に追加された高性能ターボ車とワンメイクレースによるスポーツ性、カブリオレによるファッショナブル性など、その販売期間を通じて、話題となり続けたモデルでもありました。

しかし、発表された2代目シティはペターンと低く素っ気ないデザインのボディに、四隅に配置されたタイヤでキャビンスペースの長さこそそれなりに見えるものの、先代にあった遊び心は全く感じられないという、まったくの別のクルマといってもいい程の変わりようだったのです。

確かに当時の3代目シビック(ワンダーシビック)や、初代トゥデイとデザインテイストやコンセプト、パッケージングは酷似しており、両車も中間サイズにある事から、ホンダ車としての統一性を図ったと考えられなくもありません。

しかし、先代で売りだった多数の小物入れポケット(ポケッテリア)やモトコンポすら搭載可能な大容量ラゲッジスペースといった実用性については、当時のカタログでもプレスインフォメーションでもほとんど触れられておらず、つまりは「先代の特徴がすっかり消失」していたのです。

これでは実用車として同クラスのライバルに何をアピールしたいのか。そもそも、もしかしてこれは実用車ではなく、パーソナルクーペ的な何かなのだろうか?と考えない方が不思議というもので、正確な販売台数は不明ながらも、現在ではまごうことなき不人気車と認識されています。

とは言えSOHCながらよく回る16バルブエンジンと低重心、一新された足回りによる抜群の旋回性能はモータースポーツ関係者、特に1.3リッターまでのコンパクトカーで争われるクラスへ出場するドライバーから注目を浴び、やがてPGM-Fi(電子制御燃料噴射)仕様のホットモデルが登場すると、一躍「無敵のコンパクトカー」へと躍り出ました。

本来の目的では全く受け入れられなかったものの、全く別の方向性で天を衝くほどの評価を得るという両極端な2代目シティは、その特異性によって日本車史へさんぜんと輝く、「偉大なる失敗作」となったのです。

目指したのは「クルマそのものではなく、人が主張できるクルマづくり」だった

わかりやすいクラウチング・フォルムで志は高かったはずの2代目シティ(初期型GA1) /出典:https://www.en.japanclassic.ru/booklets/58-honda-city-1986-ga.html

2代目シティ発売当時の公式プレスリリースには、以下のように目立つ文章が記載されていました。

「高性能と上質感を高次元で融合させた、豊かな感性に応えるクルマ」
「クルマそのものだけが主張するのではなく、人が主張できるクルマづくり」
「乗る人が自らを主張できるクルマをめざしました」
「シンプルでありながら高質感とリッチさをもっている」
「機能的でありながら、飽きのこないあたたかみをもっている」

 

2代目シティ(1986.10)ホンダ公式プレスリリース

初代シティが「とにかくそれ自体が目立って存在を主張しまくって周囲にも大ウケ、あちこちに楽しさのあふれる車だった」のとは真逆に、主役はあくまでドライバーであり、上質感とシンプルさで満足させて飽きない車にしたかった、という高い志は見て取れます。

ただし、ユーザーがそういう車を求めていたかというと、目立たない車が必要なのは冠婚葬祭やサラリーマンや公務員の通勤くらいです。

ドライビングポジションに至っては「スポーティ感覚の低いドライビングポジション」が売りで、これまた初代シティの「見下ろす感覚で視界良好」とは真逆であり、どうもホンダとしては初代と2代目で全く異なるユーザーを対象にしていた、と思われます。

キャビンは室内長が50mmほど伸びたことや、タイヤを四隅に追いやってホイールベースを180mmも延長、タイヤハウス自体も小さくして足もとスペースを広げ、先代より直立に近くなったリヤハッチでルーフを伸ばしたので、後席ヘッドスペースもゆとりを生んだ事になっていますが、そもそも室内高が70mmも低くなっていました。

この当時のホンダはシビックでもトゥデイでも、「ハイルーフでの上下スペースより、前後スペースの確保でスポーティさと快適性を両立する」という方針で、それ自体は同時期に流行り始めた各社の4ドアハードトップ路線と比べれば、健全です。

ただ、あまりにも「さりげなくて目立たない上質」を追求しすぎた結果、ユーザーの購買意欲をそそるためのアピールとは真逆に進んでしまったようで、バブル時代の絶頂期に向かって突き進む世の中では、むしろ「これでどうだ!」とばかりのわかりやすさが必要でした。

もっとも、「カタログスペックより、シンプルでわかりやすい高品質」で成功した同時期のライバル車もありますし(例:初代K10後期/2代目K11日産マーチ)、2代目シティにもっとも欠けていたのは、車自体があまりに主張不足だったがゆえの、親しみにくさだったのかもしれません。

コンパクトレーサーとしては「神様仏様GA2様!」

GA2シティは全日本ジムカーナSCクラスで長年走り続ける常連マシンでもある/ 出典:http://www.advan.com/japanese/motor_sports/11/jgc/06/ph_07.html

しかし、コンセプトが受け入れられないまま、「そんな車もあったね」で2代目シティが終わる事はありませんでした。

確かに大衆向け実用車としては物足りない存在でしたが、先代のショートボア&ロングストロークな高効率エンジン「ER」に対し、同じ1.2リッターでも2代目シティ初期型が搭載した新開発の「D12A」は、ERほどロングストロークではなくビックボア。16バルブSOHCヘッドとPGM-CARB(電子制御キャブレター)で高回転まで気持ちよく回り、ロー&ワイドなクラウチング・フォルムによる低重心で約束されたコーナリング速度は爽快の一言です。

ロングホイールベースと4隅のタイヤで安定性重視と思いきや、トレーリングアーム、パナールロッド、ローショナルアクスルビームの3リンク式「トーショナルビーム式リアアサスペンション」は、ロールや横Gに対してトーアウト傾向があり、コーナリング中のアクセルワークで自在にコントロールできる反応の良さもありました。

ダートトライアルでも主力マシンだった時期があったGA2シティ/ 出典:https://www.honda.co.jp/sportscar/spirit-sdw2/tcr-civic/vol2/page2/

こんな「安い、速い、安心して踏める車はない!」というわけで、まずは1986年頃までEP71スターレット(NA)の天下、その後は初代カルタスGT-i(AA33S)へ代替わりするかと思われたジムカーナのA1クラスで、2代目初期のGA1(1.2リッター車)が食い込みます。

GA1の好成績で素性の良さが知れると、カルタスよりGA1シティへ乗り換えるドライバーが増えていき、1988年10月にD12Aをボアアップして1.3リッター化した「D13C」搭載のGA2が登場。PGM-Fi版を積み、先代シティターボIIより最高出力(ネット値)で勝るホットモデル、「CZ-i」および、装備を簡略化した軽量版「CR-i」により、大勢は決しました。

しばらくは初代カルタスGT-iとシェア争いを繰り広げますが、軽量でストレートも速く、コーナリングに至っては路面に吸い付くように高速で駆け抜け、クルクルとサイドターンも俊敏なGA2へ対抗できるコンパクトカーなど、そうそういやしません。

ダートトラアルでも状況は似たようなもので、ジムカーナでは1990年早々にA1クラス(1,300cc未満)で、ダートトライアルでも1995年にはA2クラス(1,000cc以上1,300cc未満)で、ほとんどがGA2のワンメイク状態になりました。

ジムカーナの主要クラスで活躍の道を絶たれたGA2シティだったが、ラリーではその後も活躍した /出典:https://www.jrca.gr.jp/event/2008_rd01_result.html

ダートトライアルでは4WDターボの隆盛で、A2クラスの上限が1,600cc未満までになり、GA2シティはミラージュやシビックに押し出されて活躍の場を失ったものの、ジムカーナでは2002年のA車両消滅まで、A1クラスはほとんどGA2のみのワンメイク状態が続きます。

しかも単に小排気量クラスで強いというだけではなく、凄まじい旋回性能がモノをいう舗装路だと、コース設定次第では2リッター4WDターボのA4クラスすら食ってしまうほどの強さです。

単にクラス優勝だけでなく大物食いのオーバーオールチャンプすら狙えるとあって、まさにジムカーナでのGA2シティは「神様仏様GA2様!」的な、神がかった強さを発揮しました。

しかし、「強すぎる」というのも考えもので、ジムカーナではA車両廃止、より低コストなN車両規定が始まった2003年以降、GA2が最大の本領を発揮する「1,000cc以上1,300cc未満」のクラスがなくなってしまいます(代わって1,000cc未満で初代ヴィッツがメインのN1クラス、1,000cc以上2,000cc未満のFF車によるN2クラスなどが誕生)。

これでSC車両などナンバーなし改造車部門を除けば、モータースポーツでGA2シティの居場所がなくなると思いきや、盛り上がっていたラリーの2WD部門ではまだまだ活躍できるクラスがあり、その後も活躍を続けています。

そして現在も全日本格式のモータースポーツでGA2シティを走らせているのは、全日本ジムカーナSCクラスの町田選手で、ツインチャージャー仕様の改造車ですからもう中身はすっかり別物ですが、クラス区分や規則も大きく変わる2021年以降も参戦を継続するのか、注目です。

主要スペックと中古車価格

2代目後期型・GA2シティCZ-i /出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=17050&width=1920

ホンダ GA2 シティ CR-i 1992年式
全長×全幅×全高(mm):3,605×1,620×1,335
ホイールベース(mm):2,400
車重(kg):760
エンジン:D13C 水冷直列4気筒SOHC16バルブ
排気量:1,296cc
最高出力:74kw(100ps)/6,500rpm
最大トルク:114N・m(11.6kgm)/5,500rpm(※同上)
10・15モード燃費:16.2km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)車軸式(トーショナルビーム式)

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
CR-i/CZ-i以外:48万~48万円・2台
CR-i/CZ-i:66万~89.8万円・5台

「2代目シティ」を名乗らなければ、あるいは?

全日本ジムカーナSCクラスクラスのGA2シティ(ツインチャージャー仕様) /出典:http://www.advan.com/Japanese/motor_sports/12/jgc/01/ph_08.html

筆者はどちらかというと、かつてストーリアX4で全盛期のGA2シティへ無謀な戦いを挑んでいたクチでしたが、時には敵情視察とばかりにシティのステアリングを握らせてもらう事もあり、その軽快どころではない運動性能や、よく回るエンジンに軽量ボディでレスポンスも最高、ストレートも速いなど、とにかく最高の車という印象です。

今の車は新しくなるほど安全基準と電子制御でガチガチなため、2代目シティのように「車としての素性が、生まれついてのコンパクトカーの皮を被ったフォーミュラカー」という車は、もう現実的な価格では販売されないでしょう。

PGM-Fi車ではなくキャブレター車でもよいので、機会が残されているうちに、一度はステアリングを握ってみてほしい車の1台には、絶対2代目シティを上げるというほど、走りのインパクトは最高です。

ただし、あまりにスポーツイメージが染み付きすぎたこともあって、もはや新車当時より、実用車としての評価をしにくくなってしまっているのも事実。

結論から言ってしまえば、「初代シティ」と「2代目シティ」は、名前が同じだけで全く違う車であり、2代目シティを名乗らなければ、あるいは初代シティの後継車は別に準備していれば、2代目シティはモータースポーツ以外でも評価された車だったかもしれません。

 

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