2011年に破産した後、現在は中国資本が入った『NEVS』社へと変わり、『サーブ』ブランドの使用が許されないなど未だに紆余屈折真っ只中なスウェーデンの自動車メーカー、サーブ。日本ではバブル時代に同じ国のボルボともちょっと違う『意識高い系が好む車』というイメージでしたが、かつてはラリーでも大暴れした小型軽量FF車を作っており、中でももっとも長く作られたのがサーブ96でした。
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ヒコーキ屋出身の自動車メーカー、サーブ初の『決定版』的モデル、96
現在でもジェット戦闘機JAS39『グリペン』を生産・販売し続けており、ミリタリーファンにとってはちょっとばかり名高いスウェーデンの軍需メーカー、サーブですが、第2次世界大戦中までは当時中立国で武器の輸入が困難であったスウェーデン軍のための独自モデルの開発すら手掛けた軍用機メーカーでした。
しかし、戦乱の時期が去ると軍用中古機大放出で市場を失った他社同様、民需に活路を見出そうとして自動車産業に進出します。
そして1949年に初めて発売したサーブ92は、日本の富士重工(旧・中島飛行機)が作ったスバル360などと同様、『いかにもヒコーキ屋が作りました』と言わんばかりの空力性能に優れたモノコックボディに764cc空冷2サイクル2気筒エンジンを搭載した小型軽量FF車でした。
また、コンセプトは非常に優れており、サーブの生産能力、販路拡張の問題でまだまだ大ヒットとはいかないまでもラリーやレースで活躍して評価を高めながら改良も続けられ、サーブ93(1959年)を経て1960年に登場した『決定版』がサーブ96です。
その基本コンセプトはサーブ92以来変わらないものの、熟成が進められて居住性や視界を改善。
環境問題に対応した4サイクルエンジンへの変更を経つつ、1980年まで20年もの間作られました。
4サイクル化と段階的な外観の近代化を行ったロングライフモデル
小型軽量FF車というコンセプトこそサーブ92から踏襲されたものの、自動車メーカーとしての仕事も次第にこなれてきた事による熟成と、時代の変化への対応が絶え間なく行われたサーブ96。
デビュー時はサーブ93までのモデルよりリアウィンドウを拡大して後方視界を改善。
エンジンも93から採用された2サイクル直列3気筒を縦置きするのは変わらないものの、排気量は748cc(33馬力)から841cc(38馬力)へと拡大していました。
その後、大きな変化は1965年に訪れ、フロントエンドが延長されてエンジンより後方にあったラジエターが前面に移動。
丸目2灯ヘッドライトではあったものの顔つきが大きく変わります。
そして1967年以降は角目2灯ヘッドライトへの変更や安全対策強化のために大型ウレタンバンパーが装着されるなど、次第に顔つきを変えていき、1980年に生産を終了する頃には上級車種のサーブ96同様、1970年代後半以降に登場した近代サーブ車に通じるイメージとなりました。
また、エンジンも当初の2サイクルエンジンから、環境問題に対応すべく西ドイツ フォード社から供給を受けた1,498cc4サイクル狭角V4エンジンへと換装。
初期と末期では別車かと思うほどのデザイン変更や4サイクルエンジンへの換装を経てはいましたが、基本的には1949年発売のサーブ92をビッグマイナーチェンジしながら31年も生産していたことになり、1940年代の車としてはかなり先進的だったと言えます。
WRC以前のメジャーなラリーイベントで活躍した傑作FF車
サーブ車の優秀性を広くアピールしたのはラリーで、地元北欧スウェディッシュラリー、フィンランドの1000湖ラリーは元より、イギリスのRACラリー、モナコのモンテカルロラリーでサーブ92やサーブ93が活躍します。
当時、イギリスのBMCミニや、日本でもスバル1000や日産 チェリーなど初期のFF車がラリーで活躍したのと同様、4WDターボ登場以前には非力ながらも小型軽量、駆動輪に重量がかかってトラクション性能に優れるFF車がラリーで活躍する事は珍しくなかったのです。
そんなサーブ96で名声を高めた代表的なドライバーがスウェーデンのエリック・カールソンで、パワー不足なサーブ車で勝つためにコーナリング性能を高めるべく左足ブレーキを完璧にマスターしたというエピソードもありました。
その後、サーブ96が投入される頃にはもう慣れたもので、1960年から3年連続RACラリーで優勝したほか、1962年から2年連続でモンテカルロ・ラリーでも優勝するなど大活躍!
サーブ96 V4時代に台頭したのは同じスウェーデンのラリードライバー、後にWRCチャンピオン(1984年)にもなったスティグ・ブロンクビストでしたが、彼がRACラリーで優勝したのは1971年で、WRCが始まってからも1974年の同ラリーで2位。
1975年にはブロンクビストがスウェディッシュで、1000湖でシモ・ランピネンがいずれも2位、そして1976年のスウェディッシュではパー・エクルンドとブロンクビストが何と1-2フィニッシュ!
発売から15年以上、原型のサーブ92から数えれば30年近く経ってもまだ戦闘力のあったサーブ96は、確かにラリー界屈指の傑作FF車だったのです。
主なスペックと中古車相場
サーブ96 1961年式
全長×全幅×全高(mm):4,020×1,570×1,470
ホイールベース(mm):2,488
車両重量(kg):782
エンジン仕様・型式:水冷直列3気筒2サイクル
総排気量(cc):841
最高出力:28kw(38ps)/4,250rpm
最大トルク:80N・m(8.2kgm)/3,000rpm
トランスミッション:3MT
駆動方式:FF
中古車相場:皆無
まとめ
スウェーデンのサーブは、自動車メーカーとしては1980年代以降も日本ではあまりメジャーな存在たりえませんでしたが、通好みでしかもサーブ92以来活躍してきたラリーでの実績を知る者であれば、尊敬の対象ですらありました。
結局、同国のボルボほどうまく自動車業界再編の波を乗り切れず、今や『サーブ』ブランドの車は無くなってしまったのが惜しいところですが、『ヒコーキ屋出身でFF車を得意としていた』ところなどは、日本のスバルとも共通項があります。
飛行機好きにとっても自動車好きにとっても忘れがたい『サーブ』の傑作ロングセラー、サーブ96やその原型のサーブ92やサーブ93は、日本でももっとスポットライトを浴びるべき名車ではないでしょうか。
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