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【連載】ダウンフォースとともにあらんことを…EP2「大発見!グラウンドエフェクト」編

モータースポーツと空力の物語。今回は第2弾をご紹介します。天才ジム・ホールが“走る掃除機”と言われたシャパラル・2Jを開発し、ファンカーがレースの舞台で大活躍。しかし危険と判断されて、すぐさま禁止…。それでも空気を味方につけるを諦めなかった天才たちは新たなものを発明します。それが1980年代初頭のモータースポーツに革命をもたらした「グラウンドエフェクト・カー」でした。

出典:http://www.ointres.se/

出典:http://www.ointres.se/

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【連載】ダウンフォースとともにあらんことを…EP1 「ウィングと走る掃除機」編

発明のきっかけは、実験での“謎の現象”

出典:http://www.pedal.ir/

メンバーを従え笑顔のチャップマン氏。彼の先見性がなければ、今のF1は間違いなく存在していなかった。出典:出典:http://www.pedal.ir/

ロータスの創設者コーリン・チャップマンのもとには、優秀な技術者が集まっていました。

なかでも空力の追求に情熱を燃やすピーター・ライトは、いち早く風洞実験をレースカー開発に持ち込んだ人物。

飛行機の翼を逆さにつけた前後の「ウイング」は常識となり、もはや付けていないマシンは見当たりません。

「ならば、車体の一部をウイングの形にしたらもっと強いダウンフォースが得られるのでは?」

こう考えたライトは、コクピットの両サイドを翼断面に近い形にデザインして、実験を始めます。

出典:http://8w.forix.com/6thgear/brm-p142-2.jpg

当時の風洞試験。主な目的はラジエターの冷却効率を高めることだったらしい。出典:http://8w.forix.com/

この発想が全く別の発見を生むとは、まるで予想していなかったようです。

ある日の実験中、たまたまズリ落ちた風洞モデルにありえないほど強力なダウンフォースが発生。

計器の示す数値にライトも「機械が壊れた」ことを疑ったようですが、実はそうではなかったのです。

翼のカタチをした物体を地面スレスレまで近づける実験をした時に、その現象が起きることが判明しました。

実は飛行機の世界では、これとは逆の現象である「グラウンドエフェクト効果」がよく知られていました。着陸寸前、翼の平らな面が地面に近づくと下側の圧力が高まり、揚力が増します。

発生の原理が共通していることから、ライトの発見した「吸い付く現象」も同じ名前で呼ばれるようになったのです。

 

グラウンドエフェクトとは何だ?

ここでざっくり、グラウンドエフェクトの発生原理をみてみましょう。

絵:Shinnosuke Miyano

絵:Shinnosuke Miyano

翼の断面は、地面に近づくと非常に狭い部分が生まれ、空気は絞られる様に流れ込み、一気に速度を増して通り抜けていきます。

これが「ベンチュリー効果」と呼ばれる現象で、水を流しているホースの出口を、指でつまむと勢いよく吹き出す原理と同じ。

さらに流れの速い場所は圧力が下がり、常に空気が吸われているような状態が生まれます。

その結果、上下の圧力差で車体が大気圧で潰され、大きなダウンフォースが発生するのです。

かつてのシャパラル・2Jはファンで車体下の空気を強制的に吸い出していましたが、同じ効果が床下の形状を変えるだけで得られるという、まさに大発見でした。

ライトは「とんでもない発見をした」とボスであるチャップマンに報告。

偉大な発明だと理解した彼はすぐさま、誰も見たことのない「グラウンドエフェクト・カー」の開発命令を下しました。

 

「ウイングカー」がF1の舞台へ…(ロータス78/79)

出典:http://www.theflagrants.com/

ロータス78 出典:http://www.theflagrants.com/

1977年、ロータスは両サイドにベンチュリートンネルを設けた初のグラウンドエフェクトカー「ロータス78」をデビューさせます。

コクピットの両サイドには通常ラジエターなどがありますが、そのハウジング下面を翼断面にして左右をスカートで遮断。

トンネル内に負圧が生まれ、強烈なダウンフォースを生み出すことに成功していました。

その効果は強烈で、セッティングさえ決まってしまえば誰も寄せ付けない速さを見せたのです。

その年のF1では5勝を記録。チャンピオンこそ逃したものの、チャップマンは「これはイケる」という確信を抱きます。

出典:http://www.gpimages.com/

”ブラックビューティ”ことロータス79。エンジンがカウルで覆われ、更に薄くフラットになった。出典:http://www.gpimages.com/

そこで1978シーズンには車体両サイドのベンチュリー構造を延長し、リアサスペンションの機能を犠牲にしてまで空気抵抗を追求した「ロータス79」を投入。

シーズン中から投入されたこのマシンはマリオ・アンドレッティらのドライブで全16戦中9勝を挙げ、遂にシリーズチャンピオンに輝きました。

ポールポジションも11回獲得し、文句なしの最速マシンでした。

出典:http://www.invetr.com/uploads/2/1/8/2/21829402/160118234_orig.png

ロータス79の下面図。ウイング形状と、サイドスカートの構造が見て取れる。出典:http://www.invetr.com/

しかし他のチームのエンジニアも、指を咥えて見ているはずがありません。

「どうやら床下にヒミツがあるらしいぞ」と気がつくと、同じ効果を得ようと各々研究を進めていったのです。

ちょうどこの頃に、誰が呼んだか定かではありませんが、その形状から「ウイングカー」という呼び名も生まれました。

 

やり過ぎた迷作(ロータス80)

出典:http://www.ultimatecarpage.com/images/car/2488/Lotus-80-Cosworth-18703.jpg

ロータス80 出典:http://www.ultimatecarpage.com/

チャップマンという人物はものすごい先見性を持ちながら、ときに「独裁者」と呼ばれてしまうほど、ワンマンプレイの際立つ人物でした。

ロータス79の成功にも飽き足らずパフォーマンス向上を目論み、さらにさらに後方にベンチュリー構造を延長。

ノーズ下にも別のベンチュリートンネルを仕込むという念の入り様でした。

こうして究極のウイングカー「ロータス80」は1979年に登場します。

理論上は「前後のウイングを無くせる」ほどのダウンフォースが見込まれていた様ですが、結果はウイングカーの「もろさ」を露呈する失敗作となってしまいました。

http://www.caeri-wtc.com/

ウイングを忘れてきたわけじゃありません。この写真だと、地面すれすれのスカートが分かりやすい。出典:http://www.caeri-wtc.com/

まっ平らな風洞では理想的な数値だったものの、当然ながらサーキットにはでこぼこがあります。

つまり常に車高が変化するので、そうすると路面から「くっついたり離れたり」を高速で繰り返す現象が起きます。

さらにサスペンションのピッチングと共振を起こすとバタバタと跳ねはじめ、アンドレッティいわく「四角いタイヤを履いているような」恐ろしい振動が発生してしまうのです。

振動はどんどん大きくなり、最悪は木の葉のように車体が浮き上がってしまうことも…。

出典:http://www.cuantarazon.com/

1999年のルマン。幸いドライバーは軽傷でした。出典:http://www.cuantarazon.com/

ちなみに1999年のル・マン24時間レースでメルセデスベンツのマシンが宙に舞ってしまったアクシデントも、この「ポーパシング」と呼ばれる現象が引き金だったと言われています。

こうしてロータス80は、危険と判断されてすぐさまお蔵入り。再びロータス79が引っ張り出しますが、時すでに遅し。

研究を進めていた後発のライバルたちは、既にグラウンドエフェクト効果をモノにし始めていたのです。

 

「速過ぎて危険!」ウイングカー、あえなく禁止へ

出典:http://www.f1fanatic.co.uk/wp-content/uploads/2009/07/williamsfw07_1981_goodwood.jpg

ウィリアムズFW07。ロータスの弱点だったシャシー剛性の確保と、スプリング付きのスライディングスカートなど独自のアイディアが功を奏した。 出典:http://www.f1fanatic.co.uk/

ロータスに続いて躍進を果たしたのは、パトリック・ヘッドがマシンを手がけるウィリアムズでした。

グラウンドエフェクトの精度を更に高めたウィリアムズ・FW07は、ロータス80の失敗を横目に安定した速さで1979年のチャンピオンを獲得。

その後も3年連続でコンストラクターズ・チャンピオンに輝きます。

皮肉にもグラウンドエフェクトで最高の成果を挙げたのはロータスを真似した”次男坊”だったわけですが、ここからウイングカーの開発競争は激化の一途をたどります。

出典:http://www.ultimatecarpage.com/images/large/1035-2.jpg

どのクルマも似た形になり、瞬く間にウィングカーしか勝てない時代が到来した。出典:http://www.ultimatecarpage.com/

同時に、ダウンフォースが急激に失われることによるアクシデントも増加し、安全性への懸念が浮上し始めます。

車重の3倍とも言われた強烈なダウンフォースに耐える為、サスペンションは無いに等しいほどの固さ。

横Gも凄まじく、戦闘機用のスーツの導入が真剣に検討されるほど、ドライバーへの負担も深刻でした。

これを受け主催者も「ウイングカー」禁止を決断。1983年にはコーナリングスピードを下げる目的で「フラットボトム規定」が導入されることとなり、およそ5年ほどで終焉を迎えたのです。

 

まとめ

出典:http://www.statsf1.com/fr/

出典:http://www.statsf1.com/fr/

F1のスピードを恐ろしいほどに引き上げてしまったグラウンドエフェクト効果と、それを利用したウイングカーたち。

その恐るべき効果は、車体下面を平らにするフラットボトム規制で消えて無くなると思われていました。

しかし、エンジニアたちは新たなイノベーションを生み出すのです。

次回は、”空力の天才”エイドリアン・ニューウェイが登場。

ウィングカーの禁止という逆境が生み出した、さらなる空力の世界をお見逃しなく!

あなたも、ダウンフォースとともにあらんことを…

 

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【連載】ダウンフォースとともにあらんことを…EP1 「ウィングと走る掃除機」編

 

Writer Introduction
Shinnosuke-Miyano

20代の頃はメカニックをしたり、お洋服の仕事をしたり、とりとめのない日々を送ってきました。 クルマの楽しさやレースの奥深さを、時にマニアックに、時にエモーショナルにお伝えしていければと思います。 https://www.facebook.com/shinnosuke.miyano

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