「直列6気筒エンジン」は振動が少なく、高回転域まで滑らかに回ることから、高級車やスポーツカーに採用されていましたが、現在ではごく一部の車にしか搭載されていません。しかし最近、ベンツが直列6気筒を復活させ、マツダも新型を開発中だといいます。そこには、排ガス規制やエンジンの小型化が関係していたのです。
掲載日:2020/01/31
直列6気筒エンジンとは
かつて直列6気筒エンジンは、『トヨタ2000GT』や『クラウン』『スープラ』、日産『セドリック』や『スカイライン』など、多くのミドルクラス車に採用されていました。
エンジン音も美しく、回転時の振動を完全に打ち消せることから、長時間の運転でもドライバーを疲れさせないエンジンとしても有名です。
そんな直列6気筒エンジンの特徴は、その名の通り6つのシリンダーが直線状に配置されていること。
それによりスムーズな回転を実現し、大きなパワーも発揮可能なうえ、巡航時の振動は最低限に抑えられるという、優れた特性を持っています。
ではこの直列6気筒エンジンは、どのような構造になっていて、どうして振動を打ち消しながらも高回転域まで滑らかに回るのでしょうか。
直列6気筒エンジンの基本構造
レシプロエンジンの性能は、シリンダーの内径×行程で決まります。
ガソリンエンジンの場合は、1本のシリンダーの内径の大きさに限度があり、燃焼行程を上げたとしても抵抗が増すので、高回転化は困難です。
そのため気筒数を増やすことでエンジン出力を上げたわけですが、ここで問題となるのが、クランクシャフトの長大化。
6つの薬室内で同時に燃料を燃やすと、ピストンの上下運動によって、長いクランクシャフトに多方向からの複雑な力が掛かることになります。
こうなるとエンジン自体の振動も激しくなり、クランクシャフトが壊れる可能性も。
直列6気筒エンジン シリンダーブロック/出典:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e1/M20B25_block.jpg
そのため直列6気筒エンジンでは、クランクシャフトに掛かる負荷が等しくなる順番で、1本ずつ燃料を燃やすようになっています。
その燃焼の順番は1→5→3→6→2→4が通常で、ピストンの動きと燃焼のバランスを理想的な状態にすることができました。
またシリンダー内に空気を吸入し圧縮、燃料を燃やして廃棄する行程でクランクシャフトは2回転します。
この“2回転”が振動を打ち消すためのポイントで、このとき気筒1本ずつのクランクシャフトの回転は120°。
レシプロエンジンが回るときは、ピストンが上下で一旦停止する“一時振動”と、ピストンが上から下へ動くとき、コンロッドの傾きの角度差で“二次振動”が発生します。
これらはピストンが120°間隔で回転した場合に相殺されるので、6気筒型のエンジンは振動が少ないというわけです。
この特性によって、振動軽減用のカウンターウェイトやバランスシャフトが不要となり、構造の簡素化が可能というメリットも生まれました。
また120°回転するたびに、1本のシリンダーが燃焼に入ることによって、エンジンの回転も良くなります。
これらの特性は良質な乗り心地と高いパワーを出せる素地を生み出すので、直列6気筒エンジンは“レシプロエンジンの理想形”ともいわれているのです。
直列6気筒エンジンのデメリットその栄子衰退
この“レシプロエンジンの理想形”とも評される直列6気筒エンジンには、先に述べたように以下のようなメリットがあります。
- エンジンの振動を打ち消せる
- 高いパワーを出せる
- エンジン音が良い
- エンジンの回転が滑らか
- エンジン構造の簡素化が可能
しかし直列6気筒エンジンには、このタイプ特有のデメリットも存在します。
それは“エンジンの全長が長いこと”。
気筒の数を増やし、それを直列に並べるということは当然、エンジンそのものが縦に長くなります。
そのためフロントサイズが必然的に長くなり、衝突時の安全のために設けられるクラッシャブルゾーンも確保できなくなってしまうのです。
横置きすることも難しいので、FF車に搭載しにくいという問題も発生。
これらのデメリットが問題視され、直列6気筒エンジンは徐々に姿を消していくことになりました。
なぜ直列6気筒エンジンが減少したのか
先述した通り、直列6気筒エンジンが減少した理由は、クラッシャブルゾーンの確保に不利という安全上の問題と、FF車に搭載しにくいという世界的なSUV人気に相反するものだったことにあります。
代わりに注目されたのは、同じく6本の気筒を備えながらも、それをクランクシャフトに対してV字型になるよう並べた、「V型6気筒エンジン」でした。
こちらは気筒を直列させないことでエンジン自体が小さく、かつ気筒1本ずつのクランクシャフトの回転数は120°の半分の60°から燃焼効率面を重視した90°。
またV型6気筒エンジンの場合はクランクシャフトを長くせずに済むので、シャフト自体の耐久性を心配して頑丈にしたり、その周りの構造を複雑にする必要もありません。
こういった理由から直列6気筒エンジンは、徐々に姿を消していったのです。
直列6気筒エンジンが復活した理由
しかしそんな状況に変化をもたらしたのが、BMWやメルセデス・ベンツでした。
彼らは今後販売する車両には直列6気筒エンジンを搭載し、V型6気筒を廃止することを決定したのです。
とはいってもV型6気筒に代わって、再び縦長のエンジンを車に載せたのかというと、そうではありません。
技術の進歩によって電動ウォーターポンプや電動パワーステアリングができ、それらを使って直列6気筒のダウンサイズを図り、小型化したそれを今度は、V型8気筒エンジンの代わりに車へ載せるというのです。
排気量ではさすがに及びませんが、回転の滑らかさではV型8気筒よりも直列6気筒エンジンのほうが優れており、更にターボも搭載しやすいという特性があります。
また振動の打ち消しが可能なことは、V型エンジンには存在しない魅力であり、熱損失の面からいっても、V型6気筒より直列6気筒のほうが有利です。
また重量面でも可変バルブタイミング機構必須の現状では、かつて軽量といわれたV型も重くなっており、直列6気筒と比べても大差はありません。
心配される衝突時の安全性も解析技術の進歩や、エンジン自体の小型化によって改善されています。
なぜメルセデス・ベンツが直列6気筒を搭載しようとしたかというと、世界的な排ガス規制に対応するためであり、直列6気筒がV型6気筒よりも排気ガスの浄化がしやすいからです。
日本でもマツダやトヨタが、新たなる直列6気筒エンジンの開発に乗り出しており、今後の動向によっては国内でも次々と直列6気筒エンジンが復活していくかも知れません。
まとめ
今回は直列6気筒エンジンの仕組みと、その栄枯盛衰について説明しました。
直列6気筒エンジンが再び採用され始めている理由は、エンジン自体の小型化と安全性の向上、排ガス規制にあるということが分かっていただけたと思います。
近い未来、再び日本で直列6気筒のガソリンエンジンの名車が、現れる日が来るかも知れません。
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