地方でもバブル崩壊が実感され始めた頃、妙にガソリンが安い時期がありました。レギュラーはリッター80円くらいで当たり前で、80円を切るスタンドでようやく「すごく安い!」と言われたほど(灯油も18Lポリタンで560円など)。ガソリンスタンドも今より種類が多く、ハイオクは○○が最高!といった話もよく聞いたものです。そんな、今より個性的だった1990年代のガソリンスタンドを振り返ります。

ガソリンスタンドはその時代や土地柄がよく反映されてますよね / Photo by Yuya Sekiguchi

免許を取って最初の給油はレギュラーリッター125円

こんな感じのフルサービススタンドが普通でしたよね?/  Photo by Dick Thomas Johnson

2021年現在のレギュラーガソリン平均価格は約146円ほどと、また高値で推移していますが、1993年5月に運転免許を取得した筆者が初めてガソリンを給油した時のレギュラーガソリンの価格は、なぜかよく覚えていて、リッター125円でした。

筆者の地元である宮城県の、現在の平均価格が約145円ほどのようなので、この28年で20円ほど値上がりしていることになります。

ちなみに、28年前に乗っていた1982年式トヨタGX61マークIIセダン「グランデ」は、2リッター直6SOHCの1G-Eエンジンを積んでいて、頑張ってエコランしても実燃費は10km/L行けば上等でした。

また、現在筆者が乗っている1989年式ダイハツL100Sリーザはせいぜいリッター12~18km/Lですが、最近は平気でリッター20~30km/Lを走る車も多いので、ガソリン代の負担はむしろ昔より軽くなっているユーザーが多いのではないでしょうか。

そんなガソリンスタンドが、この28年の間に変わったのはガソリン代だけではありません。

当時はたくさんの元売り会社があったガソリンスタンド

エッソもENEOSに統合されましたが、まだこのブランドで営業しているスタンドはあるのでしょうか? / Photo by m-louis .®

今やガソリンスタンドは最大手のENEOS(エネオス)、老舗の出光昭和シェルがほとんどとなり、他にコスモ石油と太陽石油、キグナス石油あたりまでが大手で、他に中小零細企業を含む独立系スタンドが、チラホラとある程度です。

しかし、そもそも昔はENEOSなど存在せず、1993年当時でも「日石(日本石油)」、「三菱(三菱石油)」、「共石(共同石油)」、「ゼネラル(ゼネラル石油)」、「エッソ(エクソンモービル)」、出光昭和シェルも「出光(出光興産)」、「シェル(昭和シェル石油)」と、今考えればそんなに必要だったの?というくらい、ガソリンスタンドの種類が多かったことを覚えています。

これが何を意味するかと言えば、今のように「どこかへ旅行に出かけても、必ず自分が会員になっているスタンドがある」とは限らず、それどころかうっかりその地域以外にはあまりないようなマイナースタンドを選んでしまうと、ちょっとした出先でも「ここは会員じゃないから高いよね」というのが普通でした。

自宅の近所で安いスタンドがなければ「給油のためにちょっとしたドライブ」をすることも普通で、スタンドのブランド数だけでなく、単純にスタンドの数も多かったので、「互いに安売りの看板を出して牽制し合うスタンド街道」じみた競争さえあったほどです。

まだセルフ式スタンドなどはなかったのでサービス競争も激しく、カー用品店やタイヤショップも今ほど多くなかったため、オイル交換やメンテナンス、タイヤの購入もガソリンスタンドをよく利用しました。

さらには店頭のガソリン価格も他店を牽制すべくちょっと高めのダミー価格を表示し、本当の価格は実際に給油してみないとわからない、お得意様だけは店頭価格からいくら安いのかを知っている、現金で支払うと100円以下の端数はオマケしてくれるなど、かなり緩い商売という印象。

中でも有名だったのは地元の某ノンブランド店で、建物や設備は常にボロボロで、たまにペンキを塗り直さなければ廃墟と間違えそうなくらいでしたが、常に地域No.1の「ありえないほどの安値」で、「あそこはどこから仕入れてるんだ?」や「出入りするタンクローリーを尾行する車がいるらしい」など、妙な噂が絶えませんでしたが、現在も営業しているところを見ると、怪しい商売ではなかったようです。

「あのスタンドのハイオクは速い!アクセルレスポンスが違う!」

今はENEOSに統合された「JOMO」のブランド名を見ると、前身の共石(共同石油)が販売していたハイオクガソリン「共石GP-1」を思い出します / Photo by Kabacchi

それだけスタンドが群雄割拠だと「ヒイキのブランド」もできるもので、1993年当時にサバンナRX-7(FC3S)に乗っていた先輩などは、大真面目な口調で「共石のGP-1(ハイオクガソリン)はアクセルレスポンスが違うんだよ。あそこのハイオクはイイ!」と熱弁していました。

正直、筆者はスタンドごとにガソリンの性能がそんなに違うと思ったことはなく、ハイオクを入れる時は日石「ダッシュレーサー100」でしたが、単にそのスタンドの会員だったからに過ぎません。

後で「このへんのスタンドは、ほとんどが同じ製油所から持ってくる同じガソリンだってよ。」と聞いた時も、去年(2020年)になって、大抵のスタンドは同じタンクのガソリンを使っている(例外あり)と聞いた時も、「まあ、そうだろうね。」と思ったものです。

だいたい、出先でヒイキにしているブランドのガソリンスタンドが見つからなければ、どのみち違う銘柄のハイオクを入れるから意味がないのですが、「プラシーボ効果」的にあそこのガソリンを入れて本気を出す!など、気持ちの面でアクセルの踏みっぷりが良くなるのなら、それはそれで意味があったのでしょう。

レギュラーリッター80円切り?!

レギュラーガソリンがリッター80円切ってた時期があったなんて、信じられます? / Photo by photoAC

最初に「初めて入れたガソリンはレギュラーでリッター125円だった」と書きましたが、1993年5月時点では、どこもリッター120~125円程度だったのが、競争激化で年々下がっていきました。

ガソリン価格の下落がピークに達したのは、確か1998年かその翌年か、地元(宮城県仙台市)でもレギュラーのリッター80円台が目立ち始めたかと思うと一気に80~82円程度に下がり、例のノンブランド店などでは「リッター78円」を見たような気がします。

一番安かったのは茨城県の日立市に行った時で、レギュラーがリッター77円!たぶん、もっと安いところもあったはずです。

灯油もかなり安くて、18Lのポリタンクで最安530円くらいと、今の1/3くらいでしょうか。それだけ安いと冬には石油ファンヒーターをバンバン炊き、燃費が悪い車でも全然構わない!と後輩は中古でジープ チェロキーを買いましたが、調子に乗りすぎたようで、「街中を走るとリッター2kmしか走らないので、いくらガソリンがあっても足りない」と、困り果てていました。

一方で、1997年に発売された初代プリウスは、画期的な低燃費で話題になったものの、猛烈にガソリンが安い時期に発売された訳ではないため売れる訳もなく、「ちょっとくらい燃費が良くても、バッテリーアシストが切れたら遅いんじゃ。嫌だよね」と、当時はかなりキワモノ扱いだったのも覚えています。

競争激化と燃費向上で消えゆくスタンド

頼りにしていたスタンドがこうなってしまうと、悲しいものです… / Photo by photoAC

ガソリンスタンドを見ていて面白かったのは、猛烈な安値で注目を集めた時期が最後で、後は過当競争と、いよいよ1997年頃から地方にも波及したバブル崩壊の不景気で、バタバタ潰れ、セルフスタンド化でサービスが消え、支払いもカードや端末で無人化と電子化が進み、合併でブランドの統合が進むと、すっかり個性がなくなりました。

入店してくる車を呼び止め、「タイヤの空気圧が少ないですよ!パンクしているかもしれません!」とタイヤを売ろうとする店員や、他の店で交換したばかりのエンジンオイルを点検し、「ほら、こんなに汚れているから交換しなきゃダメです!」と無茶苦茶な事を言う店員も、今は懐かしい話です(代わりに会員カードのオススメが増えましたね)。

しかし、2011年の東日本大震災では、「停電時でも動くはずの災害対応型スタンドが近所にあったと思って行ってみると、震災直前に潰れていた」という困った事もありました。

1990年代のような群雄割拠と過当競争までいかずともよいので、あらゆる車の低燃費化や、電動化でガソリン需要が減ってもある程度生き残れるよう、今あるガソリンスタンドには頑張ってほしいものです。