ほぼ全ての乗用車に採用されているモノコックボディに対し、圧倒的少数派でありながらも、頑丈・信頼・安心が大事なオフローダー向けには、昔ながらのラダーフレームが健在です。そもそもラダーフレームとは何か、なぜオフローダーではモノコックより有利なのか、そしてラダーフレームを採用し続ける主な現行車種を紹介します。
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ラダーフレームとは何か?
現在の自動車では、床から屋根までボディの基本骨格となる一体式フレームに、デザインされた内外装やエンジン、足回りなどを取り付けた「モノコックボディ」が一般的ですが、軽量高剛性で快適性や安全性も高く、効率にも優れるというメリットをもってしても適合しない過酷な環境で使用される車種には、今なお使われ続けているのが「ラダーフレーム」です。
基本は2本の縦材の間にいくつかの横材を結合させ、その名の通り「はしご(ラダー)」型をしているラダーフレームは、単にはしご型というだけでなく、現代の自動車に適合した曲げや補強材の追加が行われています。また、足回りやエンジン、その他の走行装置が取り付けられているため、極端な話、運転のための各種装置さえついていれば、ボディなしのラダーフレームのみで走行すらできるようになっています。
単体で走行に関わる剛性を受け止めるラダーフレームは、頑丈な代わりに重い上に、別体のボディを載せるた、めかなり重くなりますが、力をボディ全体で受け止めるモノコックボディが衝突などでダメージを受けるとボディ全体に歪みが生じ、走行に影響が出るのとは異なり、ボディがどれだけ傷んでもラダーフレームさえ無事なら走行可能です。
また、ボディが別体のため、かつての日本でもホンダのS500/600/800がクーペとオープン、ダイハツのコンパーノがベルリーナ(セダン)/スパイダー(オープン)/バン/ピックアップトラックをラインナップするなど、走行性能への大きな影響を与えることなく、さまざまなボディバリエーションを作るのが容易なのもラダーフレームの特徴でした。
オフロードで真価を発揮するラダーフレーム
第2次世界大戦後に飛行機関連の仕事が減少し、自動車業界へ転じた技術者が開発技術を持ち込むと、既に飛行機で多用されていたモノコックボディが自動車でも採用され始めます。
そして軽量で高剛性、低重心、快適性や操縦性、高速安定性に優れたモノコックは、自動車の主流となりますが、トラックなど、用途に応じたキャビンや荷台の架装が求められる車には、あまり用いられていません。
そのため、特に乗用車ではほぼ全ての車種がモノコック化したと言ってよい状況でしたが、それでも一部、どうしても頑丈さとタフネスぶりが求められるジャンルとして、オフロード車ではラダーフレームが使われ続けます。
時には道なき道を走り、流されないだけの重さを活かして半ば以上沈みつつ川を渡り、荒れたデコボコ道でどんなに激しくタイヤが突き上げてもフレームが歪まず、岩場でぶつけ、崖から落ちてボディが歪んでもなお走り続け、「帰ってこれる車」には、ラダーフレームがどうしても必要だったのです。
中にはあまりに豪華で高級すぎ、もはやオフロードで走るより「頑丈な走る要塞」のようになったオフロード車もありますが、そうした車でもラダーフレームならではの悪路走破性は決して損なわれておらず、いざという時には頼りになる車としてのイメージがブランド化され、世界中にリピーターがいます。
大型高級車から軽自動車まで、オフローダーこそラダーフレームが最大の真価を発揮するカテゴリーです。
モノコックと融合した「ビルトインラダーフレーム」
モノコックとラダーフレームの中間的な構造として、メーカーにより名称は異なるものの、「ビルトインラダーフレーム」と総称される構造もあります。
これらはラダーフレームをモノコックに溶接などで結合したもので、ラダーフレームに載せられたボディとの間で生じる振動や騒音といった快適性を損なう要素が排除され、モノコックと分担する事で高い剛性を維持しつつ軽量低重心化や、操縦性を向上させるメリットがあります。
「ボディを傷めてもラダーフレームが無事な限り走行可能」というタフネスぶりはモノコックとの結合で失われていますが、ボディーオンフレーム(ラダーフレームに別体ボディを載せる方式)に準じた悪路走破性を持つことは、3代目からビルトインラダーフレームを採用した後もダカールラリーで活躍した三菱 パジェロが証明済み。
国産車では他にも、ダイハツ ビーゴ / トヨタ ラッシュなどで、採用されています。
現在でもラダーフレームを採用する主な車種
トヨタ ランドクルーザー(200系)
2021年現在でもラダーフレームを採用したオフローダーはいくつか新車販売されており、中でも王様的存在なのが、近年はさまざまな電子制御装備と快適装備が搭載されたて高級SUV化しているトヨタの200系ランドクルーザーと、レクサス版のLXです。
日本ではかなり大柄な部類なので、過疎地の悪路などには向かないサイズになってしまいましたが、海外ではこのサイズでも十分に実用性があり、「頑丈な陸のクルーザー」として、次期型へモデルチェンジして以降も、トヨタ/レクサスSUVの旗艦として君臨しています。
トヨタ ランドクルーザー(70系 日本では販売終了)
「昔ながらの頑丈でタフネス、どこまでも走って帰ってくるランクル」が70系で、日本では既に販売終了。期間限定での再販売も終わっていますが、世界中で過酷な場所ほど頼られるのがこの70系であり、日本のオフロードマニアからも常に再販が熱望されています。
トヨタ ランドクルーザープラド
元は70系ランクルから派生し、70系ほどスパルタンでタフではなく、200系ほど豪華ではないものの、いくらか扱いやすいサイズと価格で日本などの先進国の大衆向けランクルとして人気の高い「ランドクルーザープラド」も、ラダーフレームが採用された立派なランクル一族です。
トヨタ ハイラックス
現在はSUV版のハイラックスサーフがプラドに統合されたものの、ファン向けに日本国内でもタイ製ピックアップトラックが販売されているのが、ハイラックスです。
ラダーフレームの本格派ですが、ダブルキャブの豪華仕様しか輸入されていないため、「もっとオフローダーらしく泥臭い安価で質素なハイラックス」の販売を熱望する声も根強いのが現実です。
スズキ ジムニー / ジムニーシエラ
日本がランクル一族とともに世界へ誇るオフローダーがジムニーで、小型軽量ゆえに狭い道での使い勝手や登坂性能、悪路走破性はランクルをしのぐ面もあり、絶対的なエンジンパワーや重さがメリットとなる局面を除けば、最強オフローダーとの呼び声高い1台です。
ミニGクラス的な外観になった現行モデルは、その無骨さにより、硬派なオフローダーを望むユーザーからの人気が爆発。
生産キャパを大幅に上回る受注に加え、同クラスのライバルが不在な事により、長期の納期待ちと中古車価格や買取価格の高騰といった現象がなかなか収まりません。
自衛隊 1/2tトラック
三菱は3代目パジェロからビルトインラダーフレームに切り替えられましたが、自衛隊版パジェロ「1/2トラック」はラダーフレームの2代目ベースで、「空挺作戦で使ったら壊れないか?」と心配していたマニアの方も安心です。
さらに既に国内販売は終了されており、海外向けも2021年上期で終了するパジェロですが、1/2tトラックは引き続き防衛省から調達予定が公表されており、今後も生産が続くらしく、国防面も安心となっています。
ジープ ラングラー
ラダーフレームの頑丈なオフローダーで、過酷な環境の軍用でも十分耐え得る車といえば、元祖はアメリカのジープです。
その直系子孫であるジープ ラングラーはもちろんラダーフレームが継続されており、アメ車で唯一ウケがよい「ジープ」ブランドの真性オフローダー担当(他の「ジープ」はモノコックのSUV)として、日本でも人気となっています。
メルセデス・ベンツ Gクラス
ランクルやジープ、さらに近年モノコック化してしまったランドローバー ディフェンダーとともに、元は軍用上がりのオフローダーとして登場したメルセデス・ベンツのGクラスも、高級SUV化されつつも、ラダーフレームによるタフネスぶりは健在です。
200系ランドクルーザーが「オフローダーの王様」ならば、Gクラスはドイツ車らしく「帝王」か「皇帝」でしょうか(ならばアメ車のラングラーは「大統領」で、ジムニーは…「会長」くらい?)。
オフローダーある限りラダーフレームは不滅
頑丈なラダーフレームに無骨なボディを載せ、悪路をものともしない駆動システムや足回りを組み合わせたオフローダー達ですが、ここにも近年の自動車界を騒がせている「電動化」の荒波が、遠慮なく押し寄せています。
ラングラーはPHEV(プラグインハイブリッド)版が発表され、モデルチェンジが近い次期ランドクルーザーも、当初はともかくいずれマイルドハイブリッド化、Gクラスやジムニーも遅かれ早かれ続くはずです。
そうしないと、メンテナンス面や信頼性の面で電動化が厳しい新興国ではともかく、少なくとも先進国では2030年代になると電動化してない車は販売できない事になっているため、否応はありません。
しかしパワートレーン(動力)が変わっても、悪路走破性とタフネスぶりを保証するラダーフレームだけは変わらないはずで、今後は電動化とラダーフレームがどう組み合わせられるのか、走行用バッテリー搭載でさらに重くなるデメリットをメーカーがどう工夫するのかなども、見どころになりそうです。