今でも「1960年代、せめて70年代の車じゃないと旧車と認めない」という風潮がありますが、バブル崩壊の余波が地方にもヒタヒタと迫る1990年代半ばあたりも、そのへんの事情は同じで、1980年代の車を「ネオヒストリック」などと呼んだりもしていました。あれから四半世紀がたち、当時20~30年前の車が今は50~60年前の車、ならば1990年代の車も旧車でよいのでは?と思う事も多々。それゆえか、最近は古い車に妙なプレミアがついています。
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1990年代における「旧車」とは?
バブル時代の絶頂から、バブル崩壊後の転落で超絶不景気がどん底を極めた1990年代。そんな当時の「旧車」とは、どのような車だったのでしょうか。
1995年にWindows95が発売され、「熱心なマニア向けのパソコン通信」から、「広く一般へ門戸が開かれたパソコンによるインターネット時代が到来」したとはいえ、今から考えれば高額で低性能のパソコンに、低速で画質の粗い画像1枚落とすのも時間がかかる通信回線と、光ファイバー通信や4G通信以降の情報化社会にはほど遠い状況です。
当時は、まだ主な情報源は雑誌の限られた誌面に頼らざるを得ず、今では一部の好事家や往時の関係者によって少しずつ詳細が明らかになっているマニアックな車よりは、初代/2代目スカイラインGT-R、トヨタ2000GT、初代トヨペット クラウン、マツダのロータリーエンジン各車など、今でも神話性をもって語られる人気車種が国産「旧車」のメインでした。
輸入車となるとさらに情報は乏しく、どうやらスーパーカーブーム時代のフェラーリやランボルギーニが最高速300km/hを謳っていたのは誇張だったらしいと、一般にも理解された頃です。
しかもシトロエン2CVは1990年まで、現在のBMW車になる以前の「ミニ」や、戦前以来のフォールクスワーゲン タイプ1「ビートル」はまだまだ新車を生産中で、ミニなどの最大の市場となっていた日本では、まだまだ人気だったため、旧車どころか現役車種もいいところでした。
それでもエンスー(エンスージアスト=「熱狂的な支持者」)向けの雑誌や漫画で、さまざまなエピソードとともに紹介される1950~1960年代の「外車」は、なかでもバブル時代にメルセデス・ベンツやBMW、アウディなど輸入車が庶民にも身近な存在になっていた事もあり、一般への認知度も高まっていた頃です。
つまりミニとビートル、シトロエン2CVを除けば、国産・輸入を問わず「1990年代の旧車は、2020年代の今も旧車」となっています。
現在と最も異なるのは、ビートルにビンテージ性があまり広まっておらず、1980年代に500円玉が登場した記念でビートルの中古車が500円で叩き売られていたり、バブル時代など「女子高生が乗りたくない外車No.1」にされていた事でしょう。
一歩間違えれば他の輸入大衆車も同じ憂き目にあうところでしたが、フィアット500(アバルトチューン)やシトロエン2CVは「ルパン三世」で、ミニは「シティハンター」など、視聴者の年齢層が比較的高いアニメで活躍した車は人気があったように思います(ビートルはアニメ「未来警察ウラシマン」や、水谷豊のドラマ「事件記者チャボ!」くらいだったような?)。
当時からわかりやすかった「明らかに旧車」な境目
昔も今も「旧車」として一番わかりやすい境目は1970年代で、第4次中東戦争の影響でガソリン価格の高騰をもたらした「第一次オイルショック」と、日本車やヨーロッパ車にとって大市場であるアメリカで、当時としては非常に厳しい排ガス規制を強いた「マスキー法」に対処すべく、低排出ガスと省エネ路線へと世界中の自動車メーカーが熱中した時期でしょう。
国産車も外車もこの頃は、ガソリンを大食らいするハイパワー車などもってのほかで、排ガス規制対策もあって、パワーダウンに吹け上がらないエンジンのオンパレードという暗黒期。特に1970年代半ばの国産大衆車は、各種対策と高性能化の両立に成功した新世代車が1980年代に出揃うと廃車が進み、現存台数がもっとも少ない時期とも言われるほどです。
中には1960年代までが旧車とする声もありますが、おおむね1973年の「昭和48年排出ガス規制」より前の車を旧車とする意見は多いようで、次いで1970年代末までの「暗黒期」も、黒歴史的な意味で旧車に含む人は多いかもしれません。
旧車に準ずる「ネオヒストリック」という考え方
では、1980年代はどうなのでしょうか?(ターボエンジンやロータリースポーツの初代サバンナRX-7が登場した1970年代末も一部含む)
1990年代の旧車系自動車誌でよく議論になったのはこの世代で、何しろ販売終了から10年と経たない車が多いものの、1988年あたりから増加した「高回転高性能自然吸気エンジン(DOHC VTECなど)」や、RVブーム以前の車は、それ以降の国産車と性能や品質が明らかに異なります。
特に1980年代はじめからバブル時代にかけての流行だった、2ドア/4ドアハードトップのハイソカーなど、後継車の販売がまだ続いていたにも関わらず、1990年代にはもう「懐かしい存在」になりつつあった事から、これをヒストリックカー以上現行車種未満の存在として「ネオヒストリック」と呼ぶ動きもありました。
具体的には2代目までのソアラ、セリカXX、当時のマークII3兄弟、スカイラインならR30やR31、RX-7ならFC3S/FC3Cなどですが、「1990年代の日本車黄金期とは明らかに異なる国産車」として、当時から旧車に準じた扱いが始まっていたのです。
一方で、トヨタのAE86カローラレビン/スプリンタートレノなど、漫画「頭文字D」での活躍が始まって、新しい話題を提供し続けたため、当時から「ネオヒストリック扱いにもなり損ねた車」はありました。
かつては「30年前の車なら間違いなく旧車」、しかし今では…?
1990年代における「30年前の車」といえば、クラウンやセドリック、グロリアが小型車枠の拡大で2リッターエンジンを積むようになり、そして1969年デビューの初代フェアレディZあたりまでを指し、今はもちろん当時も間違いなく旧車と呼べました。
しかし、2020年代における「30年前の車」といえば、初代NSXや初代ロードスター、BNR32スカイラインGT-R、そして間もなく80スープラもそのジャンルに入り、EG6シビックSiRやEF8 CR-Xなど、ホンダのDOHC VTEC車も入ります。
これらはモータースポーツの競技会やサーキット走行会では今でも現役で活躍しており、環境重視、高効率志向、安全性重視のために大きく重くなった現代の車に比べて、技術の向上による性能アップ以上に軽くて速く、チューニングも容易というメリットがあるため「1990年代における30年前の車」とは、同じ立場とはとても言えません。
1990年代というのは本当に国産車が飛躍的な向上を果たした時期で、それに比べれば1960~1970年代の車など多少性能が良くとも、それを発揮させるには気難しい骨董品レベルで、1980年代前半の車も品質や性能で太刀打ちできないため、「旧車とは何か」がわかりやすい時代でした。
今はかえって「旧車」の方が安い?
現代でも通用する高性能と、海外での人気により、1980年代末~1990年代の国産車人気はすさまじく、スポーツモデルは中古車市場で1,000万オーバー、安くとも500万円を下らないプレミアがつく事も珍しくありません。
もちろん1970年代までの「明らかに旧車」も高価には違いありませんが、維持管理が困難で活躍の場も少なく、海外での人気という意味でも1990年代の国産車に及ばないとあって、トヨタ2000GTや初代/2代目スカイラインGT-Rなど、ごく一部の例外を除けば、相対的に安く感じるようになったのは不思議な気分です。