最近、タイヤメーカーが再生タイヤについての取り組みを強化しています。再生タイヤなんて売り出しても、メーカーの利益が半減するのではないかと思ってしまいますが、今では国内外の多くのタイヤメーカーが再生タイヤの生産に着手。品質も、昔に比べれば相当良くなっているといわれています。それでも再生タイヤは心配という方のために、その詳細や製造工程、信頼性などを紹介していきましょう。
トラック・バス等の維持費削減に再生タイヤは大きな味方
クルマの消耗品として代表的なモノといえば、エンジンオイル、ブレーキパッド、タイヤ等が挙げられると思います。
そして、その中でも金額が大きいのがタイヤです。
そのため、トラック・バスといった大型商用車のみになりますが、タイヤのコストを下げる有効手段として再生タイヤを使用することがあります。
再生タイヤはトレッド部分が新品になることで、中古タイヤよりも高い耐久性とグリップ力を発揮します。
とはいえベースは使用済みタイヤなので、不安に感じる方も多いと思います。
しかも、バスやトラックなど大きな商用車に使用するのであれば、なおさら心配に思うことでしょう。
再生タイヤとは
再生タイヤは別名『リトレッドタイヤ』または『更生タイヤ』と呼ばれており、走行して摩耗してしまったトレッドゴム(路面と接する部分)を新しく貼り替え、タイヤとしての機能を甦らせて再使用するタイヤです。
再生タイヤの歴史は意外に古く、日本では高度経済成長期が終わる前あたり(1970年前後)から台頭し始め、普及率でみると日本が18.2%に対し、アメリカ52%、ドイツ43%と高い水準です。
これは、トラック業界がコスト削減のために編み出したタイヤ再生術ですが、今では環境問題の観点からも資源の利用を削減できるエコロジーなタイヤとして、タイヤメーカーも古タイヤの回収と再生タイヤの製造を積極的に行っています。
再生タイヤのメリットとは
現在、国内にある再生タイヤ製造会社は全部で21社あり、40の工場が再生タイヤの生産を行っています。
そのなかで更生タイヤ全国協議会に加盟している企業には『ダンロップリトレッドサービス』、『ブリジストンPRM』など国内タイヤメーカーの傘下にあるメーカーが名を連ねています。
さらに、日本ミシュランタイヤも20年前からトラック用再生タイヤを販売しており、その柱は『3R』。
3Rとは、ミシュランだけでなく世界中の再生タイヤメーカーで言われる合言葉のようなもので、意味は次のようになります。
リトレッドタイヤ(再生タイヤ)の3R【Reduce/Reuse/Recycle】 | ||
---|---|---|
リトレッドタイヤの3R | リデュース(Reduce) | 資源の投入量の削減 製品の長寿命化による廃棄物の発生抑制 |
リユース(Reuse) | 一旦使用された製品の再利用 | |
リサイクル(Recycle) | マテリアルサイクル(原材料としての再利用) サーマルリサイクル(熱利用) |
再生タイヤのメリットは、ユーザーのコスト削減に貢献できること。
3Rで謳われている、”資源の削減”による環境配慮に大きく貢献できることです。
タイヤの原料であるゴムは自然から採取される資源であるため、再生タイヤは新品タイヤの製造時に比べ、約68%の資源を削減でき、これによりタイヤ製造時におけるCO2排出量を約64%削減しています。
しかし、再生タイヤを販売することで、タイヤメーカーの利益が下がることも考えられますが、古タイヤの回収から検査、再生タイヤ製造、そして販売とグループ会社が一団となって行い、再生タイヤを普及させても利益を確保できる仕組みを目指しています。
このようにタイヤ業界全体が再生タイヤの普及に取り組んでいるため、昔に比べて再生タイヤの質はかなり向上しているといわれているのです。
なぜなら、日本が参加したパリ協定で、日本は温室効果ガス排出量の9割を占めるエネルギー起源二酸化炭素の排出量について、2030年度目標を2013年度比25.0%削減の水準(約9億2,700万トン)を発表しており、世界中にタイヤを供給する日本メーカーとしては、再生タイヤ事業への積極的にならざる追えない立場なのです。
乗用車用に再生タイヤはないのか
再生タイヤはバスやトラック、さらには飛行機といった大型のものしか存在しません。
なぜかというと、国内の乗用車用タイヤは12インチ~21インチ、扁平率30~80で220サイズがあり、そのなかで乗用車用タイヤのメインサイズとなる約100サイズをリトレッドするためには、多額の投資をしないとなりません。
そのため乗用車用の再生タイヤを販売しても、利益が薄い上に発展途上国から輸入される安価なタイヤのほうに人気が集中してしまうのです。
また、乗用車のタイヤは、乗り心地や燃費性能を重視して開発されるため、サイドウォールを薄くしており、タイヤのトレッド部分が摩耗すればタイヤ全体の構造体の劣化も進行してしまいます。
よってトラックのような頑丈さがなく、再生タイヤにしても新品時のような強度と耐久性が保証できない事も理由のひとつです。
といっても、昔は一部で乗用車用再生タイヤが販売されており、『ピレリP6』の先代モデルは再生タイヤとして販売されていたものもありました。
再生タイヤはどうやって作られるの?
再生タイヤの製法は『リトレッド方式』と『プレキュア方式』があります。
リトレッド方式は、トレッド部を除去した台タイヤ(使用済タイヤ)にタイヤ1周分の未加硫ゴムトレッドを巻き、トレッドパターン付モールドに入れて加硫する方法。
トレッド押出・加硫工程においては新品タイヤ製造と同等の設備が必要で、コストがかかりますが、トレッドの継ぎ目が目立たず新品タイヤ同様の美しい仕上がりで生産が可能です。
プリキュア方式は、予め加硫しておいたトレッドを台タイヤに未加硫ゴムを介して貼り付け、加硫缶と呼ばれる圧力容器に入れて加硫する方法で、リトレッド方式に比べれば初期投資が安く、生産するうえでのコストが抑えられるため、小規模リトレッダー(プレキュアトレッドを組み合立てる工場)が展開しやすいのが大きなメリットです。
また、2つの方式で共通の工程が、『台の受け入れ検査』、『バフ工程』、『修理工程』で、台の受け入れ検査ではもう一度リトレッドタイヤとして使用できるか目視・手触りの外観チェック、通電による釘踏みの検出、タイヤ内部の空隙の検出するためのレーザー検査が行われます。
そしてバフ工程では、台タイヤに残ったトレッドを削り、トレッド形状に合う形に整え、修理工程では釘踏みやトレッドカットによるスチールコード損傷などがあれば、その部分を補修するために修理ゴムや部修ゴムなどの未加硫ゴムで穴詰めします。
この3つの工程が行われた後、リトレッド方式の場合はパターン型のあるモールドに台タイヤを入れて加硫ゴムを流し込み、成型。
プレキュア方式の場合は、クッションゴム(未加硫ゴム)を配置し、新トレッドと台タイヤを接着させ圧力容器で成型します。
再生タイヤの安全性は
国内の再生タイヤは、『JIS K 6329』という規格が設けられており、基本的な『種類』『寸法=タイヤ総幅、外径』、『サイズ別の空気圧』、『荷重能力』等、さらには『引張強さ』『剥離強さ』も厳格に定められています。
また、再生タイヤを使用するうえでの制限がいくつかあり、使用再生回数は原則1回、1軸に2本タイヤを装着する場合は、前輪装着を原則推奨しないとしています。
さらにミシュランでは、台タイヤの情報の可視化を目指し、2014年12月からWEB管理サービス『e-Retread』の運用を開始。
台タイヤがどういう状況になっているのかをネット上で即座に確認することが可能です。
このように、再生タイヤにはいくつかの制限がかけられており、そこが新品タイヤに比べればデメリットではありますが、これら規則を守っていれば、大きな事故を未然に防ぐ事が可能です。
ちなみに、再生タイヤにおける重大事故といえば、2006年11月に大阪府堺市西区内の府道で、大型クレーン車のタイヤが破裂し、その風圧で隣の車線にいたクルマが大破。
1人に軽傷を負わせた事故があり、その時破損したタイヤが再生タイヤでした。
後に大阪府警の調べによると事故起こしたクレーン車に装着された再生タイヤは左前輪であり、前輪装着を原則推奨していないという点では、再生タイヤの利用ルールを守っていないことになります。
これ以外に再生タイヤ装着が原因となる大きな事故は報告されておらず、正しい使い方をしていれば、再生タイヤも安全に使うことができるのです。
まとめ
タイヤはクルマの中で唯一地面と接するパーツなので、消耗部品とはいえ良いものを使用しておきたいのがドライバーの常。
使用済みタイヤから製造された再生タイヤには少し抵抗を感じると思われますが、多くの国産再生タイヤは厳格な検査や製造工程で作られています。
安全性とコストを天秤にかけるのは難しいところですが、信頼できるところで購入した再生タイヤであれば、安全性と低コストの両立が可能でしょう。
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