2016シーズンもスーパーフォーミュラに参戦している小林可夢偉。2015年は3度の表彰台を獲得する活躍を見せたが、今年は一転して大苦戦。なんと第5戦を終えてノーポイントに終わっている。これまでF1などでも活躍し、彼の活躍を期待するファンも多くいる中、こうして結果だけを見ると「可夢偉は一体どうしてしまったのか?」と疑問に思っている方も多いだろう。可夢偉のここまでの戦いや苦しんでいるポイントを振り返ると、そこにはスーパーフォーミュラ特有の“難しさ”が見えてきた。

Photo by Tomohiro Yoshita

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ミスと不運から始まった2016開幕戦

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まずはここまでの可夢偉のレースを振り返っていこうと思う。

2シーズン目の迎え、序盤の出だしは決して悪いわけではなかった。

3月に行われた鈴鹿での合同テストでは総合2番手タイムをマーク。続く岡山の合同テストでも上位に食い込んでいた。

昨年は国内でレースするのが12年ぶりということで、鈴鹿と富士を除くほぼ全てのコースが自分が初体験に近い状態。「

初めて走るコースが一番の敵」というほど可夢偉も経験不足の点を気にしていた。

しかし、全てを経験した2年目は怖いものはない状況。テストからもガンガン攻めていく走りを見せ「可夢偉らしさ」が戻って来た印象だった。

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そのまま迎えた開幕戦。もちろん優勝のチャンスもあったが、「2つのミス」で、それが潰えてしまう。

予選では前年チャンピオンの石浦宏明がQ1で不運のタイム抹消。アンドレ・ロッテラー、中嶋一貴らもQ2で脱落するという展開の中で、可夢偉は順当にQ3へ。

ポールポジションも見えていたが、アタック中に痛恨のミス。タイムを伸ばせず8番手に終わってしまった。

翌日の決勝で何とか挽回をみせようとアグレッシブな走りを見せ、早い段階でピットストップも敢行。

しかし、そこで右リアタイヤがしっかり固定されないトラブルに見舞われ大きくタイムロスを喫してしまう。結果16位という結果に終わってしまった。

不運はありながらも、随所で光る速さをみせていた可夢偉。次のレースならきっと巻き返すだろう。

この時は誰もが楽観的な考えを持っていた。

 

第2戦でのQ1脱落、ここから負の連鎖がスタート

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ちょうど1年前は2位表彰台を獲得した思い出の地である岡山国際サーキット。ここから大きく流れが変わっていくことになってしまう。

20分間で行われた予選Q1で思うようにタイムを伸ばせず17番手。自身にとっても初のQ1敗退となった。

翌日の決勝は大雨により途中でレース終了となったが、午前中のフリー走行はドライコンディションで走行。

その結果を受けた可夢偉は「右折か左折(=大きな方向転換)が必要」とコメント。ここからトンネルに入り込んで行ってしまう。

第3戦富士では雨の予選で、わずかの差でQ2脱落。決勝もペースが伸びず10位フィニッシュ。

タイヤの内圧のバランスなどに問題があったようで、途中にタイヤ交換をするも解決されずだった。

 

第4戦もてぎで見えたわずかな兆しも…

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とにかく上手くいっていない状態が続いていたが、第4戦のもてぎで少し希望が見える。

予選こそ14番手と苦戦してしまうが、決勝では上位の脱落にも助けられポジションアップ。

最後は山本尚貴とポイント圏内の8位をかけた争いを展開。最終的に0.4秒届かず今季初ポイントとはならなかったが、レース中にはファステストラップも記録。

レース後も「まだまだ方向転換は必要だが、前よりかは良くなった」と少し自信をみせていた。

そして迎えた第5戦岡山。土曜日にRace1の予選・決勝、日曜日にRace2の予選・決勝が行われる変則スケジュールだ。

フリー走行では2番手タイムを記録。セッション中のタイム推移もよく、明らかに今までとは違う勢いを見せていたが、公式予選でまさかのミス。

スピンを喫してしまい赤旗中断の原因を作ってしまう。それまでの好調さから一転し19番手スタート。決勝もペースが伸びず18位でレースを終える。

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気を取り直して臨んだRace2の予選は2ラウンドのノックアウト方式。トップタイムでなかったものの、Q2に進出。

久しぶりに上位グリッドに顔を出すチャンスかと思われたが、ウォームアップ中にアトウッドカーブでブレーキトラブルに見舞われコースオフ。またしても千載一遇のチャンスを失った。

決勝もポイント圏内に進むことができず、17位でフィニッシュ。またしても可夢偉の2016年は開幕しなかった。

 

全てが噛み合わなければ上位にいけない…

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ここまでセッティングも色々変更し様々な対策を施してレースに臨んできた「何をしてもあかん」とコメントしていた可夢偉。なかなか現状を打開する策が見つかっていない状況のようだ。

F1での活躍を知るファンからすれば「なぜ可夢偉がスーパーフォーミュラでこんなに苦戦するのか?」と疑問に思っているだろう。

理由はおそらく「マシンセッティング」と「タイヤ」だ。

現在のダラーラ製のマシンになって3年目。さらに今年はヨコハマタイヤに変更になったこともあり、トータルでのマッチングに苦しんでいるチーム、ドライバーも少なからずいる状況だ。

前述でも触れたが、第2戦岡山での予選Q1敗退時に「(トンネルに)ハマってしまったかもしれない」と語っていた可夢偉。

スーパーフォーミュラのレベルの高さゆえに、マシンセッティングはドライバーの好みとコースコンディション、そしてまだまだ熟知できていないヨコハマタイヤとのバランスを100%と言えるくらいまで完璧に合わせないといけない。

もちろん、それを達成するのは超至難の技なのだが、それが出来たチームが上位に食い込み、1%でも足りなければQ3に進出できないくらいシビアなカテゴリーなのだ。

可夢偉以外にも、過去にベストなセッティングを見出せず何戦も苦労したドライバーがたくさんいる。それだけに、今回の状況は決して珍しいことではない。

ただし、一番重要なのはここから抜け出すことが大変ということだ。

答えが見つかればそこから復活していくことはそう難しくはないが、第3戦富士から様々なセッティングをトライし、まだ解決の糸口が見えていない様子だ。

 

これがF1にはない“スーパーフォーミュラの難しさ”

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F1とスーパーフォーミュラを比べると、確かに速さのバロメーターになる1周のラップタイムではF1の方が上だし、認知度の差も圧倒的にある。

しかし、F1の場合は使用しているマシンはそれぞれ別。ドライバー同士の戦いでもありながらコンストラクター(製造者)同士の戦いでもある。

そのため、マシンの性能差で結果が大きく左右されることが多いのだ。

その良い例が、現在のメルセデス陣営。マシンのベースから明らかに他より差がついており、連戦連勝を見せている。

おそらくドライバーが今の2人でなくても、結果が変わらないくらいだろう。

ところがスーパーフォーミュラは、マシン・タイヤともに全車共通。それだけにドライバーやチームの差、そしてコースなどの経験値の差で勝敗が決まる。

また最近は、タイム差も非常に拮抗してきており、ほんの些細なミスで順位が6つも7つも変わってしまう。それはマシンセッティングにおいても同じなのだ。

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その点で可夢偉は「クルマを思い通りに動かせないんです。今回もなんか、初心者みたいな運転になってしまいますし。恥ずかしい感じです。前回のもてぎで“これかも?”という方向はを試して良くなったんですけど、ロング(決勝でのロングラン)になると壁が見えていることが分かった」とコメントしている。

やはり現状では100%と言える状態ではない模様。しかし、スーパーフォーミュラは、そこを100%にしないとなかなか勝機が見えてこない。ある意味、F1よりもずっとシビアなカテゴリーなのだ。

 

まとめ

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2016シーズンも残り2戦。「このまま開幕できないまま終わってしまうかもしれない」と、ここまでの結果に少々弱気気味の可夢偉だが、次のスポーツランドSUGOと最終戦の鈴鹿は昨年も特に結果が良かったコース。

逆に苦戦した中盤戦とは異なるコース特性であるため、これが上手く作用する可能性もある。

苦しい状況ではあるが、この逆境を乗り越えられれば、間違いなく今季のどのドライバーよりも秘めたるものを持っているのは確実。

彼のレースキャリアで久々の優勝も見えてくるかもしれない。

 

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