23秒差を生み出した2つのキーポイント

©︎Tomohiro Yoshita

今回のもてぎラウンドは200分(3時間20分)の耐久レース。しかし、結果的にゴールした段階での両者のタイム差は23秒。実はレース前半から、1号車と3号車のみが抜け出てバトルをする展開となったが、どこでこの23秒差が出来上がったのか?キーポイントは2つあった。

藤井の好スタートで流れを呼び込む

©︎Tomohiro Yoshita

3番手スタートだった1号車スリーボンドGT-R。いつも通り藤井がスタートドライバーを担当した。昨年までは予選で後ろに下がっても、レースの流れの中でトップを奪還していくというイメージだったが、今回は直後の1コーナーから仕掛けていき、フロントローの2台と3台並んだ状態で突入。一番内側にいた1号車がトップに躍り出た。

その追い抜きシーンは「何としてもトップに立つ」という藤井の気迫が垣間見えるものだった。やはり、3号車を警戒してスタートで勝負をかける必要があると判断していたようだ。

「間違いなく3号車と一騎打ちになると思っていたので、スタートで前に出て逃げようと思っていて、それが狙い通りに行きました。そこで流れを呼び寄せられたと思います」

プラチナドライバー同士での対決となった第1スティント。トップに立った藤井は1周目から逃げようと必死にプッシュするのだが、相手もスーパーGTで活躍する山内英輝。しかもマシンは同じGT-Rということで、差は大きく広がらなかった。

結局2台が並んで、37周目にピットイン。ここでも、0.1秒を争う緊迫したピット作業となり、2台共並んだ状態で第2スティントに突入。つまりエース対決では決着がつかなかった。

しかし、スタート時と唯一変わっていたのは、1号車が前にいること。これは間違いなく藤井が仕掛けていった結果によるもので、これが第2スティント以降の展開に大きく影響したのだ。

内田が逃げ、平峰がリードを維持

©︎Tomohiro Yoshita

2台のトップ争いはジェントルマンドライバーによる第2スティントへ。1号車には内田優大、3号車にはYUKE TANIGUCHIが乗り込んだ。

両者ともにジェントルマンドライバーとは言うものの経験豊富なドライバー。だが、ここが勝敗を分ける重要なポイントになると考え、1号車はしっかりと対策を施していたのだ。

©︎Tomohiro Yoshita

これについて、近藤監督は次のように振り返った。

「やっぱりプロ(プラチナドライバー)同士の戦いで差をつけるのは非常に難しい。またジェントルマンドライバーも上位のチームになるとみんな速いです。だから、何があっても慌てさせないで、ミスもさせないで、次に引き継がせる。そこのコントロールが一番大事です。そこでのミスを少なくしたのが大きかったんじゃないかと思います」

プロのドライバーとは異なり、普段からレースをする時間が少ないジェントルマンドライバー。特にレース中の駆け引きという点では、プロと比べると引き出しは少ない。また、ちょっとしたことでも動揺し、それがラップタイムに大きく影響してしまう。

近藤監督は、そこを強力少なく抑えるために、内田のメンタル面をケアする方向で動いていたのだ。

©︎Tomohiro Yoshita

実際に、両者ともミスのない走りで周回を重ねていく2台だが、ペースが良かったのは1号車の内田。1周あたり0.5~1秒ずつ3号車のYUKEを引き離していったのだ。

もちろん、YUKEも必死に追いかけていくが、差は広がる一方。気がつくと、ピットアウト時には1秒ほどしかなかった差が、20秒にまで拡大していった。

「監督からはリラックスして、気負わずにいくようにとアドバイスをいただきました。とても力強かったです」と語る内田。このレースの勝敗を大きく左右した瞬間だったのかもしれない。

©︎Tomohiro Yoshita

これで残り1時間というところで2回目のピットインを行い、1号車のアンカーは平峰一貴。昨年同様に2人が築いてくれたリードをしっかり守りきる走りを披露。もちろん、平峰が安定して走れたのも、藤井がスタートで仕掛け、内田がリードを築いてきたからこそ。近藤監督も「内田さんの20秒(リードを作ってきたこと)は大きかった」と振り返っていた。

最終的に23.283秒差でトップチェッカー。1号車が、200分に及ぶライバル対決を制した。

 

“1号車”だからこそ、勝たなきゃいけなかった開幕戦

©︎Tomohiro Yoshita

レース終了後、チームメイトやメカニック、そして手伝ってくれた学生たちと勝利の喜びを分かち合っていた藤井。そこには、今までになく安心したという表情をしていた。

実は、彼らは強敵だった3号車に加えて、大きな“プレッシャー”と戦っていた。

「昨年チャンピオンをとって、結果を出すのが良い意味で当たり前になってきていて、正直この開幕戦を迎えるのに、ものすごい(結果を出さなきゃいけないという)プレッシャーがありました」

記事冒頭でも触れたとおり、彼らは昨年6戦中4勝をマーク。残る2戦でも表彰台に上がっており、強くて速いという印象をライバルたちに与えた。

©︎Tomohiro Yoshita

そして、カーナンバー1をつけて臨む今シーズン。ディフェンディングチャンピオンだからこそ、かっこ悪い走りはできない。結果を出さなきゃいけない。それが、チーム全員にプレッシャーとして重たくのしかかっていたのだ。

しかし、結果はご存知の通り、周りが望む最高のリザルトを獲得。藤井も「苦しかったけど、勝てたので、また大きな自信になりましたね」とコメントしていた。

 

ミスをした方が負け、タイトル獲得への戦いは始まったばかり

©︎Tomohiro Yoshita

今回は1号車が勝利したが、シーズンを考えると戦いはまだ始まったばかり。

そういう意味で、レース直後の近藤監督は“まだ、喜ぶのは早い”と気を引き締めているような表情だった。

「3号車が、ずっと2位で来られると、やっぱり恐い。このレースは1戦でも0ポイントになっちゃうと、チャンピオン争いの半分を失ってしまうので、絶対にミス、リタイア、0点はナシでいきたいです」

スーパー耐久では、1レースあたりで獲得できるポイントが大きく富士スピードウェイなどの長距離戦ではボーナスポイントも付く。さらに全6戦しかないため、どこかで何かミスをして、ペナルティを受けてしまったり、リタイアで0点になってしまうと、取り返すのは非常に大変なのだ。

近藤監督をはじめ、3人のドライバーともに、今回の勝利は喜びつつも“戦いはまだ始まったばかり”と、チャンピオンらしく冷静に振舞っていたのが、印象的だった。

 

まとめ

もちろん、2位となった3号車のエンドレス陣営も、黙っているはずがない。エースの山内も「この結果が続かないように、少しでも早く前に行けるように頑張りたい」とコメント。次のSUGO戦でリベンジを誓っていた。

間違いなく、昨年から今年にかけてレベルが急上昇したスーパー耐久。特にST-Xクラスは些細なミスも許されないシビアな戦いが毎戦繰り広げられていくだろう。

どうしても、国内レースではスーパーGTやスーパーフォーミュラばかりが注目されがちだったが、スーパー耐久も見どころ満載のレースが、第2戦以降観られそうだ。

あわせて読みたい
スーパー耐久から今年も目が離せない?最後の最後で逆転劇が起こったST-4クラス
スーパー耐久2017開幕戦!注目のST-XクラスはGT-R同士のガチンコ対決に!
スーパー耐久2017開幕!ホンダvsアウディのST-Rクラスに注目が集まる!

[amazonjs asin=”B000JYVWHW” locale=”JP” title=”スーパー耐久シリーズ 2005総集編 DVD”]

 
Motorzではメールマガジンを始めました!

編集部の裏話が聞けたり、月に一度は抽選でプレゼントがもらえるかも!?

気になった方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みいただくか、以下のフォームからご登録をお願いします!