限りなくイコールコンディションを保つために、エンジン・タイヤは特定メーカーのワンメイク。シャーシのみ各メーカーのプロトタイプで争われるMotoGP moto2クラス。その舞台に唯一のオリジナルシャーシを持ち込み、世界に戦いを挑む日本企業があります。その企業の名前は『エヌ・ティー・エス(NTS)』。福島県に社屋を構える精密金属機械加工サプライヤーです。そんなNTSを率いる生田目社長に、MotoGP日本グランプリで突撃インタビュー!世界の事やロードレースについて、色々と聞いてきました。

©ChikaSakikawa

エヌ・ティー・エスってどんな会社?

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株式会社エヌ・ティー・エス(NTS Co.,Ltd.)は、福島県石川郡に社屋を構え、主に小ロットの精密金属部品機械加工を請け負うサプライヤ―です。

一言で精密金属部品機械加工サプライヤーと言ってもそのクライアントは多岐にわたり、NTSでは航空宇宙産業、ハイエンド競技用車両製品(自動車・自動二輪車製品)、医療及び船舶関連業界などの業界との取引があります。

『人と技術の調和をめざし、つねに新しい技術の進歩を目標とする』を会社理念に、最先端の精密金属部品機械加工技術を提供しています。

そんなNTSが自社製moto2シャーシ『NH6』を開発。

2年間のCEV レプソルインターナショナル選手権 moto2クラスへの参戦を経て、今季『NTS RW Racing GP』として、世界選手権のmoto2クラスにステップアップを果たしました。

生田目社長に聞いてみた!日本と世界のロードレース

株式会社 エヌ・ティー・エス 代表取締役社長 生田目 將弘氏 / ©ChikaSakikawa

今季からmoto2に参戦に踏み切ったきっかけは?

ここに来る前に、CEVレプソルインターナショナル選手権を2年間やりました。

ファーストシーズンの2016年は、NTS T.Pro Projectというチームでライダーにアラン・ティシェを起用して参戦したのですが、その時は自分のチームではなかったんですよ。

他のチームに間借りさせてもらう形で、ランキングは3位でした。

CEVは2年間続け、2年目の2017年もランキング3位。

そうした形で自分のチームを立ち上げて参戦を開始すると、元々持っていたGP(MotoGP)に行きたいという想いがすごく強くなったんです。

自分のトレーラーを持って、自分のチームで人を揃えて・・・って。

「GPに行きたい!」というのは子供の頃からの夢だったんですよね。

本当はGPライダーになりたかった。

GPライダーになりたかったけど、ダメでもこの業界で飯が食いたかった。

その気持ちから、「やっぱりチームを持ちたい!グランプリでやりたい。」っていうのが強くなったんだと思います。

そんな時にRWレーシングのチームマネージャー、ヤルノ・ヤンセン氏に出会って。

初めて会ったのはバレンシアだったのですが、すぐにバイクを見たいと言ってくれて、本当にすぐ来てくれたんです。

「明後日だったらいるよ。」と言うと、ホントに無理をしてオランダからスペインまで飛行機で⾶んできてマシンを見てもらって、そこからですね。

そこから一緒にGPに参戦しようという流れになりました。

以前から、GPに参戦したいという気持ちがあったのは事実です。

ただ、やりたいからできる事ではないので・・・。

だから、この出会いがきっかけですね。

運もあると思いますよ!人の波長もガチっと合って。

彼がとてもいい人間で、本当に良かったです。

全日本・CEV・MotoGPと参戦してきて、それぞれ違いはありましたか?

CEVと全日本は、そんなに変わらないと思います。

もちろん走らせるものや環境は違いますが、どちらもテストができるじゃないですか?

でもMotoGPは、一応テストはあるにはあるのですが、年間でテストを実施して良いサーキットと日数が主催者から制限されているので、まず事前テストの自由度がないんです。

当然日本でのテストなんてできないし、タイのサーキットなんて全員が初めて。

40分間のフリー走行3本でセッティングを詰つめて、予選でほとんどのライダーが1秒以内のギャップで走ってくるというのは、純粋に「すごいな~!」と思います。

ライダーのスキルが全然違う。

結局1秒以内のギャップの中に、22台とか23台とかいる訳じゃないですか?

やはり初めてのコースで初めて走って、世界のトップレベルに合わせてくるというのはすごいなというのが大きな違いです。

あとは、CEVも去年までGPで走っていたライダーが降りてきたりもするので、世界での自分のレベルが見れますよ。

ジョー・ロバーツ / ©ChikaSakikawa

会社としては母国グランプリとなる日本ラウンドと他ラウンドでは、気持ちは違いますか?

全然違います。

日本グランプリというのは、自分の国じゃないですか?

やはり、その中で戦うというのは怖いですよ。

これで結果が出なかったら、ダメだったらどうしよう・・・って。

でも怖いだけじゃなくて、ようやくここに立てたんだという気持ちもあります。

レギュラーチームですしね。

レギュラーチームとしての地元グランプリ。

自分の気持ちとしては、やはり日本人なのでメイドインジャパンのものを走らせたい!という一心で作ってきた僕の可愛い娘(マシン)が、日本に帰ってきてようやく走る。

でも、今年で今走らせているホンダの600㏄、4ストローク4気筒エンジンを使用してのMoto2マシンは最後のシーズンだから悲しいなって。

複雑な気持ちです。

今年で最後のシーズンなんですか?

来年は2010年から2018年まで採用されていたホンダのエンジンから、トライアンフのエンジンがワンメイク供給されることになっているので、それに合わせてフレームなども大きく変わるので・・・と言っても、いずれにせよ今年使っているものをそのまま来年に持ち越す事はないんですけどね。

基本的には距離で管理しているので、シーズンが始まるごとに新しいフレームなんです。

実際、全日本とかでは数年を通して使用できる部品もありましたが、MotoGPはレース数も多くて距離も長いので、使えるモノでも今年の製品は原則として来年のスペアになります。

使わなくなったバイクを使用して年間の部品代を節約しようとするチームもあるようですが、安全性や性能はもちろん、このプロジェクトの目的からしてもうちのマシンはそのようなことはしないように努めています。

何故かと言うと、レースは情熱でやっていて後悔は残したくないので。

スティーブン・オデンダール / ©ChikaSakikawa

そのこだわりを貫くにあたって、資金面は厳しくなりませんか?

もちろんそれによって、資金面で困る事もあります。

会社でこのプロジェクトをやるにあたって、MAXいくらというのが決まっているのですが、それをどうやって使うかですよね。

そんなに楽なことではないし、正直大変です。

ただ、このプロジェクトをやっていて、絶対に後悔をしたくないんです。

やったはいいけど、あの時これを使っていたら、これがあったら結果が違ったかもしれないという状況ってあるじゃないですか?そう思いたくないんです。

だからライダーのプライベートテストなんかも、これとこれとこれをテストしようって我々の想いを乗せて、そこは必ず入れてもらいます。

ホントに大変なのですが、みんなそういう思いをしてやってるんですよね。

ライダーってそうじゃないですか?それと同じ思いです。

だから、僕が若い頃にレースをやっていた時と変わらないんですよ。

若い頃ってシーズン中はトレーニングをして、走って・・・それを繰り返しながらシーズンオフに入った段階で、当時スポンサーが居なかった僕らなんかは仕事をして、お金を稼いで借金を返す。

で、またシーズンが始まるとその繰り返し。

でもレースってすごく良くて、経営と似てるなと思うんです。

だからレースでそこそこ走れて自分でチームを持ってやっていると、後々仕事につながると僕は思います。

レースの経験が後の仕事につながる??

なんでかと言うと、マネジメントするじゃないですか?

お金があって、それをマネジメントして支払いがあって、そこをやれる人というのはビジネスマンだなって。

僕もなんとか頑張って会社をやっていますが、それができているのはレースをやっていたからだと思うんです。

レースをやっていると、いろんな嫌な思いもしてきたし、色んな辛い思いをしたけど、今に繋がっているのでレースは無駄じゃなかった。

今は、それを運営しながら返していると思っています。

ジョー・ロバーツ / ©ChikaSakikawa

生田目社長がライダーとしてのレースを辞めたきっかけは?

それは、もうプロにはなれないというか、プロとして飯は食えないと分かったからですね。

あとは僕の後輩で近しかった子が亡くなったとかいろんなことが重なって、気持ちが切れてしまいました。

それと、2年と決めていたんですよ。

2年で結果が出せなかったら、年も年だしやめようって。

レースを始めた理由が職業ライダーになりたかったからで、ライダーとして飯を食いたかったんです。

走りたかったってだけじゃないんです。

それで飯を食いたいという明確な目標があった。だから、逆に言うと簡単にやめられましたね。

自分に嘘は付きたくないから簡単にやめられたけど、辞める時はもちろん悔しい気持ちでいっぱいでした。

その時の心残りが今の活動に出ているんじゃないかな。

だからやっぱり、Moto2でも後悔したくないというのが大きいです。

ライダーとしてのレースを辞めた事を今でも後悔しているという事ですか?

やっぱりね、何かをやっていて辞める時って後悔はするよね。

それは仕事でも。

してないってみんな言うけど、俺は嘘だと思う。

後悔をしない所までやり切れた人っていないと思うし。

特にライダーはそうだと思うよ。

「自分がこっちに乗っていたら、どうだったんだろう?」とか、やっぱりあるじゃないですか?

だから、何事も諦めきれるまで頑張れ!って思う。

レースをやっていて苦労した経験は、絶対に無駄にはならないから!

お金が無くて苦労した。そんなの、みんなそうだから。

でもそうやって頑張った事は、絶対に自分にプラスになって返ってくるから。

スティーブン・オデンダール / ©ChikaSakikawa

そんな生田目社長が今季、チームのライダーを選んだ決め手は?

スティーブン(スティーブン・オデンダール)は元々2017年に約束をしていて。

彼はヨーロッパ選手権のチャンピオンなんですよ。

2017年はCEVで一緒にやって、「2018年はGPに行くぞ!」って。

日本人なんで、約束は守るんです。

でも、本当にGPに行けると決まった時にスティーブンはこう言いました。

「Mrナマタメ この業界でGPに行くと約束をして実行してくれた人は生田目社長が初めてだ。

初めてこのパドックで、その言葉を信用できる人に出会った。」

彼は、過去に成績が出せたらGPに行くぞと言ってくれたチームに出会い、チャンピオンを獲ったけど、結局その話はなかったそうです。

実際、そういう世界でもあるんですよね。

ジョー・ロバーツに関しては、今アメリカ人で若いタレント性のあるライダーが欲しくて。

単純に、欲しいライダーでした。

国内、世界とロードレースを見てきた中で、大きな違いはありますか?

自分の中では、そんなに変わりません。

自分のチームを勝たせたいし、自分が面倒を見ている子を世界に出したいし。

全日本なら全日本、CEVならCEV、アジアならアジア。

レースってどこを走ってるかは、そんなに関係ないと思います。

例えばGPライダーがアジア選手権を走ったとしても全日本を走ったとしても、そんなに極端には変わりません。

その時の環境だけの問題で、どこを走っているかとかはそんなに考えていないと思います。

全日本のトップライダーがCEVに来ても全然通用すると思っているし、重要なのは環境の使い方とかマネジメントの仕方。

それができない子はどこに行ってもだめだし、誰かに用意してもらった環境の中でしか速く走れないとそれまでなので。

ただ、エンジニアの経験値の方がライダーより圧倒的に上回っているのがCEVかな?

GPもそれはありますが、もうちょっとその辺のパワーバランスがライダーの要求値の方が高い。

だから、GPライダーの意見を真に受けてセットアップして間違えるケースがうちでもあるし、GPライダーだという前提のもとで話を聞くので、発言の重みをライダー自身が自覚しているかどうかが、CEVとは違いますね。

後、今は分かりませんがGP500とかの頃聞いた話で、日本人ライダーはすごくセッティングにこだわるんそうなんです。

「これがダメだ、これだとチャタが出る。」とかなんとか。

でも海外のライダーは、チャタが出ようが何をしようが、「これが今お前らにできる最高の状態なんだな?わかった。じゃあ後は俺がなんとかする。」と言ってコースに出て勝ってくる。

100%の状態なんてないんですよ。

それを日本人ライダーは100%を求めすぎるから、それで勝てない。

そこが日本と世界の違う所かな?

©ChikaSakikawa

ステップアップを目指す日本の若手ライダーに一言

レースをやっていてその流れをキッチリ組み立てるというのは、絶対に将来役に立つと思う。

例えばスポンサー活動をしている時に、自分がこれだけすごいんですというプレゼンになっているとか。「私をどう使うかは企業側で考えてください。」みたいな・・・。

それはプレゼンとしては他力本願的で、「スポーツ選手でこれだけ成績を出せて、これだけ露出があるんです。」という主張だけで終わってる。

でもマネジメントも優秀なライダーというのは、「だからあなた達のお客様の層に対してこういう事が僕はできます。こういう価値が産めます。」というBtoBのプレゼンに掘り下げてきたりするんですよね。

だけどこれは理屈であって、シビアな商売を目的としているEU圏、アメリカ圏のスポンサーさんなんかは露骨にキックバックがあるか、投資という意味でいくら返ってくるか。そこにお金が出てくるのが現実です。

それともう1つ。垣根無しに好きかどうか。

「エルメス大好き!!」みたいな感じで、無条件に好きな物。

この2つのどっちでもなければ、お金は出てきません。

ビジネスレベルで考えられていない、身内の自画自賛プレゼンが多いと思うんです。

プレゼンもそうだけど、あとは専門用語にも少し問題があるかな。

例えば「NTSが世界グランプリでポイントを獲得しました。」と言っても、ポイントの重みなんて分かる人にしかわからない。

でも、「世界ランカー入りしました。」と言うと「おお!」ってなるんです。

そういう客観的な説明ができていない人が多いと思います。

自画自賛プレゼンをするって事は、自分達の事を知っていてくれますよね?という甘えがあるんです。

そういう事も含めて、これから将来生きていくのにかなり役立つので、そういうものを頑張れ!!!と伝えたい。

家にいてこたつに入っていても何も起きないから、自分で求めていかないと。

自分から行動した方がいいですよ。

最近の若いライダーは、他力本願な子が多いので・・・。

まとめ

©ChikaSakikawa

福島県のいち精密金属加工メーカーが、世界グランプリにレギュラーチームとして挑戦する。

それは、決して簡単な事ではありません。

しかし、諦めきれなかった過去の夢と奇跡的な出会いがNTSを世界グランプリという舞台へ導き、そして2018年シーズンを戦い抜く事ができました。

その結果はジョー・ロバーツ 世界ランキング27位、スティーブン・オデンダール世界ランキング28位という素晴らしいもの。

参戦初年度である今季の目標は、自社の技術力を集結させて開発したオリジナルシャーシで、少しでも多くポイントを獲得する事。

その目標を見事達成して見せました。

そんなNTS RW Racing GPのmoto2への挑戦は、始まったばかり!

是非来季の活躍にも注目していきたいと思います。

NTS公式HP:http://ntsjapan.squarespace.com/

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