日本でのモータースポーツは根強い人気はあるものの、なかなか全盛期ほどの盛り上がりは見られません。しかし、いまだ高い人気を誇り、モータースポーツ人気が衰える事を知らないヨーロッパ。モータースポーツはエキサイティングで、見る人の心を感動の世界に連れて行ってくれる。その内容は同じはずなのに、いったいどこが違うのでしょうか?世界を転戦した経験を持つ、2人のレーサーに海外でのレースを経験して感じた事を聞いてみました。

小椋藍選手(左)YUKE TANIGUCHI選手(右)Photo by Kurihara

 

世界を経験したライダーとドライバー

今回、国内と海外のレースの違いについて話を聞かせてもらったのは、今季ロードレース選手権(MotoGP)moto3クラスにステップアップを果たした小椋 藍選手と、2011年世界ツーリングカー選手権(WTCC)にフル参戦した経歴を持つ、現役S耐ドライバーYUKE TANIGUCHI選手の2人。

共に世界を経験した、レーシングライダーとドライバーです。

小椋 藍 プロフィール

名前:小椋 藍 (Ai Ogura)

チーム名:Honda Team Asia

Bike: Honda

出身地:東京都

生年月日:26/Jan/2001

体重: 56 kg

身長: 168 cm

2016年 アジア・タレント・カップ 総合2位

2018年 Moto3ジュニア選手権 ランキング5位

ロードレース世界選手権 Moto3 スポット参戦

2019年 ロードレース世界選手権Moto3 参戦中

小椋藍公式Twitter:https://twitter.com/AiOgura79

YUKE TANIGUCHI プロフィール

出典:https://www.facebook.com/yuke72

名前:谷口 行規 (JAF登録ドライバー名 YUKE TANIGUCHI)

出身地:広島県

生年月日:27/Sep/1968

株式会社ユークス代表取締役社長

東京バーチャルサーキット代表
2005年スーパー耐久ST3クラスチャンピオン
2008年世界選手権WTCCスポット参戦(イタリア・日本)
2010年WTCC岡山レース1クラス優勝[インディペンデントクラス]
2011年WTCCフル参戦
2018年スーパー耐久 フル参戦

世界を経験したからこそ分かる、日本と世界のモータースポーツ

小椋藍選手(左) 谷口行規選手(右) Photo by Kurihara

まずは小椋選手、今季、ロードレース世界選手権への参加が決まった時の心境は?

小椋:子供の頃からずっと目指していたので、その場所が視野に入ってきてからGPに到達するまでがちょっと長かったですね。4年かかってしまいました。

タレントカップが始まって、タレントカップに出て、そこからポンポンと上がっていければよかったのですが……やっとステップアップできることになって、すごく楽しみです。

と言っても、昨年まで参戦していたCEVレプソルインターナショナル選手権のMoto3ジュニア選手権で結果を出せてはないんですけど……勝てそうで転んじゃったり。

でもチーム監督などに走りの部分をよく見てもらえていて、運が良かったなというのもあります。

2011年にWTCCへフル参戦した時の気持ちを思い出して、今季世界に挑戦する小椋選手へのアドバイスはありますか?

谷口:俺の場合は世界選手権と言っても趣味でやってたから……。

そこを目指して積み上げてきた訳じゃなくて、ツーリングカーの世界選手権が日本に来るから出てみようか?というようなノリで出てみたら、日本の人たちと全然走りが違ったから面白くなっちゃって。

もっと上手くなって、あいつらと同じように走れるようになりたいと思っただけなんだよね。

最初に出たのが2008年かな?で、2010年にヨコハマタイヤからスポット参戦しないかと声をかけられて、出たら岡山でクラス優勝しちゃったの。

それで、もしかしてお金になるんじゃないかと思って。

その時、俺より後ろを走ってたやつも結構賞金をもらってたから(笑)

で、1年間世界を転戦したけど、そんなミラクルは二度と起こらなかった。

やっぱり知らないコースばかりだし、ホームで戦うのとは全然違う。

だから技術がどうのこうのよりも、集中力とか火事場のバカ力的なものが全然違ってて、それを自分で狙って出せる人がホントのプロなんじゃないかな?

オリンピックに出てる人とかも、オリンピックのタイミングで自己新記録を出すみたいな。精神的なものなんだよね。

そこに向かってどう集中力を高めていくか。というのができるようになればいんじゃないかな?

Photo by Kurihara

当時から東京バーチャルサーキットを運営していたのですか?

谷口:その後ですね。世界を転戦している時に、シミュレーターがないとヨーロッパでは話にならないと思い、このシミュレーターを買ってきました。

ヨーロッパにはこれと同じものが置いてあるのですが、トレーニング料金は3時間で16万円とかそんな値段なんですよ。

それじゃ日本では誰も来てくれないと思うので、だいぶ安くしています。

シミュレータートレーニングをすると、実際に効果がありますか?

谷口:世界を転戦している当時も、レースWEEKの火曜日か水曜日ぐらいにシミュレーターで5時間走ってから、木曜日にサーキット入りしていました。

実際にサーキットで走ると、シミュレーターのタイムと全く同じで走れます。

それをやらないと初めて走るサーキットなのに、30分を2回とか3回とかしか走れる時間がないので……。

その状態で何回もそのコースを走っている人たちと戦わなきゃいけない事を考えれば、シミュレータートレーニングは有効だと思います。

©Motorz

小椋選手は初めて走るサーキットでのレース時は、どのようにコースを勉強していますか?

小椋:走るサーキットで撮影されたオンボード動画を探して、その走行を参考にしています。

後は実際に走る時に、スペインのサーキットはスペイン人ライダーはみんな知っているので、後ろに付いて走りを見て学びますね。

初めて走るサーキットを攻略するには、まずはそのサーキットを知っている人の後ろに付くのが一番早いですから。

サーキットに行く前は動画を見て、行ってからは予選・決勝前までにレースを組み立てられないと戦えなくなってしまうので。

動画を見るのと見ないのじゃ、実際の走行は大きく違ってきますか?

小椋:まあ、走った感じは全然違いますし、自分の乗ってるオートバイのオンボード映像がある訳では無いので難しいですが、コースを覚えるという意味では有効です。

©Motorz

今日シミュレーターでバレンシアを走ってみて、初めてのサーキットを走る前のトレーニングに有効だと感じましたか?

小椋:それはもちろん。乗る前にシミュレーターをやっていく事ができれば、走り始めから違うと思います。初日の1本目はとても大事なので、そこから変わればWEEK全体の最後が変わっていくんじゃないかと思います。

 

谷口:ヨーロッパのライダーはみんなどうしてるの?

4輪のドライバーはみんなシミュレーターをやってるから、やらないと話にならないんだけど。

 

小椋:オートバイのシミュレーターは、ここまで本格的なものはないので、ヨーロッパ勢がアジアに来ると、走り始めからはそんなに速くないんですよ。

だから、手段としては知ってるやつの後ろに付くしかない。

みんな単独でどうぞ走って下さいってなったら、それは知っている人の方が当然速いと思います。

4輪のシミュレーターは、2輪のレースに活用できると思いますか?

小椋:もちろん活用できると思いますが、コースを覚えるのが主ですね。

4輪と2輪では、使うギアも少し違うので。

出典:https://twitter.com/AiOgura79

クルマのレースをしている人から見て、バイクのレースはどんなイメージですか?

谷口:俺達からすると2輪レースは、普通にサーキットを走ってるだけで4輪の公道レースと変わらない感覚かな?

マカオを走った時に、両方ともドアミラーが付いたままピットに帰ってくると、安全運転してきたんだなって扱いなんだよね。

ガードレールが曲がってるんだけど、コースインした時の特設ガードレールだからカクカクしてるの。

だから、一定の舵角で曲がっていってるのに、ガードレールの角がポコンポコンあたって、ドアミラーが簡単にバンって飛んでっちゃうから、そこに当たらずに帰ってくると、メカニックも「なんだよ。」みたいな顔して……。

両方無くなって帰ってくると「おお!攻めてきたな」って。

バイクのサーキットでのレースは、そんなクルマの公道レースと同じぐらいの緊張感なんじゃないかな?

バイクで走っている側から見て、クルマのレースはどんなイメージですか?

小椋:大きいクラッシュじゃないちょっとしたクラッシュなら、色々と守られてますし、ぶわーって転がっていっちゃうわけじゃないので、安全だな〜と。

でも、大きなクラッシュはオートバイなら逃げられるけど、クルマは全部繋がれているから逃げられないので、逆に怖いと思います。

燃えても逃げられないじゃないですか?それが怖いですね。

オートバイはすぐどこかに飛んで行っちゃいますが、逃げられはするので。

 

谷口:でも、アスファルトの上をマシンがシャーってすべって、人間は別の所で転がってたりするじゃん?あれが想像できない。痛いの?

 

小椋:いや、革のつなぎを着ているので、滑ってる時は全然痛くないです。

 

谷口:縁石のところに行くと痛い?

 

小椋:それはちょっと(笑)

転倒して滑っている時は、何を考えていますか?

バイクが滑り始めた時からわかるので、あーーーーって。で、転倒した瞬間から、何で転んだんだろうって考えています。

でも、レース中は「やっちゃった~。」しかないので、真っ白ですね。

練習とか予選なら、次に向けて「何でだろう?」ってなるんですけど、レースだとそこで終わりなので、やっちゃった~って感じです。

出典:https://www.facebook.com/yuke72

谷口選手はスピンやクラッシュをした瞬間は、なにを考えている事が多いですか?

100km以上とかでスピンすると、いや~止まって止まって止まって~とか(笑)

壁がどこにあるなとか考えて、ぶつからなかったらセーフ!みたいな感じですね。

©ChikaSakikawa

小椋選手は昨年までスペイン選手権を走ってきて、海外レースならではのエピソードはありますか?

やっぱり衝撃を受けたのは、向こうのライダーの走り方ですね。日本とは全然違うので。

海外のライダーはすごくアグレッシブなので、隙があれば転ばそうとしてきます。

抜いたついでに、相手のマシンに少し当たれば、相手は下がるじゃないですか?

みんなそれを狙って、当てるのが常識。

なのでレース中にコース上で興奮すると、エキサイトしちゃってケンカも頻繁にしています。

昨年CEVに参戦しながらMotoGPにスポット参戦をしていましたが、そこに違いはありましたか?(スペイン選手権と世界選手権)

タイムで言うと、CEVでもたまにGPを上回っていたりもしましたが、CEVはまだみんな若いので、ミスもいっぱいします。

世界選手権に出てみて、その部分がアグレッシブだけどちゃんとうまさはあって、一段階レベルが高いんだなって言うのを感じました。

CEVはみんな優勝だけを狙っていて、その為には転んでもいいみたいな走り方。

GPは、ちゃんと自分の出せる限界を出しながら、積み重ねで上がっていくみたいな感じですね。

まとめ

Photo by Kurihara

国内と海外、そして世界のレベルを経験した2人のライダーとドライバー。

今回はそれぞれの立場から、世界で戦うという事について話を聞いてみました。

世界を転戦しているレーサーの多くが、ほとんど走った事のないコースで戦っている事など、当たり前のようで気付けない現実が多々あったのではないでしょうか?

モータースポーツは、結果だけではなく経過にも着目すれば、もっと面白くなる!

Motorzではこれからも、そんな新しい視点での楽しみ方を伝えていきたいと思います。

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