ポルシェにおける歴史上、大きな転換期となったのが911シリーズに996型が登場したことです。それまでこだわってきた空冷から水冷に変更したことで、エンジンパワーや耐久性が飛躍的に向上。しかし、多くのファンは911が築いた伝統から逸脱したType996に関して不満をもっていました。

掲載日:2018/12/22

996型 ポルシェ911カレラ / © 2018 Porsche Japan KK.

 

ボクスターと共に経営危機を救ったポルシェ996

 

996型 ポルシェ911カレラ / © 2018 Porsche Japan KK.

 

ポルシェ・初代ボクスター(986型) / © 2018 Dr. Ing. h.c. F. Porsche AG.

 

ポルシェにとって911シリーズは、ポルシェの伝統とブランド力を明確にイメージ付けるフラグシップモデルな事はご存知だと思います。

近年のポルシェは911以外のモデルラインナップも拡充され、SUVモデルのカイエンやマカンが911より圧倒的に売れるなど、販売台数は年々拡大中。ポルシェの進化は、911のポテンシャルアップに比例していると思われます。

そんなポルシェの大きな転換期となったのが、1996年に新発売されたボクスターと911の5代目モデルとなるType996の登場です。

1990年代前半は販売不振が続いたため経営難による倒産が危惧されていましたが、低価格で楽しめるオープンスポーツカーであるボクスターが大ヒット。

さらに、同時期に並行して開発されたポルシェType996はコスト削減のために外装パーツをボクスターと共通化しつつ、911伝統の空冷から水冷エンジンへチェンジしたことで耐久性を向上。

スーパーカーでありながら普段の移動でも使える996が支持され、ポルシェのは経営危機から脱出したのです。

 

ポルシェ・996とは

 

 

996はポルシェ911の5代目モデルのことで、車体型式『GF-996』から996と呼ばれています。

先代モデルの993までは伝統の空冷エンジンを継続させ、独特のエンジン構造やサウンドが911のトレードマークでした。

しかし、環境問題や騒音問題により空冷エンジンでの存続は厳しくなり、993の後継モデルから水冷化されることになったのです。

また、水冷エンジンになると共にDOHC化。

排気量は993の3,600ccから3,387ccと、213cc小さくなったものの、可変バルブ機構のバリオカムと吸気管を切り替えるバリオラムを採用したことでパワーアップを実現。

冷却力が格段に上がったために、急激に油温が上昇することもなくなりました。

伝統の空冷エンジンを無くしても、さらなるパワーと耐久性を手に入れ、衝突安全性の強化、そして室内寸法の拡大による快適性の向上など、乗用車としての時代の要請に応えた996。

これにより、”911=スーパーカー”というイメージから”911=スーパーカーかつ乗用車”というイメージを世間に広め、996は歴代最高となる175,262台を生産したのです。

 

993/996前期/996後期のスペック比較

 

ポルシェ993カレラ / © 2018 Dr. Ing. h.c. F. Porsche AG.

 

ポルシェ996カレラ 前期モデル /  Photo by Alexandre Prévot

 

ポルシェ996 カレラ 後期モデル /  Photo by Alexandre Prévot

993型・911カレラ 996型・前期 911カレラ 996型・後期 911カレラ
全長×全幅×全高(mm) 4,245×1,730×1,300 4,430×1,765×1,305 4,430×1,770×1,305
ホイールベース(mm) 2,270 2,350 2,350
トレッド(mm) 1,405 1,455 1,465
1,445 1,500 1,500
乾燥重量(kg) 1,370 1,380 1,420
エンジン種類 空冷水平対向6気筒SOHC12バルブ 水冷水平対向6気筒DOHC24バルブ 水冷水平対向6気筒DOHC24バルブ
排気量(cc) 3,600 3,387 3,595
内径×行程(mm) 100.0×76.4 96.0×78.0 96.0×82.8
圧縮比 11.3 11.3 11.3
最高出力(kW[PS]/rpm) 210[285]/6,100 221[300]/6,800 235[320]/6,800
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 333.4[34.0]/5,250 350[35.7]/4,600 370[37.7]/4,250
タンク容量(ℓ) 77 64 65
タイヤサイズ 205/55ZR16 205/50ZR17 205/50ZR17
245/45ZR16 255/40ZR17 255/40ZR17

 

993よりワイドボディ化と車体剛性のアップ

 

スペックを見ればボディが大きくなり、ホイールベースで8センチ、車幅で3センチも延長されています。

ポルシェ911独特のデザインは継承しつつ、フロントガラスを993の55度から60度。

外観から、スーパーカーらしいワイド&ローボディーへと変貌しました。

 

涙目の996は911じゃない?

 

2005年モデル ポルシェ996 GT3 ヘッドランプ / Photo by The Car Spy

 

996はコスト削減を行う上でボクスターと同じフロントフードが流用されましたが、ここで911の丸目(蛙目)から『涙目』とよばれるヘッドランプ形状になりました。

これは『ティアドロップ型ヘッドライト』とも呼ばれ、1998年と1999年はウィンカーカバーがオレンジ色になったことで涙目がより強調されるデザインに。

涙目型のヘッドランプはメインビーム、ハイビーム以外にポジショニングランプ、ウインカー、ヘッドランプウォッシャーなどを一括でき、機能的で合理的な設計となっています。

これをボクスターと996で共通化することでコスト削減に貢献し、996は175,262台を生産して歴代911シリーズの生産台数を更新。

しかし、涙目型のヘッドランプが伝統の丸目から逸脱したデザインであることや、安価なボクスターと共通化されて911が安っぽいイメージになったなど、911ファンの不興を買い、丸目がなくなった996は911ではないという声がポルシェ本社に多く押し寄せたそうです。

そして2002年のマイナーチェンジではボクスターとの差別化を図るためか、996ターボやGT2と同じヘッドランプ形状(通称『怒り目』)が採用されましたが、911ファンを納得させることはできませんでした。

ポルシェとしても涙目型ヘッドランプの悪評を無視できず、6代目モデルの997から丸目のヘッドランプを復活。

そのため、現在でも911シリーズの中古車を購入するユーザーからは、996のスタイリングには違和感を持つ顧客が少なくないようです。

 

ポルシェ・996の中古車価格が高騰中

 

ポルシェ996 ターボ / Photo by Alexandre Prévot

 

997が丸目に戻ったことで996から997へ乗り換えるユーザーが増え、驚きの販売台数を記録した996が中古車市場で大量に流通するようになります。

涙目型ヘッドランプについてネガティブな見方をするユーザーが多かったことから、996は中古車で比較的安価で売られたので、安い911の中古車を狙うユーザーにとって996はまさに狙い目のモデルでした。

996の新車は約1,000万円ぐらいから購入可能でしたが、中古車の最安値は100万円代!!

とはいえ、ターボやGT3、GT2などは別格で、人気が高く中古車相場価格が下落することはありませんでした。

現在は996の最終型でも10年以上が経過し、996のタマ数が減少することに反比例するように中古車相場価格が高騰しています。

それでも、カレラやカレラ4などは ”走行距離5万キロ前後” と “修復歴なし” なら200万円代から購入できるものは、まだ十分売られており中古の996を購入するなら、まさに今が買い時といえるのではないでしょうか。

 

購入前に抑えておきたいインタミ問題とは

996はエンジン内部にあるインターミディエイトシャフトにおける、大規模なリコールが行われました。

これは通称『インタミ問題』や『IMS破損』と呼ばれ、2001年5月から製造された996後期型と2005年2月まで生産された997型がリコール対象です。

そんなインタミ問題はクランクシャフトからカムシャフトへ動力を伝達するインターミディエイトシャフトに付属するベアリングが、強度不足により破損してしまう不具合で、これによりインターミディエイトシャフトが暴走し、走行時に突然エンジンブローして大量のオイル漏れを起こす可能性があります。

エンジンブローしてしまえば、エンジンの載せ替えとなり修理代は200万円にのぼる事も!!

修理に出した際にインタミ問題が原因だと断定されれば、無料修理で終わることもありますが、せっかく買った996の中古車が走行時に突然停まってしまったり、場合によっては高額な修理費を請求されることもあるため、中古車を購入する際はインタミ問題のリコール修理が行われているかを把握しておくべきでしょう。

 

まとめ

 

© 2018 Dr. Ing. h.c. F. Porsche AG.

 

過去最高の生産台数を記録しポルシェの経営危機を救った996ですが、涙目のヘッドランプが911ファンから反感を買ってしまったことから、ポルシェの歴史上、大きな記録に残るモデルとなりました。

当時、ポルシェの上層部や開発陣にとってボクスターと外装部品を共通化するのは、会社の経営状況を考えても苦渋の考えだったと思います。

しかし、ボクスターと共通のデザインを採用し、開発費を削減したものの新エンジンの開発にはお金を掛けたところは、今となっては最高の判断。

996は賛否両論を巻き起こしましたが、涙目があってこそ今のポルシェが存在することは明白で、誰もが納得する事実なのです。

 

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