1960年代アメリカ車史の中でひときわ目立つ特異種、シボレー コルヴェアはリアに水平対向6気筒エンジンを搭載した、日本風に言えば『5ナンバーサイズの小型軽量スポーツカー』。アメ車の感覚では紛れもないコンパクトカーに属するコルヴェアは1965年に2代目へと進化しますが、思わぬ方向から負のイメージを植え付けられる不幸に見舞われました。
掲載日:2018/12/06
CONTENTS
デザインやメカニズムを一新!さらにゴキゲンなスポーツカーへ進化したコルヴェア
1959年に登場して以来、『まるでヨーロッパ車のようなメカニズムを持ち、サイズも近いがデザインは紛れもないアメ車』として、いわば両者のイイとこ取りが大いにウケたシボレー コルヴェア。
1964年に発表された1965年モデルからはモデルチェンジで2代目に移行し、リアに搭載した水平対向6気筒エンジンで後輪を駆動するという、まるでフォルクスワーゲンかポルシェのようなレイアウトを踏襲し、初期の2.3リッターから2.7リッターまで引き上げた排気量もそのままでした。
そして安定性に若干の難があったリアのスイングアクスル式独立懸架サスペンションは、コルベットなどと同様の方式のトレーリングアーム式独立懸架へ変更され、それまでの軽快な走りへの評価をより一層高めています。
また、デザインはボンネット中央部先端が突き出したような、見る角度によっては逆スラントノーズ風となるフロントマスクが与えられたほか、ショルダーラインが丸みを帯びたグラマラスなものとなり、テールの雰囲気も一新されて、完全に新時代のデザインに!
クローズドボディは全てハードトップ化されるとともに、コンバーチブルも引き続き設定されています。
ラルフ・ネーダーによる告発と、寂しい末期
こうして当初好評をもって迎えられた2代目コルヴェアへのモデルチェンジですが、その後とんでもない逆風が待っていました。
1965年、環境問題や消費者の権利保障問題などを得意分野とするアメリカの弁護士、ラルフ・ネーダーが出版した『Unsafe at Any Speed(どんなスピードでも自動車は危険だ)』で、1963年モデルまでの初代コルヴェアが危険な車として槍玉に挙げられたのです。
初代コルヴェアは同書の中で「リアに採用したスイングアクスル式独立懸架サスペンションは安定性に乏しく、スピンや横転という最悪の結末が待っているにも関わらず、GM(ゼネラル・モーターズ)はこの欠陥を放置していると」みなされました。
実際にはGMはこの問題に気づかなかったり放置していたわけではなく、対策として適切なタイヤの空気圧設定や、1964年モデルからアンチロールバーを標準装備化するなどして改善に努めていました。
しかし、不十分だったのも確かで、整備工場はしばしばコルヴェアの特殊な前輪タイヤの空気圧(100~130kPa程度)を理解せずに後輪と同じような高い空気圧にしてしまったり、1963年モデルまでの全車にアンチロールバーを追加する対策もしませんでした。
むしろGMが熱心だったのはネーダーに対するネガティブキャンペーンじみた保身策でしたが、失敗した挙句に逆に訴えられ、賠償金を払わされる始末。
後年、ネーダーなどの提唱で創設されたNHTSA(国家道路交通安全局)が「1960-1963年モデルのコルヴェアは、同種のメカニズムを採用した他車に比べ特別危険なわけではない。」とする報告書を発表したものの、その頃にはもう後の祭り。
昔も今も、ニュースの内容よりタイトルに一層敏感な大衆により、『すぐに安定を失い、ジャッキアップ現象で横転する最悪な車』という極端なレッテルを貼られたコルヴェアは、せっかく改良を施した2代目を含め、すっかり支持を無くしてしまったのです。
名チューナーによりレースで活躍の機会を得た2代目コルヴェア
ラルフ・ネーダーによる『逆風』はともかく、デビュー当初からスポーツカーとしての素性の良さで評価の高かった2代目コルヴェアは、初代では数少なかったチューニング版の開発や、そのレース活動で知られるようにもなりました。
代表的なのは1957年にシボレー車のハイパフォーマンス版を開発するショップを設立したドン・イェンコによる『イェンコ・スティンガー』で、フォード系のチューナーとして著名なキャロル・シェルビーのマスタングに勝つために2代目コルヴェアに注目します。
そして1965年からコルヴェア1966年モデルのハイパフォーマンス版を開発し、最高240馬力を発揮するチューンを施した『スティンガー』は1967年までに合計185台が作られたと言われており、数々のレースに出場して優勝や上位入賞の成果を上げました。
他にもいくつかのチューナーによってレーシング コルヴェアが製造されており、小型ヨーロピアン スポーツを追い掛け回し勝利できるマシンとして実績を上げたほか、チューニングモデルにはミッドシップにV8エンジンが搭載されたものもあります。
それは、通常の水平対向6気筒エンジンと同じ位置に重いV8エンジンを搭載すると、悲惨な前後重量バランスに悩まされる事や、プロペラシャフトを持たないためホイールベースの延長によるミッドシップ化が容易なのも理由でした。
さらに、コルヴェアのエンジンはビートルなどフォルクスワーゲン製エンジンより大排気量・ハイパワーであり、ビートル改造の『デューンバギー』や、オリジナルのパイプフレームを持つサンドバギー用パワーユニットとしても重宝されています。
主なスペックと中古車相場
シボレー コルヴェア(2代目) 500 1965年型
全長×全幅×全高(mm):4,655×1,770×1,300
ホイールベース(mm):2,740
車両重量(kg):1,138
エンジン仕様・型式:水冷水平対向6気筒OHV12バルブ
総排気量(cc):2,684
最高出力:104kw(142ps)/5,200rpm(※グロス値)
最大トルク:217N・m(22.1kgm)/3,600rpm(※同上)
トランスミッション:2AT
駆動方式:RR
中古車相場:皆無
まとめ
そればかりが原因ではないとはいえ、1966年以降急激に販売実績が下降、1969年にはほぼ手作業で6,000台のみの生産で打ち切られたコルヴェアは、負のイメージを背負ったまま市場から退場せるをえませんでした。
もっとも、GMとしても他車との共通点が少なく、特殊過ぎるメカニズムで派生モデルも作りにくい高コスト体質のコルヴェアに見切りをつけかけていたと見え、2代目では初代のようなステーションワゴンやミニバンなど派生車は作られていません。
あるいは好機と見たGMに厄介払いされたような印象すら受ける、2代目コルヴェアの最後でした。
しかし、アメリカでは初代も2代目も、そして初代派生車もあらゆるコルヴェアが愛好家により実動状態が保たれており、スキャンダルに見舞われたとはいえ、今でも『愛される古き良きアメ車』の1台です。
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