ポルシェ 930。偉大なる911の2代目であり、先行して登場したターボ車は『930ターボ』を名乗ったものの、圧倒的な911のネームバリューに負け、車名を戻した上で『歴代911』が登場するキッカケになったモデルでもあります。そして、当時のポルシェには924を実質的な後継車とする案もあり、最後の911となる可能性もあったのですが、今でも911はポルシェ至高のスポーツカーとして健在なのは皆さんもご存知の通りです。

 

ポルシェ 930ターボ(前)と最新の991型ポルシェ911ターボ / 出典:https://www.porsche.com/japan/jp/aboutporsche/christophorusmagazine/archive/367/articleoverview/article07/

 

 

レースのテクノロジーを叩きこんだ市販車を開発せよ!

 

最大1,200馬力を誇ったターボレーサー、ポルシェ 917/30K  / Photo by Antoine Debroye

 

1964年に発売後、数年かけた熟成で1960年代末にようやくスポーツカーとして盤石の座を誇りかけていたポルシェ911(初代の901型)。

この901型初代911や914/6にターボチャージャーを組み合わせる試みは同時期に始まっており、レースの世界でもグループ4レーシングカーの917ターボ化が試行錯誤されていました。

しかし、当時のターボエンジンは今でいう『どっかんターボ』どころではない強烈なターボラグに悩まされており、あまりのレスポンスの悪さにポルシェでは市販車どころか、レースでも採用に踏み切れない状況が続きます。

結局、参戦していたICM(国際メーカー選手権)がWCM(世界メーカー選手権)へと改名した際の規則変更で5リッターエンジンの917は行き場を失い、活躍の主軸を移したCAN-AM(カナディアン-アメリカン・チャレンジカップ)ではパワー不足が問題になりました。

そこでようやく、タービンの小型化などでターボエンジン投入の目途が経ち、最大1,200馬力を誇る5.4リッターターボエンジンで1972~1973年のCAN-AMを席巻します。

それも結局燃費など新たな規則改正で再び行き場を失うことになり、オイルショックも相まってモータースポーツそのものが、大排気量ハイパワー車からの転換を迫られたこともあって、ポルシェでは新たなプロジェクトが始動しました。

それが、917ターボ(917/10Kおよび30K)で得たノウハウを活かした市販車と、それをベースにした新たなグループ4、およびグループ5レーシングカーの開発です。

それらは後に、市販車が930ターボ、グループ4仕様が934、グループ5が935として実現するのですが、まずはその試作車が1973年秋のフランクフルトショーでデビューし、市販型930ターボが1974年のパリショーで公開されました。

 

セールス面での不安を乗り越え、大人気!

 

ポルシェ 930ターボ / 出典:https://www.porsche.com/japan/jp/accessoriesandservice/classic/models/911-g/911-turbo/

 

実質的に2代目911であるポルシェ930型は、当初ターボモデルのみで「930ターボ」として発売されましたが、その前途はポルシェのセールス部門によって、暗い見通しが立てられていました。

すなわち「こんな高価な車を、しかもオイルショックという省燃費が求められる時代に高性能マシンを出して売れるのか。グループ4ホモロゲーション取得のための400台が、丸々不良在庫になりはしないか?」というわけです。

しかし、主要市場である北米での発表のために1975年8月、米オハイオ州コロンバスを訪れたポルシェの開発者や役員たちは、詰めかけた報道陣から熱烈な賛辞で出迎えられました。

そして究極のスポーツカーとしてメディアに取り上げられた400台の930ターボは瞬く間に完売、ポルシェは大ヒットモデルの増産に追われることになります。

そう、実は誰もがオイルショックで牙を抜かれた現在のスポーツカーにウンザリしており、930ターボは誰にとっても待望の存在だったのです。

その後、1976年に発売された日本でもスーパーカーブームの波に乗って人気を博し、934や935によるレースでの活躍もあって、ポルシェの名声はいやが上にも高まりました。

そして1978年には、それまで初代901型が継続生産されていたNA(自然吸気エンジン)モデルも930型へモデルチェンジし、930ターボも911ターボへと改名して、正式に2代目ポルシェ 911(930型)となったのです。

 

実は930を最後に、2代限りになるはずだったポルシェ 911

 

ポルシェ 930ターボ3.3 / 出典:https://www.porsche.com/japan/jp/accessoriesandservice/classic/models/911-g/911-turbo/

 

930ターボ時代末期の1977年には、3リッターから3.3リッターへの大排気量化と空冷式インタークーラーの追加というビッグマイナーチェンジを受け、260馬力から300馬力へと出力向上(排ガス規制の厳しい日米ではそれぞれ245馬力 / 265馬力)。

それに伴うエンジン搭載位置の後退やリアオーバーハング延長といった改設計が施され、ワイドトレッド化や当初容量不足と言われて5速化の難しかったポルシェシンクロの4速MTが、末期の1989年にはゲトラグ製5速MT化されるなどの改良が続けられました。

最終的には、1989年にわずか10台のみ生産されたと言われる911ターボSで330馬力に達し、NAモデルも3.2リッターエンジンを搭載。

初代ではレーシングモデルに与えられた、『カレラ』の名を復活させるなど、930型は正常進化を続けていきます。

しかし実は、ポルシェ 911はこの930型で最後とする計画もありました。

そして、1975年に発売されたポルシェ 924を911の後継車とする予定で、1978年には924ターボも登場。

実際に、それまでの356や911より良好な販売実績を残していたのです。

そのため、930型にNA版が登場した1978年、356の最終型356 1600SCにならい、NA版にはファイナルモデルを意味する『911SC』の名が与えられ、1981年での生産中止がアナウンスされたほど。

しかし、このFRスポーツはエンジンベイの小ささから大排気量ハイパワー化に限界があったことから完全に911の代わりにはなりえず、市場からも911の継続を望む声が高かったことから、924への代替計画は撤回されます。

代わって3代目911となる964型が開発されることとなり、930型911SCも前述のように改名して1984年から『カレラ』の名を与えられました。

 

やはり耐久で強かった930型911ターボ

 

ポルシェ 930ターボ / Photo by jason goulding

 

930ターボ誕生の経緯で説明した通り、このポルシェ初の市販ターボ車にはグループ4仕様の934と935が準備され、それぞれレースで大活躍しました。

それだけではなく、主にポルシェ930の名でエントリーした930型911ターボが盛んにレースに参戦しており、メジャーレースは耐久王ポルシェらしく耐久レースが占めています。

その当初、WSC(世界スポーツカー選手権)のGTクラスで参戦していた930は、1982年からグループBカテゴリーの誕生によりグループBクラスで参戦を継続。

1982年以降に参戦した『911ターボ3.3グループB』は圧縮比を高めカムシャフト換装、ブーストアップなどにより365馬力を発揮するとともに、ワイドリムの特殊タイヤを装着し、長距離を走りきるためにオイルクーラーの大型化など冷却系も強化されています。

そうして1977年のニュルブルクリンク1,000kmレースに出場後、1980年以降同レースのほかスパやモンツァ、シルバーストンなどの1,000kmレース、ル・マン24時間レースに1984年まで参戦した930型911ターボのクライマックスは、1983年のニュルブルクリンク1,000kmに。

ドイツではル・マンやニュルブルクリンクでのレース参戦で知られたレーシングドライバー、エドガー・ドレン(1941-2004)。

彼の名でエントリーされたプライベートチームは、彼のほか、ヘルムート・ゴール、ユルゲン・ハメルマンの3名がグループB仕様930型911ターボを駆り、ほかの911ターボや924、928といったポルシェ勢、オペル アスコナ400やBMW M1と戦います。

そして1,000kmを走り切ってゴールした時、エドガー・ドレンのチームは総合7位、グループBクラス優勝という見事な成績を挙げたのです。

ちなみにその時の総合上位10台はエドガーを含む2台の911ターボと1台の924カレラGTS、5台の956とポルシェ尽くし!(他メーカー車は5位のランチアLC1と9位のフォード エスコートRS2000が健闘したのみ。)

いかにポルシェが耐久レースで強いか、ポルシェが本気を出してしまうと上位がポルシェで埋まってしまい、しばしば規則変更を要する理由もわかるエピソードではないでしょうか。

 

主要スペックと中古車相場

 

ポルシェ 911ターボ(930型)・タルガトップ(左)&カブリオレ(右) / 出典:https://www.porsche.com/japan/jp/accessoriesandservice/classic/models/911-g/911-turbo/

 

ポルシェ 930型 911ターボ 1978年式

全長×全幅×全高(mm):4,291×1,775×1,310

ホイールベース(mm):2,272

車両重量(kg):1,335

エンジン仕様・型式:930/60 空冷水平対向6気筒SOHC12バルブ ICターボ

総排気量(cc):3,299cc

最高出力:300ps/5,500rpm

最大トルク:43.8kgm/4,000rpm

トランスミッション:4MT

駆動方式:RR

中古車相場:498万~1,480万円(各型含む)

 

まとめ

 

ポルシェ 911ターボ(930型)フラット・ノーズ・カブリオレ / Photo by Alexandre Prévot

 

世界初の市販量産ターボ車の称号こそBMW 2002Turbo(1973年発売)に譲ったものの、ポルシェ初のターボ車となった930ターボは熱狂的歓迎ムードの中で大ヒットとなりました。

後を追ってモデルチェンジしたNA版ともども『2代目ポルシェ911』を襲名してからは、厳しい排ガス規制や924の登場で絶版となる運命をも乗り越え、タルガとクーペのみだったボディにカブリオレの復活やNA版は『カレラ』の名を取り戻すなど、予想を超えた活躍を見せます。

そして時代を共に戦ったレーシング仕様934や935に敬意を表し、1988年には935風のフロントノーズにリトラクタブルライトを持つ、911ターボ・フラットノーズも限定販売されました。

そして、1989年には3代目964型へバトンタッチ。

最後の911になるはずだった930型は、結果的に『何もかも変わり、何も変わらぬまま受け継がれ続ける歴代ポルシェ 911』の、最初の1台になったのです。

 

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