ポルシェのミッドシップスポーツカーと言えば、現在ではボクスターとケイマンがラインナップされており、どちらもエントリーモデルでありながら本格的なポルシェとして、誰もが認めるモデルです。しかし、今から50年近く前に存在したミッドシップ・ポルシェ、914はその誕生にまつわるゴタゴタも周知の事実で、一時はかなり複雑な評価をされますが、今では成功したエントリー・ポルシェの1台となっています。
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難産の末に生まれた、ポルシェとVWのジョイント・モデル、914
1960年代前半、ポルシェは356に続くスポーツカー、911を発売しますが、実用性にこだわりホイールベースを延長してまで4座化、さらに静粛性と将来的な拡張性にも優れた水平対向6気筒エンジンを採用した結果、356より大幅に高価な車となってしまいます。
そのため356SC用の水平対向4気筒エンジンを搭載し、内装を簡略化した廉価版912で当座をしのぐことになりますが、新たなエントリーモデルは必須となってしまいます。
その一方、VW(フォルクスワーゲン)もタイプ1(通称”ビートル”)やそれをベースとしたスポーツクーペ、カルマンギアや、タイプ1の後継モデルがいずれもなかなか成功を収められない、という現実に直面します。
そこで両社が共同でスポーツカーを開発することとなり、VWのエンジンやサスペンションを流用してコストを抑えつつ、ポルシェによって洗練されたミッドシップ・スポーツが1960年代後半に開発されました。
それが1968年3月1日のフランクフルトショーで発表された914でしたが、その直後からこのスポーツカーの先行きには不穏な空気が漂います。
プロジェクトはポルシェの代表フェリー・ポルシェと、VWのハインリヒ・ノルトホフ会長の合意の元で行われていましたが、914発表直後の4月12日、ノルトホフ会長が急逝してしまったのです。
問題は両者の合意があくまで『口頭による口約束』だったことで、ノルトホフの後任、クルス・ロッツ新会長は914の独占的販売権をVWが持つと主張します。
せっかく開発したエントリー・スポーツカーを失いかけたポルシェは当然抵抗し、交渉の末にどうにかヨーロッパではフォルクスワーゲン・ポルシェ 914として、北米ではポルシェ 914として販売できることになり、VWの独占を排除することに成功。
しかし、このゴタゴタでマスコミからは”フォルクス・ポルシェ(人民のポルシェ)”などありがたくないニックネームを授かることになり、後にヴィンテージ・ポルシェとして認められるようになるまでは、やや不当な扱いを受けることになりました。
基本的には軽量でバランスの取れたミッドシップ・スポーツ
914は1969年から生産を開始、1970年に発売されました。
ボディワークはVW カルマンギアも生産していたコーチビルダー(架装メーカー)カルマンが担当し、VWの4気筒エンジン搭載車914 / 914 2.0はそのままカルマンで、ポルシェ911Tと同じ6気筒エンジン搭載車はポルシェで最終的に完成しています。
搭載エンジンによって分かれる主要ラインナップは以下の通り。
914(1970-1973):VW タイプ4(411E)用の1,679ccエンジン(80馬力)搭載。
914(1974-1976):タイプ4のマイナーチェンジ版、412S用の1,795ccエンジン(85馬力)搭載。
914 2.0(1973-1976):411E用のエンジンを1,971ccに拡大して搭載(100馬力)
914/6(1970-1972):ポルシェ 911T用6気筒1,991ccエンジンを搭載(110馬力)
※販売地の排ガス規制によってエンジン出力は異なり、914の後期型は日本に正規輸入されていません。
その他、911用の2.4~2.7リッターエンジンを搭載して11台のみ試験的に作られた”916”や、水平対向8気筒3リッターエンジン(300馬力)を搭載して2台のみ作られた911/8、その他914のデザインに納得のいかないデザイナーによるオリジナル914がいくつかあります。
ただしこれらは標準的な914とはいえず、一般的に市場に出回る914の中でレアで価値が高いとされているのは、3,338台しか生産されなかったと言われる914/6で、外観上が4気筒モデルが4穴ホイールなのに対し、5穴ホイールが主な相違点です。
それ以外は、年式によるバンパーやその下の灯火類に若干の差はありますが、(固定式トップの916を除き)タルガトップ式で、後ろ側はトップを収納可能な前後トランクを持つ、2シーターのミッドシップ。
タルガトップクーペという点で、違いはありません。
フロントは911のストラット式、リアはVW 411のトレーリングアーム式を流用しつつポルシェの仕上げたサスペンションと、ミッドシップならではの旋回性能に優れ、水平対向エンジンによる低重心の軽快な走りが魅力です。
特に1.7 / 1.8リッター版の動力性能は911に及ばないとはいえ、そもそもエントリーモデルなのでそれは当然のことで、正式にポルシェ一族のモデルとして(つまりVWの名を冠さず)販売された北米では人気となりました。
ただし、問題は2シーター、または左右席の間に補助シートを持つ変則3シーターという点で実用性にやや欠け、次期型924では2+2シートを持つテールゲートつき2ドアクーペへ発展していくことになります。
ル・マン24時間レースとラリーでの活躍
914は”ポルシェ”ブランドを広める尖兵としての役割を持っていたため、宣伝活動の一環としてラリーやレースにも投入されました。
その中で、もっとも華々しい成果を上げたのはル・マン24時間レースへの参戦です。
ポルシェ 917とフェラーリ 512Sがトップ争いで激しい火花を散らした1970年のル・マンで、よりハイパワーな3種のポルシェ(917 / 908 /911)とフェラーリの間に割って入るように、非力ながら小型軽量の914/6GTが6位に滑り込みました(GTSクラス優勝)。
914/6GTは別名914/6Rとも呼ばれるスポーツキット装着車で、専用のフェンダーやボディ補強材そしてフロントにはオイルクーラーも追加されていましたが、917や908のように本格的なレーシングカーではありません。
914/6GT(914/6R)はラリーにも投入され、1971年には前年まで911Sで勝利を挙げていたビョルン・ワルデガルドのドライブでモンテカルロ3位入賞などの実績を上げましたが、あくまで宣伝戦略のための参戦で、アルピーヌ・ルノー A110やランチア フルヴィアHFほどの戦闘力は持たず、後にワークス活動は911へと戻っています。
主要スペックと中古車相場
ポルシェ 914/6 1970年式
全長×全幅×全高(mm):3,985×1,650×1,220
ホイールベース(mm):2,450
車両重量(kg):985
エンジン仕様・型式:空冷水平対向6気筒SOHC12バルブ
総排気量(cc):1,991cc
最高出力:110ps/5,800rpm
最大トルク:16.0kgm/4,200rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:MR
中古車相場:全て”ASK”
まとめ
第2次世界大戦前にフェルディナント・ポルシェ博士が開発したタイプ1”ビートル”で戦後のドイツを代表する大衆車メーカーとなったVW。
そしてポルシェ博士の息子、フェリー・ポルシェが356を開発したことで、スポーツカーメーカーとして発展したポルシェ。
歴史的経緯からこの2社は繋がりが深いように見えて、2018年3月現在はポルシェがVW傘下にある状況ですが、その間には『近親憎悪』に近い関係に陥っていたこともありました。
914の開発に絡むゴタゴタは、その後924でもまた繰り返されることになりますが、結果的にはどちらのケースでも、既存パーツを組み合わせてまとめる、ポルシェのパッケージング力が、最終的には大きくモノを言った形でおさまります。
「914や924は本物のポルシェでは無い。」という、限りなく誤解に近い評価で冷遇されながらも、時が経つにつれて、むしろポルシェの名声を高める材料となり、特に914はヴィンテージ・ポルシェとして高い評価を得るようになりました。
今では、もはやかつてのような『身近なワーゲンポルシェ』では無くなっていますが、もしそのステアリングを握る機会があれば、現在のボクスターなどエントリーモデルの源流と考えて、ジックリとその走りを味わってみることをオススメします。
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