日本では正規輸入車が左ハンドルしか無かったため、2代目オペル ヴィータ(本国名:コルサ)に始まる輸入コンパクトカーブームの中でも地味な存在だったプジョー 106。しかし軽快なホットハッチでありスパルタンな『テンサン・ラリー』の存在もあって、フランス車ファンやコアなホットハッチマニアには人気の高い1台でした。

 

プジョー 106 S16 / Photo by Miloslav Rejha

 

 

小型大衆車104と名車205の後を継ぐ、1990年代プジョーの傑作コンパクト

 

プジョー 106には、ラリーベースモデルの『106ラリー』があり、マイナーチェンジ前に1.3リッターエンジンを搭載した『テンサン・ラリー』は特に人気がある。 / Photo by akunamatata

 

プジョー 106は1991年に発売され、日本ではマイナーチェンジ直前の1995年から正規輸入が開始された、フランスの小型ハッチバック大衆車です。

PSA(プジョーシトロエン)では、1972年から販売していたFF(フロントエンジン・前輪駆動)小型大衆車104の後継として、1985年に205を発売。

104のイシゴニス式(※1)から、前年に305のビッグマイナーチェンジで採用したジアコーサ式(※2)へとFFレイアウトを変更し、VW ゴルフのフランス版と言える軽快な走りと実用性で、205は大ヒット。

日本にも多数輸入されて、プジョーの知名度を引き上げました。

しかし、205はボディサイズがやや大きかったため104の完全な更新とはならず、旧型の104も1988年まで長く生産されることになりますが、さすがに旧式化が著しかったために、205より1ランク小さく、104を完全に代替する後継車として開発されたのが106です。

1~1.6リッターのガソリンエンジンか1.5リッターディーゼルエンジン、あるいはフランス国内向けに電気自動車版も存在(そのほとんどはフランスの公官庁が購入して使用)した106ですが、日本に正規輸入されたのは左ハンドルの1.6リッター版のみ。

1995年に正規輸入の始まった『XSi』(1.6リッターSOHC8バルブ)と、1996年にマイナーチェンジ後の『S16』(同DOHC16バルブ)、それらをベースとした特別限定車のみが販売され、全て左ハンドルでした。

また、エンジンルーム内レイアウトの関係で、イギリス市場などに輸出されていた右ハンドル仕様にはエアコンを装着できなかったので、エアコンが必需品だった日本市場には初期のXSiを除けば、S16が2003年の生産終了まで細々と輸入されたのみだったのです。

そのため日本では一般的に馴染みの薄い車種ではありますが、『輸入車は左ハンドル』という人々や、並行輸入された軽量で活発な走りをするモータースポーツ仕様『106ラリー』の存在から、フランス系スポーツ派にも人気の高い車となりました。

※1:エンジンをミッションの上に2階建てして、車体の前後方向と直角に横置きしたFFレイアウト。

パワーユニットが前後左右ともにコンパクトな反面、どうしても重心が高く、別のエンジンへ換装しにくいという欠点があるため採用例は旧ミニなど少数。

※2:直列配置したエンジンとミッションを横置きにしたFFレイアウト。

コンパクト化できるのは前後方向のみで、左右に長くなるためタイヤの切れ角確保が難しい反面、多様なエンジンと組み合わせ可能なため、現在のFFでは一般的。

 

コアな人気を誇る『テンサン・ラリー』

 

マイナーチェンジ前のプジョー 106ラリー、日本における通称”テンサン・ラリー”  / Photo by Spanish Coches

 

正規輸入モデルのほとんどが1.6リッターDOHC16バルブエンジン(118馬力)を搭載したホットモデル『S16』と、それをベースとした250台限定の特別仕様車『S16セリー・スペシャル1998』で、全て3ドアハッチバックの5速MTです。

1990年代中盤以降の日本で量販の見込める5ドアやAT車は設定されておらず、単に『オシャレなフレンチで決めたい』というユーザー向きではありません。

トレードマークの、後ろ足で立ち上がる『ベルフォールのライオン』もまだ小さく、フロントグリルも必要最小限の大きさで、落ち着いた雰囲気でまとめられたピニンファリーナ・デザイン時代のプジョー車でだったので、所有をあきらめて残念に感じた人もいたかもしれません。

その一方、カタログスペック面では控えめながらよく回るエンジンで、ボディ四隅に置かれたタイヤ配置で振り回しても安定していた走りや、1996年のマイナーチェンジ以降の衝突安全性向上で高まったボディ剛性から、スポーツ走行を好むユーザーから高い評価を受けました。

しかし、106でもっとも熱い人気を誇るのは、205ラリーの後継として1993年に登場した一連の『106ラリー』!

中でも『テンサン・ラリー』の愛称で呼ばれる初期型です。

 

プジョー106 “テンサン・ラリー”の後ろ姿  / Photo by Spanish Coches

 

また、205ラリーのエンジンをウェーバー製キャブレターから電子制御燃料噴射式に変更。

トルクアップした1.3リッターSOHCエンジンは、100馬力と控えめなスペックながら、回せば回すほど高回転まで軽快に吹け上がり気持ちよく走ると言われます。

しかも車重はオプションのエアコンやパワステを除けばわずか810kgなので、「軽快でよく回るNAのホットハッチに乗りたい!」と思うスポーツ層にはたまりません。

その後、マイナーチェンジによる重量増を補うべく、ラリーは1.6リッターエンジンへと進化。

SOHC8バルブ版でトルクフルな走りを提供する、通称『テンロク・ラリー』や、事実上S16の廉価版だったDOHC16バルブ版『ラリー16V』も登場しますが、ファンの一番人気は常に『テンサン・ラリー』でした。

正規輸入車では無いにも関わらず、フランス車専門ショップを中心に200台ほどと、スパルタンなヨーロピアン・コンパクトなスポーツとしてはかなりの台数が上陸したことも、その証明と言えます。

 

ローカルラリーで活躍した『ラリー』とF2キットカー『106MAXI』

 

プジョー 106MAXI F2キットカー / 出典:http://www.kitsdefibra.com/kits-de-fibra-peugeot-106-ph2.html

 

205ラリーの後継として106ラリーが存在することでもわかるように、106はルノースポール・ワークスチームの若手ドライバーやプライベーター向けのエントリーマシンとしてラリーを戦いました。

フランス国内選手権を中心に各国の国内選手権(日本で言えば全日本ラリー)やそれ以下のカテゴリーの入門ラリーを主なステージに、ERC(ヨーロッパラリー選手権)も戦っています。

それらラリースペシャルな106の中でも頂点に立つのが、ブリスターフェンダーを装着してワイドトレッド化した『106MAXI』で、1997年型のF2キットカー(年間20台分生産すればOKな、ラリーF2カップ用改造パーツを組み込んだマシン)では、元々の106より100mm近くワイドトレッド化。

6速シーケンシャルミッションと組み合わせた1.6リッターDOHCエンジンは、NAながら最高出力238馬力 / 最大トルク22.2kgmを誇り、車重は890kgへ増加しているとはいえパワーウェイトレシオは約3.74kg/ps!

同じプジョーの306MAXIや、そのシトロエン版でWRカーを差し置きWRCでの勝利を記録したクサラ・キットカーといった、300馬力超えの2リッターF2キットカーほどの速さは無かったにせよ、激しいバージョンでした。

ベースの106MAXIは日本にも少数ながら輸入されており、走行会などで走っている姿が時々見られます。

 

主要スペックと中古車相場

 

画像は後期型106ラリー。バンパー形状やドアノブなど細部が前期型”テンサン・ラリー”と異なるのがわかる。 / Photo by s1Rallye_James

 

プジョー 106 ラリー(通称「テンサン・ラリー」) 1994年式

全長×全幅×全高(mm):3,565×1,605×1,360

ホイールベース(mm):2,385

車両重量(kg):810

エンジン仕様・型式:TU2J2/7 水冷直列4気筒SOHC8バルブ

総排気量(cc):1,294cc

最高出力:100ps/7,200rpm

最大トルク:11.2kgm/5,400rpm

トランスミッション:5MT

駆動方式:FF

中古車相場:19万~229万円(各型含む)

 

まとめ

 

1.1リッターエンジンを搭載したベーシックな後期型106 Equinoxe  / Photo by RL GNZLZ

 

メジャーなブランドで正規輸入されてながら、輸入車としてはかなりマニアックな部類に入るプジョー 106。

日本でも大人気となった205や、その後継車306の小型版と言える今見ても落ち着いた美しいデザインは、右ハンドルでエアコンが付き、ATの5ドア車が輸入されていれば相当な人気を誇ったのではないかと思われます。

現実にはフォルクスワーゲンほど日本市場にコダワリを見せなかったこともあって、通好みな車となりましたが、見た瞬間に輸入車とわかる左ハンドルなど、気に入ればとことんハマりそうな魅力にあふれた1台。

メジャーな輸入車から、そろそろ『個性的な輸入コンパクトカーライフ』を過ごしたい人の入門編として、いかがでしょうか?

 

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