もっともカッコよくスポーティな軽自動車とは何だろう?そう思った時に名前の出る車は好みによって様々だとは思いますが、確実に多くの支持を受ける1台であり、少なくともクローズドボディ部門なら1位獲得も夢では無いと思わせるのがこのフロンテクーペではないでしょうか?
軽スペシャリティカー初期の傑作
1960年代、スバル360(1958年発売)でようやく乗用車としても問題の無い性能と実用性、耐久性を得た軽自動車は急速に発展していき、T360ほど複雑では無いSOHC2気筒エンジンで31馬力を発揮したホンダ N360(1967年発売)からパワー競争が勃発します。
そして後の550cc時代に64馬力の自主規制によって打ち止めとなるまで続いたターボエンジンによる第2次軽自動車パワーウォーズ以前の、1960年代後半から第1次オイルショック(1973年)までの第1次軽自動車パワーウォーズでは、スバルやダイハツ、マツダのように既存車のホットモデルで尖らせるメーカーもあれば、三菱(ミニカクリッパー)やホンダ(ホンダZ)のように初期の『軽スペシャリティカー』で、より商品性を追求するメーカーまで様々でした。
そんな中でスズキは、イタリアン カロッツェリア(デザイン工房)の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロに新型車のデザイン原案を求め、ジウジアーロがベルトーネ時代の1967年に製作した『Rowan Elettrica』をベースとしたモデルがつくられます。
そしてあくまで将来的なシティコミューターだった『Rowan Elettrica』に対し、Bピラーをやや傾斜させるなど細部を手直ししたモックアップ『スズキ ベルリーナ2ポルテ(2ドアセダン)』が示されたのは1969年。
そのジウジアーロデザインをベースにスズキ社内で手直しされたと言われるのが、思い切って全高を1,200mmまで下げて2シータースポーツクーペ化し、1971年9月に発売されたフロンテクーペです。
それは、当初のデザインコンセプトからは似ても似つかぬコンセプト転換でしたが、結果的には当時の軽自動車パワーウォーズでその吹け上がりの滑らかさや振動の少なさが評価され、2ストロークエンジンらしいトルクに溢れた37馬力エンジンLC10Wにはよくマッチしていました。
そんなスポーツカーらしいデザインと、デザインに見合うパワーユニットを兼ね備えたフロンテクーペは、こうして誕生したのです。
後に実用的な2+2スポーツクーペへ、そして初代セルボへと発展
フロンテクーペのデザインで注目すべきはAピラー(車室前方左右で天井を支える柱)の角度で、原型より大幅に寝かせた上で三角窓も廃止。
ルーフも低く抑えたことで、当時の軽自動車としては例外的にスポーティ-なルックスを得ていました。
また、角度によっては擬似的なロングノーズ・ショートデッキ風にも見え、ライバル車があくまでヘッドスペースを重視していたのに対し、実用性よりはデザイン重視なことが見てとれます。
実用車としての使い勝手は同時期の3代目フロンテやフロンテバン / エステートに任せたおかげで、フロンテクーペは軽スペシャリティカー初期の傑作になりました。
ただ、当初は37馬力のハイパワーユニットを搭載し『ふたりだけのクーペ』をキャッチコピーとした2シーター、GE/GER/GXの3グレードの設定でしたが、さすがに1990年代から登場したような軽2シータースポーツは、まだまだ時期尚早だったようです。
当時、2人だけでは困る、いざという時は4人乗れたらいいというわけで、1972年2月には2+2シーターの『GXF』が登場。
さらに2ストローク高回転型エンジンは高性能な反面、低回転でカブリやすいなどピーキーで扱いにくい面もあったため、より運転が容易な34馬力、31馬力エンジン搭載の廉価デチューン版を発売します。
ちなみに、高性能版の方は逆にフロントにディスクブレーキを採用した最高級版『GXCF』も登場しますが、結局1972年10月には2シーター車が廃止されて2+2クーペオンリーとなり、排ガス規制の影響もあって37馬力エンジンも35馬力へとデチューン。
1976年6月に一旦生産を終了した後、1977年10月に当時の新規格化で寸法を拡大。
550cc化された初代セルボとして再出発しますが、2+2シーターはそのままでスズキの2シータークーペは、カプチーノ(1991年)の登場まで一旦消滅する事になりました。
東京プロダクションレースなどを席巻、後にK4GPにも登場
スポーツカールックに、軽自動車用エンジンを搭載したFLなどフォーミュラカーに搭載すれば、500ccに排気量アップしたホンダエンジンにも負けないスズキ自慢の360cc2サイクル3気筒エンジンを積んだフロンテクーペは、もちろん発売と同時にレースへ投入されました。
そして、筑波サーキットで盛んに行われていた『東京プロダクションレース』や、排ガス規制とオイルショックでメジャーレースが寂しい中でも、日本各地で開催されていた軽自動車レースに多数参戦。
当時のリザルトを見ると、ダイハツ フェローMAXやスバル レックスなども少数参戦していたものの、圧倒的多数派はフロンテクーペとホンダZで双璧をなし、軽自動車レースを大いに盛り上げたほか、日本アルペンラリーのリザルトにもその名を刻んでいます。
さらにはその後も盛り上がった軽自動車耐久レース、特にバブル景気以降に安価な軽自動車をベースとしたカスタムレーサーが多数作られるようになると、さまざまな変わり種軽レーサーでも知られるマッドハウスの作った最新レースマシンとしても登場。
これは名前こそ『フロンテクーペ』なものの、シャシーは日産のジュニアフォーミュラマシン『ザウルスJr』のため、センターレイアウトのシングルシーターで、ボディは基本的に初代セルボ。
そこに、フロントマスクやルーフを組み合わせた『サンコイチ』マシンです。
しかしフロントマスクはまぎれもなくフロンテクーペであるため、『究極のフロンテクーペ』的に紹介されることもよくあり、軽自動車中心の耐久レースとしては日本最大級イベント『K4GP』にも出場し、ファンを楽しませていました。
主なスペックと中古車相場
スズキ LC10W フロンテクーペ GX 1971年式
全長×全幅×全高(mm):2,995×1,295×1,200
ホイールベース(mm):2,010
車両重量(kg):480
エンジン仕様・型式:LC10W 水冷直列3気筒2ストローク
総排気量(cc):356
最高出力:27kw(37ps)/6,500rpm(グロス値)
最大トルク:41N・m(4.2kgm)/4,500rpm(同上)
トランスミッション:4MT
駆動方式:RR
中古車相場:188万円
まとめ
低く構えたスタイリッシュなロー&ワイドスタイルに、見る角度によっては古典的スポーツカー風にも、塊感あるマッスルカー風にも見えるデザインの妙。
1970年代の車とは思えないフロンテクーペですが、時代がそのような車を求めるにはまだまだ時期尚早、あるいは当時の軽自動車用2ストローク高性能エンジンがピーキーすぎたこともあって、画期的な2シーター軽スポーツとしては意外に短命でした。
結局、実用性よりも極めて趣味性の高い軽2シータースポーツの台頭は、1990年代を待たなければなりませんが、いずれもフルオープン、タルガトップ、あるいはガルウイングといった高付加価値路線の軽スポーツ、軽スーパーカー。
フロンテクーペのようにピュアなクローズド2シータークーペというのは案外存在しないもので、現在の多様化した価値観の中でシティコミューター名目でも良いのでフロンテクーペの再来を世に問うてみたらどのような結果が出るか、ちょっと興味深いところです。
EVでもいいので、軽2シーターを販売していないスズキでアルトワークス後継として発売してみたら、ダイハツ コペンやホンダ S660といい勝負になるのではないでしょうか。
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