日産 Be-1(1987年)に始まった、既存車種にレトロ風ボディを与えるパイクカー路線は、1990年代に入って軽自動車も巻き込む大ブームとなりました。その中でスバル ヴィヴィオ”ビストロ”シリーズと共に、もっとも本格的かつ大成功を収めたのがダイハツ ミラジーノ!特に初代は明らかに完成度の高いデザインで『1960年代のダイハツ コンパーノのリメイク』という存在でした。
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『古い革袋に新しい酒』だったパイクカー路線の集大成
現在、ミニ(BMC ミニ)やビートル(VW タイプ1)、フィアット500のリメイク版輸入車が日本でも人気ですが、そもそも『ちょっと古い名車』が大人気だったのは日本市場であり、末期のBMC ミニなどの出荷先は、ほとんどが日本と言われるほどでした。
これはバブル景気以降の価値観の多様化がもたらした現象と言えますが、その起爆剤のひとつが、既存車種にレトロ風の外装を施した『パイクカー』と呼ばれる車で、その第1号は、1987年に発売されるや限定商法を取った効果も相まってプレミア価格で取引されるほどの大人気となった、日産 Be-1(初代K10型マーチがベース)。
日産はその後もパオ、フィガロ、エスカルゴと矢継ぎ早にパイクカーを連発し、いずれも大人気となりました。
これらはプラットフォームやメカニズムのみ共用で、完全に専用ボディを持つパイクカーでしたが、2代目K11型マーチからは前後バンパーなど外装の一部のみを交換した簡易的なパイクカー(マーチ・タンゴや同ルンバ、ボレロなど)を発売し、これも人気を得る事に!
そんな簡易パイクカーの元祖は長崎ハウステンボスからの依頼で製作、人気を得て1993年に市販されたスバル サンバーディアスクラシックと、同じ路線で開発されたスバル ヴィヴィオ”ビストロ”シリーズでした。
そしてビストロが人気となってヴィヴィオの主力グレードにまで成長すると、ライバル他社も三菱 ミニカ・タウンビーや、スズキ セルボCなどで追随。
軽自動車だけではなく小型乗用車でもスバル インプレッサ・カサブランカなどのフォロワーを生みました。
そんな中、ダイハツも当初は4代目L500系ミラにミラ・クラシックを設定していましたが、1998年10月の軽自動車規格改訂を機に5代目L700系ミラをベースとしてより本格的なカスタマイズを施したのがミラジーノだったのです。
初代は公式にはともかく、誰が見ても”あの車”
初代L700系ミラジーノは、ベースのミラにやや遅れた1999年3月に発売されました。
基本的には外装の一部を交換した簡易パイクカーの一種ではありましたが、構造材の一部変更(このため、単純にL700系ミラに外装をポン付けできるとは限らない)まで伴うカスタマイズが施された結果、ベース車とはかなり趣の異なるモデルになるどころか、その姿はミラというよりBMC時代の、末期とはいえまだ販売中だったイギリス伝統の名車、”ミニ”そのものだったのです。
一応ダイハツの公式見解としては1960年代に販売していた同社の大衆車、コンパーノをモチーフとしているということではありましたが、ともかく2BOXスタイルのミラジーノは”ダイハツ版ミニ”そのものに見えました。
あくまで中身はL700系ミラで内装もレトロ風とはいえミニとは全く異なりましたが、それでも走り向けのカスタマイズやドレスアップを施してサマになってしまうのがまた痛快なところで、ミラジーノ向けのカスタマイズパーツも多数リリースされていました。
そのためL700系ミラが6代目L250系にモデルチェンジ(2002年)された後も、初代L700系ミラジーノは2004年まで継続されています。
なお、人気モデルはイギリスのアルミホイールブランド、ミニライトとタイアップした”ミニライト”グレード(2000年10月発売)で、走り系ユーザーには2001年10月の一部改良まで存在した3ドア仕様や、ボンネットにインタークーラー用エアインテークのある初期型ターボ車も人気です。
さらに、ストーリア用の1,000ccエンジンEF-VEを搭載し、前後バンパーやフェンダーモールなど一部専用装備の小型乗用車版ミラジーノ1000も発売されました(2002年8月)。
初代ミラジーノの主要スペックと中古車相場
ダイハツ L700S ミラジーノS 2000年式
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,425
ホイールベース(mm):2,360
車両重量(kg):740
エンジン仕様・型式:EF-DET 水冷直列3気筒DOHC12バルブ ICターボ
総排気量(cc):659
最高出力:64ps/6,400rpm
最大トルク:10.9kgm/3,600rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古車相場:0.1万~128.8万円(ミラジーノ1000含む各型)
“2匹目のドジョウ”狙いは明らかだが、独立した魅力もある2代目
2004年11月にミラジーノは2代目L650系にモデルチェンジしましたが、果たしてBMC版を継承するのかBMW版になるのか、という予想はどちらにせよ『ジーノならミニだろう』というものでした。
デビューしてみると、ヘッドライトやフロントグリルの形状・配置はやや異なるものの、上に行くほどすぼまるテールランプユニットやリアナンバー上部のメッキガーニッシュなどから、BMW版ミニ風と言われるものに!
さすがに”大きなミニ”となったBMW版とはサイズが全く異なるので、それをモチーフにしたというより寸詰まりのデフォルメ感はありましたが、むしろそれを逆手に取る形で和風の風景と取り合わせた広告を作成して『日本に似合うジーノ』を演出しました。
実際、”ミニがモチーフのミラジーノ”という先入観を取り除いてフラットな気持ちで見ると、大胆な曲線に細部の繊細なデザインの組み合わせは完成度が高く、ターボ車やMT車の設定が無かったこともあって落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
また、カクカクしてセミハイト系と言えるほど車高の上がったイメージのあるベース車(L250系ミラ)より、スペック上の車高は高いにも関わらずそれを感じさせないまとまりの良さで、ジーノとして独立した飽きのこない味わい深さから2代目を好む人がいるのも納得です。
そして前述のようにNA(自然吸気)エンジンとオートマ(2代目ジーノでは4AT)の組み合わせのみの、ミラをベースとしたスペシャリティ軽というポジションは、2009年に後継車として登場したミラココアにも受け継がれました。
2代目ミラジーノの主要スペックと中古車相場
ダイハツ L650S ミラジーノ ミニライト 2004年式
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,515
ホイールベース(mm):2,390
車両重量(kg):780
エンジン仕様・型式:EF-VE 水冷直列3気筒DOHC12バルブ
総排気量(cc):659
最高出力:58ps/7,600rpm
最大トルク:6.5kgm/4,000rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:FF
中古車相場:0.9万~98万円(各型含む)
モータースポーツでは、特に初代が活躍
ミニ譲りなのはデザインだけでなく走りもだ!と言わんばかりに、特に初代ミラジーノはモータースポーツで活躍しました。
それはターボ車や5MT(5速マニュアルミッション)の選択肢もあった為で、ダイハツ車専門のジムカーナイベント、ダイハツチャレンジカップでは発売初期から多くのミラジーノが参戦していました。
もちろんサスペンションなどメカニズム面ではミニとは似ても似つかない普通のミラで特別なものではありませんでしたが、それだけに同時期のミラ(L700系)やオプティ(L800系)、さらにコペン(L880K)のサスペンションが流用可能。
また、機械式LSDやメタルクラッチなどチューニングパーツも豊富でストーリアX4用のクロスミッションも流用できたので、コペンやムーヴから4気筒ターボのJB-DETをスワップし、本来は存在しない”L702Sミラジーノ”を作った例もありました。
さらに気合の入ったユーザーは、ブーンX4用のトランスファーなどを流用して駆動系を強化。
FR化したドリフト仕様まで存在するのですが、そうした過激なチューンを施しても似合うのが初代ミラジーノというクルマだったのです。
公式競技では2003年の全日本ジムカーナN1クラス(排気量1,000cc未満)に鎌田 敬司選手がNAの初代ミラジーノで参戦(最高4位)していましたが、当時は「64馬力のミラジーノ1000にMT設定とJAF競技車両登録があればヴィッツ(SCP10)に対抗できたかも?」と惜しまれたものです。
さらに、ダイハツワークスチームのDRSがまだ活動していた時期でもあり、全日本ダートトライアルではJB-DETをベースに排気量アップした4WDターボの改造車が活躍。
初期には平塚 忠博選手、後に小清水 昭一郎選手といった名手にステアリングを託し、特に2005年のSC2クラスでは小清水選手の駆る初代ジーノ改が連戦連勝の勢いで8戦中6勝と圧倒的な勝利を収めました。
ダートトライアル用のジーノ改4WDターボは、初代のみならず小清水時代に2代目ジーノをベースとしたマシンも開発され、引き続き活躍を続けましたが、2008年を最後にダイハツがモータースポーツから全面撤退したため見られなくなってしまいました。
また、ダイハツの完全撤退を機にモータースポーツでミラジーノを見る機会はだいぶ減りましたが、ダイハツチャレンジカップ後継イベントでは各型が引き続き、そしてNAモデルは660選手権など新規格NA軽自動車レースでも活躍しています。
まとめ
ミラジーノは初代が『パイクカーの究極系』とも言える完成度で現在でも非常に高い人気を誇りますが、同時にそれがパイクカーとしての絶頂だったと言えます。
2代目では同時期のムーヴラテ同様、カクカクしていたミラやムーヴをベースに、それとは対照的な柔らかく優しい曲線で包み込むようなデザインとなり、あふれんばかりの優しさをイメージさせた姿は、もはや『過去に見た何かに似た』からは離れていきました。
そして2代目ミラジーノとムーヴラテの後継がそれぞれミラココア、ムーヴコンテとなり、さらにその後継で登場した現行のキャストを見ると、それら4台の面影があちこちに残るデザインとなっており、それゆえ2代目ミラジーノを今見るとかえって新鮮です。
2代目はこれから意外と人気が出るのではとも思いますが、もう生産終了から14年が経過しているので、人気の”ミニライト”グレードで程度の良い個体はそこそこの値段がつくようになった初代ミラジーノに安く乗りたいと思うなら、今のうちかもしれません。
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