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まるでかぼちゃの馬車!?あまりにもユニークすぎたトヨタWiLLシリーズって覚えてる?

2000年代初頭にトヨタから販売されていた、『WiLLシリーズ』を、皆さんは覚えていますか?一見すると三者三様のそれぞれですが、実は誕生した経緯は共通の3モデルです。結果的に短命ではありましたが、閉塞感のあったクルマ業界に、需要を掘り起こそうとするチャレンジングな試みであったWiLLシリーズを、今一度思い返してみたいと思います。

WiLL Cypha ショーモデル/出典:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Will-vc.jpg

WiLLプロジェクトとトヨタ

トヨタは時に、尖ったコンセプトのクルマを世に輩出することがあります。

斬新で前衛的とも思えるようなデザインや機能で、その時代ならでは世相を反映して誕生したクルマ……例えば「トヨタWiLL」シリーズがそれにあたります。

トヨタWiLLについて述べる前に、まず、あるプロジェクトをご紹介する必要があります。

1998年~2004年にかけ、日本企業の間で、異業種合同プロジェクトが発足します。

様々な業界の一流企業群がこのプロジェクトに名を連ねる中、自動車メーカーを代表してトヨタがこのプロジェクトに参画。

このプロジェクトこそが、「WiLLプロジェクト」でした。

その目的は「20代~30代を中心とするニュージェネレーション層をターゲットとし、その購買層が持つと思われる、独自の自分らしさやこだわりといった志向に見合った商品開発を行って、新たなマーケティング手法を確立する」というもの。

一言で言えば、「ニュージェネレーション層に向けてマーケティングの合同実験を異業種同士でやりましょう。

ついでに開発した商品は一つのブランドに統合して売ってみましょう!」そんな感じでしょうか。

出典:https://www.asahibeer.co.jp/news/1999/0921_1.html

そこで、トヨタが繰り出したのが「トヨタWiLL」シリーズです。

特徴的なのは外装にトヨタのロゴやエンブレムが一切ない点。

あるのは統一ブランド名である『WiLL』を示すオレンジ色のロゴだけです。

ですから、WiLLは車名ではなく、トヨタの中に出来たWiLLブランドというのが正確な位置づけでした。

ニュージェネレーション層の持つ「独自の自分らしさやこだわり」への訴求を狙って誕生したWiLLシリーズ。

その特異な個性をご紹介します。

レトロモダン WiLL Vi(2000年1月-2001年12月)

出典:https://gazoo.com/article/daily/170926.html

トヨタの放つWiLLプロジェクト第1弾がこのViで、ベースはコンパクトカー、ヴィッツの1.3リッターモデルです。

一目見て、誰もが個性的と認識できるスタイリングであり、そして女性がターゲットであることもどことなく感じられるのではないでしょうか。

それもそのはず、ヒントはサイドビューにあるのですが、「かぼちゃの馬車」をモチーフに作られているのでした。

特筆すべきはこのクルマ、このデザインにしてまさかの4ドアセダンです。

なるほど。ドアは4枚、トランクもある……特にリアドアの形状はかなり特異なもので、こだわってこだわりぬいたデザインであることが、うかがい知れると思います。

「かぼちゃの馬車」だから単にレトロ路線を狙ったクルマかと思われるかもしれませんが、そういうわけではありません。

単なるレトロとは一線を画しているのがこのViの最大の特徴で、丸みを帯びた造形だけで全体を纏めてはおらず、リアのキャビン周りにエッジを効かせたデザイン処理が施されています。

さらにCピラーは直線的にスパッと切り落とされ、リアウィンドウは逆スラント形状となっているのは特異な点です。

また、ボンネット、サイドパネル、トランクリッドに施されたプレスラインは直線的なアクセントを与えていますし、フロントとリアのフェンダーはブリスター風な装いです。

あえて言えばレトロモダン。

古さと新しさの両方を感じさせるセンスがこのクルマからは伝わります。

販売にあたっては季節ごとに限定色を用意するなど、女性向けならではの販売施策も行われ、意図した通り、購入したユーザーの多くは女性が占めました。

しかし、ベースであるヴィッツが100万以下で買えるのに対し、Viは130万以上と割高感が先行してしまいます。

また、WiLLブランド自体の知名度も、この時期はまだ決して高くなかったこともあり、販売面では苦戦する結果になりました。

WiLL Vi
全長×全幅×全高(mm):3,760×1,660×1,575
ホイールベース(mm):2,370
車両重量(kg):940
エンジン仕様・型式:2NZ-FE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量(cc):1,298
最高出力:87ps/6,000rpm
最大トルク:12.3kgm/4,400rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:FF
中古車相場:10万~60万

先鋭ステルス WiLL VS(2001年4月-2004年3月)

出典:https://gazoo.com/article/daily/170926.html

WiLLプロジェクト第2弾はVS。

Viが女性向けに柔らかさをアピールしていたのに対し、VSは一転してシャープでスポーティーなイメージを全面に押し出したデザインが特徴です。

ベースはミディアムコンパクトレンジにある、カローラフィールダーやセリカなど、CセグメントFF車用のプラットフォームを用い、3ナンバー登録となりました。

エンジンは1.5リッターと1.8リッターが選択可能で、特に1.8リッターのハイパフォーマンスモデルには190PSを誇る2ZZ-GE型エンジンを搭載。

6速MTが選択可能であるなど、走りを意識したグレードも用意されました。

また、フルタイム4WDモデルもあり、多様な走行シーンを想定し、ユーザーに選択の幅を持たせる柔軟性も十分。

このクルマの最大の特徴は、やはりデザインで、当時の国産車にあってこのクルマは唯一無二の異彩さを放っていました。

一見すると2ドアクーペのようなスペシャリティ感のある出で立ちですが、実は5ドアハッチバックで、低く抑えられた全高は精悍であり、フロントマスクにも鋭さが感じられます。

独特のスタイリッシュさを感じさせるデザインコンセプトは、大胆にも「ステルス戦闘機」。

ドアガラスは後方に向かうにつれて小さくなるなど、実用性がスポイルされる点もありますが、そこはデザイン重視の潔さが感じられる部分です。

内装も凝ったもので、戦闘機の「コクピット」さながら。

メーターはレーダースコープ、チェンジレバーはスロットルレバー、ハンドルは操縦桿など……本物のアイテムを連想される作りは面白いの一言です。

現代のクルマと比較すると稚拙と感じられるかもしれませんが、これはこれでこだわりある男性には、ウケたのではないでしょうか。

CMには猛禽類のカットが挿し込まれ、そのモチーフは丸目2灯テールランプからなるリアビューにうまく表現されています。

WiLL VS 1.8
全長×全幅×全高(mm):4,385×1,720×1,430
ホイールベース(mm):2,600
車両重量(kg):1,150
エンジン仕様・型式:2ZZ-GE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量(cc):1,795
最高出力:190ps/7,600rpm
最大トルク:18.4kgm/6,800rpm
トランスミッション:6MT
駆動方式:FF
中古車相場:8万~70万

早すぎたサイバーカプセル WiLL Cypha (2002年10月-2005年2月)

出典:https://gazoo.com/article/daily/170926.html

WiLLブランドの最後を飾る第3弾は、「Cypha(サイファ)」です。

Cyphaは「Cyber (サイバー)」と「 Phaeton (馬車)」の造語という斬新な組み合わせ。

5人乗りハッチバックのこのクルマは、初代ヴィッツのFF車プラットフォームを使用。

パワートレインには主軸の1.3リッターに2NZ-FE型、1.5リッターの4WDモデルには1NZ-FE型を搭載し、トランスミッションは全て4速ATの組み合わせとなります。

縦目ヘッドライトの特異なフロントマスクや密閉されたカプセル感をイメージさせるボディデザインのコンセプトは、「ディスプレイ一体型ヘルメット」。

内装も前衛的であり、サイバー感が伝わります。

また、もう一つの見方として、ネーミングの直訳が「サイバー馬車」であるなら、第1弾のViをサイバー化すると、こうなるとも思える作り。

トランクはありませんが、リアのハッチゲートやフェンダーあたりになんとなくViの面影が感じられます。

そしてこのクルマ、サイバーなのは内外装だけでなく、実は電装部分に最大の特徴が隠されています。

テーマは「ネットワーク社会とクルマの融合」で、昨今、自動車メーカー各社においては「コネクティッド」と称して、インターネットに繋がるクルマの利便性を謳い、さながらIT企業のようなサービス事業へ進出する試みが多くなされています。

トヨタは今現在、テレマティクスサービスと呼ばれる移動体通信システムのサービス事業を「T-Connect」と称して注力していますが、その先駆者ならぬ先駆車は、このWiLL Cyphaなのです。

2000年代初頭、テレマティクスサービスとしてトヨタは「G-BOOK」サービスを立ち上げます。

G-BOOKの詳細は省きますが、現在あるT-Connectの前身にあたるものであり、そのG-BOOKに対応するナビゲーションシステムをいち早く標準装備していたのが、このCyphaでした。

キャッチコピーは「育てるクルマ」。

そのゆえんはITとの融合により、ニュースや天気予想、渋滞情報といった様々なコンテンツの接受を音声認識により可能とし、得られる情報を自分好みにカスタマイズ出来るとしたことです。

とはいえ、当時の通信環境とハードは3Gガラケーに代表されるIT環境であり、G-BOOK のインタフェースであるナビゲーションシステムと通信を担う携帯電話等のスペックでは、その拡張性に難があることに後々気付かされることになります。

「ネットワーク社会とクルマの融合」は目新しさもあり、必然性もあるテーマでしたが、クルマとITとではその進化のスピードがあまりに違いすぎ、G-BOOKサービスは年を追うごとに陳腐化してしまった感は否めません。

そうした意味ではスマートフォン時代に対応するITとの融合であったなら、このクルマのコンセプトは現代のニーズと合致していたことでしょう。

WiLL Cypha 1.3
全長×全幅×全高(mm):3,695×1,675×1,535
ホイールベース(mm):2,370
車両重量(kg):990
エンジン仕様・型式:2NZ-FE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量(cc):1,298
最高出力:87ps/6,000rpm
最大トルク:12.3kgm/4,400rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:FF
中古車相場:5万~45万

まとめ

WiLLシリーズではマーケティング先行型の実験的なクルマ作りを誕生の背景に、先駆的でエッジの効いたデザインは「レトロモダン、先鋭、サイバー」といった現代的なワードを具現化していました。

残念ながらセールス的には振いませんでしたが、WiLLシリーズ全般を通して、絶対数は少ないながらもクルマに個性を求めるユーザーからの評価は得ていたことは事実です。

国内のユーザーに向け、「こういうクルマはどうですか」と提案するメーカーの攻めの姿勢が2000年代初頭のクルマ作りのシーンにはありました。

クルマのグローバリゼーションはまだ大きな潮流にはなっておらず、個性を謳える時代であったのだと思います。

WiLLプロジェクト自体も話題性はありましたが、大きな成果を収めることなく2004年にひっそりと休止します。

マーケティング先行型の強者によるブランド力だけでは、消費者のココロはそう簡単に掴むことは出来ないというのが教訓のようです。

しかし、20年近く前にWiLL Cyphaの掲げた「ネットワーク社会とクルマの融合」は、間違いなく正解であり、コネクティッドカーとしてバージョンアップされて現代のクルマに継承されていると思えば、誉め言葉として、時代を先取りし過ぎたと言えるのではないでしょうか。

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著者:T.Hiroshi

少年時代からクルマに関するエンスー心を抱き、国産マイナー車と小さなイタリア車をこよなく愛するお人好しライター。自動車メーカー勤務後はIT系の仕事に就くも、実は文系頭という変わり種。クルマ1台、バイク2台の所有に周囲は眉間にしわ。バイクはI LOVE Vツインスポーツ。

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