1994年に三菱自動車から登場したピュアスポーツ「FTO」。当時の日本車としては抜群の個性を発しながらも、スポーツカーとして手の届きやすい価格を実現したクルマとして知られましたが、その性能はポルシェにも匹敵するほどだったとか?現在にも通用するその素性の良さを、今回は探ってみたいと思います。
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1990年代という激動の時代に産まれた“三菱の強烈な個性”
実はFTOという名前が登場するのは初めてではなく、1971年「ギャランクーペFTO」が発売されました。
これは、1970年代の三菱を代表した2ドアクーペ「ギャランGTO」の弟分のような存在で約3年半販売されました。
その名称を引き継いだのですが、そこには様々な思いが込められていたのです。
FTOが登場した今から20年以上前の1994年は、こんなトピックがありました。
・リレハンメルオリンピック開催
・初代プレイステーション発売
・ナリタブライアンが三冠馬に
これをお読みの20代以下の方は、大昔の出来事かもしれませんね。逆に30代以上の方は、記憶に残るキーワードもあるかと思います。
経済面ではバブルが崩壊し、ハイパースポーツカーが求められなくなった時代の始まりでもあります。
そこからECOが主流となり、1997年にはトヨタから初代プリウスが発売。
そんな、日本の世相が大きくシフトチェンジしていた激動の1994年、三菱はライトウェイトスポーツカー、FTOを発売しました。
FTOは、以下の言葉の略称です。
Fresh Touring Origination
~新鮮で若々しいツーリングカーの創造~
名称のとおり、新しい時代の幕開けとともに、新たな三菱のスポーツを提案しようとした一台で“若者にこそ乗ってもらいたい”そんな思いがあったのでしょう。
ちなみに1990年に発売したGTOは、この言葉の略称でした。
Gran Turisumo Omorogata(イタリア語)
~モータースポーツにおけるGTカテゴリとして公認された車~
であり、同じスポーツカーでありながら、全く異なる思想から産まれた車であることが、名称からもわかりますね。
ショート&ワイド&ライトウェイト
車両の諸元は以下の通り。
1994年式 FTO GPX(E-DE3A)のスペック ※GPX:最上位モデル
ボディタイプ:クーペ・スポーツ・スペシャリティ
全長×全幅×全高(mm):4320×1735×1300
ホイールベース(mm):2500
車両重量(kg):1190kg
エンジン型式:6A12
エンジン仕様:V型6気筒DOHC24バルブ
総排気量(cc):1998cc
最高出力:200ps/7500rpm
最大トルク:20.4kgm/6500rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古相場価格:135,000〜515,000 円
全幅が1735mmの為、3ナンバーサイズとなるものの、全長が4320mmというショート&ワイドなボディサイズに、1100~1190kgという軽量な車重が特徴でした。
参考までに、現代の同カテゴリライバルといえるトヨタ86は、全幅1775mm、全長4240mm、車重1190~1250kgです。
いかに当時のライトウェイトスポーツが軽量であったかということが、数値からも伝わります。(トヨタ86の1190kgは競技車両ベースグレード)
このボディに納まるエンジンは可変バルブタイミング機構MIVEC(※1)を搭載した200馬力2リッターV6エンジンとMIVEC非搭載仕様の170馬力2リッターV6エンジン。そしてエントリーモデルの125馬力1.8リッター直列4気筒エンジンというラインナップでした
※1:1本のカムシャフトに低回転用と高回転用の2つのカムを搭載し、回転数によって切り替える機構。
GTOの価格が333.5万円だったのに対しFTOのスターティングプライスが166万円。装備や性能が大きく異なるとはいえ、攻めた価格だったことがわかります。
国産車初のマニュアルモード付きAT「だけじゃない」INVECS-II
FTOのATモデルには、INVECS-Ⅱ(※2)と呼ばれるトランスミッションを採用しています。
※2:Intelligent & Innovative Vehicle Electronic Control System
これは国産車初のマニュアルモード付きATというだけでなく、FF車としては世界初の5速ATで、ドライバーの癖を学習し、最適化を行う機能を有していました。
シフトタイミングの最適制御を図る為に、ニューラルネットワークを導入し、学習制御を行うことで、ATにありがちなドライビングフィールの不満を改善しようとした、三菱らしいチャレンジングな機構だったのです。
INVECS-Ⅱは、第45回自動車技術会賞「技術開発賞」を受賞しています。その後、改良の加えられたINVECS-Ⅲに進化し、現在に至ります。
最上位モデルGPX、その性能はポルシェにも肉薄する?
最上位グレードの「GPXは、200馬力の強力なエンジンを搭載しており、MIVECによる低回転から高回転まで使いやすいトルクを発生させます。
その性能は伊達ではなく、プロドライバーが筑波サーキットで行った5ラップバトルでは、
ポルシェのMT、ATに挟まれつつ、素晴らしいバトルを繰り広げているシーンを見ることができます。
この5ラップバトルのベストラップタイムについて、以下3車種を比較すると…
ポルシェ911カレラS(993 MT):1分10秒41
FTO(MT):1分11秒10
ポルシェ911カレラS(993 AT):1分11秒56
ということで、MTのポルシェには届かないもののATを超えるタイムをたたき出しています。
絶対値としても、ノーマル車で、なおかつバトル中のラップタイムで1分11秒台は、トヨタ86のノーマルでのラップタイムが1分10秒台と言われていることを加味すると、発売から20年以上が経過した現在においても、決して見劣りしない性能であることが分かりますね。
素性の良さを生かし、JGTCでも活躍!
モータースポーツでもFTOは活躍しました。
1998年と1999年にチーム・テイボン・ラリーアートから全日本GT選手権(GT300クラス)に参戦。
ドライバーは中谷明彦選手や、原貴彦選手、ラルフ・ファーマン選手など、そうそうたる顔ぶれ。
当時のライバル車種には、ポルシェ996GT3R、マツダRX-7といった名車が名を連ねており厳しいレースの中において、決して見劣りしない走りを魅せていたことが分かります。
1998年は、スポーツランドSUGOで行われたシリーズ最終戦と翌1999年の鈴鹿サーキットで行われた開幕戦で2位表彰台を獲得。2シーズンを通してコンスタントに入賞していました。
パワー、そしてコーナリング特性共に、素性の良い車体であったことが伺えますね。
一代限り…短命ながら熱きファンを獲得
さて、そんな活躍を見せたFTO。発売した1994年に日本カーオブザイヤーを受賞したものの、販売自体はそれほど芳しくなく、2度のマイナーチェンジを経て2000年に生産終了となりました。
しかし、日本国内では数百台が参加しているオーナーズクラブのほか、熱烈なファンによって今でも大切に乗られています。
また海外でも、個性的なカスタム車両などを見つけることができ、素性の良さから20年以上経った現在でも、ジムカーナやサーキット用の車両として十分通用する性能を保持。
チューニングベース車両としても、選択肢の一つとして注目されています。
ただし、総生産台数が4万台弱ということで、中古車検索をしても、ヒットするのはごくわずか。
すでに希少車であることが伺い知れます。
まとめ
現在のスポーツカーではなかなか実現の難しい軽量な車体と、現在でも古臭さを感じさせない独特のスタイリング。
三菱がスポーツを、そして時代を“変えたかったクルマ”。
その個性は、これからも全く色あせることはないでしょう。
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