OHVコンバート型DOHC?

出典:https://www.youtube.com

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それでは2T-Gの特徴を分析してみましょう。

主要諸元や年式、規制による推移などは様々なところで紹介されていると思いますので、今回はカタログなどではなかなか伝えづらい見地から迫ってみたいと思います。

 

シリンダーブロック系

2T型がベースとなるので、プッシュロッドのガイド穴やカムシャフトハウジングなどOHV特有の名残が随所に残っていました。

結論から言うと、無駄な箇所が多く重量増の傾向にありますが、逆を言えば贅肉がある分基本的に頑丈であり、ボアアップなどの改造に耐えうる可能性を持っていると言えます。

ボア×ストロークは85mm×70mmというショートストロークに設定されており、ピストンスピードの制約から考えると、高回転化が可能な特性に合わせてカムシャフトの作用角やバルブタイミングが設定されたものと推測されており、トルクをより高回転で発生させて、馬力を更に上げようという当時のセオリーが伺えます。

 

シリンダーヘッド系

ヤマハ発動機より提供のオールアルミ製シリンダーヘッドは、8バルブ半球形燃焼室を持ち外部フロント側には、同社の加担が存在することを主張しているように、マークも刻まれています。

吸排気ポートが水平であるため、必然的にバルブ挟み角が広角となり、燃焼室体積増からの圧縮比低下を招くことになりますが、高圧縮比維持のつじつまを合わせるために2T-Gの純正ピストンの頭頂部はチューンドピストンのように大きな盛り上がりを持っています。

また現代の多弁エンジンに比べるとバルブは驚くほど大きく重く、実は前述の高回転化を促進する理想とは相反する要素でもあります。

また当時DOHCは一般的にはまだまだ普及しておらず、カムシャフトを外すほどの分解になると、整備士の方々は組付けには、より気を遣ったものだったそうです。

それでも、理解した上であれば吸排気単独でのバルブタイミングの変更によって、キャラクターが容易に変化できるといったDOHC特有の特権がありました。

 

吸排気系

排気系は特筆すべき点はなくオーソドックスな鋳鉄製マニホールドですが、吸気系にはソレックス40ΦPHH型をツインで搭載。

これも当時は一般的に数少なかったため、調整には知識と熟練が必要とされ、かなりの手間が掛かったそうです。

このキャブレターはトヨタ純正部品として三国気化器が製造し、識別としてトヨタの品番が記された赤いシールが貼られていました。

ただし、この純正ソレックスはベンチュリ以前のボアがスリーブによって絞られており、高回転を多用するようなモータースポーツユーザーは流入吸気の減少を嫌い、スリーブを外すのというのが2T-G基本チューニングメニューの第一歩でもありました。

身近で安価に手に入るツインチョークキャブレターとして、特に中古部品は若い年齢層のチューニングファンの間で大人気。

解体屋を巡り歩いて、格安な純正ソレックスをトヨタ以外の車につける。というのが定番でした。

 

大量生産とロングライフの功

販売好調な車種に搭載され、より身近な存在になった2T-Gは、モータスポーツではワークスを始めプライベートチームや様々なチューナーによって、カスタムの世界では有名ショップや一般層のユーザーによって、進化やモディファイを繰り返していきます。

そこには「“世界の巨人”トヨタ」のコマーシャル的な要素が多分に含まれており、特に底辺のモータースポーツ愛好層へ裾野を拡げたセールス戦略は功を奏します。

「安価な量産エンジンにスポーツ的付加価値を付けてガンガン売る!」という販売思想のもとで、次々と世に生みだされ様々な試みを受けていく量産DOHC。

そんな多くのユーザーと、モータースポーツの世界で育まれ活躍した2T-Gをみてみましょう。

 

100E

出典:http://www.toymods.org.au/

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通称100Eと呼ばれるレース専用に吸排気ポートが拡大されたヘッドを持つ特殊なエンジンです。

ノーマルヘッドのポートは冷却水路との肉厚に限界があり、ポートを拡大しすぎると水路に貫通してしまいます。

バルブ数は8バルブのままでありノーマルの2T-Gの面影がまだ残っていますが、外見からはヘッド識別番号が途切れていることと、フロントチェーンカバーが特徴的です。

 

126E

©Motorz

 

出典:https://www.youtube.com/

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こちらは100Eの発展型とも言える126E。

1気筒あたり2本のスパークプラグを装備するツインプラグが特徴的なこのエンジンはセリカターボに搭載され、1973年富士1000kmレースで優勝しました。

シリンダーあたり2バルブのエンジンは燃焼室の中心にスパークプラグを置くことが難しく、混合気の燃焼に偏りが生じ効率よくパワーを活かしきれません。

更にターボ装着となるとタービンの加給によってシリンダー内圧が上がり、益々燃焼が困難になる傾向にあります。

126Eツインプラグエンジンはこれらの問題点に着目し、効率の良い燃焼を目指したコンセプトであったと思われます。

 

151E

出典:https://www.razine.com/

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上の2基種と同様にトヨタワークスエンジンである「151E」。

当時一般ユーザーが普通に関わり遭遇する機会は殆どなく、筆者もレース雑誌などで目を輝かせて眺めているだけでした。

1気筒あたり4バルブ化されたエンジンに既に2T-Gの面影はなく、ブロックの一部に名残がある程度ですね。

給排気系も2T-Gとは互換性がなく、そそり立った機械式インジェクションのファンネルが漢らしいです。

フォーミュラパシフィックと呼ばれるフォーミュラカー用に開発された超高性能エンジンです。

 

F3

出典:http://www.2000gt.net/

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イタリアのノバ社は、F3用エンジンとして2T-Gをベースに2Lに排気量アップしたものを開発し、2T-G搭載マシンがF3の世界を席巻していた時代が永く続きました。

アイルトン・セナが、マカオF3で優勝したラルトRT3に搭載していたのも2T-Gであり、圧倒的なシェア数と戦績から察するにF3シャシーとの抜群のマッチング、そして本来のエンジンが持つポテンシャルの高さが伺われます。

このように自動車の本場ヨーロッパのチューニングメーカーまでもがモディファイ&リセールし、それを多くのユーザーが支持するということは、廉価だけど高性能であったことが大きな要因として考えられます。

 

出典:http://helgeland-motor.all-forum.net/

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活躍の場はレースだけに留まらずTTE(トヨタチームヨーロッパ)などを主体に、ラリーの世界でも名を馳せていました。

灼熱の荒野や鬱蒼と静まり返る山岳地帯にこだます甲高いDOHCサウンドが響き渡り、荒々しく吠える吸気音は、おおいに道端のギャラリーを魅了したはずです。

 

出典:http://m.forocoches.com/

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日本初のグループCマシンとなった「トムス童夢セリカC」。

童夢とトムスのコラボレーションマシンで、エンジンは市販ベースの元1600ccエンジン2T-Gを排気量2リッターにまで拡大、ターボチャージャー武装等により最高出力は400馬力を超えておりました。

まさにモンスター級のエンジン&マシンですが、実走行する姿は色んな意味でエキサイティングだったことでしょう。

 

進化し続ける旧式エンジン

上記の2T-Gはいずれも特殊な仕様であり、現在希にオークションサイトなどでも見かけることがあります。

しかし、1基としての完全形態であること珍しく、断片的な部品でさえも驚くほどの高値で取引されているようです。

まさに当時も今も雲の上の存在的、珠玉の逸品なのです。

他方で馴染みやすく、あくまでもシリンダーブロックやヘッドはスタンダードな2T-Gをベースにしたチューニングが、有名ショップや血気盛んなプライベーターたちによって切り拓かれていきます。

出典:http://jdmchicago.com/

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TRD、HKS、TRUSTの部品を多用したTE27。

当時この3社はアフターチューニングパーツの御三家であり、揺るぎない地位を築いていました。

 

出典:http://missilemachine.livedoor.biz/

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同じくTE27に搭載されたターボ仕様の2T-G。

DOHCに過給器をプラス。まるで日産とトヨタの主張を合わせたような仕様ですね。

当時はアフターパーツメーカーで「ボルトオンターボキット」と呼ばれるタービン本体と、付属部品一式をセットにした形態で販売されていました。

チューニングの手法も主流が徐々に変わり始め、それまでのメカチューンから、比較的手軽にトルクアップが望めるターボチューンへと移行していきます。

 

出典:http://www.kameariengineworks.co.jp/

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そして現在はメーカー純正部品でさえも入手困難な状況が見受けられ、スポーツパーツに関しても同様。主要部のチューニングパーツに関しては「カメアリエンジンワークス」のみのラインナップとなっています。

旧車系カスタム・チューニングでは超有名どころであり、品質と技術力とユーザー対応にとても信頼の置けるショップです。

このように1980年代の最盛期に熟成しきった2T-G。その後は必然的に機械としての宿命からか、ハイスペック現役機の座を後進エンジンたちに譲ることに。需要が減れば、供給も停滞し改良進化も停まります。

それでも、まだ現代において熱烈に支持する方は存在します。

強いこだわりや使命感を持つショップやコアなユーザーたちが設計や仕様の変更を繰り返し、微速ながらも進化し続けています。

 

今もなお戦い続ける2T-G

希少なものは大切に扱われるわけですが、最近の旧車のイベントなどで見かける2T-Gは丁寧に組み上げられ大切に維持されている様子が伺え、とても素晴らしいことだと思います。

 

Photo by Komatsubara

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筆者の友人のTE47トレノに搭載されたフルチューンド2T-G。

完全プライベーターであるご自身が全て構想し組み上げた逸品です。

綺麗にヘッドカバーが塗装されていて、2型ソレックス50Φの存在感と2T-G特有の盛り上がった形状のタコ足が美しく、目を引きますね。

オーナーさんの強いこだわりと熱意が伝わり、美しく仕上げられているクルマはとても感動的です。

一方で希少なエンジンを決して粗末に扱っているわけではないのですが、展示イベントとは一線を画し愛機の持てる性能をフルに放出すべく、希少な車体に搭載し躊躇なくアクセル全開する楽しみ方もあります。

ここから下の車両は、いずれもJCCA(日本クラシックカー協会)主催の、クラシックカーレースに参戦されている2T-G搭載マシンです。

 

出典:http://www.jcca.cc/

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このカテゴリーは1970年までに生産された同型式の車両によって争われ、改造範囲もかなり広いフルチューンクラスのレースです。

紳士的でありなからも情熱的な参加者が多く、旧車とは思えないエネルギッシュな好バトルを毎戦楽しんでいます。

プロのレーシングドライバーや芸能人の方なども参戦される機会があるほどで、走る方も観る方もとても楽しめるイベントです。

 

以下の動画は2014年10月に行われた、「JCCA エンデュランスミーティング Fスプリントレース」における予選車載動画です。

一切の妥協もなく全開で加速する2T-Gの咆哮をぜひ聞いてみてください。

 

 

JCCAのレースについてもっと知りたい方はコチラ

カスタムされたクラシックカーが集う!JCCA主催のクラシックカーレースを知っていますか?

 

まとめ

Photo by Komatsubara

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1970年に世に出た2T-Gはその後様々な規制を受け、改良を加えながら1983年5月に現役の幕を下ろします。

そして後継機は、あの有名な4A-G。しかし、そこに2T-Gの面影はほとんどありません。

軽量コンパクトを念頭に揺るぎない思想を持って企画設計された、とても素晴らしいエンジンとなりました。

面影がないということは「2T-Gが駄作であったのか?」とも取れますが、一歩引いて視野を広げてみれば、前作で培ったノウハウがフィードバックされ、活かされているという解釈も出来ます。

スペックを追い求め正常進化し続ける機械にとっては、世代交代もまた宿命なのです。

しかし当時最高と謳われ華やいだ過去を顧みながら、後年は味のある機械遺産になることも又、エンジンにとっては素晴らしい余生である考えます。

 

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