4気筒、6気筒、8気筒とシリンダーの数は偶数である事が多い自動車用エンジン。最近は海外でも日本のコンパクトカーや軽自動車のような3気筒エンジンが増えていますが、意外に聞かないのが5気筒。昔と比べて減りましたが、今でも5気筒エンジン車は存在するのです!今回は乗用車用5気筒ガソリンエンジンから、いくつか代表的な例を紹介します。

掲載日:2017/07/05

出典:https://www.audi-press.jp/press-releases/2017/b7rqqm0000001bx6.html

 

 

「5気筒」その存在理由

 

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Straight-five_engine

 

ガソリンエンジンにせよディーゼルエンジンにせよ、燃焼室での爆発でピストンを動かし、それをクランクシャフトの回転に変えて動力とするピストンエンジン(レシプロエンジンとも言う)には必ず、「シリンダー」(気筒)が存在します。

その、シリンダーの中でピストンが上下する際に発生する振動は、シリンダーをいくつか並べることで打ち消し合う効果があるため、よほどの小排気量でなければ複数のシリンダーを持つのが普通なのです。

ただし、シリンダー数が多いとそれだけエンジンが大きくなるので、静粛性や振動の少なさだけでなく、寸法や排気量のバランスも大事になります。

そこで出番となるのが、5気筒エンジン!

・振動が少なく静粛性が高い、シリンダーを6つ並べた直列6気筒エンジン(以下、「直6」)を何らかの事情で搭載できないが、排気量は大きくしたい。

・工作機械などの事情で1気筒あたりの排気量に限界があり、排気量の大きい直列4気筒エンジン(同「直4」)は作れない。

・同様の事情で、4気筒以上6気筒未満の排気量でエンジンを作りたい。

5気筒エンジンはこうした時に必要とされます。

4気筒や6気筒と較べ、排気干渉により独特のエンジンサウンドを奏でてしまいますが、アウディなどはそれをむしろ逆手に取り「直5独特のエンジンサウンド」と宣伝しているので、必ずしもデメリットとは言い切れないかもしれません。

なお、通常は直列5気筒エンジン(同「直5」)が多いのですが、シリンダーを少しずらして間隔を詰め、直列4気筒エンジン並の長さに縮めた狭角V型5気筒エンジン(同「V5」)もありました。

 

現在も日本で正規販売中!アウディのお家芸直列5気筒エンジン

 

出典:https://www.audi-press.jp/press-releases/2017/b7rqqm0000001bx6.html

 

それは2代目アウディ100から始まった

 

出典:https://www.audi-press.jp/press-releases/2017/b7rqqm0000001bx6.html

 

世界で初めて乗用車用直列5気筒エンジンを開発、1976年に2代目アウディ 100に搭載してデビューさせたのがアウディでした。

モデルチェンジで車格アップを図り、それまでの直4よりシリンダー数を増やして大排気量化したかったアウディ 100でしたが、エンジンルームの寸法や前後重量配分の問題で直6は断念。

そこで2.1リッター直5を開発したのが始まりで、以後直5はポルシェやスバルの水平対向エンジンとともに、アウディのお家芸となりました。

しかし、より大排気量が可能なV型6気筒エンジン(以下、「V6」)の登場で直5は減っていき、1994年に初代A4へとその座を譲ったアウディ 80(4代目)を最後に消滅したのです。

 

フォルクスワーゲン狭角V6の廃止で、2代目TTから復活

 

出典:https://www.audi-press.jp/press-releases/2017/b7rqqm0000001bx6.html

 

2009年にFF / 4WDスポーツカー、アウディ TT(2代目)の高性能版TT RSが登場した時、2.5リッター直5ターボが復活しました。

TT RSがこれを採用したのは、TTが「縦置きエンジンFF/ 4WD」というアウディ特有のメカニズムと異なり、横置きエンジンな事もその理由です。

フォルクスワーゲン(以下、「VW」)の車と同じ横置きエンジンFF / 4WDであるTTは、VWグループの狭角V6 / 狭角V5エンジン廃止(直4ダウンサイジングターボへの転換)に伴い、ハイパフォーマンス版に独自のエンジンを開発。

狭角V6と同等の長さでエンジンルームに横置き可能な、直5ターボが新開発されました。

2016年にデビューした3代目TTベースのTT RSにもこの直5ターボは継承され、出力は340馬力から400馬力へとパワーアップ、電子制御クワトロ(アウディ独自の4WDシステム名)と7速DCT(セミAT)のSトロニックを組み合わせた4WDスポーツとなりました。

クロズーズドボディの TT RSクーペと、オープンカーの同ロードスターをラインナップしています。

 

RS3セダン / スポーツバックやQ3 RSにも採用

 

出典:https://www.audi-press.jp/press-releases/2017/b7rqqm0000001bx6.html

 

TTと同様に横置きエンジンのA3、そのハイパフォーマンス版RS3や、A3ベースのクロスオーバーSUV Q3の同RS Q3にも直5ターボは搭載されています。

RS3はスポーツバックのみでしたが、2017年11月には新型に移行するとともにA3セダンの高性能版、RS3セダンも同時に追加予定で、TT RS同様400馬力にパワーアップ予定。

いずれもTT RSと2.5リッター直5ターボを搭載し、クワトロ+7速Sトロニックを装備した4WDスポーツです。

 

「FFミッドシップ」のため5気筒エンジンを採用したホンダ

 

Photo by GPS 56

 

初代インスパイアでデビューも、理想通りにはいかなかったFFミッドシップと5気筒エンジン

 

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%A4%E3%82%A2

 

ホンダは1980年代末から1990年代末にかけ、独自のコンセプトで何車種かの車を発売しました。

その当時、横置きエンジンFFに特有の振動やATの変速ショックに対する抜本的な対策として、上級車種には縦置きエンジンFFを採用することになりましたが、フロントオーバーハング(フロントタイヤより前)に重いエンジンを搭載するとフロントヘビーという問題に直面します。

同じ問題をかつての失敗作ホンダ 1300で経験していたホンダは、フロントヘビー解消のためフロントタイヤを前に出し、内側にエンジンを搭載するフロントミッドシップレイアウトを採用。これをFFミッドシップと称しました。

ただし、長いエンジンを縦置きするとエンジンルームが伸びて車室長を圧迫するため短いエンジンが必要で、V6のほかに新規に開発されたのが2リッターのG20Aと2.5リッターのG25A、2種類の直5です。

G20Aを搭載した初代インスパイアと兄弟車の3代目ビガーは1989年に登場しますが、フロントヘビー解消と引き換えに「フロントタイヤに十分な荷重がかからず、低ミュー路面の上り坂ではスリップやホイルスピンが多発」という致命的な欠点を抱えていました。

 

FFミッドシップとともに5気筒エンジンも10年ほどで消滅

 

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その後FFミッドシップは2代目 / 3代目レジェンドやインスパイア系、アコード派生車に採用され、そのうち直5は以下の車種で採用されました。

・初代インスパイア(1989~1995年)

・2代目インスパイア(1995~1998年)

・3代目ビガー(1989~1995年)

・初代セイバー(1995~1998年)

・2代目アスコット(1993~1997年)

・初代ラファーガ(1993~1997年)

これらは確かにフロントノーズの動きが軽く感じられ、パワステなど小指でクルクル回るほどの軽さ、そして通常の横置きエンジンFFと違い、エンジンにタイヤの切れ角が左右されないので、小回りが効くというメリットはありました。

しかし、前述の弱点は如何ともし難く、さらにエンジン全長を抑えた直5でもやはり車室長の圧迫は避けられなかった為、ライバルに快適性やゆったり感で劣り、初代インスパイア登場から10年足らずでFFミッドシップは消滅。

専用エンジンのG系直5も同時に姿を消しました。

なお、FFとしては失敗したフロントミッドシップですが、FR用としては最適だったので後にS2000に採用され、1995年の東京モーターショーで発表されたプロトタイプ、SSMには直5のG20AをDOHC VTEC化した200馬力版が搭載されています。

 

クラッシャブルゾーンのため独自の狭角V5を採用したフォルクスワーゲン

 

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元々の狭角V6と直4の中間的な、狭角V5を初搭載したパサート

 

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VWでは普通のエンジンが幅広なV6で横置きFF車を作ると、短いエンジンルームで十分なクラッシャブルゾーンを確保できないと考えていました。

そこで考えられたのが直6とV6の合いの子というべき狭角V6です。

基本的には直6なのですが、1気筒ずつ少し横にずらすことで幅狭のV6エンジンとなり、さらにずらした分だけシリンダー間隔を詰めた、全長の短い直6エンジンとも言えるもので、VWはこのエンジンをV6ではなく「VR6と称しました。

これで2.8~3.6リッターVR6を作りましたが、さらに直4と中間的な排気量のエンジンを造るため1気筒減らしたのがVR5で、5代目パサートに2.3リッターVR5が搭載されたのです。

 

4代目ゴルフやニュービートルにも搭載

 

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2.3リッターVR5は引き続き4代目ゴルフ(ゴルフIV)やその4ドアセダン版ボーラにも搭載されました。

さらにニュービートルの北米版にも搭載されましたが、日本に導入されたVR5はパサートとボーラだけであり、クルマ好き以外にはあまり知られていないかもしれません。

そして、VR6が2009年頃に直4ダウンサイジングターボと入れ替わるとともに、VR5も無くなっていきました。

 

クーペ・フィアットなどに直5を使ったフィアット

 

Photo by Kieran White

 

これまで紹介した中で、排気量アップやターボなど補機類配置のため横置き直5を選択したのはアウディだけでしたが、ヨーロッパではこの他にも事例があります。

フィアットグループでは直4のラインナップは十分でしたが、同じような排気量で直5も作っており、FFスポーツカーのクーペ・フィアットに2リッターNA(自然吸気)およびターボの直5を採用しています。

この直5は他にも4ドアセダンのマリア(日本未導入)や5ドアハッチバックのブラーボ(日本名ブラビッシモ)などにも搭載され、フィアットグループのランチアでもいくつかの車種に搭載されましたが、今ではあまり使われていません。

 

850以来、直5や直6を横置きしていたボルボ

 

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%BB850

 

もうひとつ直5を横置きしていたのがスウェーデンのボルボで、1991年に発表された850から2.5リッター直5を横置きするFF / 4WD車となり、240など旧世代のモデルから大きく様変わりしました。

それ以来、直5の横置きエンジンはボルボ車の特徴となり、一時はランチア テーマ8.32のごとく直6を横置きしたモデル(XC70など)などもありましたが、ほかのヨーロッパ車の例にもれず、現在はダウンサイジングターボ化、2リッター直4ターボに統一されました。

 

まとめ

 

今回はガソリンエンジン車の直5のみを紹介しましたが、ディーゼルエンジンまで視野を広げると、他にも直5の例は多々あります。

コンパクトで大排気量化が可能、横置きエンジンではV6よりターボなど補機類の配置が容易といったメリットで採用されてきた直5やVR5ですが、エンジンのダウンサイジングターボ化で、小排気量直4に置き換えが進み、今はほとんど無くなりました。

それゆえアウディのように「独特のサウンドを奏でる直5はウチの伝統」と、「個性の演出」に利用するケースも出てきており、似たような車が多くなった中でライバルとの差別化に一役買っているようです。

 

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