モータースポーツの世界では時々、圧倒的に強すぎて一時代を築いてしまうマシンが登場します。JTCでのR32スカイラインや、WRCのランチア・デルタのように、グループCと呼ばれたプロトタイプ・レーシングカーの世界で一時代を築いたのが、ポルシェ962シリーズでした。今回、取材した車両は日本国内で高橋国光さんが搭乗し、活躍した962Cとナンバー付きのバーン・ポルシェ962LMです!

Text & Photo:Yusuke MAEDA

掲載日:2019/09/05

左:バーン・ポルシェ962LM / 右:チームTAISANの962C

ポルシェ962/962Cとは?

1990年 ポルシェ962C

1990年メキシコシティ480kmに出場した際の Porsche 962C. Hans-Joachim Stuck, Jonathan Palmer / 出典:https://press.porsche.com/prod/presse_pag/PressBasicData.nsf/press/PCNAenWelcome0?OpenDocument

1980年代、グループCで多くの勝利上げてきたポルシェ 962/962Cは、デイトナ24時間やル・マン24時間耐久レースで何度も優勝し、WECおよびWSPCではシリーズタイトルを獲得してきた伝説のレーシングカーです。

また、ポルシェは多くのプライべーターへ962Cをデリバリーしていたため、962Cの部品の需要は高く、962Cのアルミニウム製モノコックフレームは、一部アメリカで製造したものをドイツへ出荷していました。

30年ぶりに国さんがドライブ!

チームタイサンのポルシェ962C

1991年 JSPC第2戦フジ1000kmに出場していたチームタイサンのポルシェ962C / Photo by Iwao

国内に目を向けると、全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権(JSPC)で最多優勝を記録した高橋国光氏は、アドバンアルファ・ノバ・チームから962Cに乗って出走し、1985、1986、1987、1989年にシリーズタイトルを獲得。

1989年の鈴鹿1000kmに出走した際は、高橋国光/スタンリー・ディケンズのコンビでした。

今回、取材することができたアドバンカラーの962Cは、まさに1989年にJSPCで高橋国光選手がステアリングを握ったマシンそのものです。

この車両の現オーナーは、今でも年に数回、鈴鹿や富士などのサーキットを走らせているそうで、当時この車両のメンテナンスを担当していたメカニックさんに、現在でも整備をお願いしているそう。

2017年に開催された富士スピードウェイ50周年記念イベント『富士ワンダーランドフェス!』内で、約30年ぶりに高橋国光氏がポルシェ962Cをドライブする機会に恵まれ、国さんがコクピットに乗り込むと、開口一番「このクルマは誰がメンテしてるんだ?」と尋ねたのだそう。

当時の担当メカニックが「私です」と返事をすると、「じゃあ、踏めるね」と言い残しコースイン。

アウトラップから1分50秒台という、御年77歳(当時)とは思えない、気迫ある走りを見せてくれました。

ピットに戻ってきてからも、なかなかコクピットから降りようとせず、当時を噛みしめるように懐かしむ姿に、思わず感動してしまったと、オーナーは語ります。

こっちのポルシェもスゴいぞ!

取材開始10分で、そんなステキ過ぎる高橋国光氏のエピソードが飛び出し、余韻に浸りたい所ですが、遊びに来ている訳ではないので、隣のロスマンズカラーの962についても話を聞いてみます。

ぐるりとマシンの周囲を回ってみると、なんとナンバープレートが付いてるじゃありませんか!!

ここで、「あ、コレ、シュパン・ポルシェか!」と気付きます。

1992年式 ポルシェ962CR

1992年式 ポルシェ962CR /Photo by German Medeot

前述の通り、962/962Cは多くのプライべーターへデリバリーされ、パーツ供給も豊富だったことから世界中で愛されていました。

ポルシェのワークスドライバーとして、ル・マン24時間耐久レースでの優勝経験もあるオーストラリア出身のバーン・シュパン(Vern Schuppan)氏もそのうちの1人です。

80年代後半〜90年代前半にかけて、カーボンの時代が到来し、アルミモノコックボディだった962Cは徐々にカーボンモノコック化する周囲のライバルたちと比べて、劣勢になりつつありました。

そこでシュパン氏はカーボンモノコックの962Cを試作。
そのカーボンモノコックをポルシェ社へ持ち込み、改良型の提案をするも上手くいかなかったのだとか。

そんなシュパン氏の動きを知ったとある日本企業が、「ロードゴーイングverを作ってくれないか」と打診。

そして完成したのが、画像の『シュパン・ポルシェ962CR』でした。

公道走行を見越してか、フューエルリッドにはカバーが付けられていて、これは外見からシュパン962であることを見分ける証のひとつです。

……と、ここまで読んで、962CRとロスマンズカラーの962を見比べてみても「いやいや、全然似てないじゃないか!」と思った方もいらっしゃるでしょう。

実はこの車両は”962CR”ではなく962LMという、よりレーシングマシンと似た外装を持った車両で、962CRが5〜6台ほど製作されたのに対し、こちらは2〜3台ほど作られたと言われているそうです。

サイドシルに注目すると、カーボンモノコックとなっていることが分かります。

対してコチラはアドバンカラーの962C。アルミモノコックなのが、分かります。

962LMの助手席と962Cの運転席を開けて比較して見たのですが、確かにカーボンモノコックですし、給油口カバーに”VERN SCHUPPAN”と刻印されているのが何よりの証拠です。

 

まとめ

LMとスプリント用の違いは、ウイングのマウント位置です。

ポルシェ962の”LM仕様”のことをよく「ロングテール」と呼ぶ方もいますが、実は962Cと962LMの全長は同じで、違いはウイングのマウント位置。

高速サーキットを想定し、ドラッグを最小限に抑えるローマウントな962のLM仕様は、確かにハイマウントな962Cと比べると、平べったく長く見えがちでしょう。

モータースポーツ好きならば”LM=ロングテール”という先入観も相まって、錯覚を起こしてしまうのも納得です。

お恥ずかしながら、かく言う私も、この2台が横に並んでいて初めて気付くことができました。

そんな2台が揃わないと知ることのできなかった新たな発見もあり、貴重な取材となりました。

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