昭和30年代後半、”高度成長期”真っ只中の日本では『大きいことは良いことだ』が社会の風潮となりつつありました。そんな時代背景が後押しする様に、ビッグアメリカンデザインが色濃いフラットデッキ スタイルに徹底した高級志向で開発が進められた2代目グロリアは、1964年に開催された東京オリンピック目前の日本に、プリンス自動車工業から”栄光”という名で降臨したのです。
掲載日:2018/09/19
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高貴な志をもって生み出された初代グロリア
2代目グロリアを語る上で、紹介しておきたいのが初代モデルの存在です。
1959年、富士精密工業から発売された初代グロリア『BLSIP型』は、スカイライン『ALSI型』のボディと多くを共用する手法を採り入れて、その上位モデルとして製作された4ドア高級セダンでした。
当時宮内庁への車両納入など皇室との関係が深かった富士精密工業が、皇太子の御成婚を記念してラテン語で『栄光』を意味する言葉から、”グロリア”と命名したといわれています。
そして、直列4気筒OHV1862ccのGB30型エンジンを搭載し、最高出力80馬力を誇る戦後の国産車初の3ナンバーセダンとして名を馳せました。
ちなみに1961年、富士精密工業は”プリンス自動車工業”に社名が変更されています。
アメリカンデザインの2代目グロリア
2代目グロリアはスカイラインとは車体を差別化され、小型車枠ギリギリの全長4650mm×全幅1695mm×全高1480mmという寸法が与えられて開発が進められました。
そんな限られた寸法の中で、アメリカンな風格あるデザインを目指す為に採り入れられたのが『フラットデッキ スタイル』です。
ボディ上部をワイドに見せる為に、プレスラインにはモールを装着し、リアデッキを長く見せる為に”Cピラー”は細くデザインするなど『より広く、より長く、より低く』を目指して美しいフォルムが追求されました。
しかし、エクステリアデザインが完成する頃にはプリンス自動車社内に、アメリカ車の中でもモダンでシンプルなシボレー・コルベアに似ているのではないかという噂が広まります。
それを知った当時のプリンス会長 石橋正二郞氏から、「シンプルで安っぽいのでは駄目だ。」という指示がデザイン課に発令。
あらためて、”高級志向”なデザインの追求がなされたという逸話が残っています。
満を持して1962年9月に発売された2代目S40グロリアには、トレー式フレーム、4ドア6座席の車体に、フロント:ダブルウィッシュボーン・コイル筒型復動ダンパースタビライザー付、リア:ドディオンアクスル、2枚巾広リーフスプリング筒型復動ダンパーの足まわりを装着。
発売当初は初代グロリアの改良型である1900ccの4気筒エンジンを搭載していましたが、新型の車体にはエンジンスペースに余裕が設けられており、スカットルにも凹みが造られて容易にもう少し大きなエンジンが組み込める設計になっていました。
そして翌1963年に、当時としては衝撃的なエンジンを搭載したモデルを発表するのです。
ストレート6の先駆者プリンス・グロリア スーパー6
1963年6月、2代目グロリアにその名も『スーパー6』というグレードが追加されました。
2リッター以下で6気筒エンジンを搭載したマシンは当時、スタンダード・ヴァンガード6とトライアンフ・ヴィテス、フィアット1800などしかなく、世界でもあまり例を見ない存在の乗用車となります。
また、搭載された『G7』エンジンのSOHCで6気筒というエンジンレイアウトも、実用車ではメルセデスベンツ以外例がなく、プリンス自動車がいかに高級セダンとしてグロリアの開発に力を注いでいたかを伺える一面ではないでしょうか。
6気筒エンジンのメリットは、4気筒エンジンの宿命ともいえる”アンバランス”がないので振動が少なく、爆発間隔が狭いのでトルク変動があまりない事。
そして、エンジンサウンドが静寂な点などがあげられます。
更にグロリア スーパー6には、クランクピンにバランスウェイトを付けて、その上各ピンの間のアームにもウェイトを付けてあったので、完全なダイナミックバランスをとることに成功したため、G7エンジンの振動は極めて少ない設計となってしまいました。
また、スーパー6はパワートレイン、サスペンションのボディマウントなど各部の防音や遮音処理が完璧に対策されています。
例えば、プロペラシャフトは3個のU字ジョイントを持つ2分割式となっており、センターベアリングは外側に柔らかなラバーを介してボディマウントすることにより振動と騒音を吸収する事に成功。
更にファイナルドライブは、鍛造のマウントブラケットと厚いラバーを介して2カ所で固定され、ハウジングは前後左右にトルクロッドとストラットバーで吊り下げられてボディへの振動及び騒音を軽減。
実質的なところでは、ボンネットやダッシュボードの裏側に新素材の遮音材が追加されて室内への騒音の侵入を防いでいます。
このようにグロリア スーパー6は、高級車にふさわしいスムーズで静かな走りを目指し、全ての騒音及び振動源ひとつひとつに対して丁寧な対策が取られ、設計されたのです。
グロリア スーパー6スペック
エンジン | 水冷6気筒SOHC |
総排気量 | 1988cc |
最高出力 | 105馬力/5200rpm |
最大トルク | 16.0kgm/3600rpm |
ボア×ストローク | 75.0×75.0mm |
ギアボックス | 4速フルシンクロ |
全長 | 4620mm |
全幅 | 1695mm |
全高 | 1480mm |
ホイールベース | 2680mm |
車両重量 | 1320kg |
最高速度 | 155km/h |
前輪懸架 | ダブルウィッシュボーン |
後輪懸架 | ドディオンアクスル・リーフスプリング |
ブレーキ | 前後デュオサーボ・アルフィンドラム |
2.5リッターエンジン搭載グランド・グロリア
誰もが認める高級サルーン、そしてプリンス自動車のフラッグシップモデルとしての地位を確立したグロリア スーパー6でしたが、最高速度や特に加速性能などは少し物足らないという評価が自動車ジャーナリストから多々あがります。
そして、そんな声が聞こえたかのように1964年5月、スーパー6のさらに上を行く3ナンバー高級セダンとしてG11型 2495ccエンジンを搭載する『グランド グロリア』が誕生。
4バレル、2ステージの気化器を採用した2.5リッターエンジンは、最高出力5200rpmで130馬力、最大トルクも3200rpmで20.0㎏mを発生し、同クラスの国産乗用車を寄せつけない性能を発揮して最高速度170km/hを実現することに成功。
スーパー6で不評であった加速性能も、ゼロヨン加速19秒台を記録するほど大幅に向上しています。
グランドグロリアは”日本の最高級車”を狙って造られたので、パワーウインドウを標準装備。
オプションでパワーシートも設定され、後席でもコントロール出来るラジオスイッチなど豪華な装備が特徴でした。
なかでも『オール オートマチック ライティングコントロール』といってセンサーにより対向車がハイビームの時はロービームへ切り替わるというハイテク装備がオプション設定されていて、これは当時の高級車ではかなり先進のシステムとなっています。
グランド・グロリアスペック
エンジン | 水冷6気筒OHC |
総排気量 | 2494cc |
最高出力 | 130馬力/5200rpm |
最大トルク | 20.0kgm/3200rpm |
ボア×ストローク | 84.0×75.0mm |
ギアボックス | 前進3段オーバードライブ付フルシンクロ |
全長 | 4650mm |
全幅 | 1695mm |
全高 | 1480mm |
ホイールベース | 2680mm |
車両重量 | 1365kg |
最高速度 | 170km/h |
前輪懸架 | ダブルウィッシュボーン |
後輪懸架 | ドディオンアクスル・リーフスプリング |
ブレーキ | 前後/油圧内拡式4輪制動 |
まとめ
グロリア スーパー6のさらに上を行く高級セダン”グランド グロリア”。
そのグランド グロリアのホイールベースを長くして後部座席のヘッドクリアランスとレッグスペースを大きくした『カスタム ビルド』という車が、世に数台存在していました。
それは、当時の皇太子殿下が乗っていた特別仕様車で、美智子妃殿下が大好きな帽子を被ったまま乗車されても、帽子がリアウィンドウにつっかえない様に特別な配慮がなされています。
また、パレードを行う時に使用する旗棒を標準装備していて、ホイールは乗り心地を重視した14インチにインチアップ。
現天皇陛下の”立太子の礼”にちなんで、命名された社名を掲げるプリンス自動車が製作した2代目『グロリア』は国内最高技術が詰め込まれた、車名に相応しい日本における高級車のフラッグシップ的存在として君臨したのです。
そして、唯一無二の『カスタム ビルド』が威光を放ちながらその頂点に立つクルマとして存在。
1966年8月のプリンス自動車工業が日産自動車と合併した後、その美しい車名も、”ニッサン・プリンス・グロリア”に変貌をとげました。
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